セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

53話 新学期 その6

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そして買い出し部隊が戻り、漬物の仕込み作業である、レインが得意の甘酢漬けから取り掛かり生徒達はそれを手伝いながらなるほどこういう事かとその味の秘密に驚いている、

「干し肉はな、細かく切ってまぶしても美味いのじゃが、うん、これは好みじゃのう」

「えっと、お酢はなんでもいいの?」

「なんでも良いと思うぞ、これも好みじゃな」

レインは教師としてもそれなりのようである、年下で子供にしか見えないレインの言葉に生徒達はうんうんと頷いて手を動かし、ソフィアは面白い光景だわねと微笑ましく見守っている、やがて、大人数で作業をした事もあり甘酢漬けはあっさりと完成したようで、

「これで2・3日置けば良い感じになろうな、じっくりと漬ければそれはそれで美味くなるぞ」

「うー、美味しそうだねー」

「うん、待ち遠しい」

甕を愛おしいそうに覗き込む面々であった、どうやらこの漬物もあっという間に無くなりそうである、レインは休むこと無く次の漬物に取り掛かった、こちらは単純な塩漬けのようである、用意されたのは大量の塩と葉野菜、それからソフィアにも馴染みのない乾燥した葉っぱである、

「レインこれは?」

「ふふん、なんじゃ、ソフィアも知らんのか?」

得意気にレインは微笑み、ルルは、

「それ、あれです、村では胃腸の薬でした」

と口を挟む、村ではという言葉がスッと出て来るほどにこの街に慣れたのであろうか、若者の順応というものは驚くほどに速い、

「私のとこもそうですよー、苦いんですよねー」

「だよねー、無理矢理飲まされたー」

コミンとサレバも既知のようである、

「そうだの、普通はあれじゃな虫下しの薬草じゃな」

「へー、あっ、もしかしてあれ?これを粉にしたのがあれ?」

ソフィアが厨房の一画へ視線を投げる、そこには常備薬として数種類の粉薬の入った壺が置かれており、虫下しの薬も勿論鎮座している、

「恐らくの、その薬には他の葉も混ざっているようじゃがな、でじゃ」

とレインは慣れた手付きで薬草を細かく切り、葉野菜は綺麗に洗って泥を落とす、それから塩を引いた壺に葉野菜を敷き詰め、それに薬草を振りかけて塩をまぶす、その工程を数回、一般的な塩漬けの漬け方であった、

「あら、これは普通なのね」

「まぁの、漬物にはそんなに大きな違いは無かろう」

「それもそうね」

「で、最後じゃ、ワインはあるか?」

「あるけど、これに入れるの?」

「そうじゃぞ」

「大丈夫?」

「勿論じゃ」

ソフィアは訝しく思いながらも調理用のワインを取り出す、

「そのまま軽く回しかけるのじゃ」

「本気で?」

「なんじゃ、美味いんだぞ」

「・・・なら信じるけども・・・」

ソフィアは渋々とワインを回しかけた、生徒達もいいのかなと不思議そうに甕を覗き込む、

「ん、そんなもんじゃな、これも暫く経てば美味くなるぞ」

レインは満足そうに微笑むが、薬草とワインを使っている為にその味の想像は難しい、薬草はルルやサレバが言うように苦く決して美味い物ではない、さらにワインである、まるで理解の範疇を超えていた、

「なんじゃ、不満か?」

レインがジロリと一同を睨みつけると、

「うー、苦いんでしょー」

ミナが全員を代表して心配そうに顔を上げ、

「うん、それにワインだしね・・・」

「ちょっと、不安かな・・・」

顔を見合わせる一同である、

「まぁ、いいわ、食ってみなければ分らんからの」

とレインは次の甕に手を掛けると、

「んー、少し大きいな、ソフィア、材料が高くてな少量しか買ってこなかったのじゃ、小さい壺はあるか?」

「そうなの?」

「うむ、こっちは確実に美味いぞ、な?」

「そうですね、はい、それはもう」

「ですよね、ふふ、楽しみです」

買い出し組がニヤリと微笑み、

「そうなの、これは美味しいの絶対なの」

ミナまでもがピョンピョンと飛び跳ねる、

「あら、そうなの?」

「ふふん、見ておるがいい」

ソフィアが小さめの壺をレインに手渡すと、ルルは買い物籠から次々と食材を取り出す、見ると、干し野菜と干し果物、それから乾燥した木の実である、

「えっと、どうするのかな、乾物は細かくする?」

「じゃのう、干しブドウの大きさに揃えたいのう」

「なるほど、理解しました」

「木の実はこのまま?」

「半分は細かく砕いて半分はそのままで良いぞ」

妙な手際の良さである、ソフィアとグルジアとレスタは事態が把握できず取り敢えずと様子見を決め込んだ、そして、

「切ったものから壺に入れて良いぞ」

「わかったー」

「こりゃ、つまみ食いするでない」

「ぶー、ちっさくしすぎたからいいのー」

「漬物が減るじゃろう」

こちらの仕込みは先程までと異なり和気藹々と楽しそうである、そして、一通り乾物は壺に収まり、レインはそれを適当にかき回すと、

「じゃ、誰がやる?」

「やるー、やりたーい」

当然のようにミナがピョンピョンと飛び跳ね、ルル達はしょうがないなとお姉さんヅラである、

「ん、じゃ、重いからの、気をつけるんじゃぞ」

「うん」

ルルが別の買い物袋から慎重に小さな壺を取り出した、ソフィアはん?とそれに気付き、グルジアとレスタもその甘ったるい香りからその中身に感づき、眉を顰める、

「えっ、もしかして、ちょっと、えっ」

流石のソフィアも予想外であったようで、

「本気で?」

とレインを止めにかかる、

「ふふん、本気じゃ」

「だって、それ漬物?」

「じゃぞ」

「えっと・・・漬物?」

ソフィアは自信無さげに2度聞いた、

「なんじゃ、いいか、漬物はの長期保存する為の技術じゃろ、塩漬け、酢漬け、酒漬け、そうする事によって腐らせないで食えるようにするのが要点じゃ」

「そりゃ、そうだけど」

「なら、こうして何が悪い、これも立派な漬物じゃ」

フンスとレインは鼻息を荒くし、

「いいの?」

ミナが不安そうにソフィアを見上げ、レインの表情を伺う、

「・・・まぁ、今回は任せるつもりだったしね・・・」

ソフィアは渋々と矛を収めた、正直な所納得はしていない、レインがやる事にまず失敗は無いであろう事は理解しているが、ソフィアの常識とはあまりにかけ離れている為に理解が追い付かないのである、

「うむ、ミナ、入れて良いぞ」

「うん」

ミナはルルから壺を受け取ると漬物の壺に中身をゆっくりと注ぎ入れた、途端に厨房内には甘ったるい芳香が充満する、それは蜂蜜であった、

「えっと・・・どんな味になるんでしょう・・・」

レスタが壺を覗き込む、

「絶対、美味しいよね」

「うん、間違いない」

「蜂蜜味だしね」

「そりゃ、そうよね」

「コツはの、しっかり乾燥した野菜と果物を入れる事だぞ、水気が増えると保存が効かないからな」

「そうなんですか・・・」

「へー、面白い・・・」

「それとな、蜂蜜の質にも拘るのじゃ、水で薄めた蜂蜜は駄目じゃからな」

「なるほど」

「確かにありますね、薄い蜂蜜」

トロトロと乾物に降りかかる蜂蜜を見つめながら、レインは講釈を垂れ、生徒達は一々頷いている、やがてミナの手にした蜂蜜は空になり、漬物の壺は丁度良く満杯になったようだ、

「うむ、これでしっかり蓋をしておけば春まで持つじゃろうな」

蜂蜜漬けの壺を軽く揺らして落ち着かせるとレインはニヤリと微笑んだ、

「えー、でもなー」

「うん、これはだって・・・」

「10日も持たない気がしますね」

「3日持てばいいんじゃない?」

「1日で無くなりそう・・・」

「うふ、蜂蜜美味しい」

ミナは壺に残った蜂蜜を指につけて舐め始め、

「あっいいなー」

「ミナちゃん、ちょっと頂戴」

「えー、ちょっとだけだよー」

「ミナちゃん、いけずだー」

「違うー、ミナはいけずじゃないー」

「じゃ、頂戴」

「ぶー、ちょっとだけだからねー」

「やっぱり、いけずだー」

一通りの作業が終わったと安心してか姦しくなる、

「もう・・・ま、後でゆっくりと成果を確認しますか」

ソフィアはレインに任せた事だからと納得できないまでも諦める事とした、もう既に作ってしまった事もある、何よりレインに任せたのは自分なのである、

「そうじゃ、甕がもう一つあるのであれば、また何か漬けるか?」

レインが余った甕を覗き込む、

「そうね、じゃ、甘酢漬け頼める?スイランズ様がねー、もっと欲しいってうるさいのよ」

「そうなのか?」

「そうよ、大好評だからね、売ろうと思えば売れるわよ」

「金銭には興味無いのう」

「でしょうね、ま、気が向いたらでいいわ、他にも漬けたいものある?」

「もう少ししたら冬キャベツじゃろ、それを待ちたいのう」

「そっ、じゃぁ、あれだ、漬物は任せるわ、下手に口出したら私が悪者になりそう」

「ふふん、分かれば良いのじゃ」

レインは不敵に微笑み、ソフィアはまったくと完全に負けを認めるのであった。
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