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本編
35話 秋のはじまり その6
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「では、ちょっと苦しいけどしっかり検討してねー」
その日の夕食後、ユーリは片付けの済んだテーブルに図面を広げた、
「あー、苦しいー」
「うん、食べ過ぎたー」
「そうですわね、お腹回りが痛いですわ」
ジャネットとケイスとエレインが重い腰を上げてテーブルを移動し、
「ふう、久しぶりですね、こんなに食べたのは」
テラまでも苦しそうに喘いでいる、本日の夕食は一般的な料理と言って差し支えない品揃えであった、昨日と同じようなかぼちゃの煮物と、蒸し焼きにされたタマネギと鳥肉、蕎麦の練り物と葉野菜のサラダである、しかし、デザートとして菜園産のスイカが供され、一人当たりの量が多かった為と、メロンを凌ぐ程の甘味と風味により、皆歓喜の声を上げてむさぼるように食べたのである、勿論であるがミナとレインには絶賛の声と過剰な程の誉め言葉が送られ、二人は得意満面となりつつ、皆に負けじとスイカに齧り付いた、
「それでー、何を見ればいいんですかー」
ジャネットがよっこいしょと図面の広げられたテーブルに着いた、
「そうね、これが検討中の改築案ね、寮の一部、東側の奥の方か、そこを大きく作り変えるから、あー、オリビアさんは・・・」
「すいません、遅れました」
片付けを手伝っていたオリビアが食堂へ戻り、エレインの隣りの席に着く、
「揃ったわね、で、これは研究所の実験を兼ねた改築になります、ここには書いてないけど浄化槽を作るのでそれに不随して寮の中に上水道を張り巡らせる事になりました」
ユーリは浄化槽の件を大雑把に、それに伴う実験とその目的を説明する、
「そうなると、あれですわね、あの地下にあった施設を作ってみるって事でいいのですか?」
エレインが質問する、
「その通りよ、で、そうなると、浄化槽に流す汚物が必要・・・というのは表現が下手ね、当時と全く同じように浄化槽を使ってみないと検証できないでしょ、で、この寮にそれを再現するってわけね」
「へー、大がかりだー」
「うん、面白いねー」
ジャネットとケイスは素直に興味を示している、
「それで、寮内をどう改装するかを説明するわね」
ユーリは続けて図面の説明に入った、一階に風呂場が設けられること、それにより、一部が拡張される事、各階のトイレの改造、二階には鏡を並べた水場を作る事、三階には貯水槽が置かれそこから水が引かれる事等である、
「うわー、お風呂だー、嬉しいー」
ケイスは風呂場と書かれた一角を見つめて目を輝かせ、
「鏡のある水場かー、凄いなー、便利だなー」
ジャネットは二階ホールの洗面スペースが気に入ったらしい、
「なるほど、そうしますと、水を使うのにまるで苦労が無くなるのですわね、素晴らしいですわ」
エレインは最も利便性の高い点に感づいたようである、
「はい、それと、厨房も使い易そうですし、井戸で水を汲む必要がなくなるのですね」
オリビアがしみじみと呟く、その言葉にテラが反応して腰を上げた、
「えっ、それってどういう事なんです」
テラは学生達が対象の事と思って身を引いていたが、ユーリの説明と生徒達の様子に興味を引かれた様子である、
「うーん、正確に言うと水を汲む労力は発生します、ジャネットさんとエレインさんは見たでしょうけど、地下で発見した魔法石ですね、これに水を吸収させる事が出来るのです、で、これを使って三階の貯水槽に水を貯める、そういう仕組みになります」
「え、凄いですね、それ、でも、え、全然想像できない」
「うん、どういう仕組みなんですか?」
「あー、魔法石そのものの仕組みは研究中です、水を吸収させる事が出来るという性質についてはソフィアが発見してね、で、これは使えるってなったのよ」
「え、ソフィアさん凄い」
「うん、いつの間にそんな事・・・」
「流石というべきか、いちいち度肝を抜かれるというか・・・」
ソフィアの名が出たところで生徒達は言葉を無くし、
「そうね、魔法石については他にも便利な使い方を研究中なんだけどね、ま、それは置いておいて、図面に戻るわよ」
ユーリは図面へ視線を落とし、
「この図面はブラスさんとも相談しながら作ったものなんだけど、実際に住んでいるあんた達の意見も欲しいのよね、こちらとしては便利で使い易く、に主眼を置いて書いたつもりなんだけどさ、どうかしら、使い勝手とか想像できる?」
ユーリが顔を上げて生徒達を見渡す、生徒達はなるほどと頷きつつ真剣な視線を図面へ集中させた、
「どんな感じ?」
洗い物を終えたソフィアが食堂へ入ってくる、
「ん、検討中ー」
ユーリが適当に答え、
「えっと、これって凄いんじゃないですか?」
テラがソフィアへ振り向いた、
「あら、分かる?」
「分かるも何も、あれですよね、寮内の至る所で水が使えるんですよね」
「そうね、その予定」
「いや、便利ですよ、こんなのお城にも無いですよ」
「そりゃそうよ」
ソフィアは何を今更といった顔である、
「いやいや、そんな平然と言われても」
テラはソフィアの態度にクラクラと眩暈を感じた、
「だって、こういうのは実際にやってみないと分かんないものよ、現時点での懸念としてはこの水を流す管の耐久性とか、冬場の寒い時とか、逆に暑い時とかどうなるかわかんないもの、そんな不確実なものお城では使えないでしょ」
「そうでしょうけど」
「そうね、テラさんの言いたい事は分かるわよー」
ユーリが口を挟む、
「あれでしょ、こんな便利な物は城とかもっと大きい御屋敷とかでお金をかけてやることだって思うんでしょ?」
「はい、まったくその通りです」
「でも、ソフィアの言う通り目論見通りに動いてくれるかどうかも分からない物ばかりだからね、クロ・・・向こうとしてもこっちでの成果を見てからって事なのよ」
「あ、そっか・・・そういうことですか・・・そうですよね、はい、それで納得しました」
テラは漸く理解したようである、
「そうよ、お金を出しているのはそっちだから、テラさんも気兼ねしないで案があったら出して欲しいかな、ま、図面だけだと難しい点も多いけどね」
ソフィアはニコリと微笑み、テラはなるほどと頷いて生徒達の肩越しに図面を見下ろす、
「あ、質問いいですか?」
ケイスがユーリとソフィアへ視線を向ける、
「はい、何?」
「えっと、このトイレってどういう感じになるんですか?」
「どういう感じ?」
「はい、えっと、ここにも水が流れるんですよね」
ケイスはトイレの図面を指し示す、
「そうね、えっとね、今、各階におまるが二つずつかな?置いてあるでしょ」
「はい」
「簡単に言えばだけど、そのおまるに用を足したら、そこへ水を流すの」
「えっ」
ケイスは絶句し、
「なんと」
「へ?」
「どういう事です」
エレイン達も顔を上げた、
「どういうも何もそのまんま、用を足します、水を流します、汚物は排水管を通って浄化槽へ流れます、簡単でしょ」
ソフィアは平然と答え、ユーリもうんうんと頷いている、
「え、それ、とんでもないですよ」
テラも驚いて振り向いた、
「そうよ、でも、この実験の一番大事な所なのよ」
「そうね、うーん、こうなるとどうする?しっかりと勉強する?」
ユーリが意地悪そうに微笑む、
「え、あ、はい、あの、しっかりとその勉強したいです」
「うん、私も」
「えっと、私も参加していいですか?」
「大変、興味がありますわ」
「はい、私も是非」
5人は揃って積極的に身を乗り出した、
「あー、ジャネットさんもそれくらい普段から熱心だったらいいのになー」
ユーリが口の端を上げてジャネットをみつめ、
「えー、先生、それここで言うー?」
ジャネットは悲鳴に似た非難の声を発し、
「あっはっは、じゃ、ほら、ユーリ、本職でしょ、しっかり頼むわね」
ソフィアはその様子に笑い声を上げた、
「そうね、じゃ、資料持って来るから、浄化槽とは何たるかと帝国時代の生活様式を勉強しましょうか、その二つが分かれば理解は進むと思うわね、ちょっと長くなるわよー、覚悟しなさい」
ユーリは楽しそうに笑顔となる、ソフィアはなんのかんのと言ってもユーリは良い教師なのだなとそこで改めて思うのであった。
その日の夕食後、ユーリは片付けの済んだテーブルに図面を広げた、
「あー、苦しいー」
「うん、食べ過ぎたー」
「そうですわね、お腹回りが痛いですわ」
ジャネットとケイスとエレインが重い腰を上げてテーブルを移動し、
「ふう、久しぶりですね、こんなに食べたのは」
テラまでも苦しそうに喘いでいる、本日の夕食は一般的な料理と言って差し支えない品揃えであった、昨日と同じようなかぼちゃの煮物と、蒸し焼きにされたタマネギと鳥肉、蕎麦の練り物と葉野菜のサラダである、しかし、デザートとして菜園産のスイカが供され、一人当たりの量が多かった為と、メロンを凌ぐ程の甘味と風味により、皆歓喜の声を上げてむさぼるように食べたのである、勿論であるがミナとレインには絶賛の声と過剰な程の誉め言葉が送られ、二人は得意満面となりつつ、皆に負けじとスイカに齧り付いた、
「それでー、何を見ればいいんですかー」
ジャネットがよっこいしょと図面の広げられたテーブルに着いた、
「そうね、これが検討中の改築案ね、寮の一部、東側の奥の方か、そこを大きく作り変えるから、あー、オリビアさんは・・・」
「すいません、遅れました」
片付けを手伝っていたオリビアが食堂へ戻り、エレインの隣りの席に着く、
「揃ったわね、で、これは研究所の実験を兼ねた改築になります、ここには書いてないけど浄化槽を作るのでそれに不随して寮の中に上水道を張り巡らせる事になりました」
ユーリは浄化槽の件を大雑把に、それに伴う実験とその目的を説明する、
「そうなると、あれですわね、あの地下にあった施設を作ってみるって事でいいのですか?」
エレインが質問する、
「その通りよ、で、そうなると、浄化槽に流す汚物が必要・・・というのは表現が下手ね、当時と全く同じように浄化槽を使ってみないと検証できないでしょ、で、この寮にそれを再現するってわけね」
「へー、大がかりだー」
「うん、面白いねー」
ジャネットとケイスは素直に興味を示している、
「それで、寮内をどう改装するかを説明するわね」
ユーリは続けて図面の説明に入った、一階に風呂場が設けられること、それにより、一部が拡張される事、各階のトイレの改造、二階には鏡を並べた水場を作る事、三階には貯水槽が置かれそこから水が引かれる事等である、
「うわー、お風呂だー、嬉しいー」
ケイスは風呂場と書かれた一角を見つめて目を輝かせ、
「鏡のある水場かー、凄いなー、便利だなー」
ジャネットは二階ホールの洗面スペースが気に入ったらしい、
「なるほど、そうしますと、水を使うのにまるで苦労が無くなるのですわね、素晴らしいですわ」
エレインは最も利便性の高い点に感づいたようである、
「はい、それと、厨房も使い易そうですし、井戸で水を汲む必要がなくなるのですね」
オリビアがしみじみと呟く、その言葉にテラが反応して腰を上げた、
「えっ、それってどういう事なんです」
テラは学生達が対象の事と思って身を引いていたが、ユーリの説明と生徒達の様子に興味を引かれた様子である、
「うーん、正確に言うと水を汲む労力は発生します、ジャネットさんとエレインさんは見たでしょうけど、地下で発見した魔法石ですね、これに水を吸収させる事が出来るのです、で、これを使って三階の貯水槽に水を貯める、そういう仕組みになります」
「え、凄いですね、それ、でも、え、全然想像できない」
「うん、どういう仕組みなんですか?」
「あー、魔法石そのものの仕組みは研究中です、水を吸収させる事が出来るという性質についてはソフィアが発見してね、で、これは使えるってなったのよ」
「え、ソフィアさん凄い」
「うん、いつの間にそんな事・・・」
「流石というべきか、いちいち度肝を抜かれるというか・・・」
ソフィアの名が出たところで生徒達は言葉を無くし、
「そうね、魔法石については他にも便利な使い方を研究中なんだけどね、ま、それは置いておいて、図面に戻るわよ」
ユーリは図面へ視線を落とし、
「この図面はブラスさんとも相談しながら作ったものなんだけど、実際に住んでいるあんた達の意見も欲しいのよね、こちらとしては便利で使い易く、に主眼を置いて書いたつもりなんだけどさ、どうかしら、使い勝手とか想像できる?」
ユーリが顔を上げて生徒達を見渡す、生徒達はなるほどと頷きつつ真剣な視線を図面へ集中させた、
「どんな感じ?」
洗い物を終えたソフィアが食堂へ入ってくる、
「ん、検討中ー」
ユーリが適当に答え、
「えっと、これって凄いんじゃないですか?」
テラがソフィアへ振り向いた、
「あら、分かる?」
「分かるも何も、あれですよね、寮内の至る所で水が使えるんですよね」
「そうね、その予定」
「いや、便利ですよ、こんなのお城にも無いですよ」
「そりゃそうよ」
ソフィアは何を今更といった顔である、
「いやいや、そんな平然と言われても」
テラはソフィアの態度にクラクラと眩暈を感じた、
「だって、こういうのは実際にやってみないと分かんないものよ、現時点での懸念としてはこの水を流す管の耐久性とか、冬場の寒い時とか、逆に暑い時とかどうなるかわかんないもの、そんな不確実なものお城では使えないでしょ」
「そうでしょうけど」
「そうね、テラさんの言いたい事は分かるわよー」
ユーリが口を挟む、
「あれでしょ、こんな便利な物は城とかもっと大きい御屋敷とかでお金をかけてやることだって思うんでしょ?」
「はい、まったくその通りです」
「でも、ソフィアの言う通り目論見通りに動いてくれるかどうかも分からない物ばかりだからね、クロ・・・向こうとしてもこっちでの成果を見てからって事なのよ」
「あ、そっか・・・そういうことですか・・・そうですよね、はい、それで納得しました」
テラは漸く理解したようである、
「そうよ、お金を出しているのはそっちだから、テラさんも気兼ねしないで案があったら出して欲しいかな、ま、図面だけだと難しい点も多いけどね」
ソフィアはニコリと微笑み、テラはなるほどと頷いて生徒達の肩越しに図面を見下ろす、
「あ、質問いいですか?」
ケイスがユーリとソフィアへ視線を向ける、
「はい、何?」
「えっと、このトイレってどういう感じになるんですか?」
「どういう感じ?」
「はい、えっと、ここにも水が流れるんですよね」
ケイスはトイレの図面を指し示す、
「そうね、えっとね、今、各階におまるが二つずつかな?置いてあるでしょ」
「はい」
「簡単に言えばだけど、そのおまるに用を足したら、そこへ水を流すの」
「えっ」
ケイスは絶句し、
「なんと」
「へ?」
「どういう事です」
エレイン達も顔を上げた、
「どういうも何もそのまんま、用を足します、水を流します、汚物は排水管を通って浄化槽へ流れます、簡単でしょ」
ソフィアは平然と答え、ユーリもうんうんと頷いている、
「え、それ、とんでもないですよ」
テラも驚いて振り向いた、
「そうよ、でも、この実験の一番大事な所なのよ」
「そうね、うーん、こうなるとどうする?しっかりと勉強する?」
ユーリが意地悪そうに微笑む、
「え、あ、はい、あの、しっかりとその勉強したいです」
「うん、私も」
「えっと、私も参加していいですか?」
「大変、興味がありますわ」
「はい、私も是非」
5人は揃って積極的に身を乗り出した、
「あー、ジャネットさんもそれくらい普段から熱心だったらいいのになー」
ユーリが口の端を上げてジャネットをみつめ、
「えー、先生、それここで言うー?」
ジャネットは悲鳴に似た非難の声を発し、
「あっはっは、じゃ、ほら、ユーリ、本職でしょ、しっかり頼むわね」
ソフィアはその様子に笑い声を上げた、
「そうね、じゃ、資料持って来るから、浄化槽とは何たるかと帝国時代の生活様式を勉強しましょうか、その二つが分かれば理解は進むと思うわね、ちょっと長くなるわよー、覚悟しなさい」
ユーリは楽しそうに笑顔となる、ソフィアはなんのかんのと言ってもユーリは良い教師なのだなとそこで改めて思うのであった。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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