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本編
79話 兄貴達 その4
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それから蛇に関する何とも能天気な結果を導き出して今日の会議は終わりを迎えた、取り合えずあの二匹の処遇は確定出来ないうちは荒野から出す事は無いとし、飼育の算段がついた暁には各都市を行脚させ見世物とする結論で、飼育の目途が立たなかった場合は即刻処分し、その頭骨を王城とヘルデルの城に飾る事となっている、イフナースはあれも家畜には違いないから大事にするべきだと先日口にした自論をそのまま展開するも、クンラートに家畜であれば屠殺するのは飼い主の権利であると反論され、グゥと黙り込んで心底不愉快そうにクンラートを睨みつけるイフナースであった、他の軍団長は見世物として自領に来るのであれば嬉しいと妙に前向きで、タロウはなるほど、物好きは多いらしいと思いつつ、巡回動物園でもやれば儲かるかなとも考える、王国はやはり娯楽が少ない、帝国で飼育されている動物を連れて来るだけでも一財産築けそうで、それは牛と豚の例を上げる必要も無いかと自分の所業を思い出すタロウであった、そして、
「タロウ殿少し良いか?」
会議が終わり続々と男達が腰を上げ始めた瞬間、カラミッドがサッと近寄りタロウを捕まえた、
「ハイハイ、なにか?」
ニコリと微笑み立ち上がるタロウ、隣りのクロノスはチラッとカラミッドを視界に収めるも口を出す事は無く、イフナースもリンドと何やら打合せを始める、
「すまんな、一つ確認しておきたくてな」
カラミッドは真摯な瞳でタロウを見つめ、その背後のリシャルトも礼儀正しく控えつつも何やら言いたそうである、
「はい、答えられる事であれば」
「ありがたい、その・・・街とこの場を繋ぐ道の事でな」
「道・・・あぁ、確かに領主様なら気になる所ですね」
ニコリと微笑むタロウ、クロノスも聞き耳を立てていたのか一度背を向けるもゆっくりと三人に向き直る、
「左様、しかし、あれほどの・・・その魔法によるものと聞いたが、貴殿に本当に可能なのか?」
いや疑うような口を利いて申し訳ないがと、なんとも歯切れが悪く腰の低いカラミッド、リシャルトも心配そうに口元を歪めている、
「そんな・・・もっと偉そうにして下さいよ、私はあくまで平民なんですから」
タロウはニコニコと微笑みつつ、確かにカラミッドとしては最重要事であろうなと察する、
「お前ね、それは少し違うだろ」
クロノスがまったくこいつはとタロウを睨みつけた、
「エッ・・・なんだよ、お前さんまで」
クロノスを見上げ顔を顰めるタロウ、
「それだよ、俺やイフナースにタメ口を叩いておいて自分は平民でございますなどとチャンチャラおかしいわ」
「いや、それはだってさ」
「だっても糞もねぇよ、第一お前だぞ自分が英雄の一人だと公言したのはな」
ジローッとタロウを睨みつつクロノスは続け、エッとタロウは絶句する、確かにと頷くカラミッドとリシャルト、
「・・・まぁ・・・そう・・・だがさ・・・」
これは素直に受け入れるしかないタロウである、スヒーダムでの会合、その場を円滑に動かすためにと口にしたちょっとした軽口がどうやらタロウの扱いを大きく変えたらしい、そう言えばあれからすっかりリシャルトさんは固くなってしまったなとタロウは思い出す、つい先日迄はあくまで平民としての扱いで、伯爵家の筆頭従者らしい居丈高な態度であったと思う、となればカラミッドもまた接し方を改めてしまったのであろう、何ともめんどくさい事だなと少しばかり後悔してしまうタロウであった、
「まぁ、俺としては楽だがな、お前の事は誤魔化さなくて良くなった、いらん嘘を吐く必要が無くなったと思えば気楽なもんさ」
「なんだよそれは・・・」
「そのままだよ、俺は正直で真っ直ぐな男だからよ」
ガッハッハとクロノスは笑い、為政者としてそれはどうだろうかとタロウは苦笑してしまう、なるほど自分は王の器では無いと自覚するだけの事はある、どうやら政治家らしい腹黒さも詭弁を扱う才覚も無い、権謀術策を陰でこそこそ練る気も無い、気持ちがいい程の割り切りと達観そして自己分析であった、タロウは昔の渾名を思い出す、自分がそう名付けたのであるが、直進番長、それがクロノスの渾名であり、仲間内には意味は分からんがなんとなく通じると好評であった、どうやらクロノスの本質はあの頃のままのようである、
「で、どうしたいんだ?」
クロノスがタロウに替わってニヤニヤと笑顔のままカラミッドに問いかける、
「はっ、それなのですが・・・しっかりとした計画が必要と考えております、故に一度会合の場が欲しいと思っておりました」
カラミッドは背後のリシャルトに確認しつつ答える、タロウのみならずクロノスも巻き込む事が出来たとなればより明確な方向性を打ち出せるであろうとの判断である、
「なんだ、伯爵も気が早いな、俺はこの紛争が終わってからでもと思っていたが、早めの方がいいのか?」
「ハッ、私もそう考えておりましたが・・・よくよく考えれば此度の一件、決着が着いたとなるとより大きな事業が始まるものと思います、先程のタロウ殿も仰っていたが、この焼け跡の地のみならず要塞までを手中とするとなると・・・我が領地の開発が後回しになる事も考えられます、無論、その要塞にしろこの地も当然重要であると思いますが、であれば尚の事、現時点からでもモニケンダムとこの地を繋ぐ街路は必須と思いますし・・・動けるうちに、また、こうして人材が集まっている内にある程度方向性だけでも決めておいて然るべき、そう考えます」
官僚のような口調で答えるカラミッドであった、なるほどカラミッドはやはり軍人よりも政治家的な考え方をするようで、自身のあり方として武力を優先する王国の貴族の中では稀有な人物のようである、ボニファースも興味を示すはずである、その実績もモニケンダムの落ち着いた繁栄を見れば明白であった、
「なるほど・・・それは確かにその通りだ・・・そうだな、今月中に決着が着くとなれば今から動いておいて損は無い」
クロノスがフムと頷く、
「はい、なので、タロウ殿に実際にあの道ですな、あれがどうしてあそこまでああなっているのかを確認したいとも思いまして、当初の構想ですと、巨岩を一つ一つ排除して道を作る、しっかりとした街道となればそれも必要となりますが、取り合えずとしてあれだけの道を作れるとなればそれを見込んだ計画が必要かと思います」
「その通りだ、で、どうなのよ?」
クロノスが頷きつつ、タロウを伺う、カラミッドとリシャルトも同時にタロウを見つめた、
「どうなのよって・・・まぁ、確かにその通りですね、今の内に出来る事はやっておいて問題は無いし、道を作ってしまえと言われれば可能でしょう・・・まぁ、そこはほら、決定に従うし協力も致しますよ、無論案も出しますし、相談にも乗ります」
ニコリと笑顔を見せるタロウ、心配するなとの意思表示のつもりで、決して愛想笑いではない、カラミッドとリシャルトはそれは良かったと笑顔を浮かべ、クロノスもまぁそうだろうなと鼻息を衝く、
「そうなると、別途時間をとるか、イフナース」
クロノスは振り返りイフナースを呼びつけ、
「クンラートもか?」
とこれはカラミッドに問う、
「はい、それは私から打診致します」
「ん、頼む」
クンラートはすでに転送陣を潜っていた、やる事をやったらサッサと帰る、それだけの事である、
「なんだ?」
とイフナースとリンドが合流し簡単に調整が行われた、時間は明日の会議の後、場所はイフナースが屋敷を提供する事となる、特に他意は無い、外に出るのが寒くて嫌だから転送陣の移動だけで済むようにとの配慮である、そしてカラミッドとリシャルトはこの後の式典もあるとの事でその場を辞する事となるが、
「あっ、伯爵、分かっているな?せめて三等は当てさせろ」
ジロリとカラミッドを睨むイフナース、クロノスも、
「そうだな、俺のもだ、一等を当てろとは言わんが三等は欲しいな、べつに何に替えようとも思っていないが、当ててみたい」
と真顔で言い放つ、なんのこっちゃとタロウは二人を見つめるも、あっと思い出し苦笑する、カラミッドとリシャルトもそう言われましてもと何とも困惑した面相となるしかない、
「なんだ、1000枚も買ったのだ、当たって当然と思うがな」
クロノスは目を大きくして威圧し、
「俺もだ、何も無しでは笑われるわ」
イフナースもフンと鼻息を荒くする、
「であれば私も、500枚ほど購入しております、期待しておりますよ」
リンドも優しく微笑むが、妙な威圧感を感じるそれで、
「えっ・・・お前らそんなに買ったのか?」
タロウは目を丸くし、カラミッドとリシャルトも言葉も無い様子、ただただ愛想笑いとなるしかない、
「なんだ悪いか?」
「貢献しているのだ」
「あの女に煽て上げられたからだろ?」
「それはお前だ」
「お前だよ」
今度は睨み合うクロノスとイフナース、苦笑するしかないカラミッドとリシャルト、
「まったく、どれだけ買っても当たらない奴は当たらないんだよ」
タロウがやれやれと肩を竦めた、
「なんだと?」
二人が同時にタロウを睨む、
「そういうもんなんだ、まぁ・・・あれだ、領主様」
タロウはめんどくさそうに口元を歪め、
「1000枚以上買って何も当たらなかった奴には感謝状でも送りましょうか、街と軍費への貢献として今後とも宜しく・・・とでも一筆書いて贈りましょう、記念品にはなりますよ」
「んなもんいるか!!」
ムスッと叫ぶクロノス、
「めんどくさいだけだろう、それとも何か、煽っているのか?」
イフナースもどこまで本気か分からないが怒りだす、
「おう、次は当ててねーってさ、なに、買い続ければそのうち当たるさ、次があればだがな」
「ふざけんな!!」
「まったくだ!!」
フンと同時に鼻を鳴らしそっぽを向くクロノスとイフナース、リンドも確かに感謝状はやり過ぎだろうなと苦笑してしまう、
「まったく・・・いいか?そういう干渉も忖度も手心も入らないから面白いんだよ、10枚買って当てる奴もいれば1万枚買っても当たらない奴もいる、そういうもんなんだ」
「はいはい」
「分かったよ」
クロノスとイフナースは再びフンと鼻を鳴らすもどうやらそのへんの理屈は理解しているらしい、ただカラミッドの顔を見たら一言言いたくなっただけである、タロウとしてはまぁこの二人も楽しんでいるのであろうと解釈し、ニヤリとカラミッドに笑いかけ、カラミッドもそういうことかと渋い笑顔で答えとした、
「もっとも・・・手心を加えるとなると・・・逆につまらなくもなるんですがね」
しかし一転、真顔でカラミッドとリシャルトを見つめるタロウである、今回の宝くじ、その気になればなんぼでも不正は出来る、まずくじを買った者、その者の名と番号は全て主催者が把握している、さらに今日の年初の式典の後に抽選される段取りであるが、それもどうやらタロウが教えた箱の中から数字を取り出して決定する方式を採用するらしく、クンラートやカラミッド、アンネリーンにユスティーナらが直々に数字を取り出すらしい、となれば箱に仕掛けを施せば任意の数字を選び出すなど簡単であろう、少しばかり考えれば不正なぞやりたい放題なのである、さらには初めての試みでもある、不正を疑う者も少ないであろうし、第一公然と領主に盾突く者も少ない、
「大丈夫です、いや、大丈夫というのもなんか変ですが」
カラミッドが苦笑し、
「そこはほら、こちらとしてはもう充分に利益を確定できておりますからね、不正をする必要もありません、公明正大に抽選は行います」
ハッキリと言い切った、
「ですね、それでこそ楽しめるというもの、私も数枚購入しております、期待しております」
タロウがニコリと微笑む、ですなとカラミッドとリシャルトは笑顔となるも、フンとつまらなそうなクロノスとイフナース、そして、
「申し訳ありません、このあとの予定が」
リシャルトがハッと背筋を正して一礼する、おうそうだなとカラミッドが応じ、そのまま二人は一礼して転送陣へ向かった、
「まぁ、いいか・・・」
「だな、しかしあれか、そんなものもあるのか?」
クロノスがタロウに問いかける、何の事だとタロウは首を傾げ、
「あー・・・感謝状か?」
「おう、随分とあれだな当たらなかった者に酷くないか?」
大きく顔を歪めるクロノス、確かにとリンドは大きく頷いた、
「そんなもん無いよ」
ヘロッと返すタロウ、
「なんだよそれ」
「いや、あってもいいかなーってさ、ほれ、今回の宝くじはさ、営利目的ではないしさ」
「・・・適当言いやがって」
「まったくだ」
不愉快そうに鼻を鳴らしタロウを睨むクロノスとイフナース、そこへ、
「失礼します」
と黒板を手にしたラインズがそっと近寄るのであった。
「タロウ殿少し良いか?」
会議が終わり続々と男達が腰を上げ始めた瞬間、カラミッドがサッと近寄りタロウを捕まえた、
「ハイハイ、なにか?」
ニコリと微笑み立ち上がるタロウ、隣りのクロノスはチラッとカラミッドを視界に収めるも口を出す事は無く、イフナースもリンドと何やら打合せを始める、
「すまんな、一つ確認しておきたくてな」
カラミッドは真摯な瞳でタロウを見つめ、その背後のリシャルトも礼儀正しく控えつつも何やら言いたそうである、
「はい、答えられる事であれば」
「ありがたい、その・・・街とこの場を繋ぐ道の事でな」
「道・・・あぁ、確かに領主様なら気になる所ですね」
ニコリと微笑むタロウ、クロノスも聞き耳を立てていたのか一度背を向けるもゆっくりと三人に向き直る、
「左様、しかし、あれほどの・・・その魔法によるものと聞いたが、貴殿に本当に可能なのか?」
いや疑うような口を利いて申し訳ないがと、なんとも歯切れが悪く腰の低いカラミッド、リシャルトも心配そうに口元を歪めている、
「そんな・・・もっと偉そうにして下さいよ、私はあくまで平民なんですから」
タロウはニコニコと微笑みつつ、確かにカラミッドとしては最重要事であろうなと察する、
「お前ね、それは少し違うだろ」
クロノスがまったくこいつはとタロウを睨みつけた、
「エッ・・・なんだよ、お前さんまで」
クロノスを見上げ顔を顰めるタロウ、
「それだよ、俺やイフナースにタメ口を叩いておいて自分は平民でございますなどとチャンチャラおかしいわ」
「いや、それはだってさ」
「だっても糞もねぇよ、第一お前だぞ自分が英雄の一人だと公言したのはな」
ジローッとタロウを睨みつつクロノスは続け、エッとタロウは絶句する、確かにと頷くカラミッドとリシャルト、
「・・・まぁ・・・そう・・・だがさ・・・」
これは素直に受け入れるしかないタロウである、スヒーダムでの会合、その場を円滑に動かすためにと口にしたちょっとした軽口がどうやらタロウの扱いを大きく変えたらしい、そう言えばあれからすっかりリシャルトさんは固くなってしまったなとタロウは思い出す、つい先日迄はあくまで平民としての扱いで、伯爵家の筆頭従者らしい居丈高な態度であったと思う、となればカラミッドもまた接し方を改めてしまったのであろう、何ともめんどくさい事だなと少しばかり後悔してしまうタロウであった、
「まぁ、俺としては楽だがな、お前の事は誤魔化さなくて良くなった、いらん嘘を吐く必要が無くなったと思えば気楽なもんさ」
「なんだよそれは・・・」
「そのままだよ、俺は正直で真っ直ぐな男だからよ」
ガッハッハとクロノスは笑い、為政者としてそれはどうだろうかとタロウは苦笑してしまう、なるほど自分は王の器では無いと自覚するだけの事はある、どうやら政治家らしい腹黒さも詭弁を扱う才覚も無い、権謀術策を陰でこそこそ練る気も無い、気持ちがいい程の割り切りと達観そして自己分析であった、タロウは昔の渾名を思い出す、自分がそう名付けたのであるが、直進番長、それがクロノスの渾名であり、仲間内には意味は分からんがなんとなく通じると好評であった、どうやらクロノスの本質はあの頃のままのようである、
「で、どうしたいんだ?」
クロノスがタロウに替わってニヤニヤと笑顔のままカラミッドに問いかける、
「はっ、それなのですが・・・しっかりとした計画が必要と考えております、故に一度会合の場が欲しいと思っておりました」
カラミッドは背後のリシャルトに確認しつつ答える、タロウのみならずクロノスも巻き込む事が出来たとなればより明確な方向性を打ち出せるであろうとの判断である、
「なんだ、伯爵も気が早いな、俺はこの紛争が終わってからでもと思っていたが、早めの方がいいのか?」
「ハッ、私もそう考えておりましたが・・・よくよく考えれば此度の一件、決着が着いたとなるとより大きな事業が始まるものと思います、先程のタロウ殿も仰っていたが、この焼け跡の地のみならず要塞までを手中とするとなると・・・我が領地の開発が後回しになる事も考えられます、無論、その要塞にしろこの地も当然重要であると思いますが、であれば尚の事、現時点からでもモニケンダムとこの地を繋ぐ街路は必須と思いますし・・・動けるうちに、また、こうして人材が集まっている内にある程度方向性だけでも決めておいて然るべき、そう考えます」
官僚のような口調で答えるカラミッドであった、なるほどカラミッドはやはり軍人よりも政治家的な考え方をするようで、自身のあり方として武力を優先する王国の貴族の中では稀有な人物のようである、ボニファースも興味を示すはずである、その実績もモニケンダムの落ち着いた繁栄を見れば明白であった、
「なるほど・・・それは確かにその通りだ・・・そうだな、今月中に決着が着くとなれば今から動いておいて損は無い」
クロノスがフムと頷く、
「はい、なので、タロウ殿に実際にあの道ですな、あれがどうしてあそこまでああなっているのかを確認したいとも思いまして、当初の構想ですと、巨岩を一つ一つ排除して道を作る、しっかりとした街道となればそれも必要となりますが、取り合えずとしてあれだけの道を作れるとなればそれを見込んだ計画が必要かと思います」
「その通りだ、で、どうなのよ?」
クロノスが頷きつつ、タロウを伺う、カラミッドとリシャルトも同時にタロウを見つめた、
「どうなのよって・・・まぁ、確かにその通りですね、今の内に出来る事はやっておいて問題は無いし、道を作ってしまえと言われれば可能でしょう・・・まぁ、そこはほら、決定に従うし協力も致しますよ、無論案も出しますし、相談にも乗ります」
ニコリと笑顔を見せるタロウ、心配するなとの意思表示のつもりで、決して愛想笑いではない、カラミッドとリシャルトはそれは良かったと笑顔を浮かべ、クロノスもまぁそうだろうなと鼻息を衝く、
「そうなると、別途時間をとるか、イフナース」
クロノスは振り返りイフナースを呼びつけ、
「クンラートもか?」
とこれはカラミッドに問う、
「はい、それは私から打診致します」
「ん、頼む」
クンラートはすでに転送陣を潜っていた、やる事をやったらサッサと帰る、それだけの事である、
「なんだ?」
とイフナースとリンドが合流し簡単に調整が行われた、時間は明日の会議の後、場所はイフナースが屋敷を提供する事となる、特に他意は無い、外に出るのが寒くて嫌だから転送陣の移動だけで済むようにとの配慮である、そしてカラミッドとリシャルトはこの後の式典もあるとの事でその場を辞する事となるが、
「あっ、伯爵、分かっているな?せめて三等は当てさせろ」
ジロリとカラミッドを睨むイフナース、クロノスも、
「そうだな、俺のもだ、一等を当てろとは言わんが三等は欲しいな、べつに何に替えようとも思っていないが、当ててみたい」
と真顔で言い放つ、なんのこっちゃとタロウは二人を見つめるも、あっと思い出し苦笑する、カラミッドとリシャルトもそう言われましてもと何とも困惑した面相となるしかない、
「なんだ、1000枚も買ったのだ、当たって当然と思うがな」
クロノスは目を大きくして威圧し、
「俺もだ、何も無しでは笑われるわ」
イフナースもフンと鼻息を荒くする、
「であれば私も、500枚ほど購入しております、期待しておりますよ」
リンドも優しく微笑むが、妙な威圧感を感じるそれで、
「えっ・・・お前らそんなに買ったのか?」
タロウは目を丸くし、カラミッドとリシャルトも言葉も無い様子、ただただ愛想笑いとなるしかない、
「なんだ悪いか?」
「貢献しているのだ」
「あの女に煽て上げられたからだろ?」
「それはお前だ」
「お前だよ」
今度は睨み合うクロノスとイフナース、苦笑するしかないカラミッドとリシャルト、
「まったく、どれだけ買っても当たらない奴は当たらないんだよ」
タロウがやれやれと肩を竦めた、
「なんだと?」
二人が同時にタロウを睨む、
「そういうもんなんだ、まぁ・・・あれだ、領主様」
タロウはめんどくさそうに口元を歪め、
「1000枚以上買って何も当たらなかった奴には感謝状でも送りましょうか、街と軍費への貢献として今後とも宜しく・・・とでも一筆書いて贈りましょう、記念品にはなりますよ」
「んなもんいるか!!」
ムスッと叫ぶクロノス、
「めんどくさいだけだろう、それとも何か、煽っているのか?」
イフナースもどこまで本気か分からないが怒りだす、
「おう、次は当ててねーってさ、なに、買い続ければそのうち当たるさ、次があればだがな」
「ふざけんな!!」
「まったくだ!!」
フンと同時に鼻を鳴らしそっぽを向くクロノスとイフナース、リンドも確かに感謝状はやり過ぎだろうなと苦笑してしまう、
「まったく・・・いいか?そういう干渉も忖度も手心も入らないから面白いんだよ、10枚買って当てる奴もいれば1万枚買っても当たらない奴もいる、そういうもんなんだ」
「はいはい」
「分かったよ」
クロノスとイフナースは再びフンと鼻を鳴らすもどうやらそのへんの理屈は理解しているらしい、ただカラミッドの顔を見たら一言言いたくなっただけである、タロウとしてはまぁこの二人も楽しんでいるのであろうと解釈し、ニヤリとカラミッドに笑いかけ、カラミッドもそういうことかと渋い笑顔で答えとした、
「もっとも・・・手心を加えるとなると・・・逆につまらなくもなるんですがね」
しかし一転、真顔でカラミッドとリシャルトを見つめるタロウである、今回の宝くじ、その気になればなんぼでも不正は出来る、まずくじを買った者、その者の名と番号は全て主催者が把握している、さらに今日の年初の式典の後に抽選される段取りであるが、それもどうやらタロウが教えた箱の中から数字を取り出して決定する方式を採用するらしく、クンラートやカラミッド、アンネリーンにユスティーナらが直々に数字を取り出すらしい、となれば箱に仕掛けを施せば任意の数字を選び出すなど簡単であろう、少しばかり考えれば不正なぞやりたい放題なのである、さらには初めての試みでもある、不正を疑う者も少ないであろうし、第一公然と領主に盾突く者も少ない、
「大丈夫です、いや、大丈夫というのもなんか変ですが」
カラミッドが苦笑し、
「そこはほら、こちらとしてはもう充分に利益を確定できておりますからね、不正をする必要もありません、公明正大に抽選は行います」
ハッキリと言い切った、
「ですね、それでこそ楽しめるというもの、私も数枚購入しております、期待しております」
タロウがニコリと微笑む、ですなとカラミッドとリシャルトは笑顔となるも、フンとつまらなそうなクロノスとイフナース、そして、
「申し訳ありません、このあとの予定が」
リシャルトがハッと背筋を正して一礼する、おうそうだなとカラミッドが応じ、そのまま二人は一礼して転送陣へ向かった、
「まぁ、いいか・・・」
「だな、しかしあれか、そんなものもあるのか?」
クロノスがタロウに問いかける、何の事だとタロウは首を傾げ、
「あー・・・感謝状か?」
「おう、随分とあれだな当たらなかった者に酷くないか?」
大きく顔を歪めるクロノス、確かにとリンドは大きく頷いた、
「そんなもん無いよ」
ヘロッと返すタロウ、
「なんだよそれ」
「いや、あってもいいかなーってさ、ほれ、今回の宝くじはさ、営利目的ではないしさ」
「・・・適当言いやがって」
「まったくだ」
不愉快そうに鼻を鳴らしタロウを睨むクロノスとイフナース、そこへ、
「失礼します」
と黒板を手にしたラインズがそっと近寄るのであった。
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【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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