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本編
65話 密談に向けて その19
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その後、会食を終えた女生徒達は一部を残して近衛に護衛されて寮へと帰ってきた、松明を片手にする近衛に丁寧に頭を下げるとドヤドヤと食堂に入り、慣れた感じで壺の光柱を起動させ、
「疲れたー」
「ねー」
「でも、美味しかったー」
「ねー」
と席に着くなりグダリと身を投げ出す、
「何から何まで凄かったねー」
「だよねー」
「あー・・・夢のよう・・・」
「そだねー」
光柱に照らされ、慣れない貴族様式からの解放感と、この王国で恐らく初となる若干タロウの改変があるとはいえ正式な洋風のフルコースを堪能した為の満足感に酔いしれる女子達であった、
「あのスープまた食べたいなー」
「だよね」
ガバリとルルが顔を上げる、
「ソフィアさんは作り方知ってるみたいよ」
「そうなんですか?」
「めんどくさい系だからやだーって言ってたけどねー」
「あれがめんどくさい系なんですか?噂の?」
「そうみたいよ、レインちゃんも渋い顔してたなー」
「そんなに大変なんですか?」
「だろうねー、何か朝から作らないと駄目とかなんとかって言ってたなー」
「それは・・・」
「確かにめんどくさいかも・・・」
「だしょー、それよりさ、最後の何だっけ?」
「アイスクリーム?」
「それだ、あれは作れるよね」
「あっ、タロウさんも言ってましたね」
「うん、あれも美味しかったな・・・」
「お店で出してたのと違うんですか?何かエレインさんが色々聞いてましたけど」
「全然違うさー、お店のは氷菓子って感じだからね、屋台でお客さんの前で作るからいいんだけどね、あれだよね・・・」
「滑らかさが全然違ったね、それに味が濃い感じ?」
「それだ、作り方が全然違うのかも・・・あれ、いいよねー」
「いいねー、ミーンさんに教えを乞わないとだね」
「確かに、エレインさんも鼻息荒くしてたしなー、次はあれかなー」
「でも、冷たいお菓子は難しい季節ですよ」
「そうだけどさー、一度しっかり作ってみて、で、屋台で出せるかどうか?検証してみないとだからねー」
「屋台に拘らなくてもいいんじゃない?」
「そかなー、うちらは屋台が始まりだもん、そこは無下にしちゃ駄目でしょ」
「それもそうね」
「でしょー、でも、あれか、ガラス鏡店の裏のお店もあるしね、あっちはどうするんだろ」
「ガラス鏡店が忙しいからね、そっちが一段落したらってテラさんは言ってましたけど」
「まだまだ忙しいよね」
「そうなんだよなー」
ジャネットとケイスが真面目に話し込んでいると、
「わっ、ジャネット先輩がまともな事言ってるー」
サレバがニヤリと茶化しだす、
「なんだとー」
「キャー、コミン助けてー」
「やだ」
「あー、冷たーい」
「うるさいなー」
「あっ、酷いー、ねーさんがいないから守ってくれるのはコミンしかいないのにー」
「そう言えばそうよねー、フッフッフ、サレバー」
とジャネットが怪しげな笑みをサレバに向けるが、席を立つ事は無く、サレバは大袈裟にその視線から逃げるようにコミンの腹に抱きついた、
「こら、気持ち悪いことすんな」
「あー、コミンが冷たいー、やだー」
「やだじゃないでしょ」
「でもー」
「ミナちゃんの真似しないで」
「だめ?」
「駄目」
「そっかー」
素直に座り直すサレバである、そこへ、
「お疲れ様ー」
ソフィアがフラリと厨房から入って来た、ミナを宿舎に寝かせてすぐに戻って来たようである、ミナは屋敷を後にしてすぐに眠気が襲ってきたのかグズリ始め、結局ソフィアが抱き上げ、そのぬくもりに安心したのかすぐに寝息を立てるミナであった、まったくと微笑みつつもすっかり重くなったミナをソフィアは何とか宿舎に運び入れ、ミナはそのまま夢の中である、
「お疲れ様ですー、ソフィアさん、あのスープってそんなにめんどくさいんですか?」
ルルはどうしてもスープが忘れられないらしい、
「そうねー、あれはねー、ああいうもんなんだよってタロウは言うんだけどね、私は勘弁だわ」
困った顔でソフィアは席に着いた、
「そう・・・なんですか・・・また食べる事って難しいかなー」
「あー・・・そっか、もしかしたら二度と食べれないのか・・・」
「そう言われればそうかも・・・」
「ちょっと寂しいな」
急に喪失感を覚える女子達である、
「そうね、でも料理ってそういうものじゃない?」
ソフィアはニヤリと微笑み、さて暇つぶしかしらと編み物籠に手を伸ばす、現在さきの会場では明日の参加者を居残らせ作戦会議中である、今日の食事会の反省点や改良点も話し合われるらしく、若干時間がかかるかもとはタロウの弁であった、ソフィアとしては特に何をしろとの指示が無い限りは動く気はサラサラなかった、少なくとも今日の食事会に関しては都度口は出しており、特にユスティーナに関しては大事な事でもある為帰りしなに再度確認している、明日の食事会を成功させる為には何よりも大事な点であろう、それくらいしか自分が口出す事は無いし、ミナも居た為サッサと戻って来た次第である、明日も取り合えず普通にしていれば良いであろう、その普通が普通の人から見ると、少々異質なものであってもである、
「そうですか?」
「そうよ、だってね、料理って、ほら、まったく同じ味にすることって出来ないじゃない」
「あっ・・・」
「そうかも・・・」
「ね、家での料理も、何かすんごい偶然ですんごい美味しくなることあるじゃない?で、あれ美味しかったなーって思ってまた作っても、あれ違うなって事が結構あるしね」
「ソフィアさんでもそうなんですか?」
「そりゃそうでしょ、だって、適当よ、味付けなんて、お塩もお酢も適当だしね、お野菜だって同じ味じゃないんだもん、お肉だって、ね、固かったり柔らかかったりで全然味が変わるしね」
「そう・・・ですよねー」
「でもでも、そういう意味じゃないですよー」
「アッハッハ、そうよね、それは分かる、うん、ちょっとだまくらかそうと思った」
「酷いなー」
「あっ、あれはどうですか?カツの黒いソース」
本日の五品目に供されたのは獣肉のカツであった、それ自体は生徒達にとっては見慣れたものであったが、そこに添えられた黒色のソースがこれまた別格であった、軽く舐めてみるとそれぞれに感じる味が違うようで、スッパイと言う者、甘いと言う者、しょっぱいと言う者と意見が別れ、しかし、さらに舐めてみれば先程とはまた違う味が感じられ、確かにスッパイ甘いしょっぱいとカツを横に置いてソースが主役となってしまった、
「あれねー、一回作ったかな?」
ソフィアが遠い目で答える、
「どうでした?やっぱりめんどくさい系ですか?」
「そう・・・ね、あれも確かにめんどくさい系ね、スープ程じゃないけど・・・作るのは大変かな・・・」
「フスターソースでしたっけ?」
「?・・・ウスターじゃない?」
「へっ、ウスター?・・・フスター・・・似てるからいいじゃない」
「適当ねー」
「どっちでもいいですよー」
「良くないよ、ウスター、はい」
「はいって、フ・・・ウスター」
「はい、合格ー」
「うわっ、ムカつくー」
アッハッハと食堂は笑いに包まれた、
「でもあれはほら材料が難しくてね、良く集まったわね」
「あっ、だったらあれです、ハクサイです、ハクサイ」
「あれは私も初めてよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうよー、タロウさんがねあっちこっち行ってたのは食べれるものを探すためだからねー・・・って話したこと無かったっけ?」
「どうだろう?」
「チラっと聞いたような・・・」
「はい、何となく記憶にあります」
「そう?ほらあの人はこの国の出身じゃないからね、どうにもこの国は食べるものの種類が少ないってうるさくてね」
「そう・・・なんですか?」
「そうみたいよ、私もユーリも何をめんどくさい事をって相手にしなかったんだけどね、でも、やっぱりハクサイもそうだし、イワシ?お魚って美味しいわよね」
本日の三品目は北ヘルデルで水揚げされた鰯の塩焼きである、単純に頭と内臓を取り塩焼きにしただけの丸々と太った鰯は、その見た目から歓声が起こる事は無かったが、タロウの勧めで丸かじりにすると、ジワリと滲みだす魚特有のサラリとした油の甘みと香ばしさ、さらに鰯の淡泊ではあるがしっかりとした旨味が口中に広がり絶賛の声が上がった、何より王国人にとって生魚は最高級品である、特に海のそれはまるで縁の無いもので、市場に流通しているのは高額な干し魚が主であり、生魚となると川や湖で採れたそれとなるが、種類は勿論極端に少ない、そしてそれもまた高額である、皆これも言葉も無くむさぼるように食してしまい、タロウはしてやったりと満足そうな笑顔であった、
「あれ美味しかったー」
「うん、海の生魚って初めてかもですよ」
「だよねー」
「魔法で何とかしたってタロウさん言ってたね」
「うん、魔法も勉強しなきゃだよ」
「それは大事だ」
「だよねー」
「そうね、前にね、海でお魚釣った事はあったけど、あれも美味しかったな・・・」
「えっ、そうなんですか?」
「魚釣り?」
「やった事ない?」
「どうだろう、私、魚のいる川は危ないから近づいちゃ駄目って言われてました」
「あっ、うちもー」
「だよねー」
「へへ、楽しいよ魚釣り?」
「そうなんですか?」
「うん、棒の先にね糸を結んで針を付けてー」
ジャネットがニヤニヤと身振り手振りで説明する、
「へー」
「面白そー」
「現地研修でやらないの?」
「あー、やらないですねー、あの湖汚いらしくて、ここの魚は腹をこわすから駄目って言われました」
「あら、そうなんだ・・・」
「みたいですー」
「残念ね、魚釣り楽しいのにね」
「楽しいですよねー」
ニヤニヤと思い出し笑いで優越感に浸るジャネットであった、
「ぶー、いいなー」
「あっ、じゃ、あれはどうですか?鳥肉のテリヤキ?」
四皿目の料理をルルが話題に上げた、鳥肉の照り焼きである、それは豪華ではあるが極めて単純な料理に見えた、しかし、鳥肉を包む甘く濃厚なタレとカリカリとした皮の食感、それらが鳥肉の旨味を数段階高みに押し上げ、今思いだしても唾液が溢れてきてしまう、
「どうですかって言われてもだけど、あれはやろうと思えば出来そうよねー」
うーんとソフィアが首を捻る、
「ソフィアさんでも初めてだったんですか?」
「そうねー、私の田舎だと卵はよく食べるんだけど鳥肉はそれほどでもなくて、食べたとしても山鳥?だから、あんな上質な鳥肉が難しいわよね・・・でも、最近はあれか、良いお肉は貰うものになってるわね、何気に贅沢だわ」
「なるほどー」
「今度あれ作りましょうよ、私手伝います」
「わたしもー」
「屋台でも出せそうだよね」
「あっ、それ思った」
「串焼きでいいんじゃない?」
「あのタレがいいんだよね」
「うん、あ・・・お腹空いてきた・・・」
「食べたばかりでしょ」
「だけどー」
「飴でも舐めてなさいよ」
「・・・そだねー」
すっかり漆黒の闇に包まれた寮内で時間を忘れキャッキャッと盛り上がる一同であった。
「疲れたー」
「ねー」
「でも、美味しかったー」
「ねー」
と席に着くなりグダリと身を投げ出す、
「何から何まで凄かったねー」
「だよねー」
「あー・・・夢のよう・・・」
「そだねー」
光柱に照らされ、慣れない貴族様式からの解放感と、この王国で恐らく初となる若干タロウの改変があるとはいえ正式な洋風のフルコースを堪能した為の満足感に酔いしれる女子達であった、
「あのスープまた食べたいなー」
「だよね」
ガバリとルルが顔を上げる、
「ソフィアさんは作り方知ってるみたいよ」
「そうなんですか?」
「めんどくさい系だからやだーって言ってたけどねー」
「あれがめんどくさい系なんですか?噂の?」
「そうみたいよ、レインちゃんも渋い顔してたなー」
「そんなに大変なんですか?」
「だろうねー、何か朝から作らないと駄目とかなんとかって言ってたなー」
「それは・・・」
「確かにめんどくさいかも・・・」
「だしょー、それよりさ、最後の何だっけ?」
「アイスクリーム?」
「それだ、あれは作れるよね」
「あっ、タロウさんも言ってましたね」
「うん、あれも美味しかったな・・・」
「お店で出してたのと違うんですか?何かエレインさんが色々聞いてましたけど」
「全然違うさー、お店のは氷菓子って感じだからね、屋台でお客さんの前で作るからいいんだけどね、あれだよね・・・」
「滑らかさが全然違ったね、それに味が濃い感じ?」
「それだ、作り方が全然違うのかも・・・あれ、いいよねー」
「いいねー、ミーンさんに教えを乞わないとだね」
「確かに、エレインさんも鼻息荒くしてたしなー、次はあれかなー」
「でも、冷たいお菓子は難しい季節ですよ」
「そうだけどさー、一度しっかり作ってみて、で、屋台で出せるかどうか?検証してみないとだからねー」
「屋台に拘らなくてもいいんじゃない?」
「そかなー、うちらは屋台が始まりだもん、そこは無下にしちゃ駄目でしょ」
「それもそうね」
「でしょー、でも、あれか、ガラス鏡店の裏のお店もあるしね、あっちはどうするんだろ」
「ガラス鏡店が忙しいからね、そっちが一段落したらってテラさんは言ってましたけど」
「まだまだ忙しいよね」
「そうなんだよなー」
ジャネットとケイスが真面目に話し込んでいると、
「わっ、ジャネット先輩がまともな事言ってるー」
サレバがニヤリと茶化しだす、
「なんだとー」
「キャー、コミン助けてー」
「やだ」
「あー、冷たーい」
「うるさいなー」
「あっ、酷いー、ねーさんがいないから守ってくれるのはコミンしかいないのにー」
「そう言えばそうよねー、フッフッフ、サレバー」
とジャネットが怪しげな笑みをサレバに向けるが、席を立つ事は無く、サレバは大袈裟にその視線から逃げるようにコミンの腹に抱きついた、
「こら、気持ち悪いことすんな」
「あー、コミンが冷たいー、やだー」
「やだじゃないでしょ」
「でもー」
「ミナちゃんの真似しないで」
「だめ?」
「駄目」
「そっかー」
素直に座り直すサレバである、そこへ、
「お疲れ様ー」
ソフィアがフラリと厨房から入って来た、ミナを宿舎に寝かせてすぐに戻って来たようである、ミナは屋敷を後にしてすぐに眠気が襲ってきたのかグズリ始め、結局ソフィアが抱き上げ、そのぬくもりに安心したのかすぐに寝息を立てるミナであった、まったくと微笑みつつもすっかり重くなったミナをソフィアは何とか宿舎に運び入れ、ミナはそのまま夢の中である、
「お疲れ様ですー、ソフィアさん、あのスープってそんなにめんどくさいんですか?」
ルルはどうしてもスープが忘れられないらしい、
「そうねー、あれはねー、ああいうもんなんだよってタロウは言うんだけどね、私は勘弁だわ」
困った顔でソフィアは席に着いた、
「そう・・・なんですか・・・また食べる事って難しいかなー」
「あー・・・そっか、もしかしたら二度と食べれないのか・・・」
「そう言われればそうかも・・・」
「ちょっと寂しいな」
急に喪失感を覚える女子達である、
「そうね、でも料理ってそういうものじゃない?」
ソフィアはニヤリと微笑み、さて暇つぶしかしらと編み物籠に手を伸ばす、現在さきの会場では明日の参加者を居残らせ作戦会議中である、今日の食事会の反省点や改良点も話し合われるらしく、若干時間がかかるかもとはタロウの弁であった、ソフィアとしては特に何をしろとの指示が無い限りは動く気はサラサラなかった、少なくとも今日の食事会に関しては都度口は出しており、特にユスティーナに関しては大事な事でもある為帰りしなに再度確認している、明日の食事会を成功させる為には何よりも大事な点であろう、それくらいしか自分が口出す事は無いし、ミナも居た為サッサと戻って来た次第である、明日も取り合えず普通にしていれば良いであろう、その普通が普通の人から見ると、少々異質なものであってもである、
「そうですか?」
「そうよ、だってね、料理って、ほら、まったく同じ味にすることって出来ないじゃない」
「あっ・・・」
「そうかも・・・」
「ね、家での料理も、何かすんごい偶然ですんごい美味しくなることあるじゃない?で、あれ美味しかったなーって思ってまた作っても、あれ違うなって事が結構あるしね」
「ソフィアさんでもそうなんですか?」
「そりゃそうでしょ、だって、適当よ、味付けなんて、お塩もお酢も適当だしね、お野菜だって同じ味じゃないんだもん、お肉だって、ね、固かったり柔らかかったりで全然味が変わるしね」
「そう・・・ですよねー」
「でもでも、そういう意味じゃないですよー」
「アッハッハ、そうよね、それは分かる、うん、ちょっとだまくらかそうと思った」
「酷いなー」
「あっ、あれはどうですか?カツの黒いソース」
本日の五品目に供されたのは獣肉のカツであった、それ自体は生徒達にとっては見慣れたものであったが、そこに添えられた黒色のソースがこれまた別格であった、軽く舐めてみるとそれぞれに感じる味が違うようで、スッパイと言う者、甘いと言う者、しょっぱいと言う者と意見が別れ、しかし、さらに舐めてみれば先程とはまた違う味が感じられ、確かにスッパイ甘いしょっぱいとカツを横に置いてソースが主役となってしまった、
「あれねー、一回作ったかな?」
ソフィアが遠い目で答える、
「どうでした?やっぱりめんどくさい系ですか?」
「そう・・・ね、あれも確かにめんどくさい系ね、スープ程じゃないけど・・・作るのは大変かな・・・」
「フスターソースでしたっけ?」
「?・・・ウスターじゃない?」
「へっ、ウスター?・・・フスター・・・似てるからいいじゃない」
「適当ねー」
「どっちでもいいですよー」
「良くないよ、ウスター、はい」
「はいって、フ・・・ウスター」
「はい、合格ー」
「うわっ、ムカつくー」
アッハッハと食堂は笑いに包まれた、
「でもあれはほら材料が難しくてね、良く集まったわね」
「あっ、だったらあれです、ハクサイです、ハクサイ」
「あれは私も初めてよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうよー、タロウさんがねあっちこっち行ってたのは食べれるものを探すためだからねー・・・って話したこと無かったっけ?」
「どうだろう?」
「チラっと聞いたような・・・」
「はい、何となく記憶にあります」
「そう?ほらあの人はこの国の出身じゃないからね、どうにもこの国は食べるものの種類が少ないってうるさくてね」
「そう・・・なんですか?」
「そうみたいよ、私もユーリも何をめんどくさい事をって相手にしなかったんだけどね、でも、やっぱりハクサイもそうだし、イワシ?お魚って美味しいわよね」
本日の三品目は北ヘルデルで水揚げされた鰯の塩焼きである、単純に頭と内臓を取り塩焼きにしただけの丸々と太った鰯は、その見た目から歓声が起こる事は無かったが、タロウの勧めで丸かじりにすると、ジワリと滲みだす魚特有のサラリとした油の甘みと香ばしさ、さらに鰯の淡泊ではあるがしっかりとした旨味が口中に広がり絶賛の声が上がった、何より王国人にとって生魚は最高級品である、特に海のそれはまるで縁の無いもので、市場に流通しているのは高額な干し魚が主であり、生魚となると川や湖で採れたそれとなるが、種類は勿論極端に少ない、そしてそれもまた高額である、皆これも言葉も無くむさぼるように食してしまい、タロウはしてやったりと満足そうな笑顔であった、
「あれ美味しかったー」
「うん、海の生魚って初めてかもですよ」
「だよねー」
「魔法で何とかしたってタロウさん言ってたね」
「うん、魔法も勉強しなきゃだよ」
「それは大事だ」
「だよねー」
「そうね、前にね、海でお魚釣った事はあったけど、あれも美味しかったな・・・」
「えっ、そうなんですか?」
「魚釣り?」
「やった事ない?」
「どうだろう、私、魚のいる川は危ないから近づいちゃ駄目って言われてました」
「あっ、うちもー」
「だよねー」
「へへ、楽しいよ魚釣り?」
「そうなんですか?」
「うん、棒の先にね糸を結んで針を付けてー」
ジャネットがニヤニヤと身振り手振りで説明する、
「へー」
「面白そー」
「現地研修でやらないの?」
「あー、やらないですねー、あの湖汚いらしくて、ここの魚は腹をこわすから駄目って言われました」
「あら、そうなんだ・・・」
「みたいですー」
「残念ね、魚釣り楽しいのにね」
「楽しいですよねー」
ニヤニヤと思い出し笑いで優越感に浸るジャネットであった、
「ぶー、いいなー」
「あっ、じゃ、あれはどうですか?鳥肉のテリヤキ?」
四皿目の料理をルルが話題に上げた、鳥肉の照り焼きである、それは豪華ではあるが極めて単純な料理に見えた、しかし、鳥肉を包む甘く濃厚なタレとカリカリとした皮の食感、それらが鳥肉の旨味を数段階高みに押し上げ、今思いだしても唾液が溢れてきてしまう、
「どうですかって言われてもだけど、あれはやろうと思えば出来そうよねー」
うーんとソフィアが首を捻る、
「ソフィアさんでも初めてだったんですか?」
「そうねー、私の田舎だと卵はよく食べるんだけど鳥肉はそれほどでもなくて、食べたとしても山鳥?だから、あんな上質な鳥肉が難しいわよね・・・でも、最近はあれか、良いお肉は貰うものになってるわね、何気に贅沢だわ」
「なるほどー」
「今度あれ作りましょうよ、私手伝います」
「わたしもー」
「屋台でも出せそうだよね」
「あっ、それ思った」
「串焼きでいいんじゃない?」
「あのタレがいいんだよね」
「うん、あ・・・お腹空いてきた・・・」
「食べたばかりでしょ」
「だけどー」
「飴でも舐めてなさいよ」
「・・・そだねー」
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