セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

59話 お披露目会 その4

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ガラス鏡店では正午近くになりやっとギルド関連の一団が揃って店を辞した、それぞれにドーナッツ入りの藁箱を手にしている、御足労頂いた礼として、また記念品と今後の付き合いを考慮して六花商会が用意した手土産であった、

「こんなものまで、お気遣い痛み入ります」

「全くですな、いや、これは見習わなければいけませんな、うん、これは嬉しい」

ニコニコと笑顔を浮かべる男達をエレインとテラはブノワトを交えて見送りに立つ、商工ギルドの職員達はそれほど騒ぎにはならなかったのであるが、やはり服飾協会関係者は出来るだけ早くガラス鏡を店に導入したいと鼻息を荒くしており、ガラス産業部会の面々も是非参画したいとこちらも顔を上気させている様子であった、それらはマレインとロブによって何とか宥められ落ち着きを取り戻し、そして、

「ギルドに戻ってゆっくりと打ち合わせといこう、場所は押さえてある、他の議題もあるのでな、協力するように」

ギルド長が穏やかに一行をまとめ、名残惜しそうにしながらも一行は商工ギルドに場を移した様子であった、その際に、

「上手くやっておくわ、参画するガラス工場の選定等はお前さん方が中心にならんといかんだろうしな、適当に誤魔化しておこう」

ロブがニヤリとブノワトとエレインに告げ、ブノワトは、

「それでもだって、親父さんの意見は欲しいよ」

「だろうがさ、どこまでいってもエレイン会長と協会長になるお前さんが手綱を持たなきゃならん、ま、儂としては求められればなんぼでも助言はするしな、エトもディモもいる、年寄りを使う事を覚えなきゃならんぞ」

ロブはジロリとエレインを睨みつつ、その口元は意地悪そうに歪んでいる、

「そうですね、はい、肝に銘じます」

エレインもまた厳しい視線で答えとした、

「うむ、では、決まり事があったらコッキー経由で連絡させよう」

ロブはどこか楽しそうに一行の後を追いかけた、

「まったく、ありゃ何か楽しんでるね」

ブノワトが目を細め、

「そうですね、しかし、ここはお任せしましょう、あの人達にはあの人達のやり方がありますから」

テラが一行を見送りながら達観した一言を加えた、そして、別の一行が門衛の確認を受けている様子である、

「あっ、商店街の方々ですね」

「そのようね」

テラが門に走り、エレインはさて次だと気持ちを新たにし店舗に入った、店内では遅れて来た一団がじっくりと商品を確認している様子であった、銀細工の職人達とブラス経由で仕事を依頼した額縁職人と家具職人である、エレインはブノワトが改めて仲立ちとなり額縁職人と家具職人と挨拶を交わし、銀食器の職人達とも立ち話しとなる、

「私達までお呼び頂き光栄です」

銀細工の職人達はやはりどこか遠慮がちであった、レアンの手前もある為どうしてもそうならざるを得ないのであろう、

「そんな、銀食器もとても大事な商品ですから、皆さんにもですがレアンお嬢様にも御満足頂けるように力を入れていきますので一層の御協力をお願い致します」

エレインはニコヤカに答えるも、職人達はどこか申し訳なさそうに微笑むばかりで、どうかしたのかしらとエレインが小首を傾げると、

「あー、レアンお嬢様がですね、お前達が先とはズルイぞと・・・」

「そうなんですよ、昨日、工場にいらっしゃいまして・・・笑っていらっしゃいましたから機嫌を損ねた訳では無いと思いますが・・・」

職人達は顔を見合わせて苦笑いとなった、

「あら・・・ふふっ、レアンお嬢様らしいですわね」

エレインはその様を想像して思わず微笑む、

「ですので・・・その、明後日ですかいらっしゃった折にはその・・・」

職人達は曖昧な笑みを浮かべつつどこか不安そうである、領主の娘であり、最も巨大な権力を持つ雇い主に不興を買ったとなれば命に関わる事態となっても不思議ではない、

「勿論です、上手い事言っておきますわ」

エレインの優しい笑みに職人達は何とか安堵の吐息を漏らす、

「そうだ、ついでだから・・・うん、コッキーさん、ブノワトさんも」

とエレインは二人を呼んで職人達を紹介しつつ、

「例えばなんですが、手鏡やガラスペン、それから爪やすり等と銀細工を組み合わせる事は可能でしょうか?」

小物の並ぶ棚に立って新商品の開発について試案を口にした、

「なるほど・・・以前にも話題にされておりましたね・・・」

「はい、例えば手鏡ですね、こちらであれば分かりやすいかと思うのですが」

とエレインはなんとなく思い描いていた事を口にする、手鏡であれば木製の部分を銀細工に置き換えたい事、ガラスペンであれば持ち手の部分だけ銀細工に出来ないか等々であった、コッキーとブノワトは初めて聞いたと目を丸くしており、銀細工の職人達は、

「値段を度外視すればいずれも可能かと思います」

「うん、銀は加工が楽ですからね、場合によっては金をあしらっても良いかと思います、金細工も得意としておりますから」

「そうなると宝石を嵌めても面白いだろうな」

「それもあったな・・・すると、ガラス部分はどのような構造なのですか?」

職人達同士で話しが盛り上がり始めた様子である、エレインは、

「そうですね、これはレアンお嬢様を交えて後ほどお時間を作りましょうか、ですので、是非今の内に皆様には案を練っておいて頂ければと思います」

笑顔で議論を先送りにする事とした、レアンのいない場所で話し合う内容では無いし、何よりこれは完全に彼女を蔑ろにする行為となる、先程の職人達の懸念もある、銀細工を絡めた商品にはレアンの立ち合いが必須であろうとの配慮であった、

「そうですね、いや、うん、では改めて他の品も見学させて頂きます」

銀細工の職人達は先程とはまるで異なる眼光でガラス鏡に向かい、コッキーとブノワトも、

「そういう事なら」

「うん、確かにね、本職さんと協力できればもっと良くなるよね」

とエレインの真意に気付いたようである、

「はい、使い勝手の追及は勿論ですし、全く新しい商品も必要になりますが、より安価な品とより高価な品も開発していかなければなりません、ガラス鏡自体はあるていど完成した品になりますからね、であれば・・・」

「うん、ガワを変えていくのも大事だね」

「じゃ、爪やすりの手持ちの部分とかどうかな?」

「良いかもね、どうせならさ木軸のガラスペンの木軸部分を丸っと銀細工とか?」

「それ良よさそうだね、ならいっその事鏡の下地処理もお願いできるかな?」

「あー・・・そうだよね、そっちの方が・・・でもそうなると・・・うん、協会が始まってからが良いと思うなー・・・作業の分担とか・・・だよね、現状が効率が良いわけではないからなー、考えどころかなー」

「確かにね、ここでどうこう言える事ではないのか・・・」

「でも、大事だね、うん、懸案事項として忘れないようにしよう」

「そうだね、あっ、じゃああれだ、ガラス製品と銀細工の組み合わせとなると」

と二人もまた職人達と共にあーだこーだと話しが弾み始める、そこへ、テラに導かれ商店街の一行が店内に入って来た様子である、エレインはすぐにそちらへ合流し、

「お忙しい中、御足労頂きましてありがとうございます」

丁寧に迎え入れた、

「これはエレイン会長、こちらこそお招き頂きありがとうございます」

先頭で挨拶を返したのは第三商店街のまとめ役であるバルト・ダンメルスである、第三商店街とは貴族向けの商店が連なる街の一画に出店している店舗の組合である、商工ギルドのような半官半民の組織とは違い完全に自治組織として有志が集まって結成された組合であり、互助会としての機能しか有しない、専ら中心にある街道の整備や管理を担っており、また祭り等では協力して事に当たる事もあるらしいが、それほど熱心に運営されてはいないらしい、緩やかな御近所付き合いの為の場であるとまとめ役であるバルト自身がそう評している、その名は単純にその中央を通る街道名から取られている、歴史的な問題で第一街道は学園へ向かう大路であり、第二は領主邸及び官公街を通る道であり、ガラス鏡店の前を通る街道が第三街道となっている、

「皆様お揃いでいらっしゃったのですか?」

「はい、一人二人とお邪魔するよりも一緒に伺った方が手間が省けると思いましてな」

バルトはニコヤカに微笑む、エレインは繋がりの薄い商店街であると聞いていた為に若干の疑問を感じるが、こちらとしては確かにその方が遇しやすい、恐らくバルトの思いやりであろうとここは素直に厚意として受け取る事とした、

「さっ、どうぞ、中の方へ」

エレインはサッと身を翻して場所を空ける、しかし、一行は入口付近で中々足を進めないでいた、正面に見える壁鏡に単純に驚いているのである、

「失礼・・・話しには聞いていましたがあれがそうなのですか?」

バルトが壁鏡から視線を外さずにエレインに問いかける、

「はい、あちらがこちらで取扱う主要商材となりますガラス鏡になります、マフレナさん」

エレインは壁に控えていたマフレナに案内を頼み、一行の後ろに控えていたテラの元へ足を運んだ、テラは、

「午前中の来客予定は以上となります」

そっとエレインへ報告し、

「そのようね、うん、ここまでは何とか順調かしら?」

「はい、恐らくは」

テラがニコリと微笑み、エレインも軽く一息吐くと、

「うん、では、しっかりやりましょう」

口元を引き締めてガラス鏡に見入る面々を見渡すのであった。
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