セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

文字の大きさ
304 / 1,445
本編

35話 秋のはじまり その6

しおりを挟む
「では、ちょっと苦しいけどしっかり検討してねー」

その日の夕食後、ユーリは片付けの済んだテーブルに図面を広げた、

「あー、苦しいー」

「うん、食べ過ぎたー」

「そうですわね、お腹回りが痛いですわ」

ジャネットとケイスとエレインが重い腰を上げてテーブルを移動し、

「ふう、久しぶりですね、こんなに食べたのは」

テラまでも苦しそうに喘いでいる、本日の夕食は一般的な料理と言って差し支えない品揃えであった、昨日と同じようなかぼちゃの煮物と、蒸し焼きにされたタマネギと鳥肉、蕎麦の練り物と葉野菜のサラダである、しかし、デザートとして菜園産のスイカが供され、一人当たりの量が多かった為と、メロンを凌ぐ程の甘味と風味により、皆歓喜の声を上げてむさぼるように食べたのである、勿論であるがミナとレインには絶賛の声と過剰な程の誉め言葉が送られ、二人は得意満面となりつつ、皆に負けじとスイカに齧り付いた、

「それでー、何を見ればいいんですかー」

ジャネットがよっこいしょと図面の広げられたテーブルに着いた、

「そうね、これが検討中の改築案ね、寮の一部、東側の奥の方か、そこを大きく作り変えるから、あー、オリビアさんは・・・」

「すいません、遅れました」

片付けを手伝っていたオリビアが食堂へ戻り、エレインの隣りの席に着く、

「揃ったわね、で、これは研究所の実験を兼ねた改築になります、ここには書いてないけど浄化槽を作るのでそれに不随して寮の中に上水道を張り巡らせる事になりました」

ユーリは浄化槽の件を大雑把に、それに伴う実験とその目的を説明する、

「そうなると、あれですわね、あの地下にあった施設を作ってみるって事でいいのですか?」

エレインが質問する、

「その通りよ、で、そうなると、浄化槽に流す汚物が必要・・・というのは表現が下手ね、当時と全く同じように浄化槽を使ってみないと検証できないでしょ、で、この寮にそれを再現するってわけね」

「へー、大がかりだー」

「うん、面白いねー」

ジャネットとケイスは素直に興味を示している、

「それで、寮内をどう改装するかを説明するわね」

ユーリは続けて図面の説明に入った、一階に風呂場が設けられること、それにより、一部が拡張される事、各階のトイレの改造、二階には鏡を並べた水場を作る事、三階には貯水槽が置かれそこから水が引かれる事等である、

「うわー、お風呂だー、嬉しいー」

ケイスは風呂場と書かれた一角を見つめて目を輝かせ、

「鏡のある水場かー、凄いなー、便利だなー」

ジャネットは二階ホールの洗面スペースが気に入ったらしい、

「なるほど、そうしますと、水を使うのにまるで苦労が無くなるのですわね、素晴らしいですわ」

エレインは最も利便性の高い点に感づいたようである、

「はい、それと、厨房も使い易そうですし、井戸で水を汲む必要がなくなるのですね」

オリビアがしみじみと呟く、その言葉にテラが反応して腰を上げた、

「えっ、それってどういう事なんです」

テラは学生達が対象の事と思って身を引いていたが、ユーリの説明と生徒達の様子に興味を引かれた様子である、

「うーん、正確に言うと水を汲む労力は発生します、ジャネットさんとエレインさんは見たでしょうけど、地下で発見した魔法石ですね、これに水を吸収させる事が出来るのです、で、これを使って三階の貯水槽に水を貯める、そういう仕組みになります」

「え、凄いですね、それ、でも、え、全然想像できない」

「うん、どういう仕組みなんですか?」

「あー、魔法石そのものの仕組みは研究中です、水を吸収させる事が出来るという性質についてはソフィアが発見してね、で、これは使えるってなったのよ」

「え、ソフィアさん凄い」

「うん、いつの間にそんな事・・・」

「流石というべきか、いちいち度肝を抜かれるというか・・・」

ソフィアの名が出たところで生徒達は言葉を無くし、

「そうね、魔法石については他にも便利な使い方を研究中なんだけどね、ま、それは置いておいて、図面に戻るわよ」

ユーリは図面へ視線を落とし、

「この図面はブラスさんとも相談しながら作ったものなんだけど、実際に住んでいるあんた達の意見も欲しいのよね、こちらとしては便利で使い易く、に主眼を置いて書いたつもりなんだけどさ、どうかしら、使い勝手とか想像できる?」

ユーリが顔を上げて生徒達を見渡す、生徒達はなるほどと頷きつつ真剣な視線を図面へ集中させた、

「どんな感じ?」

洗い物を終えたソフィアが食堂へ入ってくる、

「ん、検討中ー」

ユーリが適当に答え、

「えっと、これって凄いんじゃないですか?」

テラがソフィアへ振り向いた、

「あら、分かる?」

「分かるも何も、あれですよね、寮内の至る所で水が使えるんですよね」

「そうね、その予定」

「いや、便利ですよ、こんなのお城にも無いですよ」

「そりゃそうよ」

ソフィアは何を今更といった顔である、

「いやいや、そんな平然と言われても」

テラはソフィアの態度にクラクラと眩暈を感じた、

「だって、こういうのは実際にやってみないと分かんないものよ、現時点での懸念としてはこの水を流す管の耐久性とか、冬場の寒い時とか、逆に暑い時とかどうなるかわかんないもの、そんな不確実なものお城では使えないでしょ」

「そうでしょうけど」

「そうね、テラさんの言いたい事は分かるわよー」

ユーリが口を挟む、

「あれでしょ、こんな便利な物は城とかもっと大きい御屋敷とかでお金をかけてやることだって思うんでしょ?」

「はい、まったくその通りです」

「でも、ソフィアの言う通り目論見通りに動いてくれるかどうかも分からない物ばかりだからね、クロ・・・向こうとしてもこっちでの成果を見てからって事なのよ」

「あ、そっか・・・そういうことですか・・・そうですよね、はい、それで納得しました」

テラは漸く理解したようである、

「そうよ、お金を出しているのはそっちだから、テラさんも気兼ねしないで案があったら出して欲しいかな、ま、図面だけだと難しい点も多いけどね」

ソフィアはニコリと微笑み、テラはなるほどと頷いて生徒達の肩越しに図面を見下ろす、

「あ、質問いいですか?」

ケイスがユーリとソフィアへ視線を向ける、

「はい、何?」

「えっと、このトイレってどういう感じになるんですか?」

「どういう感じ?」

「はい、えっと、ここにも水が流れるんですよね」

ケイスはトイレの図面を指し示す、

「そうね、えっとね、今、各階におまるが二つずつかな?置いてあるでしょ」

「はい」

「簡単に言えばだけど、そのおまるに用を足したら、そこへ水を流すの」

「えっ」

ケイスは絶句し、

「なんと」

「へ?」

「どういう事です」

エレイン達も顔を上げた、

「どういうも何もそのまんま、用を足します、水を流します、汚物は排水管を通って浄化槽へ流れます、簡単でしょ」

ソフィアは平然と答え、ユーリもうんうんと頷いている、

「え、それ、とんでもないですよ」

テラも驚いて振り向いた、

「そうよ、でも、この実験の一番大事な所なのよ」

「そうね、うーん、こうなるとどうする?しっかりと勉強する?」

ユーリが意地悪そうに微笑む、

「え、あ、はい、あの、しっかりとその勉強したいです」

「うん、私も」

「えっと、私も参加していいですか?」

「大変、興味がありますわ」

「はい、私も是非」

5人は揃って積極的に身を乗り出した、

「あー、ジャネットさんもそれくらい普段から熱心だったらいいのになー」

ユーリが口の端を上げてジャネットをみつめ、

「えー、先生、それここで言うー?」

ジャネットは悲鳴に似た非難の声を発し、

「あっはっは、じゃ、ほら、ユーリ、本職でしょ、しっかり頼むわね」

ソフィアはその様子に笑い声を上げた、

「そうね、じゃ、資料持って来るから、浄化槽とは何たるかと帝国時代の生活様式を勉強しましょうか、その二つが分かれば理解は進むと思うわね、ちょっと長くなるわよー、覚悟しなさい」

ユーリは楽しそうに笑顔となる、ソフィアはなんのかんのと言ってもユーリは良い教師なのだなとそこで改めて思うのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?

ばふぉりん
ファンタジー
 中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!  「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」  「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」  これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。  <前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです> 注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。 (読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...