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本編
76話 王家と公爵家 その35
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その頃寮である、
「出来たー」
「やっとー」
「遅いー」
「うるせー、姉ちゃん達が早いんだよ」
「あんたが遅いのー、真面目にやらないからでしょー」
「むー、真面目にやったー」
「嘘言うな」
「嘘じゃないー」
フロールとブロースの小さな姉弟喧嘩が始まり、ハイハイと仲裁するソフィア、何が出来たかと言えば毛糸のマフラーである、午前中の授業はヘラルダの音楽となり、それも飽きたであろう頃合いでソフィアが食堂に戻って編み物教室となっていた、ソフィアはそろそろ完成させましょうかと一同を見渡し、女児達はヤルーと気合充分であったが、やはりブロースは今一つ乗り気では無いらしく、しかし周りの女児達が真面目に取り組むものだから結局静かになってなんとかチクチクとやっていた、そしてまず完成させたのがフロールである、ソフィアはどれどれと出来上がったそれを手にし、これなら売り物になるわねと最上級の褒め言葉であった、満面の笑みを浮かべるフロールである、そしてソフィアはフリンジの編み込み方を教えつつ仕上げると、よりお洒落になったとピョンピョン飛び跳ねるフロール、続けざまにサスキアとノールとノーラもこんな感じ?と完成させたようである、ソフィアはそれらにもフリンジを編み込み、早速と嬉しそうに首に巻く四人、残されたのはブロースとミナである、しかしミナのそれはソフィアに贈る為と他の子よりも太く長いものになっており、ミナはムーと寂しそうにソフィアを見上げるも、ソフィアはミナのは大人用だから手間がかかるのよと優しく微笑み、レインもなら手伝うかと手を伸ばすが、一人でやるとミナは鼻息を荒くし、しかしブロースも完成させたらしく、さらに疲れと飽きもあってかムニューと炬燵に寝そべってしまった、
「じゃ、ブロース君のもフリンジを着けましょうね」
「うん、えっと、青がいい、青色ー」
「あら、色違いにする?」
「うん、違うのがいい」
「そっか、じゃ、これ?」
編み物籠から適当に取り出した青色の毛糸玉にブロースはそれでいいーと大声を上げ、ソフィアはじゃこれでと仕上げ作業に入る、それも良かったかもなーと羨ましそうに見つめるフロール達、しかしすぐに自作のマフラーに目を落し、やっぱりこの色がいいとなったらしい、ウフフーと幸せそうに頬に当てたり鼻を埋めたりと忙しい、
「ブー・・・終わんないー・・・」
両手を投げ出し頬を膨らませるミナ、
「じゃからいっておるじゃろ、手伝うぞ」
ヤレヤレと呆れ顔のレインである、レインもまた何もしないのもなんだからとマフラーを編んでいた、こちらは自分用のものになる、しかしマフラーとするには充分な長さになっていた、手を止めないのはどうやらミナに付き合っているつもりであるらしい、レインらしい気の使い方だなとソフィアは微笑んでしまう、
「やだー、ソフィーのはミナが編むのー」
「ならしっかりやるのじゃ」
「疲れたー」
「まぁ・・・それはそうじゃろうな」
レインがフンと鼻で笑う、ソフィアから今日中に仕上げようとの檄が飛び、それに感化されたのか子供達は無類の集中力を発揮して編み上げている、しかしそれだけ時間もかかっており、そろそろフェナが迎えに来てもおかしくない時間で、さらにはティルとミーンも厨房で夕食の準備中であった、ソフィアが明日からの事もあるからと調理は二人に任せて子供達の相手をしている状況となっている、何気に珍しい対応であった、
「もう、ミナちゃんも意地っ張りねー」
ニコニコと微笑むヘラルダ、ヘラルダもまたソフィアに教わってマフラーを編んでいる、しかしそこはもうすっかり大人のヘラルダであった、少しばかりの手解きであっという間にそれなりの量を編んでいる、すげーはえーとブロースが目を丸くする程で、そりゃ先生だもん当然でしょーとフロールがブロースを叱るも、そんなに得意では無いんですよとヘラルダはニコニコと二人を諫めていた、
「そうじゃのう、まったく、困ったものじゃ」
チクチクと編み棒を動かしながらフンとレインはミナを睨み、
「ブー、やるー、絶対やるのー」
ミナがバッと半身を上げて叫ぶもその手が動く事は無いようで、
「じゃあ、やるのじゃ」
「でもー・・・」
シナシナと倒れ込むミナ、もうと微笑むヘラルダである、そしてブロースのマフラーにもフリンジが編み込まれたようで、ブロースが早速首に巻いて、どうだーとフロールに自慢する始末、こっちのが可愛いーとフロールが反撃し、そうだそうだとノールとノーラも参戦する、ギャーギャーと騒がしくなったところで、
「ハイハイ、じゃ、どうしようかしら、明日はお休みなのよね」
とソフィアが誰にともなく確認する、そう言えばと振り返る女児達、明日は一日早い商会の給料日で、となればこの小さな学校も休みなのである、
「まぁ、遊びに来てもいいけどね、あっ、そうだ、お祭りはどうするの?」
「お祭り?」
フロールがキョトンと問い返し、ノールとノーラがお祭り行くーと大声を上げた、
「あら、聞いてた?」
「うん、フィロ姉ががんばってるー」
「父ちゃんもー」
「へー、なにかやるの?ってあれか宝クジか」
「うん、それー、忙しいんだってー、だから、勝手に行けばーって言われたー」
一転少しばかり寂しそうに俯くノール、
「うん、他の姉ちゃんも忙しいから駄目って言われたー」
ノーラも俯き、サスキアもウーと寂しそうである、
「あら・・・そうなの?」
ソフィアが首を傾げるとうんと同時に頷く三姉妹、フロールとブロースはお祭りがあるんだーと逆に顔を明るくしており、ミナもお祭りーとガバッと起き上がる、もうと微笑むヘラルダとまったくと呆れ顔のレインであった、
「じゃ・・・どうしようかしら、フィロメナさんとフェナさんが良かったらみんなで行く?」
エッとソフィアを見つめる子供達、すぐに、
「行く、行きたい、いいのー」
ノールがピョンと飛び跳ね、
「ノーラも、ノーラも行きたい」
「ウー・・・行くー」
サスキアも珍しく口を開いた、
「そうね、レイン、そういう事だから、よろしくね」
ソフィアがニコリとレインに微笑む、
「ハッ?何故そうなる」
レインが思わず大声を上げてしまったようで、ヘラルダがオワッと驚くほどの大声であった、
「なんでって、ほら、ね、レインは助手さんだしね、引率くらい簡単でしょ」
「ええい、言い出しっぺはソフィアじゃろ」
「そうだけどねー、ほら、お祭りとなると偉い人が来るかもだしねー」
「偉いも偉く無いもあるか」
「そう言う訳にはいかないの、まぁ、その偉い人達と一緒でもいいんだけど、取り合えずよ」
「取り合えずとはなんじゃ」
ソフィアを睨むレインであるが、子供達はウーと寂しそうにレインを見つめ、ミナまでもが無言で縋るような瞳である、
「・・・まったく、わかったわかった、あれじゃな、他の大人がいなければじゃ、いいか、お主ら、良い子にしなければ連れて行かんからな」
ブスッとそっぽを向いたレインに、ヤッターと飛び跳ねる子供達、ヘラルダはレインちゃんも優しいなーと微笑んでしまう、
「じゃ、そういう事で、そうね、じゃ、みんなでマフラーを巻いていきましょうか、お揃いで歩けばカッコいいわよ」
ソフィアがニコリと提案する、何のことは無い最初からこれが目的であったりする、今日中にマフラーを完成させると言い出したのも今日が恐らく今年最後の授業となり明日以降はほぼ休日となる為で、となればせめてマフラーだけでも完成させ、祭りに間に合わせるのが面白いかもなと思いついたのであった、
「それいいー」
「うん、みんなでマフラー」
「お洒落するー」
「えー・・・お洒落はヤダー」
「うっさい、ブロースはいいの」
「えー、それもヤダー」
「どっちなのよ」
キャッキャッとはしゃぎだす女児達と再び喧嘩腰の姉弟、ヘラルダは流石ソフィアさんだなーと微笑みつつスイスイと編み棒は動き続けるのであった。
それから暫くしてフェナが迎えに来る、フロースとブロースはマフラー出来たーとフェナに見せつけ、良かったわねーと満面の笑みで二人を褒めるフェナ、ソフィアが祭りの事を確認すれば確かに明日は休みで祭りの期間は仕事であるらしい、となればと子供達も預かるし、祭りにも連れて行くからとソフィアはフェナに提案し、それはと遠慮するもソフィアは一人行くのも六人行くのも一緒だからといい加減で、それはだってとフェナが難色を示すがフロールが大丈夫、大人しくするからーとフェナに抱き着き、ブロースも良い子にすると抱き着く始末、もうと認めざるを得なかった様子のフェナであった、そしてフィロメナらには私から話しておきますとヘラルダが三姉妹を連れて帰途に就く、ミナがまたねーと見送り、ヤレヤレ今日も何とかなったかなと一息吐いたソフィアである、そして、
「あっ、ミナ、レイン、三階にいってみなさい」
ソフィアは編み物籠を片付けつつ二人に微笑む、
「エッ?」
と顔を上げるミナと、フンと鼻を鳴らすレイン、しかしレインはどこか楽しそうで、
「あー・・・わかった?」
ソフィアがニヤリと微笑むと、
「まずな」
レインもニヤリと微笑み返す、ムーと二人を睨むミナ、
「どう?」
「嫌いではないぞ、うん」
腕を組んで偉そうに頷くレイン、
「ならいいけど、まぁ、他の子達次第だからねー、まぁ、ミナが言い出したら誰も止めないでしょうけど」
ヤレヤレと厨房へ向かうソフィア、
「じゃろうな、まぁ、悪くはないぞ、うん」
レインが大きく頷くも、
「なにー、何の事ー?」
ミナがキョロキョロと二人を見比べる、
「行けばわかるぞ、行くか」
「わかったー」
サッと階段に向かうレインをミナは不思議そうに追いかける、まぁ、一目見たら離さないだろうなーとソフィアはほくそ笑み、私も嫌いじゃないからいいかしらと厨房へ入る、そしてミナとレインが三階に上がると、
「おっ、来たな」
カトカがニヤリと二人を迎える、どうやら中央の作業場に一人らしい、ゾーイはエルマと共に王都に資料を探しに行っており、ユーリとサビナは学園である、
「来たー、ソフィーに行けって言われたー」
尚不思議そうに首を傾げてしまうミナ、カトカはそっかーと微笑み腰を上げる、水の比較検証実験も良い感じに進んでいた、準備した樽のその半分以上を煮詰めてしまい、逆にここらへんで一度しっかり水分を飛ばしてみてそれで明確な差が判明すればそれでいいかなと締めにかかっている段階となる、単に飽きたとも言えるが、
「じゃ、どれ」
カトカは中央に置いた作業テーブルに向かう、テーブルには口を大きく開けた麻袋が置かれており、カトカはニマニマと怪しい笑みを浮かべてそれを覗き込む、
「なにそれー」
ミナがつっかけに履き替えつつトテトテとテーブルに近づく、レインもつっかけに履き替え、
「それでは狭かろう」
と嬉しそうである、
「あら、レインちゃんはソフィアさんに聞いたの?」
カトカがフッと顔を上げた、
「まずのう、いや、そうか寝ておるのか」
「そうみたいよー、エルマさんがね、寝るのが仕事だからーって言ってたけどそういうものなの?」
「赤子の頃はそうであろう、人も同じじゃ」
「それもそっか」
「なにー、寝てるのー」
テーブルに手を置いてカトカを見上げるミナ、カトカもさてどうからかってやろうかとミナを見下ろすも、いや、ここは素直に見せるのが一番楽しいかもなと考え直し、しかしそれではつまらないかもと悩んでしまう、しかしレインにはその思考すら読まれているらしく、
「勿体ぶるでない」
ピシリと叱られてしまった、
「もー、それじゃつまんないじゃない」
「つまるつまらんの問題ではない」
「あー、レインちゃんも好きなんでしょー」
「そんな事は言っておらん」
カトカはからかう対象をレインに変えたらしい、ニマニマと怪しげに微笑むカトカ、めんどくさそうに睨み返すレインである、
「だからなにー」
ブーとミナがカトカを睨む、
「あー・・・じゃ、仕方ないかなー」
カトカはこんなもんかなと諦めたらしい、麻袋を大きく開き中の籠をそっと持ち上げる、かなりの大きさであるが重くは無い、そして、ミナが背伸びをして覗き込む、そこには柔らかそうな毛玉が一つちんまりと丸まっていた、
「エッ・・・」
ミナが不思議そうにカトカを見上げ、ついでレインへ視線を移す、
「ほう、これはこれは・・・」
「うふふ、お気に召すかしら?」
「なに?これー」
やっと毛玉に集中するミナ、するとその毛玉がムクリと起き上がり、ワッと驚くミナである、そしてその鼻先がヒクヒクと動き、丸くつぶらな二つの瞳がミナを捉えた、
「エッ、エッ、えっ・・・」
ミナはカトカとレインをキョロキョロと見上げ、エッと絶句し毛玉を見つめる、
「フフン、分る?」
ニヤリとカトカが微笑み、
「えっと、えっと、ニャンコ?」
ミナは即座に答えるも、
「よく見ろ、ワンコじゃ」
レインがまったくと呆れたような口ぶりで、しかしその顔は優しく微笑んでいた、
「ワンコ・・・」
ジーっとミナが籠の中の子犬を見つめる、まるまるとして柔らかそうな灰色の毛が不安そうにプルプルと揺れ、丸く輝く湿った瞳、その視線が正面からミナを捉えており、キューと小さく鳴いたようである、
「ワンコ・・・ワンコの赤ちゃん!!」
やっと理解して叫ぶミナ、
「そうねー、ワンコの赤ちゃんだわねー」
「うむ、良いワンコじゃ、賢くなるぞ」
「そうなの?ワンコー、ワンコー、えー、可愛いー、ワンコなのに、可愛いー、なんでー、なんで可愛いのー」
「ワンコなのにって・・・」
「なんでってな・・・ワンコは可愛いもんだぞ」
「えー、だってー、ワンコ怖いもん、吠えるしー」
「それはそういう仕事じゃ」
「仕事なの?エッ、でも、なんで?ワンコだー、ワンコー」
ギャーギャー叫んで籠に抱き着くミナ、灰色の毛玉はクゥーンと一つ鳴いて押し付けられたミナの鼻の頭に乾いた鼻づらを押し付けると、ワッとミナの嬉しそうな叫び声が響く、ビクリと震える子犬、しかしミナの爛々と輝く瞳を正面から捉えその鼻先をオズオズと震えながらペロリと舐めあげた。
「出来たー」
「やっとー」
「遅いー」
「うるせー、姉ちゃん達が早いんだよ」
「あんたが遅いのー、真面目にやらないからでしょー」
「むー、真面目にやったー」
「嘘言うな」
「嘘じゃないー」
フロールとブロースの小さな姉弟喧嘩が始まり、ハイハイと仲裁するソフィア、何が出来たかと言えば毛糸のマフラーである、午前中の授業はヘラルダの音楽となり、それも飽きたであろう頃合いでソフィアが食堂に戻って編み物教室となっていた、ソフィアはそろそろ完成させましょうかと一同を見渡し、女児達はヤルーと気合充分であったが、やはりブロースは今一つ乗り気では無いらしく、しかし周りの女児達が真面目に取り組むものだから結局静かになってなんとかチクチクとやっていた、そしてまず完成させたのがフロールである、ソフィアはどれどれと出来上がったそれを手にし、これなら売り物になるわねと最上級の褒め言葉であった、満面の笑みを浮かべるフロールである、そしてソフィアはフリンジの編み込み方を教えつつ仕上げると、よりお洒落になったとピョンピョン飛び跳ねるフロール、続けざまにサスキアとノールとノーラもこんな感じ?と完成させたようである、ソフィアはそれらにもフリンジを編み込み、早速と嬉しそうに首に巻く四人、残されたのはブロースとミナである、しかしミナのそれはソフィアに贈る為と他の子よりも太く長いものになっており、ミナはムーと寂しそうにソフィアを見上げるも、ソフィアはミナのは大人用だから手間がかかるのよと優しく微笑み、レインもなら手伝うかと手を伸ばすが、一人でやるとミナは鼻息を荒くし、しかしブロースも完成させたらしく、さらに疲れと飽きもあってかムニューと炬燵に寝そべってしまった、
「じゃ、ブロース君のもフリンジを着けましょうね」
「うん、えっと、青がいい、青色ー」
「あら、色違いにする?」
「うん、違うのがいい」
「そっか、じゃ、これ?」
編み物籠から適当に取り出した青色の毛糸玉にブロースはそれでいいーと大声を上げ、ソフィアはじゃこれでと仕上げ作業に入る、それも良かったかもなーと羨ましそうに見つめるフロール達、しかしすぐに自作のマフラーに目を落し、やっぱりこの色がいいとなったらしい、ウフフーと幸せそうに頬に当てたり鼻を埋めたりと忙しい、
「ブー・・・終わんないー・・・」
両手を投げ出し頬を膨らませるミナ、
「じゃからいっておるじゃろ、手伝うぞ」
ヤレヤレと呆れ顔のレインである、レインもまた何もしないのもなんだからとマフラーを編んでいた、こちらは自分用のものになる、しかしマフラーとするには充分な長さになっていた、手を止めないのはどうやらミナに付き合っているつもりであるらしい、レインらしい気の使い方だなとソフィアは微笑んでしまう、
「やだー、ソフィーのはミナが編むのー」
「ならしっかりやるのじゃ」
「疲れたー」
「まぁ・・・それはそうじゃろうな」
レインがフンと鼻で笑う、ソフィアから今日中に仕上げようとの檄が飛び、それに感化されたのか子供達は無類の集中力を発揮して編み上げている、しかしそれだけ時間もかかっており、そろそろフェナが迎えに来てもおかしくない時間で、さらにはティルとミーンも厨房で夕食の準備中であった、ソフィアが明日からの事もあるからと調理は二人に任せて子供達の相手をしている状況となっている、何気に珍しい対応であった、
「もう、ミナちゃんも意地っ張りねー」
ニコニコと微笑むヘラルダ、ヘラルダもまたソフィアに教わってマフラーを編んでいる、しかしそこはもうすっかり大人のヘラルダであった、少しばかりの手解きであっという間にそれなりの量を編んでいる、すげーはえーとブロースが目を丸くする程で、そりゃ先生だもん当然でしょーとフロールがブロースを叱るも、そんなに得意では無いんですよとヘラルダはニコニコと二人を諫めていた、
「そうじゃのう、まったく、困ったものじゃ」
チクチクと編み棒を動かしながらフンとレインはミナを睨み、
「ブー、やるー、絶対やるのー」
ミナがバッと半身を上げて叫ぶもその手が動く事は無いようで、
「じゃあ、やるのじゃ」
「でもー・・・」
シナシナと倒れ込むミナ、もうと微笑むヘラルダである、そしてブロースのマフラーにもフリンジが編み込まれたようで、ブロースが早速首に巻いて、どうだーとフロールに自慢する始末、こっちのが可愛いーとフロールが反撃し、そうだそうだとノールとノーラも参戦する、ギャーギャーと騒がしくなったところで、
「ハイハイ、じゃ、どうしようかしら、明日はお休みなのよね」
とソフィアが誰にともなく確認する、そう言えばと振り返る女児達、明日は一日早い商会の給料日で、となればこの小さな学校も休みなのである、
「まぁ、遊びに来てもいいけどね、あっ、そうだ、お祭りはどうするの?」
「お祭り?」
フロールがキョトンと問い返し、ノールとノーラがお祭り行くーと大声を上げた、
「あら、聞いてた?」
「うん、フィロ姉ががんばってるー」
「父ちゃんもー」
「へー、なにかやるの?ってあれか宝クジか」
「うん、それー、忙しいんだってー、だから、勝手に行けばーって言われたー」
一転少しばかり寂しそうに俯くノール、
「うん、他の姉ちゃんも忙しいから駄目って言われたー」
ノーラも俯き、サスキアもウーと寂しそうである、
「あら・・・そうなの?」
ソフィアが首を傾げるとうんと同時に頷く三姉妹、フロールとブロースはお祭りがあるんだーと逆に顔を明るくしており、ミナもお祭りーとガバッと起き上がる、もうと微笑むヘラルダとまったくと呆れ顔のレインであった、
「じゃ・・・どうしようかしら、フィロメナさんとフェナさんが良かったらみんなで行く?」
エッとソフィアを見つめる子供達、すぐに、
「行く、行きたい、いいのー」
ノールがピョンと飛び跳ね、
「ノーラも、ノーラも行きたい」
「ウー・・・行くー」
サスキアも珍しく口を開いた、
「そうね、レイン、そういう事だから、よろしくね」
ソフィアがニコリとレインに微笑む、
「ハッ?何故そうなる」
レインが思わず大声を上げてしまったようで、ヘラルダがオワッと驚くほどの大声であった、
「なんでって、ほら、ね、レインは助手さんだしね、引率くらい簡単でしょ」
「ええい、言い出しっぺはソフィアじゃろ」
「そうだけどねー、ほら、お祭りとなると偉い人が来るかもだしねー」
「偉いも偉く無いもあるか」
「そう言う訳にはいかないの、まぁ、その偉い人達と一緒でもいいんだけど、取り合えずよ」
「取り合えずとはなんじゃ」
ソフィアを睨むレインであるが、子供達はウーと寂しそうにレインを見つめ、ミナまでもが無言で縋るような瞳である、
「・・・まったく、わかったわかった、あれじゃな、他の大人がいなければじゃ、いいか、お主ら、良い子にしなければ連れて行かんからな」
ブスッとそっぽを向いたレインに、ヤッターと飛び跳ねる子供達、ヘラルダはレインちゃんも優しいなーと微笑んでしまう、
「じゃ、そういう事で、そうね、じゃ、みんなでマフラーを巻いていきましょうか、お揃いで歩けばカッコいいわよ」
ソフィアがニコリと提案する、何のことは無い最初からこれが目的であったりする、今日中にマフラーを完成させると言い出したのも今日が恐らく今年最後の授業となり明日以降はほぼ休日となる為で、となればせめてマフラーだけでも完成させ、祭りに間に合わせるのが面白いかもなと思いついたのであった、
「それいいー」
「うん、みんなでマフラー」
「お洒落するー」
「えー・・・お洒落はヤダー」
「うっさい、ブロースはいいの」
「えー、それもヤダー」
「どっちなのよ」
キャッキャッとはしゃぎだす女児達と再び喧嘩腰の姉弟、ヘラルダは流石ソフィアさんだなーと微笑みつつスイスイと編み棒は動き続けるのであった。
それから暫くしてフェナが迎えに来る、フロースとブロースはマフラー出来たーとフェナに見せつけ、良かったわねーと満面の笑みで二人を褒めるフェナ、ソフィアが祭りの事を確認すれば確かに明日は休みで祭りの期間は仕事であるらしい、となればと子供達も預かるし、祭りにも連れて行くからとソフィアはフェナに提案し、それはと遠慮するもソフィアは一人行くのも六人行くのも一緒だからといい加減で、それはだってとフェナが難色を示すがフロールが大丈夫、大人しくするからーとフェナに抱き着き、ブロースも良い子にすると抱き着く始末、もうと認めざるを得なかった様子のフェナであった、そしてフィロメナらには私から話しておきますとヘラルダが三姉妹を連れて帰途に就く、ミナがまたねーと見送り、ヤレヤレ今日も何とかなったかなと一息吐いたソフィアである、そして、
「あっ、ミナ、レイン、三階にいってみなさい」
ソフィアは編み物籠を片付けつつ二人に微笑む、
「エッ?」
と顔を上げるミナと、フンと鼻を鳴らすレイン、しかしレインはどこか楽しそうで、
「あー・・・わかった?」
ソフィアがニヤリと微笑むと、
「まずな」
レインもニヤリと微笑み返す、ムーと二人を睨むミナ、
「どう?」
「嫌いではないぞ、うん」
腕を組んで偉そうに頷くレイン、
「ならいいけど、まぁ、他の子達次第だからねー、まぁ、ミナが言い出したら誰も止めないでしょうけど」
ヤレヤレと厨房へ向かうソフィア、
「じゃろうな、まぁ、悪くはないぞ、うん」
レインが大きく頷くも、
「なにー、何の事ー?」
ミナがキョロキョロと二人を見比べる、
「行けばわかるぞ、行くか」
「わかったー」
サッと階段に向かうレインをミナは不思議そうに追いかける、まぁ、一目見たら離さないだろうなーとソフィアはほくそ笑み、私も嫌いじゃないからいいかしらと厨房へ入る、そしてミナとレインが三階に上がると、
「おっ、来たな」
カトカがニヤリと二人を迎える、どうやら中央の作業場に一人らしい、ゾーイはエルマと共に王都に資料を探しに行っており、ユーリとサビナは学園である、
「来たー、ソフィーに行けって言われたー」
尚不思議そうに首を傾げてしまうミナ、カトカはそっかーと微笑み腰を上げる、水の比較検証実験も良い感じに進んでいた、準備した樽のその半分以上を煮詰めてしまい、逆にここらへんで一度しっかり水分を飛ばしてみてそれで明確な差が判明すればそれでいいかなと締めにかかっている段階となる、単に飽きたとも言えるが、
「じゃ、どれ」
カトカは中央に置いた作業テーブルに向かう、テーブルには口を大きく開けた麻袋が置かれており、カトカはニマニマと怪しい笑みを浮かべてそれを覗き込む、
「なにそれー」
ミナがつっかけに履き替えつつトテトテとテーブルに近づく、レインもつっかけに履き替え、
「それでは狭かろう」
と嬉しそうである、
「あら、レインちゃんはソフィアさんに聞いたの?」
カトカがフッと顔を上げた、
「まずのう、いや、そうか寝ておるのか」
「そうみたいよー、エルマさんがね、寝るのが仕事だからーって言ってたけどそういうものなの?」
「赤子の頃はそうであろう、人も同じじゃ」
「それもそっか」
「なにー、寝てるのー」
テーブルに手を置いてカトカを見上げるミナ、カトカもさてどうからかってやろうかとミナを見下ろすも、いや、ここは素直に見せるのが一番楽しいかもなと考え直し、しかしそれではつまらないかもと悩んでしまう、しかしレインにはその思考すら読まれているらしく、
「勿体ぶるでない」
ピシリと叱られてしまった、
「もー、それじゃつまんないじゃない」
「つまるつまらんの問題ではない」
「あー、レインちゃんも好きなんでしょー」
「そんな事は言っておらん」
カトカはからかう対象をレインに変えたらしい、ニマニマと怪しげに微笑むカトカ、めんどくさそうに睨み返すレインである、
「だからなにー」
ブーとミナがカトカを睨む、
「あー・・・じゃ、仕方ないかなー」
カトカはこんなもんかなと諦めたらしい、麻袋を大きく開き中の籠をそっと持ち上げる、かなりの大きさであるが重くは無い、そして、ミナが背伸びをして覗き込む、そこには柔らかそうな毛玉が一つちんまりと丸まっていた、
「エッ・・・」
ミナが不思議そうにカトカを見上げ、ついでレインへ視線を移す、
「ほう、これはこれは・・・」
「うふふ、お気に召すかしら?」
「なに?これー」
やっと毛玉に集中するミナ、するとその毛玉がムクリと起き上がり、ワッと驚くミナである、そしてその鼻先がヒクヒクと動き、丸くつぶらな二つの瞳がミナを捉えた、
「エッ、エッ、えっ・・・」
ミナはカトカとレインをキョロキョロと見上げ、エッと絶句し毛玉を見つめる、
「フフン、分る?」
ニヤリとカトカが微笑み、
「えっと、えっと、ニャンコ?」
ミナは即座に答えるも、
「よく見ろ、ワンコじゃ」
レインがまったくと呆れたような口ぶりで、しかしその顔は優しく微笑んでいた、
「ワンコ・・・」
ジーっとミナが籠の中の子犬を見つめる、まるまるとして柔らかそうな灰色の毛が不安そうにプルプルと揺れ、丸く輝く湿った瞳、その視線が正面からミナを捉えており、キューと小さく鳴いたようである、
「ワンコ・・・ワンコの赤ちゃん!!」
やっと理解して叫ぶミナ、
「そうねー、ワンコの赤ちゃんだわねー」
「うむ、良いワンコじゃ、賢くなるぞ」
「そうなの?ワンコー、ワンコー、えー、可愛いー、ワンコなのに、可愛いー、なんでー、なんで可愛いのー」
「ワンコなのにって・・・」
「なんでってな・・・ワンコは可愛いもんだぞ」
「えー、だってー、ワンコ怖いもん、吠えるしー」
「それはそういう仕事じゃ」
「仕事なの?エッ、でも、なんで?ワンコだー、ワンコー」
ギャーギャー叫んで籠に抱き着くミナ、灰色の毛玉はクゥーンと一つ鳴いて押し付けられたミナの鼻の頭に乾いた鼻づらを押し付けると、ワッとミナの嬉しそうな叫び声が響く、ビクリと震える子犬、しかしミナの爛々と輝く瞳を正面から捉えその鼻先をオズオズと震えながらペロリと舐めあげた。
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「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」
「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」
これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。
<前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです>
注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。
(読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
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「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
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アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
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追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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