セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

50話 光柱は陽光よりも眩しくて その18

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その後、一行はクロノスの居城へと場を移し、出迎えたパトリシアと共に茶を囲むが、結局ユーリは慌てて呼びに来たカトカと共に学園に戻り、戻り損ねたソフィアが質問の嵐を受け付ける事になってしまった、国王からはイフナースの状態、ロキュスからはさらに詳細な結界の解説を求められ渋い顔でそれらに淡々と答えるソフィアである、その隣でウルジュラとミナはパトリシアを相手にして、

「あれは、絶対見るべきだよー」

「ねー、キレーなのー、ピカーって、ドーンって凄かったー」

ウルジュラはニヤニヤと微笑み、ミナは小さい身体を大きく使って楽しそうに見たものを表現しようと躍起になっている、

「むー、だから言ったではないですか」

パトリシアは眉間に皺を寄せて己が夫とアフラを睨みつけ、

「いや、俺だって初めて見る代物だったのだ、あれほどとはな・・・」

クロノスは困ったように微笑み、

「はい、クロノス様の仰る通りです、私としても全てが想定以上でありました、イフナース様の実力もそうですが、ソフィアさんの構築した結界にしても、その技術にしても・・・言葉もありません」

アフラは目上の者が集まる中で珍しくも饒舌である、未だ興奮が抜け切っていないのであろう、やや紅潮したように見えるその顔にパトリシアはむーと違和感を感じるも、

「アフラまでそのように言うとは・・・拝見したいですわね」

パトリシアの鋭い視線がクロノスに向かい、

「そうなるよな・・・」

クロノスは諦めたように溜息を吐くと、

「どうせ、あれだ、王妃様も見たいとなるであろうな、あー、アフラ、ヨリック、一度で済ませたい、陛下も良いですか?」

取り敢えずと指示を出しつつ国王へも許可を求める、

「そうだな・・・ま、現状であれば危険もあるまい、学園長の対応を待ってからにしたいところだが・・・ソフィアさん、そう言えばあれは暫くあのままなのかな?確かすぐには消えないとの事であったが・・・」

新たな質問がソフィアに向けられた、

「・・・そうですね、ユーリと先程話しまして・・・あの状態であれば3日程度はあのままかと思います」

ソフィアが首を捻りながら答え、その隣りに座って見事なほどの沈黙をもって無関心であったレインが小さく頷いたようである、

「それはまた・・・」

「あれが3日・・・」

ロキュスと国王は同時に驚き、イフナースは何が何やらと吐息をついて額を掻いた、

「はい、そうですね・・・それだけの魔力なのです、結界が少しずつですが発散しております、本来であればあの結界は上空に方向性を変える事で被害を軽減する陣でした、しかし、その魔法その物があの場に止まっておりますので、その魔力が無くなるまでは現状維持かと思います」

何度か説明していますが、とソフィアは小声で付け加える、現場で説明し、この場においてもロキュスからよく似た質問に答えている、期間に関しては明言していないが、やはり明確な数字は理解されやすいもののようで、

「すると、あと3日は観察できますな、うん、これは面白い、ゾーイ、研究者を集めて今夜にも現場に戻るぞ」

ロキュスが勢いよく席を立ち、

「はい、ですが、転送陣はいかがいたしますか?」

ゾーイはゾーイで非情な程に冷静である、そういう性分なのであろうか、

「おう、それもあったな、アフラさん、協力願えるか?」

「はっ、可能ですが、指示をいただかねば難しいかと・・・」

アフラは暗に陛下かクロノスまたはパトリシアからの指示でないと自分は動けないとの意思表示である、

「む、陛下、許可を頂きたい」

ロキュスはキッと陛下を睨み、国王はやれやれと苦笑いを浮かべ、

「分かった、許可は出す、しかしだ・・・」

と言葉を区切り、

「パウロの指示に従え、あそこはあれの管理下だ」

パウロとはアウグスタ学園長のことである、

「はっ、勿論であります」

ロキュスは爛々と輝く瞳で快活に答えた、とても老人の、それも研究者として大成したものの声と表情ではない、いや、老成して尚衰えない探求心が大成した理由でもあるのであろう、

「では、アフラさん宜しいか?」

「分かりました、王城との転送陣を維持します」

「うむ、それでよい、ゾーイ行くぞ」

その言葉の勢いそのままにロキュスはその場を辞し、ゾーイとアフラが付き従う、

「あら、じゃ、こちらはどうしましょうか?」

パトリシアが呆気にとられつつもクロノスを伺うと、

「あぁ、王妃様方と一緒に見に行けば良い、心配するな俺がお相手仕るよ」

「あら、それは楽しみ」

パトリシアはニヤリと満足そうに微笑み、

「陛下、そういう事なのですがヨリックに頼んでも?」

「構わん、好きにしろ、但し、クロノスの助言には従え、それと、学園の事を第一にな、他には・・・そうだなあまり近付くな、眩しくて目がやられる」

国王はこちらにもめんどくさそうに許可を出し、パトリシアはふふんとにやつき、

「ヨリック、そのように」

「はい、では、早速」

パトリシアの視線がヨリックを襲う前に畏まって退室した、

「うふふ、ゆっくり見れるねー」

ウルジュラは楽しそうにミナに微笑みかけ、ミナは冷めたお茶をやっと口にすると、

「お茶美味しー」

「そう?」

「うん、甘いお茶ー」

「あら分かる?」

「うん、初めてー、美味しー」

「ふふ、王都の新商品なのですよ、良かったですわ」

パトリシアは嬉しそうに微笑む、

「もう冷たいんじゃない?」

「熱いのだめー」

「あっ、そうか」

「うん、冷めてて美味しー」

「あら、そういう飲み方も良いかしらね」

「氷いれたい」

「そこまで冷たくするの?」

「氷入れると美味しくなるのよー、知らないのー」

ミナの明るく子供らしい無邪気な言葉に皆柔らかい笑みを浮かべるが、

「では、ソフィア、改めてイフナースの今後はどう対処しようか?」

クロノスが問題の大元を口にした、

「そうですね・・・それはユーリとも相談したい所ですが・・・」

ソフィアはうーんと悩み、

「暫くは・・・というか修業を終えるまでは魔法の類は一切使用なさらぬ事ですね、少なくともこちら・・・じゃなかったモニケンダムにいらっしゃってからは初めて魔法を使われたのでしょう?」

イフナースへと確認するように視線を向ける、

「その通りだ、魔法を使ったのも久方ぶりであった」

イフナースの短い答えに、

「であれば、このまま暫く様子を見ましょう、以前も・・・先程も話した通りに一時的なものかもしれません、それと、まずは呪いの快癒が先かと・・・お身体も未だ弱いままとお見受けします、一つ一つ片付けませんと何がどのように作用するかまるで理解の及ばぬ事であります」

「そうだな・・・しかし・・・うん」

イフナースは理解していないのか不満があるのか歯切れの悪い様子であった、

「あー、そうだな、お前さんが自分ごと街を吹き飛ばしたいなら好きにしろ」

クロノスが突然突き放したような物言いである、国王とパトリシアは何をいきなりと顔を顰め、イフナースもジロリと睨む、

「そうですね、その通りです」

ソフィアが冷静に同調し、3人の強い視線がソフィアに向いた、

「うん、そうなんだよ、あれだけの結界を敷いて尚、あの有様なんだ、それがお前の状態でお前の力なんだよ、戯れで街を破壊し、国を滅ぼす事が今のお前には可能なんだよ、恐らくこれからもな、まずはそれをしっかりと認識しろ、俺もソフィアも言われたことだが・・・」

クロノスは大きく鼻息を吐き出すと、

「大きすぎる力は簡単に己の欲望を叶えてくれる、なんでもな、お前が今あれをしたいこれをしたいと我儘を言い出しても、それを止める事の出来る者はいない、叱る者もいない、絶対的な強者だからな、街ごと吹き飛ばすぞと脅されては従う他ないだろう、しかしな、それを行使した時点で人扱いされぬ化け物になっちまうんだよ、やがてその強者を倒す為に他者は団結し、排斥されてしまう、周りは敵だらけ、一人彷徨い野垂れ死にだ、そうなりたければそうなれ、止めもしないし、なるようにしかならん・・・しかしだ、その力の扱いが人に認められるものであって、且つ自制する事を学べば人はお前を頼り、集まってくる、そしてなんだか知らんが英雄と呼ばれてしまう、だろう?」

ニヤリと柔らかい笑みを浮かべ、

「それが俺で、ソフィアやユーリ、ゲインもそうだな、皆、まずは自制する事を覚えた、そうしなければ自分を殺すことになると頭で理解して実感したからな、今日のお前さんと同じような事は俺達も経験済みなんだよ、でな・・・その上で自分の為ではなく他人の為に力を使い命を掛けた、俺達はな、それで運よく生き延びた、それで今は悠々と好き勝手に生きてる、お前から見て俺達はそれなりに幸せに見えるんじゃないか?」

イフナースは口元を大きく歪ませたが返答は無い、

「・・・ま、お前さんの境遇を思えばあまり強い言葉は使えんがな、ついこの間まで寝台から起きる事もままならなかったのが、今度は大魔法使い様だ、混乱するのも分かる、俺達は自分で求めてそうなったが、お前さんは違うからな、しかしだ・・・いや、違うな・・・さらに付け加えるなら、かな・・・お前さんは王太子様なんだよ、生まれた時から、どうしようもなくな、不敬を畏れずに言えば陛下が身罷られたらこの国を支配し導くのはお前さんなんだよ、統治の知識だ経験だは関係なくそうなるだろう、間もなく身体も良くなるだろうし、見た目も良い、若いし、十分に賢い、軍歴も立派なもんだ、お前さんがそうなるとなれば皆喜んで支持するだろう、それに、お前より順位の高い王位継承権者は老人ばかりだ、今更王になりたいという者がいたとしても周りが止めるさ・・・ま、そっちの事情はそっちの事情で色々あるんだろうが・・・で、だ、俺の為政者としての短い経験で得た金言を送ってやる」

クロノスはゴホンと咳払いを挟み、

「王は複雑怪奇でめんどいぞ」

再びニヤリと笑みを浮かべた、これには国王も苦笑いを浮かべるしかない、

「つまりだ、お前さんの未来にはままならない事しかないし、めんどくさい事しかない、しかし、それを担う者が必要なんだ、国として巨大な組織としてな、それに比べたら・・・、ハッ」

クロノスは芝居じみた仕草でフルフルと頭を振り、肩をすぼめた、

「今、お前の前にある問題は鼻で笑う程に小さいんだよ、なにしろ、俺みたいな奴やソフィアやユーリでも受け入れて乗り越えられた事だ、お前に出来ない事はないだろう?違うか?」

再度の詰問にイフナースは口元を引き締め無言でクロノスを睨み返す、

「故にだ・・・まぁ、取り敢えずは自制する事を身に着けろ、何、簡単だ、魔法を使わなければ良い、それだけだ、呪い云々が解決して、そうだな、せめて俺に一太刀でも当てる事が出来たら、魔法の修業に入れば良い、そしてその後は」

「政を覚えねばならんな」

国王がポツリと呟く、その瞳は嬉しそうな眩しそうな、何とも言えない優しさが滲み、その奥に垣間見えるのは厳しさである、

「そうですな陛下・・・そっちの方が遥かに長く険しいでしょうな、何せ王として生きている間は常にそうなのだから・・・だがな」

クロノスはイフナースへ柔らかくも鋭い視線を叩き付け、

「微力ながら俺はお前さんの力になる事をここで確約しよう、俺程度がそう言った所で何が出来るかという感じではあるが・・・これでも一応英雄様で、お前の義理の兄だからな肩の荷の一つや二つは代わりに担いでやれるさ・・・全部は無理だぞ、それと小難しい事もだ」

クロノスが長口上に疲れたのか溜息を吐いて茶に手を伸ばす、そして、

「なんだ、笑いどころだぞ」

と黙する一同を見渡した、それぞれにそうなの?と片眉を上げる程度で、表情を変える事は無かったが、一様にどこか安心したような嬉しそうな瞳である、

「・・・どいつもこいつも過保護な事だ」

イフナースは腕を組みフンスと鼻息を荒くしてギュッと瞑目した。
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