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本編
65話 密談に向けて その18
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そして一品目の温野菜のサラダは実に静かにそれぞれの舌を愉しませたようで、
「ふー・・・」
「美味しい・・・」
「だねー」
「でも、蒸し野菜?」
「蒸し器を使っているのかー」
「そういう事か・・・凄いな蒸し器、野菜にも使えるんだ・・・」
「そだねー」
「このソースは始めてだよね」
「うん、それも美味しかった」
「胡麻は分かりましたけど、こっちはなんでしょう?」
「お酢じゃない?」
「そうですけど油っぽいし」
「確かに」
「すいません、タロウさん、聞いていいですかー」
どうやらサレバがまず遠慮する事を辞めたようである、大きく手を上げた、
「はいはい、どうした」
タロウがわざわざサレバの座るテーブルに近寄る、そのテーブルはテラとカトカとサビナ、新入生達が囲んでいる、
「このソースって何ですか、マヨソースは分かりましたけど、こっちのと黒いのが分かんなくてー」
「はいはい、その薄いのが俺はドレッシングって呼んでいるソースで、黒いのは胡麻を炒って潰したソースだね」
「あー・・・それはちょっと駄目かもな・・・」
明るく説明するタロウにソフィアが瞬時に顔を曇らせた、ソフィアもそのソースを一嘗めしてすぐに気付いてはいたのであるが、これは早めに指摘しておくべきであろうと声を上げる、
「どうかした?」
「ユスティーナ様が胡麻は食べれないのよ」
ソフィアが難しそうに伝える、すると、
「・・・あー・・・そういう事か・・・どうりで胡麻の類が無いよね、寮には」
タロウはなるほどとすぐに理解したらしい、
「そういう事ね、先に言っておけばよかったかしら・・・」
「気にするな、明日使わなければいいし、先に分かればそれに越したことはないよ」
タロウはすぐに笑顔となると、
「うん、明日のソースは別で考えよう、で、なんだっけ、あっ、そのドレッシングっていうのは」
とサレバの質問の続きに入る、一瞬大丈夫かなと不安になった室内であったが、タロウはまるで気にすることなく、
「作るのは簡単でね、お酢と植物系の油、それにお塩を入れてかき混ぜるだけ」
「えっ、そんなに簡単なんですか?」
サレバも若干の緊張を感じるがそのまま受けた、
「そだよ、今日の料理も明日の料理もミーンさんとティルさんがしっかりと記録してあるからさ、後でゆっくり教えてもらいなさい」
「わっ、ホントですか?」
一転嬉しそうな顔が一斉に壁際に控えるメイド達に向けられるがそこに二人の姿は無かった、二人は厨房で汗をかいている最中である、
「ホントだよ、ま、材料が無いと難しいものもあるけどね」
「あっ、そうです、このハクサイですか、これはどんな野菜なんですか?」
「ん?あー・・・それは後程だな、明日はまだ忙しいからその後で・・・な」
タロウはニヤリと微笑むと、
「では皆さん御済みのようだから次の料理へ」
とブレフトに目配せする、ブレフトはコクリと頷きメイド達が動き出した、
「なるほど、こうやって一品一品出てくるのですね」
オリビアがやっと理解できたと微笑んだ、タロウが事前に説明はしたのであるが、聞くのと体感するとではやはり大きく異なる、タロウは今日は全部で六皿提供する事を宣言しており、最後の品は甘味である事だけはその場で伝えている、どのような料理が供されるのかは明言されていない、
「そうね、これはこれで食べやすいでしょ」
「ソフィアさんは御存知だったのですか?」
「御存知っていうほどじゃないけどね、一度タロウがやってみせた事はあったかな」
「そうじゃのう、えらいめんどくさかったがな」
レインがニヤリと微笑む、
「ねー、大騒ぎして準備してね、もう朝から夕飯の準備だもの、何考えているんだかって感じだったわよ」
「それは嫌ですねー」
ケイスが苦笑いを浮かべる、
「でしょー、だって、一日掛けて料理するのよ、そりゃ美味しかったけどさ・・・」
「噂のめんどくさい系ですね」
ジャネットがニコニコと口を挟む、
「そっ、めんどくさい系・・・まぁ、確かにこういった席にはいいのかもね、私はもういいわ勘弁してほしい」
「でしょうねー」
と明るく笑うソフィア達のテーブルと、
「次は何かな?」
「楽しみー」
「お野菜もう少し食べたいかなー」
「タロウさんが少量ずつだからって言ってたよね」
「うん、その意味がやっとわかった、こうやって色んな料理が出るんだね」
「お腹がいっぱいにならないようにってのも変な感じだけどね」
「美味しかったらいいでしょー」
「それはそうだ」
新入生達もワイワイと明るくしゃべりだす、会場内はやっと食事会らしい雰囲気になったようで、その間にもメイド達は静かに動き空いた皿を引き上げており、
「なるほど、皿を置く為の皿だったのですね」
マリアが空になった大きな平皿に納得した様子であった、
「そのようですね、こちらの皿に次々と料理の皿が乗せられていくそうです、これもまたちょっとした工夫ですが、確かに面白い趣向ですね」
イフナースがのんびりと微笑んだ、
「そうね、しっかし、よくもこんな事を考えつくものだわ」
ユーリがすっかりと呆れている、タロウに関してはとうの昔に理解する事は諦めたのであるが、改めてその発想にしろ実行力にしろ理解が及ばない、
「ユーリ先生でもそうなんですか?」
「そりゃそうよ、だって・・・ねぇ」
困ったように微笑むユーリにエレインも困った顔で応える、明日の食事会がどれほど重要なものであるかはエレインは理解していないが、なにもここまで凝る必要があるのかとも思う、しかしイフナースがどうやら何やら画策している事は察する事ができ、タロウはそれに乗っかって好き勝手やっているらしい、エレインとしてはミーンを送り込んでいる為、後程ゆっくりと検証しなければという思いもあるが、この体験をどうやって商売に結びつけるかはまるで浮かんでいない、そこへ、
「お酒を御所望の方はお言いつけ下さい、お水と果物のジュースも御用意しております」
タロウがすっかりと失念していた事をブレフトが口にする、
「おう、そうであったな、ワインを、エレイン嬢はどうする?」
イフナースが率先して手を上げる、
「あっ、じゃ、私もワイン」
ユーリも手を上げ、
「さっきのリンゴのジュースがいいー」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「はいはい、私はお水を」
こうして忘れ去られていた飲み物がやっと供され、タロウはあー、これはミスったなと苦笑いであった、そして、次の皿が供された、
「これは・・・」
「綺麗なスープ・・・」
「うん、良い香り・・・」
「だねー」
その皿は緩やかな湯気を立たせる黄金色のスープで満たされていた、
「でも」
「うん、具材が無いね」
「これだけ?」
女性達がいいのかなと不思議に思っていると、
「あー・・・」
「やっぱり・・・じゃな・・・」
ソフィアとレインが渋い顔となる、
「えっと、何かあるんですか?」
パウラが思わず問い質すと、
「大丈夫、美味しいの、とっても美味しいスープよ」
「確かに、味は格別じゃ、素晴らしいぞ」
「そうなのー?」
嬉しそうにリンゴジュースを傾けるミナである、
「ミナ、覚えてない?」
「わかんなーい」
ミナは単純に答える、何も考えていないなこいつはとソフィアは軽く微笑むと、
「そうよ、甘いのとは合わないと思うけどね、まぁいいわ、頂きましょう」
ソフィアはやれやれとスプーンに手を伸ばす、同席するジャネット達はいいのかなと顔を見合わせるもその食欲をそそる香りに勝てる筈も無くスプーンを手にした、そして、
「うっわ・・・何だこれ・・・」
「美味しい・・・」
「うん、なんだろ、なんだろ、なんの味なんだろ・・・」
「初めての味ですね・・・」
「そだね、初めての味だ・・・」
「はー・・・美味しいのよねー」
「うむ、旨いのう・・・」
「美味しいよー」
どうにも嫌悪感を払拭しきれていないソフィアとレインを置いて、そのスープは大変に好評のようで、各テーブルから絶賛の声が上がるとそれはあっという間に収束し、実に静かに食器の立てる音とズズッとスープを吸い込む音が響く、カチャカチャズズリと響くそれがやがて徐々に納まると、
「美味しかった・・・」
「うん、名残惜しい・・・」
「これじゃ足りない・・・」
「そうだよねー」
「タロウさん、あの・・・」
と寂しそうな目がタロウに集まった、タロウはニコリと微笑むと、
「お楽しみ頂けたようでなによりです、先にお話しした通り甘味の前にご注文を受けますので、それまではこちらの流れに沿って頂ければ嬉しいです」
と容赦の無い言葉であった、
「うー、でもー」
「ミナちゃんみたいな事言わないの」
「えー、でもー」
「あはは、ミナちゃんになってるー」
「気持ちは分かる」
「きっとあれだよ、他の料理も美味しいんだよ」
「・・・そっか、それもそうだよね」
「うん、二品目でこれだよ、この後に何があるんだろ?」
「・・・恐ろしいよね」
「うん、恐ろしい」
タロウが冷たく突き放した状態であるが、それはそれで後の料理への期待感に変わったらしい、タロウはそろそろ次の出し物かなと思い立ち、ブレフトに指示を出すと、
「では失礼しますね」
とテーブルの中央にある壺に手を掛ける、今度は何かと一同の視線が集まる中、パッとテーブルが昼のように明るくなった、エッと言葉も無く驚く面々である、
「壺の中にね、ゾーイさんに作ってもらった壺の光柱を仕込んであります」
タロウは説明しながら各テーブルを回る、
「壺の中に壺ですか・・・」
ゾーイが呆れた笑みを浮かべるが、どこか嬉しそうでもある、タロウから協力を依頼されどうなるものかと思って作った品であったが、今やっとその完成形を目にし、なるほどこれは面白いと素直にそう言いたくないが、認めるしかない、
「だねー、壺の中で光を乱反射させてね、それを上に置いた皿で下に向けているんだよ、どう、手元が明るくなったでしょ」
「確かに・・・」
「ほんとだ・・・」
「蝋燭なんかと全然違う・・・」
「キレー」
夕闇が濃くなりだし、屋敷が薄暗がりになり始めた頃合いであった、本来であればテーブルの灯りとして燭台が用いられる所なのであるが、壺と皿の隙間からテーブル上に満遍なく広がる黄色い光は蝋燭等とは比べることなど出来ない明るさである、
「これは良いな、タロウ殿、しかし・・・うるさくなるぞ・・・」
イフナースもこれは初見であったらしい、こんなものを知られたらまた一騒動だなと目を細める、
「そうですね、その時は研究所の皆様に頑張って頂いて、私としてはあれですね、この壺は良いのですが、上の皿が何とも不細工かな・・・と、なので、もう少し御洒落にしたいですね、なにせ急造でして、ある物でなんとかしようとしたらこうなりました、そういうものです」
タロウがニコニコとイフナースらのテーブルに戻ってくる、他二つのテーブルも同じような光に包まれ、それぞれの顔も明るく見えている、
「なるほど・・・かもしれん・・・しっかし・・・」
イフナースは投げ遣りな笑みを浮かべ、
「エレイン嬢、あなたの周りには随分と常識外れの人ばかりが集まっておるな」
「えっ・・・わたくしですか?」
エレインはキョトンと答える、
「そうね、そのようだわね・・・」
マリアは壺の灯りを見つめ、イージスも何が何やらとポカンとしている、乳母の足に座っているマリエッテはダーダーと壺に手を伸ばすが、乳母が慌てて抱き留めた、
「やれやれだ・・・まったく・・・」
イフナースの溜息が小さく響くのであった。
「ふー・・・」
「美味しい・・・」
「だねー」
「でも、蒸し野菜?」
「蒸し器を使っているのかー」
「そういう事か・・・凄いな蒸し器、野菜にも使えるんだ・・・」
「そだねー」
「このソースは始めてだよね」
「うん、それも美味しかった」
「胡麻は分かりましたけど、こっちはなんでしょう?」
「お酢じゃない?」
「そうですけど油っぽいし」
「確かに」
「すいません、タロウさん、聞いていいですかー」
どうやらサレバがまず遠慮する事を辞めたようである、大きく手を上げた、
「はいはい、どうした」
タロウがわざわざサレバの座るテーブルに近寄る、そのテーブルはテラとカトカとサビナ、新入生達が囲んでいる、
「このソースって何ですか、マヨソースは分かりましたけど、こっちのと黒いのが分かんなくてー」
「はいはい、その薄いのが俺はドレッシングって呼んでいるソースで、黒いのは胡麻を炒って潰したソースだね」
「あー・・・それはちょっと駄目かもな・・・」
明るく説明するタロウにソフィアが瞬時に顔を曇らせた、ソフィアもそのソースを一嘗めしてすぐに気付いてはいたのであるが、これは早めに指摘しておくべきであろうと声を上げる、
「どうかした?」
「ユスティーナ様が胡麻は食べれないのよ」
ソフィアが難しそうに伝える、すると、
「・・・あー・・・そういう事か・・・どうりで胡麻の類が無いよね、寮には」
タロウはなるほどとすぐに理解したらしい、
「そういう事ね、先に言っておけばよかったかしら・・・」
「気にするな、明日使わなければいいし、先に分かればそれに越したことはないよ」
タロウはすぐに笑顔となると、
「うん、明日のソースは別で考えよう、で、なんだっけ、あっ、そのドレッシングっていうのは」
とサレバの質問の続きに入る、一瞬大丈夫かなと不安になった室内であったが、タロウはまるで気にすることなく、
「作るのは簡単でね、お酢と植物系の油、それにお塩を入れてかき混ぜるだけ」
「えっ、そんなに簡単なんですか?」
サレバも若干の緊張を感じるがそのまま受けた、
「そだよ、今日の料理も明日の料理もミーンさんとティルさんがしっかりと記録してあるからさ、後でゆっくり教えてもらいなさい」
「わっ、ホントですか?」
一転嬉しそうな顔が一斉に壁際に控えるメイド達に向けられるがそこに二人の姿は無かった、二人は厨房で汗をかいている最中である、
「ホントだよ、ま、材料が無いと難しいものもあるけどね」
「あっ、そうです、このハクサイですか、これはどんな野菜なんですか?」
「ん?あー・・・それは後程だな、明日はまだ忙しいからその後で・・・な」
タロウはニヤリと微笑むと、
「では皆さん御済みのようだから次の料理へ」
とブレフトに目配せする、ブレフトはコクリと頷きメイド達が動き出した、
「なるほど、こうやって一品一品出てくるのですね」
オリビアがやっと理解できたと微笑んだ、タロウが事前に説明はしたのであるが、聞くのと体感するとではやはり大きく異なる、タロウは今日は全部で六皿提供する事を宣言しており、最後の品は甘味である事だけはその場で伝えている、どのような料理が供されるのかは明言されていない、
「そうね、これはこれで食べやすいでしょ」
「ソフィアさんは御存知だったのですか?」
「御存知っていうほどじゃないけどね、一度タロウがやってみせた事はあったかな」
「そうじゃのう、えらいめんどくさかったがな」
レインがニヤリと微笑む、
「ねー、大騒ぎして準備してね、もう朝から夕飯の準備だもの、何考えているんだかって感じだったわよ」
「それは嫌ですねー」
ケイスが苦笑いを浮かべる、
「でしょー、だって、一日掛けて料理するのよ、そりゃ美味しかったけどさ・・・」
「噂のめんどくさい系ですね」
ジャネットがニコニコと口を挟む、
「そっ、めんどくさい系・・・まぁ、確かにこういった席にはいいのかもね、私はもういいわ勘弁してほしい」
「でしょうねー」
と明るく笑うソフィア達のテーブルと、
「次は何かな?」
「楽しみー」
「お野菜もう少し食べたいかなー」
「タロウさんが少量ずつだからって言ってたよね」
「うん、その意味がやっとわかった、こうやって色んな料理が出るんだね」
「お腹がいっぱいにならないようにってのも変な感じだけどね」
「美味しかったらいいでしょー」
「それはそうだ」
新入生達もワイワイと明るくしゃべりだす、会場内はやっと食事会らしい雰囲気になったようで、その間にもメイド達は静かに動き空いた皿を引き上げており、
「なるほど、皿を置く為の皿だったのですね」
マリアが空になった大きな平皿に納得した様子であった、
「そのようですね、こちらの皿に次々と料理の皿が乗せられていくそうです、これもまたちょっとした工夫ですが、確かに面白い趣向ですね」
イフナースがのんびりと微笑んだ、
「そうね、しっかし、よくもこんな事を考えつくものだわ」
ユーリがすっかりと呆れている、タロウに関してはとうの昔に理解する事は諦めたのであるが、改めてその発想にしろ実行力にしろ理解が及ばない、
「ユーリ先生でもそうなんですか?」
「そりゃそうよ、だって・・・ねぇ」
困ったように微笑むユーリにエレインも困った顔で応える、明日の食事会がどれほど重要なものであるかはエレインは理解していないが、なにもここまで凝る必要があるのかとも思う、しかしイフナースがどうやら何やら画策している事は察する事ができ、タロウはそれに乗っかって好き勝手やっているらしい、エレインとしてはミーンを送り込んでいる為、後程ゆっくりと検証しなければという思いもあるが、この体験をどうやって商売に結びつけるかはまるで浮かんでいない、そこへ、
「お酒を御所望の方はお言いつけ下さい、お水と果物のジュースも御用意しております」
タロウがすっかりと失念していた事をブレフトが口にする、
「おう、そうであったな、ワインを、エレイン嬢はどうする?」
イフナースが率先して手を上げる、
「あっ、じゃ、私もワイン」
ユーリも手を上げ、
「さっきのリンゴのジュースがいいー」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「はいはい、私はお水を」
こうして忘れ去られていた飲み物がやっと供され、タロウはあー、これはミスったなと苦笑いであった、そして、次の皿が供された、
「これは・・・」
「綺麗なスープ・・・」
「うん、良い香り・・・」
「だねー」
その皿は緩やかな湯気を立たせる黄金色のスープで満たされていた、
「でも」
「うん、具材が無いね」
「これだけ?」
女性達がいいのかなと不思議に思っていると、
「あー・・・」
「やっぱり・・・じゃな・・・」
ソフィアとレインが渋い顔となる、
「えっと、何かあるんですか?」
パウラが思わず問い質すと、
「大丈夫、美味しいの、とっても美味しいスープよ」
「確かに、味は格別じゃ、素晴らしいぞ」
「そうなのー?」
嬉しそうにリンゴジュースを傾けるミナである、
「ミナ、覚えてない?」
「わかんなーい」
ミナは単純に答える、何も考えていないなこいつはとソフィアは軽く微笑むと、
「そうよ、甘いのとは合わないと思うけどね、まぁいいわ、頂きましょう」
ソフィアはやれやれとスプーンに手を伸ばす、同席するジャネット達はいいのかなと顔を見合わせるもその食欲をそそる香りに勝てる筈も無くスプーンを手にした、そして、
「うっわ・・・何だこれ・・・」
「美味しい・・・」
「うん、なんだろ、なんだろ、なんの味なんだろ・・・」
「初めての味ですね・・・」
「そだね、初めての味だ・・・」
「はー・・・美味しいのよねー」
「うむ、旨いのう・・・」
「美味しいよー」
どうにも嫌悪感を払拭しきれていないソフィアとレインを置いて、そのスープは大変に好評のようで、各テーブルから絶賛の声が上がるとそれはあっという間に収束し、実に静かに食器の立てる音とズズッとスープを吸い込む音が響く、カチャカチャズズリと響くそれがやがて徐々に納まると、
「美味しかった・・・」
「うん、名残惜しい・・・」
「これじゃ足りない・・・」
「そうだよねー」
「タロウさん、あの・・・」
と寂しそうな目がタロウに集まった、タロウはニコリと微笑むと、
「お楽しみ頂けたようでなによりです、先にお話しした通り甘味の前にご注文を受けますので、それまではこちらの流れに沿って頂ければ嬉しいです」
と容赦の無い言葉であった、
「うー、でもー」
「ミナちゃんみたいな事言わないの」
「えー、でもー」
「あはは、ミナちゃんになってるー」
「気持ちは分かる」
「きっとあれだよ、他の料理も美味しいんだよ」
「・・・そっか、それもそうだよね」
「うん、二品目でこれだよ、この後に何があるんだろ?」
「・・・恐ろしいよね」
「うん、恐ろしい」
タロウが冷たく突き放した状態であるが、それはそれで後の料理への期待感に変わったらしい、タロウはそろそろ次の出し物かなと思い立ち、ブレフトに指示を出すと、
「では失礼しますね」
とテーブルの中央にある壺に手を掛ける、今度は何かと一同の視線が集まる中、パッとテーブルが昼のように明るくなった、エッと言葉も無く驚く面々である、
「壺の中にね、ゾーイさんに作ってもらった壺の光柱を仕込んであります」
タロウは説明しながら各テーブルを回る、
「壺の中に壺ですか・・・」
ゾーイが呆れた笑みを浮かべるが、どこか嬉しそうでもある、タロウから協力を依頼されどうなるものかと思って作った品であったが、今やっとその完成形を目にし、なるほどこれは面白いと素直にそう言いたくないが、認めるしかない、
「だねー、壺の中で光を乱反射させてね、それを上に置いた皿で下に向けているんだよ、どう、手元が明るくなったでしょ」
「確かに・・・」
「ほんとだ・・・」
「蝋燭なんかと全然違う・・・」
「キレー」
夕闇が濃くなりだし、屋敷が薄暗がりになり始めた頃合いであった、本来であればテーブルの灯りとして燭台が用いられる所なのであるが、壺と皿の隙間からテーブル上に満遍なく広がる黄色い光は蝋燭等とは比べることなど出来ない明るさである、
「これは良いな、タロウ殿、しかし・・・うるさくなるぞ・・・」
イフナースもこれは初見であったらしい、こんなものを知られたらまた一騒動だなと目を細める、
「そうですね、その時は研究所の皆様に頑張って頂いて、私としてはあれですね、この壺は良いのですが、上の皿が何とも不細工かな・・・と、なので、もう少し御洒落にしたいですね、なにせ急造でして、ある物でなんとかしようとしたらこうなりました、そういうものです」
タロウがニコニコとイフナースらのテーブルに戻ってくる、他二つのテーブルも同じような光に包まれ、それぞれの顔も明るく見えている、
「なるほど・・・かもしれん・・・しっかし・・・」
イフナースは投げ遣りな笑みを浮かべ、
「エレイン嬢、あなたの周りには随分と常識外れの人ばかりが集まっておるな」
「えっ・・・わたくしですか?」
エレインはキョトンと答える、
「そうね、そのようだわね・・・」
マリアは壺の灯りを見つめ、イージスも何が何やらとポカンとしている、乳母の足に座っているマリエッテはダーダーと壺に手を伸ばすが、乳母が慌てて抱き留めた、
「やれやれだ・・・まったく・・・」
イフナースの溜息が小さく響くのであった。
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