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本編
74話 東雲の医療魔法 その37
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それからソフィアとタロウはバタバタと二階の準備に取り掛かり、ティルはそうは言ってもと一度厨房に入って食材を確認し、足りなさそうなものを取ってきますとイフナースの屋敷に戻った、ミーンはソフィアとタロウの作業を手伝う、而して準備はあっという間に整い、こんなもんかとタロウが白いシーツに覆われた室内を見渡すと、
「あー、タロー、いたー」
「ホントだー、なにやってるのー」
ミナとブロースがヒョコッと顔を出す、
「おう、どした?」
「あら、一休み?」
同時に振り向くタロウとソフィア、
「うん、一休みー」
「キュウケーチュー」
「そっか、あっ、だいぶ上手くなったなー、良い声だったぞー」
とタロウが柔らかく微笑む、タロウが二階でこれでもかと伸びている間、食堂から響く歌声に癒されてもいたのである、ソフィアが上がってくるまで、子供はいいよなー、でも、この世界の子供は過酷なんだよなー、そういうもんなんだよなー等とグズグズと考えていたりした、所謂所の現実逃避である、
「ホントー?」
「ホント」
「俺はー?」
「んー、ブロース君も上手だと思うぞー」
「ホントにー?」
「ホントに」
「えへへー、ヘラルダ先生厳しいんだもん、声出さないとすぐ怒るんだよー」
「あー、それは君が駄目だな、歌う時は歌う、遊ぶときは遊ぶだ、何でも真面目にやれなきゃダメだ、嫌な事でもな、真面目に一生懸命やる・・・うん、大事だぞ」
ムフンと胸を張るタロウに、さっきまでグダグダ言っていた男が何を言い出すとソフィアが一睨みし、ミーンは良い事言うなーと素直に感心してしまう、
「わかったー、頑張るー」
満面の笑顔で素直に受け取るブロース、
「それでいい、じゃ、どうしようか、集まるまで下で休むか、せめてケイスさんが来ないとどうしようもないし・・・」
タロウがソフィアとミーンに向き直るも、
「肉捌かないとでしょ」
ソフィアが間髪入れずに答え、それもそうだったと部屋の隅にドカリと置かれた肉塊を見下ろすタロウ、
「むー、肉?」
ミナがグッと首を伸ばし、ブロースもニクー?と上半身を伸ばした、
「おう肉だ、あっ、ブロース君も持って帰れ、フィロメナさんの所にも分けようか、それでも使い切れないか・・・」
「そうね、こんだけあれば余っちゃいそうね、流石のうちの娘達でも食べ切れなさそうねー」
「ですねー・・・って、別に今日中に食べ切る必要は無いかと思いますけど・・・」
ミーンの冷静かつ的確な意見にそれもそうだと頷くタロウとソフィア、肉だ肉だとピョンピョン跳ねるミナとブロース、
「まぁいいや、じゃ、どうしようかな・・・オリーブオイルに漬けて・・・うん、そうしよう、あれなら後は焼くだけだしね・・・うん」
とタロウは肉塊を手にすると一同はギャーギャー喚きながら食堂へ入る、食堂ではヘラルダがマリンバを女児達に教えている真っ最中で、レインはなんと太鼓を叩いている、すぐ隣のサスキアも真似している様で、タロウはレインは何でも出来るんだなー・・・それもそうかと瞬時に納得してしまう、そしてヘラルダがあっ、お疲れ様ですとタロウに向けて頭を下げ、お疲れ様ーとタロウは微笑む、エルマもニコリと微笑み軽い会釈で挨拶に変えた、すると、
「あっ、思い出した」
ミナがバッとタロウを見上げる、
「なんだ?」
「はるー、はるの歌ー、はるのお歌教えてー」
ガッとタロウの足にしがみ付くミナ、
「ハルノウタ?」
タロウはキョトンと首を傾げる、
「あれー、ハールヨコイ?でいいの?春の歌ー」
「あー、あれか、なんだミナよく覚えてたなー」
「覚えてたー、教えてー、どんなのー、教えてー」
「そっかー、じゃ、どうしようかな?」
と手にした肉塊を見つめるタロウ、ソフィアがもうと手を伸ばし、
「先にそっちやりなさい、こっちはやっておくから」
と優しく微笑む、
「そっか、すまんね、じゃ、春の歌な、先生、新しい歌あるんだけどいいかな?」
一応と確認するタロウ、無論ヘラルダが拒否する事など無く、
「新しい歌ー?」
「どんなのー」
「どんなのかなー」
と子供達と一緒にキャッキャッとはしゃぎだす、
「よし、じゃ、木簡でいいか」
タロウは懐から木簡と石墨を取り出し、子供達の側の席に腰を下ろした、新しい歌ーと叫びながら子供達が集まり、ヘラルダもエルマも興味津々と子供達の上から覗き込む、
「これも短い歌なんだけどね・・・」
タロウは右目を閉じて、ウンウンと確認しつつ石墨を走らせる、最初は楽譜、次に歌詞を別々の木簡に書き付け、
「はい、先生、これ弾いてみて、君らはこっち、読めるか?」
「ありがとうございます」
ヘラルダが笑顔で受け取り、
「やったー、春の歌ー」
ミナが両手で木簡を天に掲げた、どんなのーと子供達が喚きだす、
「えっとね・・・はるよこい、はやくこい」
しかしミナが訥々と読み上げるもそれにはメロディーが乗ってない、そりゃそうなるなとタロウは苦笑し、
「はーるよこい・・・はーやくこい・・・って感じだ」
「うん、えっと、はーるよこい、はーやくこい?」
「そうだ、あーるきはじめたみいちゃんがー」
タロウがゆっくりと歌い、子供達はキラキラと輝く瞳でタロウを見つめる、ヘラルダもなるほどと楽譜を見ながら旋律を確認しているようで、そうして歌い終わると、
「かわいいー、かわいいーお歌ー」
「だねー、ノール好きー」
「ノーラもー、気に入ったー」
「みいちゃんってだれー」
「だれだろー」
小さな木簡を頭を押し付け合って覗き込む子供達、
「それもそうだなー、だれだろなー」
タロウは思わず微笑んでしまう、確かに誰なんだろうかと思い、恐らく作曲者の娘かなにかかなと思いつつ、
「あれだな、どうせだから、全員分作ってみるか?」
と微笑んだ、
「全員分?」
不思議そうにタロウを見上げる子供達、一斉に顔を上げるものだから、可愛いよりも怖いと感じる程で、タロウはおいおいと微笑みながら、
「おう、全員分だ、えっとそうだな、ミナは・・・」
と新しい木簡を取り出すと、
「・・・うん、元気でおしゃまなミナちゃんがー・・・かな?」
と歌いながら書き付ける、
「ミナ?それミナ?」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「おう、ミナだ、いつも元気だろ?」
「うん、元気ー、ミナー、ミナの歌ー」
「だなー、春の歌だけど、ミナの歌だ」
「おしゃまってなにー」
「あー・・・あれだ・・・うん、小生意気で可愛いって意味だ・・・」
エーッとミナが叫ぶ、その通りだわねと微笑むエルマとヘラルダ、
「うー、でもいいー、ミナの歌ー、元気でおしゃまー」
「ん、じゃ次だ、ノールちゃんか、ノールちゃんはどだろ」
タロウはノールを見つめると、
「私ノーラ」
ノールだと思ったらノーラだったらしい、タロウはアッゴメンと大声を上げて慌てるも、
「ウソー、ノールでしょー、私がノーラ」
「えー、今日は違うー」
「違わないー、アンタはノール、私がノーラ」
「ブー、今日は違うでしょー、約束でしょー」
「違わないー」
と双子ならではの喧嘩を始める始末である、コラコラと大人達は困惑する他なく、
「わかった、じゃ、取り敢えずノールちゃんな、好きなものなんだ?」
「好きなものー?」
今度は素直に返すノール、
「おう、なんかあるか?」
「えっと・・・シャボン玉ー、シャボン玉好きー」
「そっか、シャボン玉か・・・収まるか?」
タロウはウーンと首を傾げつつ、どうやっても収まらないと確信し、
「あー・・・明るい笑顔のノールちゃんー・・・で駄目かな?」
「・・・ノール明るい?笑ってる?」
「おう、かわいいぞ、とってもいい笑顔だ」
「えへへー、うれしいー」
ピョンと飛び跳ねるノール、
「じゃ、ノールちゃんはこれな、ノーラちゃんはどうしようか」
「ノーラもシャボン玉好きー」
「そっか、でもそれが難しくてなー・・・いたずら大好きノーラちゃん・・・はどだ?」
「いたずらも好きー」
「うん、ノールも好きー」
「だなー、フフッ、じゃ、決まりだ、いたずら大好きノーラちゃん」
「やったー、ノールの歌ー」
「ノーラの歌ー」
「よし決まりだ、次がサスキアちゃんかな・・・サスキアちゃんは・・・静かでかしこいサスキアがー・・・で、どだ?」
ノールとノーラの間からヒョッコリと顔を出すサスキア、ジーッとタロウを見つめ、大きく笑顔で頷いた、
「おっ、いいか?」
うんうんと何度も大きく頷くサスキアである、
「そっか、じゃ、次がフロールちゃんだけど・・・」
「私もー?いいのー?」
遠慮がちなフロールである、ブロースが早くしろー次は俺だーと叫びだし、コラッとヘラルダとエルマに怒られブーっと膨れてしまう、
「アッハッハ、いいぞー、次はブロース君だ、ちょっと待ってなー」
タロウは軽く笑い飛ばすと、ブロースはエヘヘーとすぐに笑みを浮かべ、もうと顔を顰めるフロール、
「で、フロールちゃんは・・・しっかりさーんのフロールちゃん・・・うん、合うかな、どうかな?」
「しっかりさーん?」
「しっかりさんね」
「確かにしっかり者だわね」
どうやらフロールはピンとこなかったらしい、すぐにヘラルダとエルマが助け舟をだし、アーッと理解するフロール、
「フフッ、いいだろ?」
「うん、しっかりするー、お姉さんだからー」
「おう、その意気だ、じゃ、ブロース君だなー」
「俺ー、俺はー」
「あー・・・どうしようかな・・・何気に難しいぞ・・・」
と手が止まってしまうタロウであった、女性を褒めるのは何気に得意なのであるが、男性を褒めるというのは難しい、第一まず褒めない、それが男児であってもであり、さらに唯一の男児という事もあり、上にも下にも置けない難しさがあった、
「んー・・・カミトリ大好きブロース君・・・かな・・・」
取り合えず状況をそのまま落とし込んでみた、どんなもんかなとブロースを伺うと、
「うん、好きー、カミトリ好きー」
目を輝かせるブロースに、ホッと安堵するタロウ、確かになーと微笑むエルマ、実際今日も寮に来るなり飛ばし始め、フロールと共に叱りつけていたりする、
「そっか、じゃ、取り合えずこれで・・・」
とタロウはさて他にはと思い、レインを視界に捉えるが、レインは興味無さそうに太鼓をポンポン叩いており、一応作るべきかと思うも、レインその人を題材にした詩も曲も歌も実は大量にあったりする、それは学園祭での神殿の掲示物で確認しており、まぁ、そりゃそうだろうなとも思ったもので、ここで下手に触れるよりも知らないフリをした方が得策のようであった、タロウが見るにどうにもレインはそういう扱いをされる事を嫌っている感がある、若しくは単純に神々を嫌っているのかもしれなかった、その真意をタロウは問い質した事も無く、まぁ神様も色々あるんだろうと大人らしい解釈で徒に触れる事はしていない、
「ほれ、まずは元の歌を歌ってみろ、それから自分の歌な、基本が大事だ」
タロウはまぁいいかと手にした木簡をブロースに預ける、わかったーと大声で飛び跳ねるブロース、
「どう、先生、曲は弾ける?」
「はい、じゃ、まずはやってみますね」
ヘラルダがニコリと微笑み早速とマレットを構える、ワッと子供達がヘラルダに向かい、ヘラルダはフンフンと歌詞を口ずさみながら調子を合わせているようで、ゆっくりとしかし確実に新たな旋律が食堂に溢れた、
「良い曲ですね・・・」
エルマがポツリと呟く、
「そだねー、ほら、春を待つ歌だからね、暖かくなるようにって感じかな・・・」
「なるほど・・・フフッ、でもいいんですか?歌詞を変えても」
「ん?良いと思うよ、俺も子供の頃はね、歌詞を変えて適当なさ・・・うん、下品な言葉に変えて歌ったもんだ大声で、よく怒られたよ」
アッハッハと笑うタロウ、
「へー・・・下品な言葉は駄目ですけど、それはそれでなんか・・・良いですね」
「だね、まぁ、曲に合わせるのが少し難しいんだけど、でも、そうやってね、曲に合わせて歌詞を作るってのも大事な創造性だと思うよ」
「創造性ですか」
「そっ、創造性・・・言われた通り、あるがままってのも・・・大事なんだけど、それだけだとね、面白くないからね、何より自分で作るっていう気概が大事だし・・・工夫も楽しいし、発想もね、育まれる、ような、気がする、まぁ、こんな替え歌程度でね、創造性ってのもちょっと大げさだけどさ」
「カエウタ・・・あー・・・替える歌ですか、歌を変える、へー、そんな言葉まであるんですね」
「そだね、それだけ身近にある遊びってことだね」
「なるほど、わかりました」
ニコリと微笑むエルマ、タロウもニコリと優しく微笑む、曲が丁度終わったようで、
「うん、理解しました、じゃ、みんな、歌ってみるよー」
ヘラルダが子供達を見渡し、ハーイと叫ぶ子供達、そうして春を望む優しく温かい歌が食堂に響き渡るのであった。
「あー、タロー、いたー」
「ホントだー、なにやってるのー」
ミナとブロースがヒョコッと顔を出す、
「おう、どした?」
「あら、一休み?」
同時に振り向くタロウとソフィア、
「うん、一休みー」
「キュウケーチュー」
「そっか、あっ、だいぶ上手くなったなー、良い声だったぞー」
とタロウが柔らかく微笑む、タロウが二階でこれでもかと伸びている間、食堂から響く歌声に癒されてもいたのである、ソフィアが上がってくるまで、子供はいいよなー、でも、この世界の子供は過酷なんだよなー、そういうもんなんだよなー等とグズグズと考えていたりした、所謂所の現実逃避である、
「ホントー?」
「ホント」
「俺はー?」
「んー、ブロース君も上手だと思うぞー」
「ホントにー?」
「ホントに」
「えへへー、ヘラルダ先生厳しいんだもん、声出さないとすぐ怒るんだよー」
「あー、それは君が駄目だな、歌う時は歌う、遊ぶときは遊ぶだ、何でも真面目にやれなきゃダメだ、嫌な事でもな、真面目に一生懸命やる・・・うん、大事だぞ」
ムフンと胸を張るタロウに、さっきまでグダグダ言っていた男が何を言い出すとソフィアが一睨みし、ミーンは良い事言うなーと素直に感心してしまう、
「わかったー、頑張るー」
満面の笑顔で素直に受け取るブロース、
「それでいい、じゃ、どうしようか、集まるまで下で休むか、せめてケイスさんが来ないとどうしようもないし・・・」
タロウがソフィアとミーンに向き直るも、
「肉捌かないとでしょ」
ソフィアが間髪入れずに答え、それもそうだったと部屋の隅にドカリと置かれた肉塊を見下ろすタロウ、
「むー、肉?」
ミナがグッと首を伸ばし、ブロースもニクー?と上半身を伸ばした、
「おう肉だ、あっ、ブロース君も持って帰れ、フィロメナさんの所にも分けようか、それでも使い切れないか・・・」
「そうね、こんだけあれば余っちゃいそうね、流石のうちの娘達でも食べ切れなさそうねー」
「ですねー・・・って、別に今日中に食べ切る必要は無いかと思いますけど・・・」
ミーンの冷静かつ的確な意見にそれもそうだと頷くタロウとソフィア、肉だ肉だとピョンピョン跳ねるミナとブロース、
「まぁいいや、じゃ、どうしようかな・・・オリーブオイルに漬けて・・・うん、そうしよう、あれなら後は焼くだけだしね・・・うん」
とタロウは肉塊を手にすると一同はギャーギャー喚きながら食堂へ入る、食堂ではヘラルダがマリンバを女児達に教えている真っ最中で、レインはなんと太鼓を叩いている、すぐ隣のサスキアも真似している様で、タロウはレインは何でも出来るんだなー・・・それもそうかと瞬時に納得してしまう、そしてヘラルダがあっ、お疲れ様ですとタロウに向けて頭を下げ、お疲れ様ーとタロウは微笑む、エルマもニコリと微笑み軽い会釈で挨拶に変えた、すると、
「あっ、思い出した」
ミナがバッとタロウを見上げる、
「なんだ?」
「はるー、はるの歌ー、はるのお歌教えてー」
ガッとタロウの足にしがみ付くミナ、
「ハルノウタ?」
タロウはキョトンと首を傾げる、
「あれー、ハールヨコイ?でいいの?春の歌ー」
「あー、あれか、なんだミナよく覚えてたなー」
「覚えてたー、教えてー、どんなのー、教えてー」
「そっかー、じゃ、どうしようかな?」
と手にした肉塊を見つめるタロウ、ソフィアがもうと手を伸ばし、
「先にそっちやりなさい、こっちはやっておくから」
と優しく微笑む、
「そっか、すまんね、じゃ、春の歌な、先生、新しい歌あるんだけどいいかな?」
一応と確認するタロウ、無論ヘラルダが拒否する事など無く、
「新しい歌ー?」
「どんなのー」
「どんなのかなー」
と子供達と一緒にキャッキャッとはしゃぎだす、
「よし、じゃ、木簡でいいか」
タロウは懐から木簡と石墨を取り出し、子供達の側の席に腰を下ろした、新しい歌ーと叫びながら子供達が集まり、ヘラルダもエルマも興味津々と子供達の上から覗き込む、
「これも短い歌なんだけどね・・・」
タロウは右目を閉じて、ウンウンと確認しつつ石墨を走らせる、最初は楽譜、次に歌詞を別々の木簡に書き付け、
「はい、先生、これ弾いてみて、君らはこっち、読めるか?」
「ありがとうございます」
ヘラルダが笑顔で受け取り、
「やったー、春の歌ー」
ミナが両手で木簡を天に掲げた、どんなのーと子供達が喚きだす、
「えっとね・・・はるよこい、はやくこい」
しかしミナが訥々と読み上げるもそれにはメロディーが乗ってない、そりゃそうなるなとタロウは苦笑し、
「はーるよこい・・・はーやくこい・・・って感じだ」
「うん、えっと、はーるよこい、はーやくこい?」
「そうだ、あーるきはじめたみいちゃんがー」
タロウがゆっくりと歌い、子供達はキラキラと輝く瞳でタロウを見つめる、ヘラルダもなるほどと楽譜を見ながら旋律を確認しているようで、そうして歌い終わると、
「かわいいー、かわいいーお歌ー」
「だねー、ノール好きー」
「ノーラもー、気に入ったー」
「みいちゃんってだれー」
「だれだろー」
小さな木簡を頭を押し付け合って覗き込む子供達、
「それもそうだなー、だれだろなー」
タロウは思わず微笑んでしまう、確かに誰なんだろうかと思い、恐らく作曲者の娘かなにかかなと思いつつ、
「あれだな、どうせだから、全員分作ってみるか?」
と微笑んだ、
「全員分?」
不思議そうにタロウを見上げる子供達、一斉に顔を上げるものだから、可愛いよりも怖いと感じる程で、タロウはおいおいと微笑みながら、
「おう、全員分だ、えっとそうだな、ミナは・・・」
と新しい木簡を取り出すと、
「・・・うん、元気でおしゃまなミナちゃんがー・・・かな?」
と歌いながら書き付ける、
「ミナ?それミナ?」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「おう、ミナだ、いつも元気だろ?」
「うん、元気ー、ミナー、ミナの歌ー」
「だなー、春の歌だけど、ミナの歌だ」
「おしゃまってなにー」
「あー・・・あれだ・・・うん、小生意気で可愛いって意味だ・・・」
エーッとミナが叫ぶ、その通りだわねと微笑むエルマとヘラルダ、
「うー、でもいいー、ミナの歌ー、元気でおしゃまー」
「ん、じゃ次だ、ノールちゃんか、ノールちゃんはどだろ」
タロウはノールを見つめると、
「私ノーラ」
ノールだと思ったらノーラだったらしい、タロウはアッゴメンと大声を上げて慌てるも、
「ウソー、ノールでしょー、私がノーラ」
「えー、今日は違うー」
「違わないー、アンタはノール、私がノーラ」
「ブー、今日は違うでしょー、約束でしょー」
「違わないー」
と双子ならではの喧嘩を始める始末である、コラコラと大人達は困惑する他なく、
「わかった、じゃ、取り敢えずノールちゃんな、好きなものなんだ?」
「好きなものー?」
今度は素直に返すノール、
「おう、なんかあるか?」
「えっと・・・シャボン玉ー、シャボン玉好きー」
「そっか、シャボン玉か・・・収まるか?」
タロウはウーンと首を傾げつつ、どうやっても収まらないと確信し、
「あー・・・明るい笑顔のノールちゃんー・・・で駄目かな?」
「・・・ノール明るい?笑ってる?」
「おう、かわいいぞ、とってもいい笑顔だ」
「えへへー、うれしいー」
ピョンと飛び跳ねるノール、
「じゃ、ノールちゃんはこれな、ノーラちゃんはどうしようか」
「ノーラもシャボン玉好きー」
「そっか、でもそれが難しくてなー・・・いたずら大好きノーラちゃん・・・はどだ?」
「いたずらも好きー」
「うん、ノールも好きー」
「だなー、フフッ、じゃ、決まりだ、いたずら大好きノーラちゃん」
「やったー、ノールの歌ー」
「ノーラの歌ー」
「よし決まりだ、次がサスキアちゃんかな・・・サスキアちゃんは・・・静かでかしこいサスキアがー・・・で、どだ?」
ノールとノーラの間からヒョッコリと顔を出すサスキア、ジーッとタロウを見つめ、大きく笑顔で頷いた、
「おっ、いいか?」
うんうんと何度も大きく頷くサスキアである、
「そっか、じゃ、次がフロールちゃんだけど・・・」
「私もー?いいのー?」
遠慮がちなフロールである、ブロースが早くしろー次は俺だーと叫びだし、コラッとヘラルダとエルマに怒られブーっと膨れてしまう、
「アッハッハ、いいぞー、次はブロース君だ、ちょっと待ってなー」
タロウは軽く笑い飛ばすと、ブロースはエヘヘーとすぐに笑みを浮かべ、もうと顔を顰めるフロール、
「で、フロールちゃんは・・・しっかりさーんのフロールちゃん・・・うん、合うかな、どうかな?」
「しっかりさーん?」
「しっかりさんね」
「確かにしっかり者だわね」
どうやらフロールはピンとこなかったらしい、すぐにヘラルダとエルマが助け舟をだし、アーッと理解するフロール、
「フフッ、いいだろ?」
「うん、しっかりするー、お姉さんだからー」
「おう、その意気だ、じゃ、ブロース君だなー」
「俺ー、俺はー」
「あー・・・どうしようかな・・・何気に難しいぞ・・・」
と手が止まってしまうタロウであった、女性を褒めるのは何気に得意なのであるが、男性を褒めるというのは難しい、第一まず褒めない、それが男児であってもであり、さらに唯一の男児という事もあり、上にも下にも置けない難しさがあった、
「んー・・・カミトリ大好きブロース君・・・かな・・・」
取り合えず状況をそのまま落とし込んでみた、どんなもんかなとブロースを伺うと、
「うん、好きー、カミトリ好きー」
目を輝かせるブロースに、ホッと安堵するタロウ、確かになーと微笑むエルマ、実際今日も寮に来るなり飛ばし始め、フロールと共に叱りつけていたりする、
「そっか、じゃ、取り合えずこれで・・・」
とタロウはさて他にはと思い、レインを視界に捉えるが、レインは興味無さそうに太鼓をポンポン叩いており、一応作るべきかと思うも、レインその人を題材にした詩も曲も歌も実は大量にあったりする、それは学園祭での神殿の掲示物で確認しており、まぁ、そりゃそうだろうなとも思ったもので、ここで下手に触れるよりも知らないフリをした方が得策のようであった、タロウが見るにどうにもレインはそういう扱いをされる事を嫌っている感がある、若しくは単純に神々を嫌っているのかもしれなかった、その真意をタロウは問い質した事も無く、まぁ神様も色々あるんだろうと大人らしい解釈で徒に触れる事はしていない、
「ほれ、まずは元の歌を歌ってみろ、それから自分の歌な、基本が大事だ」
タロウはまぁいいかと手にした木簡をブロースに預ける、わかったーと大声で飛び跳ねるブロース、
「どう、先生、曲は弾ける?」
「はい、じゃ、まずはやってみますね」
ヘラルダがニコリと微笑み早速とマレットを構える、ワッと子供達がヘラルダに向かい、ヘラルダはフンフンと歌詞を口ずさみながら調子を合わせているようで、ゆっくりとしかし確実に新たな旋律が食堂に溢れた、
「良い曲ですね・・・」
エルマがポツリと呟く、
「そだねー、ほら、春を待つ歌だからね、暖かくなるようにって感じかな・・・」
「なるほど・・・フフッ、でもいいんですか?歌詞を変えても」
「ん?良いと思うよ、俺も子供の頃はね、歌詞を変えて適当なさ・・・うん、下品な言葉に変えて歌ったもんだ大声で、よく怒られたよ」
アッハッハと笑うタロウ、
「へー・・・下品な言葉は駄目ですけど、それはそれでなんか・・・良いですね」
「だね、まぁ、曲に合わせるのが少し難しいんだけど、でも、そうやってね、曲に合わせて歌詞を作るってのも大事な創造性だと思うよ」
「創造性ですか」
「そっ、創造性・・・言われた通り、あるがままってのも・・・大事なんだけど、それだけだとね、面白くないからね、何より自分で作るっていう気概が大事だし・・・工夫も楽しいし、発想もね、育まれる、ような、気がする、まぁ、こんな替え歌程度でね、創造性ってのもちょっと大げさだけどさ」
「カエウタ・・・あー・・・替える歌ですか、歌を変える、へー、そんな言葉まであるんですね」
「そだね、それだけ身近にある遊びってことだね」
「なるほど、わかりました」
ニコリと微笑むエルマ、タロウもニコリと優しく微笑む、曲が丁度終わったようで、
「うん、理解しました、じゃ、みんな、歌ってみるよー」
ヘラルダが子供達を見渡し、ハーイと叫ぶ子供達、そうして春を望む優しく温かい歌が食堂に響き渡るのであった。
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⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
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ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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