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本編
76話 王家と公爵家 その34
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それから暫く歓談が続いた、学園長は大変な上機嫌で、それにつられたのかアンネリーンもユスティーナらも笑顔を絶やす事は無く、それどころかエレインやライニールにメイド達も笑いを抑えるのに苦心してしまう程で、さらにエレインが竹トンボを作ってくれた人ですよとタロウをその輪に引きずり込んだ、アーレントとアンシェラが歓喜の声を上げ、なんじゃそれはと学園長も話に乗っかる、タロウはタロウで話の流れに合わせて上手い事潜り込んだ、アンネリーンと従者達はまた変な男がと顔を顰めるも、ユスティーナがそれに気付いて正式に御挨拶をとタロウに促し、タロウは、
「あー・・・そう・・・ですね、本日は伯爵様の臨時相談役となっております、より端的に言えば・・・うん、接待コーディネーター、もしくはアテンダントのようなもの、そのように扱い下さい」
若干口籠ってにこやかに一礼する、一同は何だそれはとポカンとタロウを見つめてしまった、
「・・・えっと・・・接待・・・何?」
アンネリーンよりも先にユスティーナが問い質し、
「・・・そうですよ、適当すぎます、変な言葉を使わないで下さい」
エレインまでもが眉間に皺を寄せている、レアンとマルヘリートはタロウを見つめるばかりで、ライニールも何を言い出すんだかと渋い顔であった、
「あー・・・つまりはほら、折角公爵夫人がいらっしゃるとの事で、ガラス鏡もこちらのお店も良いですが、それだけでは時間も余ろうと伯爵様が懸念されておりましてね、そこで、この街を良く知る私にお相手をするようにと・・・まぁ、そんな感じです、はい」
なんとも適当な言い訳をその場で考えながら口にするタロウ、おいおいとライニールは苦笑し、エレインもそれは流石にと顔を顰めてしまう、しかし、
「あぁ、そうね、そのように言っていたわね」
ユスティーナは甲高い声を上げてタロウではなくレアンに目配せする、するとレアンもまた、そうじゃったと甲高い声を上げ、
「父上から聞いておる、なんじゃ、来るのが遅かったのではないのか?」
と何とも芝居じみた事を言い出す始末、アンネリーンはその違和感に目を細めるも、
「そうなのです、儂もつい先ほどタロウ殿から呼び出されましてな、突然の事で驚いたのですが、これほどに内容の濃いお話ができるとは思わなかったです、流石接待・・・なんと言ったかな?」
学園長も話しを合わせてタロウを見上げた、アンネリーンもまぁこの三人が言うのであればとここは納得するしかないようで、タロウはその一瞬の気の緩みにスッと入り込むように、
「では、是非、学園に赴かれてはどうでしょう、そちらの脚本、その下地となったエレインさんのメイドの手記が掲示されております、さらには目新しい家畜、それと、王国軍とヘルデル軍が力を合わせて医療基地を構築しております、ここで公爵夫人、伯爵夫人が視察として訪れればきっと士気も上がろうと思います」
エッと驚いたのは学園長とユスティーナ達である、ユスティーナらは学園の訪問など考えておらず、キッサ店を満喫した後は屋敷に戻って休息をとった後で食事会となる予定で、学園長は学園長でそんな事は聞いていないとばかりにタロウを見上げてしまっていた、
「・・・」
アンネリーンはジッとタロウを見上げ、
「メイドの手記?」
と問い返す、
「はい、そちらの脚本その元になった手記ですね、それがあればこそ、その脚本は形になっております」
タロウがニコリと微笑む、確かにそのような事をエレインも学園長も言葉の端々で出していた、どういう事かとエレインを見つめるアンネリーンに、
「・・・えっと、その通りなのです、学園長の依頼で・・・と言ってはあれですが、その・・・」
エレインが学園長を伺うと、
「そうなのです、まずですな」
とその経緯を嬉々として語り始める学園長、タロウは暫し学園長に語らせ丁度良い頃合いで、
「では、実際に見に行きましょう、なに、転送陣を使いますからすぐです」
ニコニコと一同を見渡すのであった。
そうして学園に移動した一行である、アンネリーンはこれが転送陣かとその木枠をまじまじと観察し、おっかなびっくりと警戒しつつ潜っている、従者達も似たようなもので、確かに先程は奇妙な作りの建物だと思ったとコソコソと感想を口にしていた、そして学園に入れば入ったで、やはり学園は城として作られた施設であった、これは確かに先程の屋敷とは違うと呆気にとられて茫然としてしまう、ユスティーナがそうなのですよと呆れた様子で微笑み、エレインもまったくですと苦笑いを隠さない、アンネリーンはもう受け入れるしかないのねとすっかり諦めてしまった様子であった、どうやら適応能力も高いらしいとタロウは微笑んでしまう、ここでギャーギャーと騒がれても対処のしようがないのであるが、やはり何事も一見にしかず、一行にしかずなのだろう、そしてまずはとオリビアの手記を見物に向かう事となった、丁度良い事に生徒達はまだ授業中で、廊下は閑散としつつも各教室からは講師の声と生徒達の息遣いが感じられる、確かにここは学び舎なのだろうとアンネリーンも従者達も理解したようで、そのまま玄関ホールに入り、長い事掲示したままになっている手記を見上げるアンネリーン、従者達も一緒に眺めており、これは面白いと目を輝かせていた、
「・・・素晴らしい記録だわね・・・」
思わず呟くアンネリーン、アーレントとアンシェラもその隣にあって手記を見上げていたが、すぐに飽きたのかレアンの腕を引いて竹トンボと紙飛行機を取り出して飛ばしだす、先程の教室よりも広く天井が高い、さらには人気も無いとなれば飛ばして遊ぶこの二つの遊戯にとって玄関ホールはうってつけなのであった、そして若干離れてアンネリーンらの様子を見守るタロウに、ユスティーナとエレインさらにマルヘリートがそっと近づきどういう事かと小声で問い詰める、ガラス鏡店にもこっそり顔を出していたがとユスティーナは目を細め、エレインはそれは聞いてましたけどと擁護しつつもここまで口を出すとは聞いていなかったとタロウを睨む始末、タロウは大丈夫です、リシャルトさんにも許可を頂いていますからと三人を宥め、それならいいのかしらと納得するしか無い三人となる、
「いかがですかな?」
ニコニコとアンネリーンの接待を続けるのは学園長であった、
「・・・これはあれかしら、ここでしか読めないの?」
スッと学園長を見つめるアンネリーン、
「いえいえ、屋敷でじっくり読みたいと所望されましてな、レアン様とユスティーナ様には複写を届けております、それと、あちら、あちらは生徒達から集めた手記になりまして、そちらとあわせて書にまとめようかと考えております、何かと忙しく後回しになっておりましてな、いや、その間にも秀逸な手記が集まっております、しっかりまとめなければと思っておりますが、もう少し先になりそうです」
ニコリと微笑む学園長、
「まぁ・・・ユスティーナさん」
振り返るアンネリーンに、ユスティーナがハイハイと笑顔で駆け寄る、そうしてすっかり手記を堪能した一行、タロウは一段落着いたようだと場所を移す事を提案し、次に訪れたのが牛と豚の家畜小屋となる、そこには、
「あっ、タロウさんだー」
一行に気付いたサレバが大声を上げ、エッと生徒達が顔を上げる、どうやら授業中であった様子で、ルカスが振り返り、学園長とユスティーナらの姿にこれはと急ぎ駆け寄った、
「忙しい所ゴメンね」
とタロウがすぐにルカスに対し、その間にもアーレントとアンシェラがなんかいるーと柵に駆け寄る、アンネリーンも従者達もこれはと目を丸くして学園の内庭、薄い雪の中で、ダラダラと戯れる牛と豚を見つめ、学園長がここは任せろとばかりに説明を始めた、
「また、とんでもない事を・・・」
ルカスが呆れ顔で苦笑する、
「まぁ、成り行きってやつさ」
「どうしたんですかー、あっ、エレイン様もいるー」
サレバがタロウとルカスに駆け寄り、他の生徒達も手を休めてしまったようで、
「授業中でしょ」
タロウが睨むも、だって先生がーと口答えするサレバ、それもそうだとルカスは苦笑し、
「では、何かあったら対応します、あっ、乳しぼりやります?」
とヒョイと首を伸ばしてアーレントとアンシェラ、それと共にキャーキャーと楽しそうなレアンを覗く、
「それもいいね・・・あっ、学園長の蘊蓄が終わってからかな?」
振り返るタロウ、ルカスもそのようですねと微笑み、準備しておきますねとサレバと共に戻ると、講義を再開しつつ準備も始めたらしい、器用なものだなとタロウは微笑んでしまう、そして学園長の解説が終わり乳しぼりに悪戦苦闘している内に学園内に鐘が響く、どうやら講義終了の鐘らしく、ルカスは今日はここまでと生徒達を見渡し、生徒達は一行に大きく会釈をしたのちその場を去った、残ったのはルカスとサレバで、サレバはアンシェラにキャーキャーと楽しそうに乳しぼりを教えており、レアンとアーレントは自分で絞った牛乳を口にして満足そうで、アンネリーンもアーレントから受け取った牛乳を口にし、これは美味しいと目を丸くしている、従者達もユスティーナ達もレアンがわざわざ配り歩きしっかりと堪能したようで、これほどに臭みがない乳は初めてだとか、量も採れそうだと好印象であった、そうして牛乳を堪能した一行は生徒達で騒がしい廊下を歩き、講堂へ向かった、生徒達も生徒達で一行の姿を認めた瞬間にこれはと一歩下がり、いかにも生活科の生徒だなと一目で分かる生徒はメイドらしく一礼して道を譲る、大したものだとユスティーナは微笑み、アンネリーンは学園長に生徒達について質問し始めていた、何気にアンネリーンは学園という施設を訪問するのは初めての事であったりする、ヘルデルにも学園と呼ばれる施設も組織も存在するが、そちらを視察した事は無く、ヘルデルのあれもしっかり見ておかなければいけないかしらと興味深げに語っていた、そこへ、
「あっ、エレイン様だー」
と駆け寄る者がある、ジャネットとアニタにパウラであった、しかし、すぐにユスティーナとレアン、学園長にタロウが側にいるのに気付き、
「ゲッ、ヤベー」
と足を止める、
「今更なんですか」
ムッと叱りつけるエレイン、レアンもユスティーナもクスクスと微笑み、アンネリーンはどういう事かと顔を顰める、エレインがそれに気づいたようで、
「申し訳ありません、私どもの商会の従業員、いえ、設立から共にしている大事な友人なのです」
エレインが三人を紹介すると、アンネリーンはそうなの?と明るい笑顔を向けた、
「ほら、ちゃんと御挨拶を、ヘルデル公爵夫人、アンネリーン様と、世継ぎとなるアーレント様とアンシェラ様よ」
ギッと三人を睨むエレイン、エッと言葉を無くし固まる三人、アンネリーンはうふふと微笑み、
「まったく、この街は面白いわね」
優雅に柔らかく微笑むのであった。
それから一行は講堂へ向かう、生徒よりも兵士の姿が多くなった廊下で、行き交う兵士が邪魔くさそうに睨みつつ道を譲るも、そのうちの一人がエッと気付いたようである、サッと従者の一人に確認し、さらに驚いて講堂へ走り去りすぐに数人の兵士が駆け戻ってくる、そして、
「アンネリーン様、このような所に何用ですか」
大きく頭を垂れつつも慌てているのか何とも無礼な物言いであった、先程の生徒達の方が余程礼儀を弁えていると感じられる程で、これはと従者の一人とライニールが進み出るも、アンネリーンはそれを押し止め、
「何用とは随分な言葉使いだわね、責任者はいるの?」
と冷たく返す、タロウがあっまずいかなと感じて一歩踏み出し、アンネリーンとその兵士の間に立つと、
「申し訳ない、公爵夫人様、伯爵夫人様、共に皆を激励したいとの事でね、先達が無かったのは確かに失礼ではあるし、こちらの不手際ではある、しかしなにぶんお忍びとなるものでね、御容赦頂きたい、その上で視察は可能であろうか、それと責任者が御手透きであれば対応を頼みたい、学園長も同行されている」
突然の役人口調であった、これには逆にアンネリーンがエッと驚き、もうと顔を顰めるエレインにユスティーナ、
「はっ、あっ、タロウ殿ですか」
目を丸くするその兵士達、恐らくいつぞやの講義に参加していたのであろう、公爵夫人よりもタロウに驚いた様子で、タロウはその方が失礼だろうと苦笑しつつ、
「そっ、その、タロウです、ですが、今日はほら、公爵夫人と伯爵夫人の方が重要でしょ、皆さんのお仕事を見て頂く良い機会です、突然で申し訳ないがね、対応頼むよ」
一転普段通りの砕けた言葉使いとなる、ハァーとつられて気の抜けた声を発する兵士達、さらにそこへ隊長格らしき兵士が駆けて来る、アンネリーンの姿を確認し、馬鹿者と兵士達を叱責する始末、あー、やっぱり思い付きでやるべきじゃないなーとタロウは苦笑するも、アンネリーンはどこか楽しそうで、
「構いませんよ、で、こちらでは医療基地を構築中とか、どういうことなのかしら?」
ニコリと後から来た兵士に微笑みかけた、ハッと背筋を正す兵士、どうやら面識があるらしい、こちらへと固い表情で促す兵士と、心底楽しそうにそれに従うアンネリーン、ユスティーナらもそれに続き、やれやれどうにかなったかなとタロウはホッと一息ついた、しかし、
「あー・・・根回しが足りないようですね・・・」
ライニールがポツリとタロウに呟き、
「そのようだな、先に連絡するべきであった、いや、その暇も無ければ、意味も無かったかもしれんがな」
うんうんと大きく頷く学園長、
「そうですねー、勝手が過ぎたようです」
と頬をかき、申し訳なかったねと叱責されてしまった兵に頭を下げるタロウ、そんなと慌てる兵士達であった。
「あー・・・そう・・・ですね、本日は伯爵様の臨時相談役となっております、より端的に言えば・・・うん、接待コーディネーター、もしくはアテンダントのようなもの、そのように扱い下さい」
若干口籠ってにこやかに一礼する、一同は何だそれはとポカンとタロウを見つめてしまった、
「・・・えっと・・・接待・・・何?」
アンネリーンよりも先にユスティーナが問い質し、
「・・・そうですよ、適当すぎます、変な言葉を使わないで下さい」
エレインまでもが眉間に皺を寄せている、レアンとマルヘリートはタロウを見つめるばかりで、ライニールも何を言い出すんだかと渋い顔であった、
「あー・・・つまりはほら、折角公爵夫人がいらっしゃるとの事で、ガラス鏡もこちらのお店も良いですが、それだけでは時間も余ろうと伯爵様が懸念されておりましてね、そこで、この街を良く知る私にお相手をするようにと・・・まぁ、そんな感じです、はい」
なんとも適当な言い訳をその場で考えながら口にするタロウ、おいおいとライニールは苦笑し、エレインもそれは流石にと顔を顰めてしまう、しかし、
「あぁ、そうね、そのように言っていたわね」
ユスティーナは甲高い声を上げてタロウではなくレアンに目配せする、するとレアンもまた、そうじゃったと甲高い声を上げ、
「父上から聞いておる、なんじゃ、来るのが遅かったのではないのか?」
と何とも芝居じみた事を言い出す始末、アンネリーンはその違和感に目を細めるも、
「そうなのです、儂もつい先ほどタロウ殿から呼び出されましてな、突然の事で驚いたのですが、これほどに内容の濃いお話ができるとは思わなかったです、流石接待・・・なんと言ったかな?」
学園長も話しを合わせてタロウを見上げた、アンネリーンもまぁこの三人が言うのであればとここは納得するしかないようで、タロウはその一瞬の気の緩みにスッと入り込むように、
「では、是非、学園に赴かれてはどうでしょう、そちらの脚本、その下地となったエレインさんのメイドの手記が掲示されております、さらには目新しい家畜、それと、王国軍とヘルデル軍が力を合わせて医療基地を構築しております、ここで公爵夫人、伯爵夫人が視察として訪れればきっと士気も上がろうと思います」
エッと驚いたのは学園長とユスティーナ達である、ユスティーナらは学園の訪問など考えておらず、キッサ店を満喫した後は屋敷に戻って休息をとった後で食事会となる予定で、学園長は学園長でそんな事は聞いていないとばかりにタロウを見上げてしまっていた、
「・・・」
アンネリーンはジッとタロウを見上げ、
「メイドの手記?」
と問い返す、
「はい、そちらの脚本その元になった手記ですね、それがあればこそ、その脚本は形になっております」
タロウがニコリと微笑む、確かにそのような事をエレインも学園長も言葉の端々で出していた、どういう事かとエレインを見つめるアンネリーンに、
「・・・えっと、その通りなのです、学園長の依頼で・・・と言ってはあれですが、その・・・」
エレインが学園長を伺うと、
「そうなのです、まずですな」
とその経緯を嬉々として語り始める学園長、タロウは暫し学園長に語らせ丁度良い頃合いで、
「では、実際に見に行きましょう、なに、転送陣を使いますからすぐです」
ニコニコと一同を見渡すのであった。
そうして学園に移動した一行である、アンネリーンはこれが転送陣かとその木枠をまじまじと観察し、おっかなびっくりと警戒しつつ潜っている、従者達も似たようなもので、確かに先程は奇妙な作りの建物だと思ったとコソコソと感想を口にしていた、そして学園に入れば入ったで、やはり学園は城として作られた施設であった、これは確かに先程の屋敷とは違うと呆気にとられて茫然としてしまう、ユスティーナがそうなのですよと呆れた様子で微笑み、エレインもまったくですと苦笑いを隠さない、アンネリーンはもう受け入れるしかないのねとすっかり諦めてしまった様子であった、どうやら適応能力も高いらしいとタロウは微笑んでしまう、ここでギャーギャーと騒がれても対処のしようがないのであるが、やはり何事も一見にしかず、一行にしかずなのだろう、そしてまずはとオリビアの手記を見物に向かう事となった、丁度良い事に生徒達はまだ授業中で、廊下は閑散としつつも各教室からは講師の声と生徒達の息遣いが感じられる、確かにここは学び舎なのだろうとアンネリーンも従者達も理解したようで、そのまま玄関ホールに入り、長い事掲示したままになっている手記を見上げるアンネリーン、従者達も一緒に眺めており、これは面白いと目を輝かせていた、
「・・・素晴らしい記録だわね・・・」
思わず呟くアンネリーン、アーレントとアンシェラもその隣にあって手記を見上げていたが、すぐに飽きたのかレアンの腕を引いて竹トンボと紙飛行機を取り出して飛ばしだす、先程の教室よりも広く天井が高い、さらには人気も無いとなれば飛ばして遊ぶこの二つの遊戯にとって玄関ホールはうってつけなのであった、そして若干離れてアンネリーンらの様子を見守るタロウに、ユスティーナとエレインさらにマルヘリートがそっと近づきどういう事かと小声で問い詰める、ガラス鏡店にもこっそり顔を出していたがとユスティーナは目を細め、エレインはそれは聞いてましたけどと擁護しつつもここまで口を出すとは聞いていなかったとタロウを睨む始末、タロウは大丈夫です、リシャルトさんにも許可を頂いていますからと三人を宥め、それならいいのかしらと納得するしか無い三人となる、
「いかがですかな?」
ニコニコとアンネリーンの接待を続けるのは学園長であった、
「・・・これはあれかしら、ここでしか読めないの?」
スッと学園長を見つめるアンネリーン、
「いえいえ、屋敷でじっくり読みたいと所望されましてな、レアン様とユスティーナ様には複写を届けております、それと、あちら、あちらは生徒達から集めた手記になりまして、そちらとあわせて書にまとめようかと考えております、何かと忙しく後回しになっておりましてな、いや、その間にも秀逸な手記が集まっております、しっかりまとめなければと思っておりますが、もう少し先になりそうです」
ニコリと微笑む学園長、
「まぁ・・・ユスティーナさん」
振り返るアンネリーンに、ユスティーナがハイハイと笑顔で駆け寄る、そうしてすっかり手記を堪能した一行、タロウは一段落着いたようだと場所を移す事を提案し、次に訪れたのが牛と豚の家畜小屋となる、そこには、
「あっ、タロウさんだー」
一行に気付いたサレバが大声を上げ、エッと生徒達が顔を上げる、どうやら授業中であった様子で、ルカスが振り返り、学園長とユスティーナらの姿にこれはと急ぎ駆け寄った、
「忙しい所ゴメンね」
とタロウがすぐにルカスに対し、その間にもアーレントとアンシェラがなんかいるーと柵に駆け寄る、アンネリーンも従者達もこれはと目を丸くして学園の内庭、薄い雪の中で、ダラダラと戯れる牛と豚を見つめ、学園長がここは任せろとばかりに説明を始めた、
「また、とんでもない事を・・・」
ルカスが呆れ顔で苦笑する、
「まぁ、成り行きってやつさ」
「どうしたんですかー、あっ、エレイン様もいるー」
サレバがタロウとルカスに駆け寄り、他の生徒達も手を休めてしまったようで、
「授業中でしょ」
タロウが睨むも、だって先生がーと口答えするサレバ、それもそうだとルカスは苦笑し、
「では、何かあったら対応します、あっ、乳しぼりやります?」
とヒョイと首を伸ばしてアーレントとアンシェラ、それと共にキャーキャーと楽しそうなレアンを覗く、
「それもいいね・・・あっ、学園長の蘊蓄が終わってからかな?」
振り返るタロウ、ルカスもそのようですねと微笑み、準備しておきますねとサレバと共に戻ると、講義を再開しつつ準備も始めたらしい、器用なものだなとタロウは微笑んでしまう、そして学園長の解説が終わり乳しぼりに悪戦苦闘している内に学園内に鐘が響く、どうやら講義終了の鐘らしく、ルカスは今日はここまでと生徒達を見渡し、生徒達は一行に大きく会釈をしたのちその場を去った、残ったのはルカスとサレバで、サレバはアンシェラにキャーキャーと楽しそうに乳しぼりを教えており、レアンとアーレントは自分で絞った牛乳を口にして満足そうで、アンネリーンもアーレントから受け取った牛乳を口にし、これは美味しいと目を丸くしている、従者達もユスティーナ達もレアンがわざわざ配り歩きしっかりと堪能したようで、これほどに臭みがない乳は初めてだとか、量も採れそうだと好印象であった、そうして牛乳を堪能した一行は生徒達で騒がしい廊下を歩き、講堂へ向かった、生徒達も生徒達で一行の姿を認めた瞬間にこれはと一歩下がり、いかにも生活科の生徒だなと一目で分かる生徒はメイドらしく一礼して道を譲る、大したものだとユスティーナは微笑み、アンネリーンは学園長に生徒達について質問し始めていた、何気にアンネリーンは学園という施設を訪問するのは初めての事であったりする、ヘルデルにも学園と呼ばれる施設も組織も存在するが、そちらを視察した事は無く、ヘルデルのあれもしっかり見ておかなければいけないかしらと興味深げに語っていた、そこへ、
「あっ、エレイン様だー」
と駆け寄る者がある、ジャネットとアニタにパウラであった、しかし、すぐにユスティーナとレアン、学園長にタロウが側にいるのに気付き、
「ゲッ、ヤベー」
と足を止める、
「今更なんですか」
ムッと叱りつけるエレイン、レアンもユスティーナもクスクスと微笑み、アンネリーンはどういう事かと顔を顰める、エレインがそれに気づいたようで、
「申し訳ありません、私どもの商会の従業員、いえ、設立から共にしている大事な友人なのです」
エレインが三人を紹介すると、アンネリーンはそうなの?と明るい笑顔を向けた、
「ほら、ちゃんと御挨拶を、ヘルデル公爵夫人、アンネリーン様と、世継ぎとなるアーレント様とアンシェラ様よ」
ギッと三人を睨むエレイン、エッと言葉を無くし固まる三人、アンネリーンはうふふと微笑み、
「まったく、この街は面白いわね」
優雅に柔らかく微笑むのであった。
それから一行は講堂へ向かう、生徒よりも兵士の姿が多くなった廊下で、行き交う兵士が邪魔くさそうに睨みつつ道を譲るも、そのうちの一人がエッと気付いたようである、サッと従者の一人に確認し、さらに驚いて講堂へ走り去りすぐに数人の兵士が駆け戻ってくる、そして、
「アンネリーン様、このような所に何用ですか」
大きく頭を垂れつつも慌てているのか何とも無礼な物言いであった、先程の生徒達の方が余程礼儀を弁えていると感じられる程で、これはと従者の一人とライニールが進み出るも、アンネリーンはそれを押し止め、
「何用とは随分な言葉使いだわね、責任者はいるの?」
と冷たく返す、タロウがあっまずいかなと感じて一歩踏み出し、アンネリーンとその兵士の間に立つと、
「申し訳ない、公爵夫人様、伯爵夫人様、共に皆を激励したいとの事でね、先達が無かったのは確かに失礼ではあるし、こちらの不手際ではある、しかしなにぶんお忍びとなるものでね、御容赦頂きたい、その上で視察は可能であろうか、それと責任者が御手透きであれば対応を頼みたい、学園長も同行されている」
突然の役人口調であった、これには逆にアンネリーンがエッと驚き、もうと顔を顰めるエレインにユスティーナ、
「はっ、あっ、タロウ殿ですか」
目を丸くするその兵士達、恐らくいつぞやの講義に参加していたのであろう、公爵夫人よりもタロウに驚いた様子で、タロウはその方が失礼だろうと苦笑しつつ、
「そっ、その、タロウです、ですが、今日はほら、公爵夫人と伯爵夫人の方が重要でしょ、皆さんのお仕事を見て頂く良い機会です、突然で申し訳ないがね、対応頼むよ」
一転普段通りの砕けた言葉使いとなる、ハァーとつられて気の抜けた声を発する兵士達、さらにそこへ隊長格らしき兵士が駆けて来る、アンネリーンの姿を確認し、馬鹿者と兵士達を叱責する始末、あー、やっぱり思い付きでやるべきじゃないなーとタロウは苦笑するも、アンネリーンはどこか楽しそうで、
「構いませんよ、で、こちらでは医療基地を構築中とか、どういうことなのかしら?」
ニコリと後から来た兵士に微笑みかけた、ハッと背筋を正す兵士、どうやら面識があるらしい、こちらへと固い表情で促す兵士と、心底楽しそうにそれに従うアンネリーン、ユスティーナらもそれに続き、やれやれどうにかなったかなとタロウはホッと一息ついた、しかし、
「あー・・・根回しが足りないようですね・・・」
ライニールがポツリとタロウに呟き、
「そのようだな、先に連絡するべきであった、いや、その暇も無ければ、意味も無かったかもしれんがな」
うんうんと大きく頷く学園長、
「そうですねー、勝手が過ぎたようです」
と頬をかき、申し訳なかったねと叱責されてしまった兵に頭を下げるタロウ、そんなと慌てる兵士達であった。
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追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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