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本編
70話 公爵様を迎えて その45
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そして、一同が再び若干真面目な話しに移り、それもこんなもんかしらねとパトリシアが満足した頃合いで、
「何やってるのよ」
ソフィアが階段から覗く顔に気付いた、エッと一同の視線が階段へ向かう、すると、キャッと小さな悲鳴が響き、サッと隠れる三つの顔がある、
「もう、なに?準備できたの?」
ソフィアが腰を上げた、すると、ウフフーと押さえた笑い声が小さく響く、
「こら、隠れてないで出てきなさい」
さらにソフィアが一喝した、そして漸く三つ上下に重なった顔がヌルリと階段の手摺の裏から現れた、その身体は欄干から覗いている為、まるで隠れる意味が無い、
「バレタ?」
「バレター」
「ミナが遅いからじゃ」
「ブー、一緒だったー」
「ミナちゃんトロイからー」
「えー、ユラ様が大きいからでしょー」
「そうかなー」
「そうなのー、ユラ様が駄目なのー」
「あー、ミナちゃん酷いー」
「ひどくないー」
「いや、ミナが酷いのじゃ」
「えー、お嬢様はユラ様の味方ー?」
「当然じゃ」
「ブー、意地悪だー」
「何を言う、貴族として当然じゃろ」
「あらー・・・レアンちゃんわかってるー」
「当然ですぞ、まったくミナはわかっとらん」
「ブーブーブー、二人ともヒドイー」
と三つ上下に並んだ顔がキャッキャッと楽しそうで、
「まったく、ウルジュラまでなんですの?」
パトリシアが何をやっているのやらと目を細め、ユスティーナとマルヘリートはいつの間にそんなに仲が良くなったのかと不思議そうに三人を見つめてしまった、先程までは不愉快そうにしていたレアンである、こちらで深刻な協議を続けている間に何かあったのであろうか、
「えっとねー、ほら、ミナちゃん」
「えー、ミナー?」
「そうじゃな、ミナじゃな」
「ブー、ユラ様でいいでしょー」
「んー・・・めんどくさい?」
「ならミナもめんどくさい」
「真似するなー」
「やだー、真似するー」
「もう、こうだ」
「キャー」
っとウルジュラに脇をくすぐられたミナがポンと二階に躍り出た、この期に及んでまだふざけるかとパトリシアはさらに険しい面相となり、ソフィアはこれでは埒が明かないわねと、
「なに?準備できたの?」
と腰に手を当て三人を睨みつける、
「そうなのー、エレイン様がグニュグニュやってピカピカになったー」
「そうなのですよ、母上も来てください、全然違いますぞ」
「ねー、姉様もやろうよー、先にやっちゃうよー」
ニヤニヤと微笑む三人にやれやれと呆れる一同である、
「そうね、では、皆さんも下に行きますか、今は誰がやってるの?」
「えっと、王妃様ー、あとね、お化粧も準備するから来てーってニコが言ってたー」
「ニコ先生でしょ」
「うん、ニコせんせー」
「はいはい、じゃ、段取りはその通りですね」
ソフィアが一応とパトリシアとユスティーナに微笑みかける、最終確認のつもりであった、別に自分が取り持ったわけでは無いが、やはり締めはしっかりしておいた方が良さそうである、子供達に茶化されては有耶無耶にされそうな奇妙な危機感もあった、
「そうね、まぁ・・・今日はこのまま参りましょう、明日はイフナースの屋敷でアフラが待っておりますから、そのように」
パトリシアがニコリと微笑み、ユスティーナは確かにと頷く、
「はい、じゃ、後はピカピカになりましょう」
「そうですわね」
パトリシアがゆっくりと腰を上げ、それをアフラが手助けする、こうして王国史に残るであろう会談が一旦幕を下ろした、パトリシアからの一方的と言える申し入れであったが、ユスティーナもマルヘリートもパトリシアの弁をしっかりと理解し、また、これは良い機会となろうとも考えている、ユスティーナ自身は特に王国に思う所は無く、またカラミッドもまたそれほど王国を敵対視はしていない、数か月前はそうでもなかったのであるが、ソフィアや学園長、ユーリらの影響もあってかだいぶ軟化しているというのが実情ではある、そしてマルヘリートもまたその年齢もあってか柔軟な思考が可能である、レイナウトが対王国として画策してきた様々な密事をマルヘリートには完璧に隠していた事もあるし、また、クンラートとも離れている為、寝物語のように王国に対する恨み言を耳にしてもいない、元王家である公爵として恨むべき相手であると言い聞かされてはいるが、その相手の中心となる人物からこれほどまで真摯に熱っぽく語り掛けられれば心動かされるのは当然であろう、目が眩んだと言えば悪く聞こえるが、やはりパトリシアは生粋の王族である、その哲学には学ぶべき事が多く、それ以上に気高く美しいと感じてしまっていた、妊婦である事もその要因であったかもしれない、年若いマルヘリートがすっかりと心酔してしまったのも無理からぬことである、そして一行がバタバタと楽しそうに階段を駆け下りる三人についていくと、食堂ではエフェリーンとマルルースがまさに脱毛処理の真っ最中で、
「これは気持ち良いですわね」
「本当に・・・ウフフ・・・癖になりそう・・・」
「そうなんですよねー」
とエレインとカトカ、フィロメナ達が甲斐甲斐しく世話をしており、メイド達も忙しくしていた、
「あら・・・どうですのお母さま」
パトリシアがまぁまぁと近づいた、
「いいですわよー」
「ねぇ・・・何て言うか・・・エレインさんのを見た時はどうかなって思いましたけど・・・」
「思った以上に気持ちが良いのよね」
「そうなのよねー」
と二人はまったりと背もたれに身体を預けほぼ同時に目を閉じた、共に両腕から肩、脇の下は勿論の事、胸元から首筋、顔面にも施術している、どうせやるなら一気にやってしまいたいとの意向からそうなっており、メイド達は少しばかり不安気であったが、エレインの施術後の状態を見るに、大丈夫そうかしらと特に口出しする事は無かった、
「あら・・・そんなに?」
パトリシアがエレインを伺う、
「そうなんです、気持ちが良いのですよ、困った事に」
エレインが見事に一皮剥けたばかりの顔を微笑みで染めた、
「まぁ、エレインさんもまるで違うわね」
「フフ、お褒め頂き光栄です、なんでも顔の施術によって化粧の乗りが変わるのだとか、この後の化粧も期待していただいて良いと思います」
「あら・・・もう、随分とあれね、持ち上げるわねー・・・」
パトリシアはムッとエレインを睨みつけ、エレインはオホホと上品に微笑み返す、
「そうだ、確認したかったのですけど」
マルルースがカッと目を見開いて、視線を彷徨わせ、さてミルクでも用意しておこうかと厨房へ入りかけたソフィアを見付け、
「ソフィアさん、お待ちになって」
とその足を止めさせた、
「なんでしょう?」
ソフィアがニコリと振り返ると、
「あのね、流行り病で肌が荒れている友人がおりますの、その方もこれで肌が綺麗になるものかしら」
唐突に深刻な問題が提起された、これには居並ぶ女性達は確かにそういう病が昔流行ったなと首を傾げる者と、そこまでの効能があるのかしらと首を傾げる者に別けられる、そんな中、ライニールはこれはまずいと目を伏せて静かに玄関へ向かった、どうやらここは男性が同室していることは難しい様子で、護衛の任も勿論重要なのであるが、そこは屋敷のメイドに任せるしかないと、メイドに軽く目配せしてそそくさと退室する、
「あー・・・どうでしょう・・・」
ソフィアがウーンと首を捻る、エルフの里で学んだ時にはそこまでの効果は説明されていない、
「それ、大事だわね」
エフェリーンも目を開けた、
「でしょう、とても良い方ですからね、だけど、いつもほらフードを被っているから・・・少しでも良くなればと思うんだけど・・・」
「・・・なるほど、そういう事であれば一度試して頂くしかないかと思います、病そのものは完治されているのですよね」
「それは勿論よ、流行り病ですもの、もう健康と言って差し支えないのだけれど、肌の痕が痛々しく残るのよね、特に酷い方は」
「確かにそんな病がありましたね」
ユーリもうんうんと頷いた、マルルースが対象にしているのは恐らく女性であろうが、ユーリは酷く肌が荒れている男性を知っている、その男性もまた流行り病の影響でそうなったらしく、曰く、一番酷い状態から快癒するとこうなるんだとか、完治してしまえばその肌に痛みも痒みも無いのだそうであるが、赤紫の火傷に似たその痕は酷いの一言以外に無いのである、
「そうなのよ、じゃ、どうしようかしら、今度連れてきたらお願いできるかしら?」
「そう・・・ですね、マルルース様のお願いを断る事は出来ません、それに病の治療となれば得意とする所です、ですが・・・そうですね、診てみないと分からない・・・その点だけは御理解下さい」
ソフィアがニコリと微笑む、
「あら、そうね、確かにそうだわ、ね、伯爵夫人そう思わない?」
マルルースが嬉しそうにユスティーナに問いかける、
「はい、私もそう思います、ソフィアさんなら何とかして頂けます」
ユスティーナは実に嬉しそうにかつ自然に答えてしまった、そして慌てて畏まってしまう、相手は王妃の一人なのである、気軽に声をかけられ、考え無しに答えてしまったがこれで良かったのかなと不安が過ぎる、なんとも自分が平民になってしまった感覚であった、
「ですわよね、じゃ、どうしようかしら、あなた、忘れないでいてね、戻ったら文をしたためます」
マルルースがメイドの一人に視線を投げる、静かに低頭するメイドであった、
「ふぅ、こうなると・・・確か数度やれば毛が生えなくなるのよね」
マルルースがそのままカトカへ問いかける、
「はい、まだ、その具体的な回数は確認しておりません、施術後20日は置くようにとソフィアさんからは聞いております、また個人差もあるとの事ですから」
「そうよね、でも、顔の毛が無くなるのは良いわね、気になってしまっていたものだから」
「そうねー、歳をとるとどうしてもね」
「なのよー、ガラス鏡で見るとね、すごい目立っちゃって、あれね、映り過ぎるのも駄目ね」
「そこがいいんじゃないの、銅鏡では気付かなかった事だわよ」
「まったくだわー、でもね」
と王妃二人は愚痴り始めた、パトリシアはそんな二人をじっくりと観察しつつ腰を下ろす、
「じゃ、どうしようか、マルヘリートさんも来たから、やる?」
ウルジュラがどうやら落ち着いたようだとミナに微笑む、
「やる、お姉さまとお嬢様とレインとユラ様でやるー」
ピョンと飛び跳ねるミナである、
「だよねー、ミナちゃんうるさいんだもん」
「えー、絶対面白いのー、ソフィアもユーリもジャネットもエレイン様も、みんなみんな夢中なのー」
「そうなのー?」
「そうなのー」
「なんじゃ、さっきのなんだ、ノシだかなんだかか?」
レアンもニヤリと参戦した、
「うん、すぐ終わるからー、やろー」
ミナがウルジュラとレアンの手を強引に引っ張り、
「しょうがないなー」
「うむ、ミナの言う事には逆らえないからなー」
ウルジュラとレアンは余裕の笑みを浮かべた、
「でしょー、お姉さまもーレインも来てー」
グイグイとミナは二人の手を引き寝台に向かい、マルヘリートは今度はなんなのかしらと首を傾げる、何とも先程迄の緊張感からの落差が酷い、ウルジュラも学園で席を並べた時に感じた、正に王女様といった気品と独特の圧からくるとっつきにくさがまるで無く、とても年上には見えない程に子供っぽい、本当に同一人物なのかと疑わしさすら感じる、そして、
「負けても泣くでないぞー」
とレインは脱毛処理の薬液をサビナに任せると、こちらもやる気満々の様子である、マルヘリートはレインちゃんまでと意外そうに首を傾げた、いつもはツンとしてあらゆる事に興味の無さそうなレインである、こちらも今日は別人のようにすら感じる、どうやら少しばかり混乱が尾を引いているらしい、マルヘリートはまぁいいかと数度呼吸を深くした、今日のこれからも明日も忙しい、この程度で思考を無くしていては公爵令嬢の名が廃る、
「泣かないー、ミナ強いんだからー、勝ったでしょー」
「一回だけな」
「一回でもレインに勝ったー」
「そうなの?」
「そうなのー、ミナ強いのよー」
「どうかのう?」
とどうやら子供は子供で遊ぶ雰囲気になったらしい、ユーリはまぁそれはそれで邪魔が無くていいかなと鼻で笑い、ソフィアはさて、やっぱりミルクよねと厨房に入る、
「さっ、伯爵夫人、次は私達の番ですわよ」
パトリシアが優雅に微笑みかけ、ユスティーナはそうですねと笑顔で答えるのであった。
「何やってるのよ」
ソフィアが階段から覗く顔に気付いた、エッと一同の視線が階段へ向かう、すると、キャッと小さな悲鳴が響き、サッと隠れる三つの顔がある、
「もう、なに?準備できたの?」
ソフィアが腰を上げた、すると、ウフフーと押さえた笑い声が小さく響く、
「こら、隠れてないで出てきなさい」
さらにソフィアが一喝した、そして漸く三つ上下に重なった顔がヌルリと階段の手摺の裏から現れた、その身体は欄干から覗いている為、まるで隠れる意味が無い、
「バレタ?」
「バレター」
「ミナが遅いからじゃ」
「ブー、一緒だったー」
「ミナちゃんトロイからー」
「えー、ユラ様が大きいからでしょー」
「そうかなー」
「そうなのー、ユラ様が駄目なのー」
「あー、ミナちゃん酷いー」
「ひどくないー」
「いや、ミナが酷いのじゃ」
「えー、お嬢様はユラ様の味方ー?」
「当然じゃ」
「ブー、意地悪だー」
「何を言う、貴族として当然じゃろ」
「あらー・・・レアンちゃんわかってるー」
「当然ですぞ、まったくミナはわかっとらん」
「ブーブーブー、二人ともヒドイー」
と三つ上下に並んだ顔がキャッキャッと楽しそうで、
「まったく、ウルジュラまでなんですの?」
パトリシアが何をやっているのやらと目を細め、ユスティーナとマルヘリートはいつの間にそんなに仲が良くなったのかと不思議そうに三人を見つめてしまった、先程までは不愉快そうにしていたレアンである、こちらで深刻な協議を続けている間に何かあったのであろうか、
「えっとねー、ほら、ミナちゃん」
「えー、ミナー?」
「そうじゃな、ミナじゃな」
「ブー、ユラ様でいいでしょー」
「んー・・・めんどくさい?」
「ならミナもめんどくさい」
「真似するなー」
「やだー、真似するー」
「もう、こうだ」
「キャー」
っとウルジュラに脇をくすぐられたミナがポンと二階に躍り出た、この期に及んでまだふざけるかとパトリシアはさらに険しい面相となり、ソフィアはこれでは埒が明かないわねと、
「なに?準備できたの?」
と腰に手を当て三人を睨みつける、
「そうなのー、エレイン様がグニュグニュやってピカピカになったー」
「そうなのですよ、母上も来てください、全然違いますぞ」
「ねー、姉様もやろうよー、先にやっちゃうよー」
ニヤニヤと微笑む三人にやれやれと呆れる一同である、
「そうね、では、皆さんも下に行きますか、今は誰がやってるの?」
「えっと、王妃様ー、あとね、お化粧も準備するから来てーってニコが言ってたー」
「ニコ先生でしょ」
「うん、ニコせんせー」
「はいはい、じゃ、段取りはその通りですね」
ソフィアが一応とパトリシアとユスティーナに微笑みかける、最終確認のつもりであった、別に自分が取り持ったわけでは無いが、やはり締めはしっかりしておいた方が良さそうである、子供達に茶化されては有耶無耶にされそうな奇妙な危機感もあった、
「そうね、まぁ・・・今日はこのまま参りましょう、明日はイフナースの屋敷でアフラが待っておりますから、そのように」
パトリシアがニコリと微笑み、ユスティーナは確かにと頷く、
「はい、じゃ、後はピカピカになりましょう」
「そうですわね」
パトリシアがゆっくりと腰を上げ、それをアフラが手助けする、こうして王国史に残るであろう会談が一旦幕を下ろした、パトリシアからの一方的と言える申し入れであったが、ユスティーナもマルヘリートもパトリシアの弁をしっかりと理解し、また、これは良い機会となろうとも考えている、ユスティーナ自身は特に王国に思う所は無く、またカラミッドもまたそれほど王国を敵対視はしていない、数か月前はそうでもなかったのであるが、ソフィアや学園長、ユーリらの影響もあってかだいぶ軟化しているというのが実情ではある、そしてマルヘリートもまたその年齢もあってか柔軟な思考が可能である、レイナウトが対王国として画策してきた様々な密事をマルヘリートには完璧に隠していた事もあるし、また、クンラートとも離れている為、寝物語のように王国に対する恨み言を耳にしてもいない、元王家である公爵として恨むべき相手であると言い聞かされてはいるが、その相手の中心となる人物からこれほどまで真摯に熱っぽく語り掛けられれば心動かされるのは当然であろう、目が眩んだと言えば悪く聞こえるが、やはりパトリシアは生粋の王族である、その哲学には学ぶべき事が多く、それ以上に気高く美しいと感じてしまっていた、妊婦である事もその要因であったかもしれない、年若いマルヘリートがすっかりと心酔してしまったのも無理からぬことである、そして一行がバタバタと楽しそうに階段を駆け下りる三人についていくと、食堂ではエフェリーンとマルルースがまさに脱毛処理の真っ最中で、
「これは気持ち良いですわね」
「本当に・・・ウフフ・・・癖になりそう・・・」
「そうなんですよねー」
とエレインとカトカ、フィロメナ達が甲斐甲斐しく世話をしており、メイド達も忙しくしていた、
「あら・・・どうですのお母さま」
パトリシアがまぁまぁと近づいた、
「いいですわよー」
「ねぇ・・・何て言うか・・・エレインさんのを見た時はどうかなって思いましたけど・・・」
「思った以上に気持ちが良いのよね」
「そうなのよねー」
と二人はまったりと背もたれに身体を預けほぼ同時に目を閉じた、共に両腕から肩、脇の下は勿論の事、胸元から首筋、顔面にも施術している、どうせやるなら一気にやってしまいたいとの意向からそうなっており、メイド達は少しばかり不安気であったが、エレインの施術後の状態を見るに、大丈夫そうかしらと特に口出しする事は無かった、
「あら・・・そんなに?」
パトリシアがエレインを伺う、
「そうなんです、気持ちが良いのですよ、困った事に」
エレインが見事に一皮剥けたばかりの顔を微笑みで染めた、
「まぁ、エレインさんもまるで違うわね」
「フフ、お褒め頂き光栄です、なんでも顔の施術によって化粧の乗りが変わるのだとか、この後の化粧も期待していただいて良いと思います」
「あら・・・もう、随分とあれね、持ち上げるわねー・・・」
パトリシアはムッとエレインを睨みつけ、エレインはオホホと上品に微笑み返す、
「そうだ、確認したかったのですけど」
マルルースがカッと目を見開いて、視線を彷徨わせ、さてミルクでも用意しておこうかと厨房へ入りかけたソフィアを見付け、
「ソフィアさん、お待ちになって」
とその足を止めさせた、
「なんでしょう?」
ソフィアがニコリと振り返ると、
「あのね、流行り病で肌が荒れている友人がおりますの、その方もこれで肌が綺麗になるものかしら」
唐突に深刻な問題が提起された、これには居並ぶ女性達は確かにそういう病が昔流行ったなと首を傾げる者と、そこまでの効能があるのかしらと首を傾げる者に別けられる、そんな中、ライニールはこれはまずいと目を伏せて静かに玄関へ向かった、どうやらここは男性が同室していることは難しい様子で、護衛の任も勿論重要なのであるが、そこは屋敷のメイドに任せるしかないと、メイドに軽く目配せしてそそくさと退室する、
「あー・・・どうでしょう・・・」
ソフィアがウーンと首を捻る、エルフの里で学んだ時にはそこまでの効果は説明されていない、
「それ、大事だわね」
エフェリーンも目を開けた、
「でしょう、とても良い方ですからね、だけど、いつもほらフードを被っているから・・・少しでも良くなればと思うんだけど・・・」
「・・・なるほど、そういう事であれば一度試して頂くしかないかと思います、病そのものは完治されているのですよね」
「それは勿論よ、流行り病ですもの、もう健康と言って差し支えないのだけれど、肌の痕が痛々しく残るのよね、特に酷い方は」
「確かにそんな病がありましたね」
ユーリもうんうんと頷いた、マルルースが対象にしているのは恐らく女性であろうが、ユーリは酷く肌が荒れている男性を知っている、その男性もまた流行り病の影響でそうなったらしく、曰く、一番酷い状態から快癒するとこうなるんだとか、完治してしまえばその肌に痛みも痒みも無いのだそうであるが、赤紫の火傷に似たその痕は酷いの一言以外に無いのである、
「そうなのよ、じゃ、どうしようかしら、今度連れてきたらお願いできるかしら?」
「そう・・・ですね、マルルース様のお願いを断る事は出来ません、それに病の治療となれば得意とする所です、ですが・・・そうですね、診てみないと分からない・・・その点だけは御理解下さい」
ソフィアがニコリと微笑む、
「あら、そうね、確かにそうだわ、ね、伯爵夫人そう思わない?」
マルルースが嬉しそうにユスティーナに問いかける、
「はい、私もそう思います、ソフィアさんなら何とかして頂けます」
ユスティーナは実に嬉しそうにかつ自然に答えてしまった、そして慌てて畏まってしまう、相手は王妃の一人なのである、気軽に声をかけられ、考え無しに答えてしまったがこれで良かったのかなと不安が過ぎる、なんとも自分が平民になってしまった感覚であった、
「ですわよね、じゃ、どうしようかしら、あなた、忘れないでいてね、戻ったら文をしたためます」
マルルースがメイドの一人に視線を投げる、静かに低頭するメイドであった、
「ふぅ、こうなると・・・確か数度やれば毛が生えなくなるのよね」
マルルースがそのままカトカへ問いかける、
「はい、まだ、その具体的な回数は確認しておりません、施術後20日は置くようにとソフィアさんからは聞いております、また個人差もあるとの事ですから」
「そうよね、でも、顔の毛が無くなるのは良いわね、気になってしまっていたものだから」
「そうねー、歳をとるとどうしてもね」
「なのよー、ガラス鏡で見るとね、すごい目立っちゃって、あれね、映り過ぎるのも駄目ね」
「そこがいいんじゃないの、銅鏡では気付かなかった事だわよ」
「まったくだわー、でもね」
と王妃二人は愚痴り始めた、パトリシアはそんな二人をじっくりと観察しつつ腰を下ろす、
「じゃ、どうしようか、マルヘリートさんも来たから、やる?」
ウルジュラがどうやら落ち着いたようだとミナに微笑む、
「やる、お姉さまとお嬢様とレインとユラ様でやるー」
ピョンと飛び跳ねるミナである、
「だよねー、ミナちゃんうるさいんだもん」
「えー、絶対面白いのー、ソフィアもユーリもジャネットもエレイン様も、みんなみんな夢中なのー」
「そうなのー?」
「そうなのー」
「なんじゃ、さっきのなんだ、ノシだかなんだかか?」
レアンもニヤリと参戦した、
「うん、すぐ終わるからー、やろー」
ミナがウルジュラとレアンの手を強引に引っ張り、
「しょうがないなー」
「うむ、ミナの言う事には逆らえないからなー」
ウルジュラとレアンは余裕の笑みを浮かべた、
「でしょー、お姉さまもーレインも来てー」
グイグイとミナは二人の手を引き寝台に向かい、マルヘリートは今度はなんなのかしらと首を傾げる、何とも先程迄の緊張感からの落差が酷い、ウルジュラも学園で席を並べた時に感じた、正に王女様といった気品と独特の圧からくるとっつきにくさがまるで無く、とても年上には見えない程に子供っぽい、本当に同一人物なのかと疑わしさすら感じる、そして、
「負けても泣くでないぞー」
とレインは脱毛処理の薬液をサビナに任せると、こちらもやる気満々の様子である、マルヘリートはレインちゃんまでと意外そうに首を傾げた、いつもはツンとしてあらゆる事に興味の無さそうなレインである、こちらも今日は別人のようにすら感じる、どうやら少しばかり混乱が尾を引いているらしい、マルヘリートはまぁいいかと数度呼吸を深くした、今日のこれからも明日も忙しい、この程度で思考を無くしていては公爵令嬢の名が廃る、
「泣かないー、ミナ強いんだからー、勝ったでしょー」
「一回だけな」
「一回でもレインに勝ったー」
「そうなの?」
「そうなのー、ミナ強いのよー」
「どうかのう?」
とどうやら子供は子供で遊ぶ雰囲気になったらしい、ユーリはまぁそれはそれで邪魔が無くていいかなと鼻で笑い、ソフィアはさて、やっぱりミルクよねと厨房に入る、
「さっ、伯爵夫人、次は私達の番ですわよ」
パトリシアが優雅に微笑みかけ、ユスティーナはそうですねと笑顔で答えるのであった。
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石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
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ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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