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本編
74話 東雲の医療魔法 その36
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正午を若干過ぎた頃合い、ソフィアはそろそろティルとミーンが来るはずだし、その前に二階の準備をしておこうかと腰を上げる、タロウが来ると言っていた客も来なかったようで、一応と二階に用意した茶道具とナンブも回収しておこうかとも思う、食堂にはヘラルダの操るマリンバが奏でる軽快で軽やかな曲が響き、子供達の明るく楽し気な歌声が色を添えていた、皆笑顔で気持ちよさそうに声を合わせている、
「アッ」
とエルマも腰を上げた、今日の手術は子供達の事もあり、二階で行われる事となっている、その間ヘラルダに音楽の授業兼子守役として来てもらったのであった、ソフィアがすぐに気付いて片手を上げてエルマを制する、準備は任せておけとの意思表示であった、エルマはもうと小さく呟き座り直す、タロウからも言われているが自覚できない疲労が蓄積している可能性がある、故に手術前も後も基本あまり動くなとの事で、どうやら今日もそのように扱われるらしい、そこまでしなくてもとエルマは思うも、ここはタロウとソフィアの忠告を守る事が良い患者なのだろうなと思う、タロウ曰く、医者の一番の敵は言う事を聞かない患者なのだそうで、医者でもないタロウが何故そんな事を言うのかとエルマは思うも、それは即ち素直に俺の言う事を聞いてくれとの換言なのだと理解した、そうしてソフィアはさてどうしたものかなと思いつつ二階に上がると、
「わっ、なに?居たの?」
と目を剥いた、
「・・・うん・・・疲れた・・・」
二階のホール、暖炉の前にタロウがノヘーと両足を投げ出し椅子にもたれかかっていた、実にだらしない有様である、とても子供には見せられないと世の中の子を持つ親なら誰しもが思うであろう姿で、ミナに見つかったらどうなるだろうかとソフィアは呆れてしまうも、
「どうしたのよ」
取り合えず問いかけるソフィアであった、最近ではまず見ない疲労具合である、それどころか初めて見るかもしれない、冒険者として駆けずり回っていた頃でもここまでだらしなく伸びているタロウは見た事が無い、魔王戦の後であってもである、
「どうしたもこうしたも・・・聞いてくれる?ソフィアさん」
ジローとソフィアを見上げるタロウ、なんて顔をしてるんだかとソフィアは目を細め、
「はいはい、それでどうしたの」
まったくと腰に手を当てる、
「いやな・・・」
とタロウはブツブツと語りだす、それは主に先程までの講義に関する愚痴であった、まったくその気が無い所で、あーしようこうしようと気を利かせたつもりが、いつの間にやら自分が登壇する事になり、正に自分で仕掛けた罠に陥ったような心境で、さらに自分は人前には出たくないのだよと泣き言を口にし、さらに大衆の面前でおっさん二人に麻酔魔法と治療魔法を使ったものだから、大変に気を使ったらしく、つまりは精神的な疲労でもってこうなっているらしい、ソフィアは再びまったくもうと目を眇め、
「その程度が何なのよ、しっかりしないよ」
バシリと言い放ちタロウを睨みつけた、
「そうだけどさ・・・だってさ、俺は隠れて生きていきたいんだよ、静かに穏やかに好きにやりたいの・・・」
タロウが暖炉の炎を見つめながら尚も愚痴る、
「何言ってるのよ、充分静かで穏やかで好きにやってるでしょ」
「・・・そう・・・でもなかったんだよ・・・今日は、やっぱ駄目だわ、人前に出るの、俺・・・」
「はいはい、言ってなさい」
ソフィアはプリプリと怒りつつテーブルの茶道具に手を伸ばす、そこへ、
「あらっ、こっちにいたの?」
と三階からユーリが顔を出した、
「あら、お疲れ」
ソフィアが顔を上げ、タロウはお疲れーと誰にともなく呟いたようで、
「・・・どうしたの?これ?」
ユーリが階段を下りながらタロウの異変に気付いたようである、
「これねー、なんか疲れたらしいのよ、アンタ見てたんじゃないの?」
「あー・・・まぁねー、それなりにやってたと思うけど・・・お陰で私は楽だったわー・・・殿下には驚かされたけどー」
カンラカンラと笑うユーリ、お前はなー、だろうなーと誰にともなく呟くタロウ、
「そっ、それは良かったわね、で、結局どうなるのお客さんとやらは来るの?」
ソフィアが茶道具を手にしてどうしたもんだかと首を傾げた、
「その予定よ、もう少ししてからかな?ほら、今学園でなんかあーだこーだって話し合い中」
「なにそれ?」
「んー、なんかねー、白熱してた、いい気味よね、どいつもこいつもボンクラばっかりだもん、丁度良い刺激だったんでしょ、おっさんが集まって喧々諤々やってるわ、あっ、これ貰っていい?」
テーブル上の南部煎餅に手を伸ばすユーリ、良いわよーとソフィアの許可が下りる前に既にパクリと咥えパキリと音を立てる、
「んー、美味しいわよね、これ、焼き立て?」
「そうね、ほら、来客用にね一応用意してたのよ、無駄になったかしら?」
「かもねー、手術中だと食べてる暇も無いだろうしね」
「そうよね、じゃ、片付けちゃいましょ」
「うー、俺にもくれー」
タロウがソフィアに縋りつくように手を伸ばす、まるで死人が生き返ったような本能的に不愉快な動きなもので、ウワッと仰け反るソフィアとユーリ、酷いなーと呟くタロウ、
「・・・しっかりしなさいよ、いい加減・・・」
ソフィアがもうと顔を顰め、
「ほれ、一枚でいいの?」
と優しくもその手に南部煎餅を乗せるユーリ、
「ありがとー・・・いや、だってさー」
「だっても、でもでも、やだでもないの、シャンとしろ」
バチリと言い放つソフィア、
「だけどさー」
南部煎餅を咥え尚も愚図るタロウにまだ言うかーと怒鳴りつけるも、ブーと膨れるタロウである、
「何よ、あんた、あの程度で」
ユーリもこれは重症だなと思いつつ、どうせ半分遊んでいるんだろうと解釈しニヤニヤと微笑む、
「あの程度ってさー・・・苦手なものは苦手なんだよ、あの時はまださ・・・気を張っていたからだけど、後から来るんだよ・・・後から・・・精神的な疲労だなー・・・こればっかりは仕方なかろうよー」
「なにが精神的な疲労よ、上手いもんだったじゃない」
「そうかー・・・」
「そうよ、学園長も事務長も講師にしたいって絶賛してたわよ」
「あー・・・それはヤダ」
「でしょうね、そう言っておいたわ」
「ありがとー」
バキリバキリと南部煎餅を頬張るタロウ、ユーリも美味そうに口に運び、美味しそうだわねとソフィアも結局茶道具を置いて南部煎餅に手を伸ばす、
「でー・・・向こうはどうなったー」
モグモグゴクリと煎餅を飲み込んでやっと顔を向けるタロウである、
「どうなったも何も、あそこでそのまま打合せ中だわ、軍人さんは軍人さんで、講師は講師で、生徒達は授業に戻ったみたいだけど、講師がいないんじゃ教室でどうなっているのかしらね、わかんないわね」
「そっかー・・・まぁ、上手い事やってくれればいいんだけどねー」
「まずね、で、あんたさ、魔法の指導と魔力増大の研究、あんたがやるって事でいいのね」
ニヤリとユーリがタロウを見下ろし、ソフィアは何だそりゃと思いつつ南部煎餅を堪能する、実際に大変に美味しい、レインもすっかり焼き慣れたらしく、しっかりと芯まで香ばしく焼き上げられており、変に焦げている箇所も無い、まぁ、それほど難しい工程では無いとは言え、大したもんだと思ってしまう、
「えー・・・あれなー・・・」
タロウは言っちゃったんだよなーと思いつつ、さらにグニャリと折れ曲がった、
「なにそれ?」
ソフィアがゴクリと飲み込んでやっと問いかける、
「んー、殿下にね、言っちゃったのよ、使える者を増やすって、どっちも簡単な魔法じゃないのにね、安請け合いしちゃってまー・・・」
「うー・・・言うなー・・・」
「あら・・・それは重大事だわね・・・」
「そうなのよ、挙句に魔力増大の件も公にしちゃったし」
「なにそれ?」
「ゾーイにね、魔力の底上げの為の訓練ていうのかな?そういうのやっててね、それの事だと思うんだけど、イフナース殿下にね、研究結果を報告しますとかなんとかって言いきっちゃってさ、学園長も乗り気になってて、クロノスもだし、事務長も面白そうだって感じでね、なんか学園の連中はそっちで盛り上がってたわよ」
「そうなのかー・・・でもなー・・・」
「今更なによ、鬱陶しいわね」
「うー・・だってさー、ほら、変に畏まってさー、真面目な口調になってたもんでさー、口が滑ったんだよー、そういう雰囲気だったしさー、ああでも言わないとさー・・・殿下に楯突く訳にもいかんだろーしさー・・・なんか上手い事のせられたって感じー・・・」
「でしょうね」
「そうなんだよー・・・条件反射ってやつだからさー・・・まるで考えてなくてさー・・・暫くすっとぼけておこうかなー・・・」
「難しいわねー」
「なんでさー」
「学園長が喜んでたから」
「あら・・・でも、あれだろ、報告はしてたんだろ?」
「一応ね、こういうのやってますって程度はね」
「そっか・・・でも、学園長が口裏を合わせてくれたお陰で納得してくれた感じだったしなー、その後が駄目だった・・・殿下もなー、何だよ急に真面目ぶりやがってさー・・・やっぱりあの王様の息子だなー・・・気を抜けないのよなー・・・クロノスは楽で良いよなー」
王家に対する愚痴まで始まってしまい、おいおいとソフィアがタロウを睨むも、ユーリはやれやれと呆れ顔で、
「まぁ・・・言いたい事は分かるけど、それはアンタの問題よ、口に出してしまったんだし、いい大人なんだし、別に出来ない事じゃないでしょ」
「そう・・・なんだよなー・・・うー、めんどくせー」
タロウは大きく両腕を天井に衝き上げ、すぐさまハフーと全身の力を抜く、当然両腕はだらしなく崩れ落ち、なんだそりゃと睨むソフィア、
「まぁ、そういう訳だから、あんた少しはやる気だしなさい、いや、協力してあげるから精進なさい」
ニヤニヤと微笑むユーリに、
「そこはほら、私がやってあげるわって言って欲しいよ、ユーリ大先生・・・」
ジローっと上目遣いとなるタロウ、
「嫌よ、私も忙しいの、お互い様でしょ」
「お互い様かー・・・」
「でしょ、あっ、ほら、ソフィアに頼みなさい、最高の助手がいるじゃない」
二枚目を食べようかどうかと南部煎餅を見つめていたソフィアがハイッ?と顔を上げた、
「あー、そだねー、ソフィア様ー・・・助けてー、ついでに癒してー、優しくしてー」
「なにがよ、まったく訳がわかんないわよ」
「それでもいいー、助けてー」
「ミナみたいな言い方しないでよ」
「ダメー?」
「駄目って事は無いけど内容によるわね」
「あらっ、前向きね」
「前向きって・・・どうせ大したことじゃないんでしょ」
「わっ、流石ソフィアね、頼りになるー」
「だねー、ソフィアー、愛してるー」
「言ってなさいよ」
「言ってるー」
「キャー、お熱いわー」
「お熱いってねー、まぁいいけどさ、何をやるにしてもなに?すぐにやるの?」
「あー・・・少し考えりゅー・・・」
「あっ、そう、じゃ、好きになさい」
「好きにするー」
「私もー」
ダラリとさらに脱力するタロウ、ニヤニヤと微笑むユーリ、そこへ、
「わっ、どうしたんですか?」
ティルとミーンが階段から下りて来た、珍しい場所でたむろってる三人に目を丸くしてしまう、
「どうしたもこうしたもないの、タロウがだらしなくてね、じゃ、こっちはこっちの仕事と行きますか、あっ、あんたらもナンブどう?食べるならここで食べなさい、下に行くと子供達がいるからね」
「いいんですかー」
と二人はササッとソフィアに歩み寄る、ソフィアが皿ごと南部煎餅を差し出すと頂きますと遠慮なく手を伸ばす二人、
「あっ、私も少し貰うわ、上にも持って行こうかしら」
「どうぞー」
ユーリもガサリと数枚を手にする、人気だなー、美味しいしなー、もっと前に作れば良かったなー、とタロウはボヘーっとその様を見つめ、
「あっ、今日の夕飯なに?」
とやっと椅子に座り直した、ティルとミーンの手前、ソフィアとユーリに対したような甘えは見せられない、微かに宿る成人男性の矜持がそうさせたようである、
「まだ決めてないわよ、なんか食べたいものある?」
「そっか・・・じゃ、これ使ってくれ」
タロウは懐に手を入れて、ズゾっと何やら取り出した、エッと驚くティルとミーン、また人前でそんな事を見せびらかしてと目を細めるソフィアとユーリ、
「なにそれ?」
「んー、牛の肉ー、あっ、それと」
と牛肉の巨大な塊を振り返ってテーブルにドンと置き、再び懐から何やら取り出しテーブルに並べた、
「ピパーとシナピスとーにんにくー、好きに使ってくれー」
「エッ、なに?また行ったの?あっ、夜か、行ってたわね・・・」
ソフィアは驚きつつも牛肉の塊に手を伸ばす、それは緑色の見慣れない葉っぱにくるまれており、大きめの犬ぐらいの大きさがあった、
「牛の肉ですかー」
「わっ、嬉しいー」
ティルとミーンは素直な歓声を上げる、この娘達も随分と肝が据わってきたものだとユーリが微笑んでしまう、普通ここはこんなものをどこに隠していたのかと訝しむのが先では無かろうか、まぁ、それだけタロウやこの環境に慣れてしまったという事なのだとも思う、一々気にしていたら身が持たないのである、
「また行ったんだよー・・・あっ、じゃあさ、俺今日料理するよ、牛肉料理」
「エッ、いいの?」
「ホントですか?」
「凄いですー」
「マジで?」
四者四様に驚く女性達、
「まぁね、偶には・・・うん、憂さ晴らしだ、料理もやってないと腕が鈍るしね・・・うん、今日は肉を食おう、いっぱい食おう、肉で腹いっぱいになろう、そうしよう」
タロウは自分に言い聞かせるように呟くと、ムンと立ち上がる、
「そっ、じゃ、今日は少し楽をしようかしらね・・・あっ、テラさんからパスタとモヤシも頂いたのよ、今日はそれでパスタ料理と肉料理ね」
「わっ、それも楽しみです」
「ですね、すんごい豪華です」
「いつも豪華じゃない」
「なんですよー、家の料理が貧相に見えてきてー」
「あー、贅沢だー」
「贅沢ですよねー」
「贅沢病だわねー」
キャッキャッとはしゃぐティルとミーンとソフィア、さてそうと決まったら、もう一仕事気合を入れるかと大きく伸びをするタロウ、なんだ結局復活したのか、もう少し虐めたれば良かったと鼻で笑いつつ悔むユーリであった。
「アッ」
とエルマも腰を上げた、今日の手術は子供達の事もあり、二階で行われる事となっている、その間ヘラルダに音楽の授業兼子守役として来てもらったのであった、ソフィアがすぐに気付いて片手を上げてエルマを制する、準備は任せておけとの意思表示であった、エルマはもうと小さく呟き座り直す、タロウからも言われているが自覚できない疲労が蓄積している可能性がある、故に手術前も後も基本あまり動くなとの事で、どうやら今日もそのように扱われるらしい、そこまでしなくてもとエルマは思うも、ここはタロウとソフィアの忠告を守る事が良い患者なのだろうなと思う、タロウ曰く、医者の一番の敵は言う事を聞かない患者なのだそうで、医者でもないタロウが何故そんな事を言うのかとエルマは思うも、それは即ち素直に俺の言う事を聞いてくれとの換言なのだと理解した、そうしてソフィアはさてどうしたものかなと思いつつ二階に上がると、
「わっ、なに?居たの?」
と目を剥いた、
「・・・うん・・・疲れた・・・」
二階のホール、暖炉の前にタロウがノヘーと両足を投げ出し椅子にもたれかかっていた、実にだらしない有様である、とても子供には見せられないと世の中の子を持つ親なら誰しもが思うであろう姿で、ミナに見つかったらどうなるだろうかとソフィアは呆れてしまうも、
「どうしたのよ」
取り合えず問いかけるソフィアであった、最近ではまず見ない疲労具合である、それどころか初めて見るかもしれない、冒険者として駆けずり回っていた頃でもここまでだらしなく伸びているタロウは見た事が無い、魔王戦の後であってもである、
「どうしたもこうしたも・・・聞いてくれる?ソフィアさん」
ジローとソフィアを見上げるタロウ、なんて顔をしてるんだかとソフィアは目を細め、
「はいはい、それでどうしたの」
まったくと腰に手を当てる、
「いやな・・・」
とタロウはブツブツと語りだす、それは主に先程までの講義に関する愚痴であった、まったくその気が無い所で、あーしようこうしようと気を利かせたつもりが、いつの間にやら自分が登壇する事になり、正に自分で仕掛けた罠に陥ったような心境で、さらに自分は人前には出たくないのだよと泣き言を口にし、さらに大衆の面前でおっさん二人に麻酔魔法と治療魔法を使ったものだから、大変に気を使ったらしく、つまりは精神的な疲労でもってこうなっているらしい、ソフィアは再びまったくもうと目を眇め、
「その程度が何なのよ、しっかりしないよ」
バシリと言い放ちタロウを睨みつけた、
「そうだけどさ・・・だってさ、俺は隠れて生きていきたいんだよ、静かに穏やかに好きにやりたいの・・・」
タロウが暖炉の炎を見つめながら尚も愚痴る、
「何言ってるのよ、充分静かで穏やかで好きにやってるでしょ」
「・・・そう・・・でもなかったんだよ・・・今日は、やっぱ駄目だわ、人前に出るの、俺・・・」
「はいはい、言ってなさい」
ソフィアはプリプリと怒りつつテーブルの茶道具に手を伸ばす、そこへ、
「あらっ、こっちにいたの?」
と三階からユーリが顔を出した、
「あら、お疲れ」
ソフィアが顔を上げ、タロウはお疲れーと誰にともなく呟いたようで、
「・・・どうしたの?これ?」
ユーリが階段を下りながらタロウの異変に気付いたようである、
「これねー、なんか疲れたらしいのよ、アンタ見てたんじゃないの?」
「あー・・・まぁねー、それなりにやってたと思うけど・・・お陰で私は楽だったわー・・・殿下には驚かされたけどー」
カンラカンラと笑うユーリ、お前はなー、だろうなーと誰にともなく呟くタロウ、
「そっ、それは良かったわね、で、結局どうなるのお客さんとやらは来るの?」
ソフィアが茶道具を手にしてどうしたもんだかと首を傾げた、
「その予定よ、もう少ししてからかな?ほら、今学園でなんかあーだこーだって話し合い中」
「なにそれ?」
「んー、なんかねー、白熱してた、いい気味よね、どいつもこいつもボンクラばっかりだもん、丁度良い刺激だったんでしょ、おっさんが集まって喧々諤々やってるわ、あっ、これ貰っていい?」
テーブル上の南部煎餅に手を伸ばすユーリ、良いわよーとソフィアの許可が下りる前に既にパクリと咥えパキリと音を立てる、
「んー、美味しいわよね、これ、焼き立て?」
「そうね、ほら、来客用にね一応用意してたのよ、無駄になったかしら?」
「かもねー、手術中だと食べてる暇も無いだろうしね」
「そうよね、じゃ、片付けちゃいましょ」
「うー、俺にもくれー」
タロウがソフィアに縋りつくように手を伸ばす、まるで死人が生き返ったような本能的に不愉快な動きなもので、ウワッと仰け反るソフィアとユーリ、酷いなーと呟くタロウ、
「・・・しっかりしなさいよ、いい加減・・・」
ソフィアがもうと顔を顰め、
「ほれ、一枚でいいの?」
と優しくもその手に南部煎餅を乗せるユーリ、
「ありがとー・・・いや、だってさー」
「だっても、でもでも、やだでもないの、シャンとしろ」
バチリと言い放つソフィア、
「だけどさー」
南部煎餅を咥え尚も愚図るタロウにまだ言うかーと怒鳴りつけるも、ブーと膨れるタロウである、
「何よ、あんた、あの程度で」
ユーリもこれは重症だなと思いつつ、どうせ半分遊んでいるんだろうと解釈しニヤニヤと微笑む、
「あの程度ってさー・・・苦手なものは苦手なんだよ、あの時はまださ・・・気を張っていたからだけど、後から来るんだよ・・・後から・・・精神的な疲労だなー・・・こればっかりは仕方なかろうよー」
「なにが精神的な疲労よ、上手いもんだったじゃない」
「そうかー・・・」
「そうよ、学園長も事務長も講師にしたいって絶賛してたわよ」
「あー・・・それはヤダ」
「でしょうね、そう言っておいたわ」
「ありがとー」
バキリバキリと南部煎餅を頬張るタロウ、ユーリも美味そうに口に運び、美味しそうだわねとソフィアも結局茶道具を置いて南部煎餅に手を伸ばす、
「でー・・・向こうはどうなったー」
モグモグゴクリと煎餅を飲み込んでやっと顔を向けるタロウである、
「どうなったも何も、あそこでそのまま打合せ中だわ、軍人さんは軍人さんで、講師は講師で、生徒達は授業に戻ったみたいだけど、講師がいないんじゃ教室でどうなっているのかしらね、わかんないわね」
「そっかー・・・まぁ、上手い事やってくれればいいんだけどねー」
「まずね、で、あんたさ、魔法の指導と魔力増大の研究、あんたがやるって事でいいのね」
ニヤリとユーリがタロウを見下ろし、ソフィアは何だそりゃと思いつつ南部煎餅を堪能する、実際に大変に美味しい、レインもすっかり焼き慣れたらしく、しっかりと芯まで香ばしく焼き上げられており、変に焦げている箇所も無い、まぁ、それほど難しい工程では無いとは言え、大したもんだと思ってしまう、
「えー・・・あれなー・・・」
タロウは言っちゃったんだよなーと思いつつ、さらにグニャリと折れ曲がった、
「なにそれ?」
ソフィアがゴクリと飲み込んでやっと問いかける、
「んー、殿下にね、言っちゃったのよ、使える者を増やすって、どっちも簡単な魔法じゃないのにね、安請け合いしちゃってまー・・・」
「うー・・・言うなー・・・」
「あら・・・それは重大事だわね・・・」
「そうなのよ、挙句に魔力増大の件も公にしちゃったし」
「なにそれ?」
「ゾーイにね、魔力の底上げの為の訓練ていうのかな?そういうのやっててね、それの事だと思うんだけど、イフナース殿下にね、研究結果を報告しますとかなんとかって言いきっちゃってさ、学園長も乗り気になってて、クロノスもだし、事務長も面白そうだって感じでね、なんか学園の連中はそっちで盛り上がってたわよ」
「そうなのかー・・・でもなー・・・」
「今更なによ、鬱陶しいわね」
「うー・・だってさー、ほら、変に畏まってさー、真面目な口調になってたもんでさー、口が滑ったんだよー、そういう雰囲気だったしさー、ああでも言わないとさー・・・殿下に楯突く訳にもいかんだろーしさー・・・なんか上手い事のせられたって感じー・・・」
「でしょうね」
「そうなんだよー・・・条件反射ってやつだからさー・・・まるで考えてなくてさー・・・暫くすっとぼけておこうかなー・・・」
「難しいわねー」
「なんでさー」
「学園長が喜んでたから」
「あら・・・でも、あれだろ、報告はしてたんだろ?」
「一応ね、こういうのやってますって程度はね」
「そっか・・・でも、学園長が口裏を合わせてくれたお陰で納得してくれた感じだったしなー、その後が駄目だった・・・殿下もなー、何だよ急に真面目ぶりやがってさー・・・やっぱりあの王様の息子だなー・・・気を抜けないのよなー・・・クロノスは楽で良いよなー」
王家に対する愚痴まで始まってしまい、おいおいとソフィアがタロウを睨むも、ユーリはやれやれと呆れ顔で、
「まぁ・・・言いたい事は分かるけど、それはアンタの問題よ、口に出してしまったんだし、いい大人なんだし、別に出来ない事じゃないでしょ」
「そう・・・なんだよなー・・・うー、めんどくせー」
タロウは大きく両腕を天井に衝き上げ、すぐさまハフーと全身の力を抜く、当然両腕はだらしなく崩れ落ち、なんだそりゃと睨むソフィア、
「まぁ、そういう訳だから、あんた少しはやる気だしなさい、いや、協力してあげるから精進なさい」
ニヤニヤと微笑むユーリに、
「そこはほら、私がやってあげるわって言って欲しいよ、ユーリ大先生・・・」
ジローっと上目遣いとなるタロウ、
「嫌よ、私も忙しいの、お互い様でしょ」
「お互い様かー・・・」
「でしょ、あっ、ほら、ソフィアに頼みなさい、最高の助手がいるじゃない」
二枚目を食べようかどうかと南部煎餅を見つめていたソフィアがハイッ?と顔を上げた、
「あー、そだねー、ソフィア様ー・・・助けてー、ついでに癒してー、優しくしてー」
「なにがよ、まったく訳がわかんないわよ」
「それでもいいー、助けてー」
「ミナみたいな言い方しないでよ」
「ダメー?」
「駄目って事は無いけど内容によるわね」
「あらっ、前向きね」
「前向きって・・・どうせ大したことじゃないんでしょ」
「わっ、流石ソフィアね、頼りになるー」
「だねー、ソフィアー、愛してるー」
「言ってなさいよ」
「言ってるー」
「キャー、お熱いわー」
「お熱いってねー、まぁいいけどさ、何をやるにしてもなに?すぐにやるの?」
「あー・・・少し考えりゅー・・・」
「あっ、そう、じゃ、好きになさい」
「好きにするー」
「私もー」
ダラリとさらに脱力するタロウ、ニヤニヤと微笑むユーリ、そこへ、
「わっ、どうしたんですか?」
ティルとミーンが階段から下りて来た、珍しい場所でたむろってる三人に目を丸くしてしまう、
「どうしたもこうしたもないの、タロウがだらしなくてね、じゃ、こっちはこっちの仕事と行きますか、あっ、あんたらもナンブどう?食べるならここで食べなさい、下に行くと子供達がいるからね」
「いいんですかー」
と二人はササッとソフィアに歩み寄る、ソフィアが皿ごと南部煎餅を差し出すと頂きますと遠慮なく手を伸ばす二人、
「あっ、私も少し貰うわ、上にも持って行こうかしら」
「どうぞー」
ユーリもガサリと数枚を手にする、人気だなー、美味しいしなー、もっと前に作れば良かったなー、とタロウはボヘーっとその様を見つめ、
「あっ、今日の夕飯なに?」
とやっと椅子に座り直した、ティルとミーンの手前、ソフィアとユーリに対したような甘えは見せられない、微かに宿る成人男性の矜持がそうさせたようである、
「まだ決めてないわよ、なんか食べたいものある?」
「そっか・・・じゃ、これ使ってくれ」
タロウは懐に手を入れて、ズゾっと何やら取り出した、エッと驚くティルとミーン、また人前でそんな事を見せびらかしてと目を細めるソフィアとユーリ、
「なにそれ?」
「んー、牛の肉ー、あっ、それと」
と牛肉の巨大な塊を振り返ってテーブルにドンと置き、再び懐から何やら取り出しテーブルに並べた、
「ピパーとシナピスとーにんにくー、好きに使ってくれー」
「エッ、なに?また行ったの?あっ、夜か、行ってたわね・・・」
ソフィアは驚きつつも牛肉の塊に手を伸ばす、それは緑色の見慣れない葉っぱにくるまれており、大きめの犬ぐらいの大きさがあった、
「牛の肉ですかー」
「わっ、嬉しいー」
ティルとミーンは素直な歓声を上げる、この娘達も随分と肝が据わってきたものだとユーリが微笑んでしまう、普通ここはこんなものをどこに隠していたのかと訝しむのが先では無かろうか、まぁ、それだけタロウやこの環境に慣れてしまったという事なのだとも思う、一々気にしていたら身が持たないのである、
「また行ったんだよー・・・あっ、じゃあさ、俺今日料理するよ、牛肉料理」
「エッ、いいの?」
「ホントですか?」
「凄いですー」
「マジで?」
四者四様に驚く女性達、
「まぁね、偶には・・・うん、憂さ晴らしだ、料理もやってないと腕が鈍るしね・・・うん、今日は肉を食おう、いっぱい食おう、肉で腹いっぱいになろう、そうしよう」
タロウは自分に言い聞かせるように呟くと、ムンと立ち上がる、
「そっ、じゃ、今日は少し楽をしようかしらね・・・あっ、テラさんからパスタとモヤシも頂いたのよ、今日はそれでパスタ料理と肉料理ね」
「わっ、それも楽しみです」
「ですね、すんごい豪華です」
「いつも豪華じゃない」
「なんですよー、家の料理が貧相に見えてきてー」
「あー、贅沢だー」
「贅沢ですよねー」
「贅沢病だわねー」
キャッキャッとはしゃぐティルとミーンとソフィア、さてそうと決まったら、もう一仕事気合を入れるかと大きく伸びをするタロウ、なんだ結局復活したのか、もう少し虐めたれば良かったと鼻で笑いつつ悔むユーリであった。
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「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」
「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」
これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。
<前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです>
注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。
(読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
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「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
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アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
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追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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