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本編
79話 兄貴達 その5
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「タロウ殿、先程の会議について質問があります」
ラインズがいかにも従者らしい他人行儀で丁寧な言葉使いでもってタロウを伺う、
「・・・なんだよ、気持ちわりぃな・・・」
思わずタロウは思いっきり顔を顰めた、しかしラインズはニコニコと笑顔を保持しタロウの答えを持っている様子、
「おうっ、ちゃんと答えろよ、これも大事な仕事だからよ」
クロノスが乱暴に言い放ち、イフナースは何とも嫌そうに目を細める、
「仕事って・・・まぁ、そうなのか?」
「おうそうだ、お前には言ってなかったがさ、まぁ、こいつが出来る事って言ったらあれしかねぇだろ」
「ルーツから聞いてるよ、だとしたらお前・・・あれの件はホントの事を言った方が良くないか?」
ホントの事?とラインズの瞳が怪しく光るも、
「今は駄目だ、そういう事になっただろ」
ジロリとタロウを睨むクロノス、イフナースはフンとそっぽを向き、タロウとしてもまぁそうだがさと納得する、イフナースの実力、これはもう暫く隠す事としていた、場合によってはそのまま隠蔽する事を意図したもので、この荒野の焼け跡にしろ先日の荒野を切り裂き巨岩を排除した事にしろ、とてもではないが人のそれを超越し過ぎている、それ故に荒野の焼け跡も未だ原因不明としており、先日のそれはタロウが手を下した事とし、さらには英雄の一人である事も公に認めたのだ、英雄とされてしまえば軍団長達と言えど納得するしかない、それはクロノスが正に人外とする実力を見せているからに他ならず、さらには転送陣やらもクロノス配下の研究所で開発されたものと説明されていた、つまりは英雄の名を出し、その名でもってイフナースを隠した事になる、そして英雄として表に立ったのがタロウなのであった、となればタロウの今現在の厚遇も特別扱いも理解できるというもので、なるほどそういう事であったのかと昨日の荒野の外れでは納得する者多数であった、
「まぁな・・・で、なんだよ」
とタロウがラインズに向き直る、その瞬間酷い眩暈に襲われた、ウッと両目を瞑りテーブルに片手を置くタロウ、
「どした?」
ラインズが声を上げ、クロノスとイフナース、リンドもん?と振り返る、
「あっ・・・あぁ、大丈夫だ」
フーと大きく吐息を吐いて背筋を伸ばすタロウ、そしてその視界に入ったのがラインズの後ろでニコニコと笑顔を浮かべる夫婦である、そういう事かとタロウは大きく溜息を衝き、
「まったく・・・で、なんだっけ?」
とラインズに先を促す、ラインズの背後、その夫婦は今日も容姿が変わっている、レオと名乗った男は中年の冴えない風貌であったのが、今日は筋骨隆々とした見事な偉丈夫で、オードリーと名乗った女もまたスッと細く背の高い美女となっている、なるほど、眩暈の原因はこの二人であるらしい、その仕組みは理解しようもないが、どのような外見であっても他人に同一人物であると認識させ、また自分達の存在が極々当たり前であると思い込ませる、どうやらそういう魔法か何からしく、そのようなものに触れれば眩暈の一つも起こすというもので、しかしタロウ意外の人物はあくまで平然としていた、恐らくここにルーツがいればタロウ以上に苦悶した事であろう、ルーツはあらゆる感覚に鋭敏である、それはタロウのシゴキの影響もあったが、それ以前から勘の鋭い男であった、その為この場にあって、いや、王国広しと謂えどこの二人の違和感に気付けるのは恐らくタロウとルーツ、そしてユーリの三人だけで、もしかしたらソフィアも含まれる、そしてもう一人、この夫婦を相手と限定すればボニファースも一見して気付くかもしれない、しかしそれを許す許さないはこの眼前の二人次第であろうと考えられる、
「いいのか?」
「構わん、クロノスからも言われてしまったしな」
フンと鼻を鳴らすタロウ、精一杯の強がりであったりする、
「そうか、でな、まず、戦略を物語とか何とかと言っていたが、あれをより詳しく教えて欲しい」
「ん?そのままだよ」
「そのままと言われても困る、今日の会議の唯一興味深く重要な点だ」
「おいおい・・・それは思ってても言うなよ」
「そういう訳にはいかん、これは大事な一場面になりうる」
ウンと大きく頷くラインズ、その背後の夫婦もウンウンと楽しそうに頷いていた、ムーとタロウは三人を見つめ、
「・・・じゃあ・・・あれだな、戦略とは何かって事からか?」
「そうなる」
ムフンと黒板と白墨を構えるラインズ、しかし背後の二人は笑顔を浮かべたままなんの行動も起こさない、なるほど、どうやらそれを変だと感じているのはタロウだけのようである、ラインズはまるで関心が無く、クロノスらは別の打合せに向かったようで、
「ん、しかし、難しいぞ」
タロウは取り合えずその二人は視界から外して言葉を続ける、ルーツにもそう言っているが、こちらから関与する事は出来るだけ避けた方が良いと思われた、向こうからのアプローチに関しては適切に対応する必要はあると思うが、変にこちらから手を出しても痛い目を見る事は明白である、タロウの想定する存在であるとすればとてもではないがどうしようもない、タロウはそう自分に言い聞かせ淡々と戦略論を口にする、
「なるほど・・・うん、分かるぞ、昔お前が言っていたな、思い出してきた」
嬉々として黒板を鳴らすラインズ、背後の夫婦もいよいよ楽しそうに目を輝かせている様子で、
「そうか・・・いや、あの頃は・・・まぁ、俺には何の権限も無かったからな、裏でこそこそやったものだが・・・」
「だな、うん、覚えてる、何をやってるんだかってよ、みんなして笑ったもんだ」
すっかり粗野な口調に戻るラインズ、タロウとしてもその方が話しやすかった、そしてふと気付く、どうやらラインズはだいぶ落ち着いているらしい、やはりちゃんとしていればちゃんと出来る人物なのである、頭の回転も呑み込みも速い、賢人とは言わないまでも優秀な人物ではあるのであった、
「だな、でだ、今日話したのは・・・あぁ、物語だな」
「おう、それだ」
「これも簡単でな、その戦略を練って実行に移すのはまぁいい、で、明確な結果、目標とする結末に向かって道筋を作ってしまう、これが物語になる、こういう工作をやれば、こういう影響があるだろう、するとこれだけ相手を弱体化できて、その上で、こちらの望む地点で合戦とする、その場での勝ち方もある程度予想しておいて、さらには相手の逃走経路も把握しておく、で、結末をどうするかってなる、より大事なのは合戦と結末だな、合戦はどうしてもこちらの思惑通りにはならないもんだし、結末もまた然りだ、だが、ここまでをこちら側の勝利と捉える・・・って感じに線を引いてしまえばさ、こちらの損害は押さえられるし、ダラダラと戦争を続ける必要も無い、戦争ってやつは長引けば長引くほど損だ、互いに譲れない要点ってやつを押さえておいて、ここだって所で手打ちにしないと・・・まぁ、な、不利益だけが溜まっていくもので、それはね、国という組織としては本当の意味での無駄なんだよな・・・」
「・・・なるほど、分かるぞ、うん、わかりやすい」
「そうか?まぁ、お前さんも経験しているからな」
「勿論だ、しかし、あの頃はな、ただただ泥水を啜っていたもんだ」
「まったくだ」
ニヤリと微笑み合うタロウとラインズ、なんのかんの言っても戦友ではある、そこへ、
「申し訳ない、タロウ殿はどこでそのような事を習得されたのですかな?」
レオと名乗る男がスッと一歩踏み出した、オッとラインズが場所を空け、タロウとレオが対する形になる、
「ん?あぁ、どこと言われても困りますが・・・故郷ですね、少しばかり聞きかじった程度です、少々稚拙でしたか・・・」
タロウはそこまで答えアッと目を丸くする、レオの質問に自然に、それも正直に答えてしまっていた、
「左様ですか、それほどにタロウ殿の故郷は学問が進んでいらっしゃる?いや戦略論ですかな、その理屈を聞くに戦争を俯瞰して、さらには日常的に捉えているように見えますが・・・」
「あっ、いや・・・」
ズンと眩暈を感じるタロウ、先程と同じように思わずテーブルに手を着いてしまい、アッとラインズが手を伸ばす、
「あぁ、大丈夫だ、あれだな、少し疲れが溜まっているかもな」
何とか背筋を伸ばし誤魔化すタロウである、そうかとラインズは心配そうにタロウを見上げ、レオは目を細めてタロウを見つめる、オードリーもまたハテ?と軽く首を傾げていた、
「で、なんでしたっけか?」
フーと一息置いてタロウはレオに微笑む、
「いや、大変に興味深い論でした、私も勉強しなければと考えます」
ニコリと微笑みスッと下がるレオ、タロウはいいのかなと首を傾げるもそのまま続けられていたら俺死んでるかもと背筋を冷たくし、
「そうですか」
となんとか作り笑いを浮かべてみる、
「でな、あの道っていうか、道なんだがよ」
代わってズイッと身を乗り出すラインズ、ハイハイとタロウは軽く答える、
「あれは魔法だよな、お前昔から得意だったがよ、で、どんな魔法よ」
「どんなって・・・べつに大したもんじゃないよ」
「大したもんだろが、あんな事できる魔法なんて見た事ねぇぞ、昔もあれを使えば良かったんだよ」
「どこでだよ」
「どこでも使えただろうが、あれだろ、こう、なんだっけ、ハドーケーンってやつ?」
ニヤニヤとラインズはタロウを見上げ、あーそんな事して遊んだなとタロウは苦笑し、
「あれはあれだ、遊びだよ、よく覚えてたなお前」
「そりゃもう、訳分かんねぇーって大うけだったろ」
「そりゃそうだがさ・・・」
「で、どんなのよ?」
「あー・・・まぁ、それを説明するとなるとまたメンドイぞ、この荒野のな岩の構造だとか、この焼け跡の原因とかさ」
「なんだ、そんな事まで分かっているのか?」
「まぁ・・・確定ってほどじゃないが薄々な」
「聞かせろよ」
「・・・駄目だな」
タロウはンーと眉を顰めた、
「なんでだよ」
「・・・お前の仕事とは別だよ、戦略云々はまだあれだが、あれだろ?次の英雄様の演劇作りなんだろ?」
「そうだよ、だから必要なんだよ、この戦争の面白さを伝えるには細部を知る必要があるだろ、お前もよくそう言ってたじゃねぇか」
「そうだがさ・・・その細部とこの細部は違うだろ、第一お前、演劇の中で巨岩がどうのって話しを出すのか?んな細かい話しは盛り込めないだろ」
「それは・・・」
「冗長になるし、客が飽きるぞ」
「そうだがさ・・・」
「だろ?だからそこはほれ、かつての名も無い英雄様が助けに来たとかなんとかって適当に誤魔化せ、もしくは神の奇跡だなんだと今回の英雄様の箔ってやつに変えてしまえ、その方が劇的だぞ、盛り上がるってもんだ」
「・・・それでもいいが・・・なんかつまらん・・・」
「つまらんって・・・まぁまだ全体も見えてないんだからな、英雄譚の胆は戦闘だろ?それ以外は切り落としても構わんし、無駄だって言ったのはお前じゃねぇか」
「それはそうだが・・・ムー」
納得できないのかしかめっ面で大きく首を傾げるラインズ、タロウとしてはここで話すような内容で無くなっている事と、なによりこの荒野の問題は公にするべきではないとの判断でもって有耶無耶にしたかった、そうはっきりと口にしないのはラインズのしつこさを知っている為である、
「まぁ、取り合えずこんなもんで勘弁してくれよ」
タロウはスッと身を引いた、ラインズも黒板を見つめて不承不承に頷かざるを得ない様子である、あくまで求められているのは英雄譚としての演劇であって、英雄とこの戦争の宣伝目的こそが重要で、その爽快感と勝利の気持良さのみを求める英雄譚に眠くなりそうな理屈をぶっこむのはやはり難しいのである、第一つまらないし盛り上がらない、
「んー・・・だな、ここは止めておくか・・・」
黒板にカリカリと書きこむラインズ、背後の夫婦も何やらニヤリと微笑み合っていた、一々得体が知れない、いや、分かってはいるがどう受け止めるべきか判断に迷う夫婦である、そこへ、
「おう、もういいか?」
クロノスがサッとタロウに近寄る、オウと返すタロウ、ラインズも取り合えずと顔を上げた、
「そっか、じゃあ、こっちだ、お前は会った事が無かったな」
クロノスが手招きすると、男が一人如何にも軍人らしいキビキビとした足取りで歩み寄る、
「こいつを紹介しておく、暫く側に置くからよ」
ニヤリと微笑むクロノス、ん?と首を傾げるタロウであった。
ラインズがいかにも従者らしい他人行儀で丁寧な言葉使いでもってタロウを伺う、
「・・・なんだよ、気持ちわりぃな・・・」
思わずタロウは思いっきり顔を顰めた、しかしラインズはニコニコと笑顔を保持しタロウの答えを持っている様子、
「おうっ、ちゃんと答えろよ、これも大事な仕事だからよ」
クロノスが乱暴に言い放ち、イフナースは何とも嫌そうに目を細める、
「仕事って・・・まぁ、そうなのか?」
「おうそうだ、お前には言ってなかったがさ、まぁ、こいつが出来る事って言ったらあれしかねぇだろ」
「ルーツから聞いてるよ、だとしたらお前・・・あれの件はホントの事を言った方が良くないか?」
ホントの事?とラインズの瞳が怪しく光るも、
「今は駄目だ、そういう事になっただろ」
ジロリとタロウを睨むクロノス、イフナースはフンとそっぽを向き、タロウとしてもまぁそうだがさと納得する、イフナースの実力、これはもう暫く隠す事としていた、場合によってはそのまま隠蔽する事を意図したもので、この荒野の焼け跡にしろ先日の荒野を切り裂き巨岩を排除した事にしろ、とてもではないが人のそれを超越し過ぎている、それ故に荒野の焼け跡も未だ原因不明としており、先日のそれはタロウが手を下した事とし、さらには英雄の一人である事も公に認めたのだ、英雄とされてしまえば軍団長達と言えど納得するしかない、それはクロノスが正に人外とする実力を見せているからに他ならず、さらには転送陣やらもクロノス配下の研究所で開発されたものと説明されていた、つまりは英雄の名を出し、その名でもってイフナースを隠した事になる、そして英雄として表に立ったのがタロウなのであった、となればタロウの今現在の厚遇も特別扱いも理解できるというもので、なるほどそういう事であったのかと昨日の荒野の外れでは納得する者多数であった、
「まぁな・・・で、なんだよ」
とタロウがラインズに向き直る、その瞬間酷い眩暈に襲われた、ウッと両目を瞑りテーブルに片手を置くタロウ、
「どした?」
ラインズが声を上げ、クロノスとイフナース、リンドもん?と振り返る、
「あっ・・・あぁ、大丈夫だ」
フーと大きく吐息を吐いて背筋を伸ばすタロウ、そしてその視界に入ったのがラインズの後ろでニコニコと笑顔を浮かべる夫婦である、そういう事かとタロウは大きく溜息を衝き、
「まったく・・・で、なんだっけ?」
とラインズに先を促す、ラインズの背後、その夫婦は今日も容姿が変わっている、レオと名乗った男は中年の冴えない風貌であったのが、今日は筋骨隆々とした見事な偉丈夫で、オードリーと名乗った女もまたスッと細く背の高い美女となっている、なるほど、眩暈の原因はこの二人であるらしい、その仕組みは理解しようもないが、どのような外見であっても他人に同一人物であると認識させ、また自分達の存在が極々当たり前であると思い込ませる、どうやらそういう魔法か何からしく、そのようなものに触れれば眩暈の一つも起こすというもので、しかしタロウ意外の人物はあくまで平然としていた、恐らくここにルーツがいればタロウ以上に苦悶した事であろう、ルーツはあらゆる感覚に鋭敏である、それはタロウのシゴキの影響もあったが、それ以前から勘の鋭い男であった、その為この場にあって、いや、王国広しと謂えどこの二人の違和感に気付けるのは恐らくタロウとルーツ、そしてユーリの三人だけで、もしかしたらソフィアも含まれる、そしてもう一人、この夫婦を相手と限定すればボニファースも一見して気付くかもしれない、しかしそれを許す許さないはこの眼前の二人次第であろうと考えられる、
「いいのか?」
「構わん、クロノスからも言われてしまったしな」
フンと鼻を鳴らすタロウ、精一杯の強がりであったりする、
「そうか、でな、まず、戦略を物語とか何とかと言っていたが、あれをより詳しく教えて欲しい」
「ん?そのままだよ」
「そのままと言われても困る、今日の会議の唯一興味深く重要な点だ」
「おいおい・・・それは思ってても言うなよ」
「そういう訳にはいかん、これは大事な一場面になりうる」
ウンと大きく頷くラインズ、その背後の夫婦もウンウンと楽しそうに頷いていた、ムーとタロウは三人を見つめ、
「・・・じゃあ・・・あれだな、戦略とは何かって事からか?」
「そうなる」
ムフンと黒板と白墨を構えるラインズ、しかし背後の二人は笑顔を浮かべたままなんの行動も起こさない、なるほど、どうやらそれを変だと感じているのはタロウだけのようである、ラインズはまるで関心が無く、クロノスらは別の打合せに向かったようで、
「ん、しかし、難しいぞ」
タロウは取り合えずその二人は視界から外して言葉を続ける、ルーツにもそう言っているが、こちらから関与する事は出来るだけ避けた方が良いと思われた、向こうからのアプローチに関しては適切に対応する必要はあると思うが、変にこちらから手を出しても痛い目を見る事は明白である、タロウの想定する存在であるとすればとてもではないがどうしようもない、タロウはそう自分に言い聞かせ淡々と戦略論を口にする、
「なるほど・・・うん、分かるぞ、昔お前が言っていたな、思い出してきた」
嬉々として黒板を鳴らすラインズ、背後の夫婦もいよいよ楽しそうに目を輝かせている様子で、
「そうか・・・いや、あの頃は・・・まぁ、俺には何の権限も無かったからな、裏でこそこそやったものだが・・・」
「だな、うん、覚えてる、何をやってるんだかってよ、みんなして笑ったもんだ」
すっかり粗野な口調に戻るラインズ、タロウとしてもその方が話しやすかった、そしてふと気付く、どうやらラインズはだいぶ落ち着いているらしい、やはりちゃんとしていればちゃんと出来る人物なのである、頭の回転も呑み込みも速い、賢人とは言わないまでも優秀な人物ではあるのであった、
「だな、でだ、今日話したのは・・・あぁ、物語だな」
「おう、それだ」
「これも簡単でな、その戦略を練って実行に移すのはまぁいい、で、明確な結果、目標とする結末に向かって道筋を作ってしまう、これが物語になる、こういう工作をやれば、こういう影響があるだろう、するとこれだけ相手を弱体化できて、その上で、こちらの望む地点で合戦とする、その場での勝ち方もある程度予想しておいて、さらには相手の逃走経路も把握しておく、で、結末をどうするかってなる、より大事なのは合戦と結末だな、合戦はどうしてもこちらの思惑通りにはならないもんだし、結末もまた然りだ、だが、ここまでをこちら側の勝利と捉える・・・って感じに線を引いてしまえばさ、こちらの損害は押さえられるし、ダラダラと戦争を続ける必要も無い、戦争ってやつは長引けば長引くほど損だ、互いに譲れない要点ってやつを押さえておいて、ここだって所で手打ちにしないと・・・まぁ、な、不利益だけが溜まっていくもので、それはね、国という組織としては本当の意味での無駄なんだよな・・・」
「・・・なるほど、分かるぞ、うん、わかりやすい」
「そうか?まぁ、お前さんも経験しているからな」
「勿論だ、しかし、あの頃はな、ただただ泥水を啜っていたもんだ」
「まったくだ」
ニヤリと微笑み合うタロウとラインズ、なんのかんの言っても戦友ではある、そこへ、
「申し訳ない、タロウ殿はどこでそのような事を習得されたのですかな?」
レオと名乗る男がスッと一歩踏み出した、オッとラインズが場所を空け、タロウとレオが対する形になる、
「ん?あぁ、どこと言われても困りますが・・・故郷ですね、少しばかり聞きかじった程度です、少々稚拙でしたか・・・」
タロウはそこまで答えアッと目を丸くする、レオの質問に自然に、それも正直に答えてしまっていた、
「左様ですか、それほどにタロウ殿の故郷は学問が進んでいらっしゃる?いや戦略論ですかな、その理屈を聞くに戦争を俯瞰して、さらには日常的に捉えているように見えますが・・・」
「あっ、いや・・・」
ズンと眩暈を感じるタロウ、先程と同じように思わずテーブルに手を着いてしまい、アッとラインズが手を伸ばす、
「あぁ、大丈夫だ、あれだな、少し疲れが溜まっているかもな」
何とか背筋を伸ばし誤魔化すタロウである、そうかとラインズは心配そうにタロウを見上げ、レオは目を細めてタロウを見つめる、オードリーもまたハテ?と軽く首を傾げていた、
「で、なんでしたっけか?」
フーと一息置いてタロウはレオに微笑む、
「いや、大変に興味深い論でした、私も勉強しなければと考えます」
ニコリと微笑みスッと下がるレオ、タロウはいいのかなと首を傾げるもそのまま続けられていたら俺死んでるかもと背筋を冷たくし、
「そうですか」
となんとか作り笑いを浮かべてみる、
「でな、あの道っていうか、道なんだがよ」
代わってズイッと身を乗り出すラインズ、ハイハイとタロウは軽く答える、
「あれは魔法だよな、お前昔から得意だったがよ、で、どんな魔法よ」
「どんなって・・・べつに大したもんじゃないよ」
「大したもんだろが、あんな事できる魔法なんて見た事ねぇぞ、昔もあれを使えば良かったんだよ」
「どこでだよ」
「どこでも使えただろうが、あれだろ、こう、なんだっけ、ハドーケーンってやつ?」
ニヤニヤとラインズはタロウを見上げ、あーそんな事して遊んだなとタロウは苦笑し、
「あれはあれだ、遊びだよ、よく覚えてたなお前」
「そりゃもう、訳分かんねぇーって大うけだったろ」
「そりゃそうだがさ・・・」
「で、どんなのよ?」
「あー・・・まぁ、それを説明するとなるとまたメンドイぞ、この荒野のな岩の構造だとか、この焼け跡の原因とかさ」
「なんだ、そんな事まで分かっているのか?」
「まぁ・・・確定ってほどじゃないが薄々な」
「聞かせろよ」
「・・・駄目だな」
タロウはンーと眉を顰めた、
「なんでだよ」
「・・・お前の仕事とは別だよ、戦略云々はまだあれだが、あれだろ?次の英雄様の演劇作りなんだろ?」
「そうだよ、だから必要なんだよ、この戦争の面白さを伝えるには細部を知る必要があるだろ、お前もよくそう言ってたじゃねぇか」
「そうだがさ・・・その細部とこの細部は違うだろ、第一お前、演劇の中で巨岩がどうのって話しを出すのか?んな細かい話しは盛り込めないだろ」
「それは・・・」
「冗長になるし、客が飽きるぞ」
「そうだがさ・・・」
「だろ?だからそこはほれ、かつての名も無い英雄様が助けに来たとかなんとかって適当に誤魔化せ、もしくは神の奇跡だなんだと今回の英雄様の箔ってやつに変えてしまえ、その方が劇的だぞ、盛り上がるってもんだ」
「・・・それでもいいが・・・なんかつまらん・・・」
「つまらんって・・・まぁまだ全体も見えてないんだからな、英雄譚の胆は戦闘だろ?それ以外は切り落としても構わんし、無駄だって言ったのはお前じゃねぇか」
「それはそうだが・・・ムー」
納得できないのかしかめっ面で大きく首を傾げるラインズ、タロウとしてはここで話すような内容で無くなっている事と、なによりこの荒野の問題は公にするべきではないとの判断でもって有耶無耶にしたかった、そうはっきりと口にしないのはラインズのしつこさを知っている為である、
「まぁ、取り合えずこんなもんで勘弁してくれよ」
タロウはスッと身を引いた、ラインズも黒板を見つめて不承不承に頷かざるを得ない様子である、あくまで求められているのは英雄譚としての演劇であって、英雄とこの戦争の宣伝目的こそが重要で、その爽快感と勝利の気持良さのみを求める英雄譚に眠くなりそうな理屈をぶっこむのはやはり難しいのである、第一つまらないし盛り上がらない、
「んー・・・だな、ここは止めておくか・・・」
黒板にカリカリと書きこむラインズ、背後の夫婦も何やらニヤリと微笑み合っていた、一々得体が知れない、いや、分かってはいるがどう受け止めるべきか判断に迷う夫婦である、そこへ、
「おう、もういいか?」
クロノスがサッとタロウに近寄る、オウと返すタロウ、ラインズも取り合えずと顔を上げた、
「そっか、じゃあ、こっちだ、お前は会った事が無かったな」
クロノスが手招きすると、男が一人如何にも軍人らしいキビキビとした足取りで歩み寄る、
「こいつを紹介しておく、暫く側に置くからよ」
ニヤリと微笑むクロノス、ん?と首を傾げるタロウであった。
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【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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