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本編
45話 兵士と英雄と その7
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「ま、そういう訳で」
エレインが弛緩した一同に安心しつつまとめ始める、
「この話しはそういうわけだから、そちら側の経営に関して有効活用頂ければと思います、それと、クロノス様の件ですが、くれぐれも他言しないように、これはとても大事な事です」
「はい、その点に関しては・・・俺らとしてもお客さんの事情を口にする事は無いです、特に貴族様相手の場合は」
「そうですね、ですが、噂として広がるような事もあってはなりません、現時点でこの事を知っている人間は数える程度です、もしこれに類する事が耳に入った場合、かなりの問題になると、王家からもですが、恐らく領主様からも追及される事が考えられます、一族郎党に危害が及ぶ事と考えて下さい」
「・・・そっか・・・あれですよね、領主様の後ろ盾はコーレイン公爵様ですよね、確か・・・」
バーレントが言葉を濁す、
「はい、そういう意味もあるのです」
エレインが静かにその事実を認めた、政治に関する事であり、クロノスやパトリシアからは気にするなと言われているが、平民の間でもその不仲以上の敵愾心は周知の事実なのである、モニケンダムでも王家と公爵家の名が出ればどちらにつくかと議論が絶えないほどであった、
「分かりました、決して口外は致しません」
ブラスが確約し、バーレントも大きく頷いた、しかし、
「えっと、すいません、イフナース殿下がこちらに滞在されているというのは・・・」
バーレントがおずおずと問いかける、
「それは勿論秘密ですよ」
エレインが答えると、
「それは当然です、はい、絶対に口外しません、誓います、それとは別なのですが・・・その、兵役の折りに大変お世話になったというか、何度も・・・その、命を救われたというか、そういう感じでして・・・」
「あら、兵役に就いていたの?」
テラが驚いて口を挟む、
「そりゃ勿論ですよ、俺は後方守備隊で」
「俺は、学生半分でしたがモニケンダムの輜重隊でした」
バーレントとブラスは当然のように答える、二人共に兵役の経験があり、それは現在も王国の成人男性に課される名誉ある義務である、バーレントは出征から終戦迄の3年間を軍隊で過ごし、ブラスは学園生であった為平時であれば免除されるのであるが、戦時であった為モニケンダムの輜重隊で労役に就いていた、
「そっか、そうよね、ここも前線のすぐ後ろだったものね、大事な食糧の供給源であったのよね」
「はい、で、ヘルデルと北ヘルデル・・・当時は何て呼んでましたか・・・ノードでしたね、ヘルデルとノードの間の中間基地で、殿下の下で兵士をやってました、もう4年も前の事ですが・・・殿下は俺とたいして歳も変わらないのに双剣として陣頭に立っていて、俺らからするとクロノス様よりも憧れの人です・・・その、御病気と伺っていましたが、お元気なんでしょうか・・・」
バーレントは決して野次馬精神で聞いているわけではないらしい、何かに縋るような真面目な瞳でエレインを見つめる、
「あら、そういう事・・・」
エレインはうーんと困ったように首を傾げ、微笑みながらも沈黙を守っているソフィアへ視線を送った、
「・・・ん?何?」
その視線に気付いたソフィアはエレイン同様に首を傾げてみせる、
「えっと、どうしたものかと、そういう話しになると、私からはなんとも・・・」
「そういう話しってどの話しかしら、イフナース殿下の事なら療養の為にこちらに滞在しているわよ」
ソフィアがあっさりと答える、
「えっ、療養ですか?」
「そうよ、御病気はだいぶ良くなられたみたいね、大病の後だから肉は落ちているけどね、暫くこちらでゆっくりするらしいわよ」
「それは良かった、嬉しいです、そっか・・・あ、でも、それも口にしては・・・」
「駄目ね」
「駄目よ」
エレインとソフィアが同時に否定する、
「そうですよね、昔のダチと会って呑むとどうしてもその話しになってしまって・・・はい、気を付けます」
「気を付けるだけでは駄目ね、絶対に口外しないように」
エレインがこれはまずいかしらとバーレントを睨みつける、
「はい、誓います、口外致しません」
急に胸を張って威勢よく答えるバーレントである、かつての軍での生活を思い出したのであろうか、
「何もそんなに気張らなくても」
ソフィアがニコリと微笑む、
「そうですが、でも、例のお屋敷に滞在されているという事ですよね、お会いすることも出来るでしょうか?」
「それは勿論あるでしょうね、それを見越してお二人には説明したつもりですから」
「そうですよね、そっか・・・良かったです、いえ、そのお元気であればそれだけで嬉しいです」
どうやらバーレントは心底イフナースを敬愛しているらしい、何があったかは語らないがここに酒があれば長々と話しだしそうな顔である、
「あー、兄さんはこの話しになると長いんですよ」
コッキーがボソリと呟く、
「そうだな、俺も何度か聞かされたな・・・」
「そう言うなよ、俺がここにいるのも王国の双剣のお力があったればこそなんだからさ」
「だからそれはもう聞き飽きたんだってば」
「まぁまぁ、そのうち堂々と口に出来る時が来るでしょうから、それまでは・・・ね」
テラもどこか嬉しそうに窘める、
「そうですね、うん、そうします」
バーレントが静かに目を閉じた、その瞬間、
「おう、なんだ、来客か」
ドカドカと靴音を響かせて無遠慮に事務所に入って来る者がいる、誰でもないクロノスその人であった、
「わ、どうされたのですか」
エレインが驚いて腰を上げ、テラは既に立ち上がっている、ソフィアは、
「噂をすればというけど、本当ね」
楽しそうに笑いだす始末である、
「えっ、クロノス様だ」
客である4人も同時に振り向き唖然として固まった、
「ん、なんだ、ブラスじゃないか壮健か?」
「はっ、はい、勿論です」
「そうか、いや、男の顔を見ると安心するな、ここは女ばかりで居心地が悪くてな、どいつもこいつも色気も無いくせに気ばかり強くて困ったもんだよ」
とんでもない軽口である、いや、雑言と言って良いであろう、挙句実に不機嫌そうな顔である、
「ちょっと、リシア様に言うわよ」
すかさずソフィアが釘を刺すが、
「あん、一番色気の無いのが何か言ってるな」
「なんですって」
頬を引くつかせて立ち上がるソフィアである、
「えっと、すいません、その・・・」
エレインが困り顔で仲裁に入る、
「あ、すまんな、別に喧嘩をしに来たわけではない、これを持って来た、好きに使え」
小脇に抱えた木箱をドンとテーブルに置いた、
「これは?」
「香油だよ、欲しがっていただろう、種類はビンに書いてある、大量にあるからな研究でも開発でも遠慮無く使って貰って構わんぞ、ん、なんだお前ら・・・お、懐かしいな、なんだ、そんなもん、今更」
クロノスは4人の前にある看板と革袋に気付いたようである、
「そんなもんって、あんたがくれたものでしょうが」
「だからだよ、なんだ、足りなかったか?」
「いえ、そんな、逆ですよ」
これは拙いとテラも口を出す、
「ん、そうなのか?ま、いいや、で、こっちの話しなんだが」
クロノスが木箱を開けた瞬間である、
「失礼」
イフナースである、こちらも遠慮なくズカズカと入って来た、
「えっ、殿下・・・」
バーレントがすぐに気付いた様子である、驚きで口をあんぐりと開けたまま固まり、
「えっ、そうなのか、あっ」
ブラスは思わず口から出た言葉を慌てて飲み込んだ、
「ん?なんだ、お前まで」
「いや、偶々後ろ姿が見えたからね、今日はこれから裏山に行こうかと思ってさ」
「そうか、そんな時間か?」
「いや、今日は目覚めが良くてね、遠回りして街中を歩いて来たんだ、そしたら思った以上に早く着いたらしい、正午を回る前に着いてしまった」
まるで誰もいないかのように話し始める二人である、
「こら、いい加減になさい、いい歳こいた貴族様が何様のつもりよ」
とうとうソフィアの特大の雷が落ちた、ビクリと肩を震わせる二人と、緊張と驚きで混乱する四人、席を立ったまま動けない二人と、怒気を隠しもしない一人が、静寂に包まれた屋内で、耳に入る事の無かった街の音に一瞬だけ逃避するのであった、そして、ブラスは思う、だから何様もなにも貴族様なんだよな・・・と。
エレインが弛緩した一同に安心しつつまとめ始める、
「この話しはそういうわけだから、そちら側の経営に関して有効活用頂ければと思います、それと、クロノス様の件ですが、くれぐれも他言しないように、これはとても大事な事です」
「はい、その点に関しては・・・俺らとしてもお客さんの事情を口にする事は無いです、特に貴族様相手の場合は」
「そうですね、ですが、噂として広がるような事もあってはなりません、現時点でこの事を知っている人間は数える程度です、もしこれに類する事が耳に入った場合、かなりの問題になると、王家からもですが、恐らく領主様からも追及される事が考えられます、一族郎党に危害が及ぶ事と考えて下さい」
「・・・そっか・・・あれですよね、領主様の後ろ盾はコーレイン公爵様ですよね、確か・・・」
バーレントが言葉を濁す、
「はい、そういう意味もあるのです」
エレインが静かにその事実を認めた、政治に関する事であり、クロノスやパトリシアからは気にするなと言われているが、平民の間でもその不仲以上の敵愾心は周知の事実なのである、モニケンダムでも王家と公爵家の名が出ればどちらにつくかと議論が絶えないほどであった、
「分かりました、決して口外は致しません」
ブラスが確約し、バーレントも大きく頷いた、しかし、
「えっと、すいません、イフナース殿下がこちらに滞在されているというのは・・・」
バーレントがおずおずと問いかける、
「それは勿論秘密ですよ」
エレインが答えると、
「それは当然です、はい、絶対に口外しません、誓います、それとは別なのですが・・・その、兵役の折りに大変お世話になったというか、何度も・・・その、命を救われたというか、そういう感じでして・・・」
「あら、兵役に就いていたの?」
テラが驚いて口を挟む、
「そりゃ勿論ですよ、俺は後方守備隊で」
「俺は、学生半分でしたがモニケンダムの輜重隊でした」
バーレントとブラスは当然のように答える、二人共に兵役の経験があり、それは現在も王国の成人男性に課される名誉ある義務である、バーレントは出征から終戦迄の3年間を軍隊で過ごし、ブラスは学園生であった為平時であれば免除されるのであるが、戦時であった為モニケンダムの輜重隊で労役に就いていた、
「そっか、そうよね、ここも前線のすぐ後ろだったものね、大事な食糧の供給源であったのよね」
「はい、で、ヘルデルと北ヘルデル・・・当時は何て呼んでましたか・・・ノードでしたね、ヘルデルとノードの間の中間基地で、殿下の下で兵士をやってました、もう4年も前の事ですが・・・殿下は俺とたいして歳も変わらないのに双剣として陣頭に立っていて、俺らからするとクロノス様よりも憧れの人です・・・その、御病気と伺っていましたが、お元気なんでしょうか・・・」
バーレントは決して野次馬精神で聞いているわけではないらしい、何かに縋るような真面目な瞳でエレインを見つめる、
「あら、そういう事・・・」
エレインはうーんと困ったように首を傾げ、微笑みながらも沈黙を守っているソフィアへ視線を送った、
「・・・ん?何?」
その視線に気付いたソフィアはエレイン同様に首を傾げてみせる、
「えっと、どうしたものかと、そういう話しになると、私からはなんとも・・・」
「そういう話しってどの話しかしら、イフナース殿下の事なら療養の為にこちらに滞在しているわよ」
ソフィアがあっさりと答える、
「えっ、療養ですか?」
「そうよ、御病気はだいぶ良くなられたみたいね、大病の後だから肉は落ちているけどね、暫くこちらでゆっくりするらしいわよ」
「それは良かった、嬉しいです、そっか・・・あ、でも、それも口にしては・・・」
「駄目ね」
「駄目よ」
エレインとソフィアが同時に否定する、
「そうですよね、昔のダチと会って呑むとどうしてもその話しになってしまって・・・はい、気を付けます」
「気を付けるだけでは駄目ね、絶対に口外しないように」
エレインがこれはまずいかしらとバーレントを睨みつける、
「はい、誓います、口外致しません」
急に胸を張って威勢よく答えるバーレントである、かつての軍での生活を思い出したのであろうか、
「何もそんなに気張らなくても」
ソフィアがニコリと微笑む、
「そうですが、でも、例のお屋敷に滞在されているという事ですよね、お会いすることも出来るでしょうか?」
「それは勿論あるでしょうね、それを見越してお二人には説明したつもりですから」
「そうですよね、そっか・・・良かったです、いえ、そのお元気であればそれだけで嬉しいです」
どうやらバーレントは心底イフナースを敬愛しているらしい、何があったかは語らないがここに酒があれば長々と話しだしそうな顔である、
「あー、兄さんはこの話しになると長いんですよ」
コッキーがボソリと呟く、
「そうだな、俺も何度か聞かされたな・・・」
「そう言うなよ、俺がここにいるのも王国の双剣のお力があったればこそなんだからさ」
「だからそれはもう聞き飽きたんだってば」
「まぁまぁ、そのうち堂々と口に出来る時が来るでしょうから、それまでは・・・ね」
テラもどこか嬉しそうに窘める、
「そうですね、うん、そうします」
バーレントが静かに目を閉じた、その瞬間、
「おう、なんだ、来客か」
ドカドカと靴音を響かせて無遠慮に事務所に入って来る者がいる、誰でもないクロノスその人であった、
「わ、どうされたのですか」
エレインが驚いて腰を上げ、テラは既に立ち上がっている、ソフィアは、
「噂をすればというけど、本当ね」
楽しそうに笑いだす始末である、
「えっ、クロノス様だ」
客である4人も同時に振り向き唖然として固まった、
「ん、なんだ、ブラスじゃないか壮健か?」
「はっ、はい、勿論です」
「そうか、いや、男の顔を見ると安心するな、ここは女ばかりで居心地が悪くてな、どいつもこいつも色気も無いくせに気ばかり強くて困ったもんだよ」
とんでもない軽口である、いや、雑言と言って良いであろう、挙句実に不機嫌そうな顔である、
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「なんですって」
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「えっと、すいません、その・・・」
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小脇に抱えた木箱をドンとテーブルに置いた、
「これは?」
「香油だよ、欲しがっていただろう、種類はビンに書いてある、大量にあるからな研究でも開発でも遠慮無く使って貰って構わんぞ、ん、なんだお前ら・・・お、懐かしいな、なんだ、そんなもん、今更」
クロノスは4人の前にある看板と革袋に気付いたようである、
「そんなもんって、あんたがくれたものでしょうが」
「だからだよ、なんだ、足りなかったか?」
「いえ、そんな、逆ですよ」
これは拙いとテラも口を出す、
「ん、そうなのか?ま、いいや、で、こっちの話しなんだが」
クロノスが木箱を開けた瞬間である、
「失礼」
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「えっ、殿下・・・」
バーレントがすぐに気付いた様子である、驚きで口をあんぐりと開けたまま固まり、
「えっ、そうなのか、あっ」
ブラスは思わず口から出た言葉を慌てて飲み込んだ、
「ん?なんだ、お前まで」
「いや、偶々後ろ姿が見えたからね、今日はこれから裏山に行こうかと思ってさ」
「そうか、そんな時間か?」
「いや、今日は目覚めが良くてね、遠回りして街中を歩いて来たんだ、そしたら思った以上に早く着いたらしい、正午を回る前に着いてしまった」
まるで誰もいないかのように話し始める二人である、
「こら、いい加減になさい、いい歳こいた貴族様が何様のつもりよ」
とうとうソフィアの特大の雷が落ちた、ビクリと肩を震わせる二人と、緊張と驚きで混乱する四人、席を立ったまま動けない二人と、怒気を隠しもしない一人が、静寂に包まれた屋内で、耳に入る事の無かった街の音に一瞬だけ逃避するのであった、そして、ブラスは思う、だから何様もなにも貴族様なんだよな・・・と。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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