セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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79話 兄貴達 その9

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タロウが一階に下りると、生徒達とミナが何やらワチャワチャやっており、

「あー、いたー」

ミナがタロウを見つけて駆け寄り、ハナコもそれに続いて飛び跳ねた、

「うん、いたぞー、で、何やってた?」

「待ってたー、えっと、えっと、アンコは出来たー、あと、パンー」

「はいはい聞いた聞いた」

タロウはニコニコとミナの頭に手を乗せ、ムフーと嬉しそうに微笑むミナ、生徒達はどうやら食堂で作業していたらしい、壁際に邪魔くさそうに寄せられていたテーブルが若干中央に戻され、そこが作業場となっている、

「えっと、準備出来ました」

グルジアが口を開き、

「はい、アンコとカスタードとリンゴのジャムもです」

サレバがピョンと飛び跳ねた、

「おっ、いいねー」

ニコリと微笑むタロウ、生徒達の瞳が爛々と輝く、見ればそれぞれがボールに入れられ並べられており、甘ったるい芳香が食堂を満たしていた、

「まぁ・・・そのまま食べても美味いだろうけどねー」

ニヤリと微笑むタロウ、転送陣を潜った時にはそれなりに楽しみにしていたしやる気にも満ちていたのであるが、それがすっかり抜けてしまった、カトカの発見、というか発案、その衝撃が大きかった為である、

「わかります」

「でも、違うんですよね」

期待に満ちた視線でもってタロウを睨むコミンとルル、

「確かに違うんだけど、まぁ、いいや・・・あー、ケイスさんは?」

「はい、事務所です」

「そっか、準備とか?」

「ですね、何かありました?」

グルジアが小さく首を傾げた、その場にいないのはエレインにテラにニコリーネ、オリビアとジャネット、無論ケイスの姿も無い、

「そだねー・・・うん、ごめん、実はなんだけど、上がね、少し忙しくなって、そっちを手伝って欲しいかなって、ケイスさんにね、あと、レスタさんもそっちを手伝ってもらう感じになったから」

正直に伝えるタロウ、

「あっ、そうなんですか?じゃ、呼んできます?」

ルルがサッと動き出す、

「そだね、申し訳ない、で、その内に」

タロウはニヤーとミナを見下ろすと、

「そのうちにー」

ミナがニヤーと微笑む、ハナコがピョンと飛びあがりタロウの足を支えに立ち上がる、

「おっ、ハナコもやるか?」

ニコリと微笑むタロウ、

「うん、ハナコもやるってー、頑張るって言ってるー」

「ホントかー」

「ホントー、ハナコは何でも出来るのー」

「いや、君、それは言い過ぎだ」

「大丈夫、デキルー」

「はいはい、じゃ、ちょっと待ってな」

とタロウは玄関に向かいサンダルを置き外套を脱ぐとそのまま厨房へ入る、厨房ではソフィアが一人ゴリゴリとすりこ木を操っていた、

「ありゃ・・・一人?」

思わず問いかけるタロウ、

「そうねー、ほら、あっちの方が楽しいでしょうしねー」

フフンと微笑むソフィア、その手はゴリゴリと動き続けている、

「そっか、で、何それ?」

「ん?内緒」

ニヤリと微笑むソフィア、しかしタロウはそっと覗き込み、

「へー、リンゴの皮か、なに?ふりかけ?」

「もー、内緒だって言ってるでしょう」

ムッとタロウを睨むソフィアである、

「いや、いいと思うよ、うん」

「そう?ほら、カブの皮でも出来たんなら、これもありかなーって思ってね」

ニヤーと微笑むソフィアである、

「ふりかけ?」

再度確認するタロウ、もうとソフィアは眉を顰め、

「そのつもり」

短く答えた、

「そっか、そうなると、もっと、粉々にしないと、あと、まだ水気が多い?」

「そりゃだって、まだほら、刻んで潰しただけだし、火も入れていないもの」

「そっか・・・いや、火を入れないで乾燥させるだけでもいいかもだね、生でも食べられるものに火を入れるのはあまり良くないかも」

「そう?・・・そっか、そのままで食べられるしね」

「その通り、ほら、黒米みたくね、平らにして、暖炉の前で乾燥がいいかもよ」

「そうねー、それでいいかしら?」

「うん、それでいいと思う、あと・・・あっ、あれだ、なんだっけ、シナモンじゃなくてカシアか、あれまだあるか?」

「あるわよー、って言ってもだいぶ少ないかしら?」

「そっか・・・でもまぁ折角だし、それと合わせてリンゴ茶ってのもいいと思うぞ」

「何それ?」

「そのままだよ、リンゴの煮汁に紅茶とシナモンを入れて、お好みで蜂蜜を入れる?で、お茶がいい感じに出てきたら飲み頃って感じだな」

「・・・それ、美味しそうね」

「だろ?でも、その皮は使わないか・・・」

見事なまでの思い付きを吐き出して、あっ、違うとすり鉢を覗くタロウ、そこにはすっかりグチャグチャになりつつもわずかにリンゴの皮の赤みが覗くドロドロとした液体が鎮座しており、タロウが思うにリンゴのジャムを作った際に剥いた皮の成れの果てであろう、そしてそれを用いてソフィアが早速ふりかけに挑戦しているらしい、めんどくさそうな顔をしておいて、なんのかんのいいつつもソフィアは実に柔軟で、手が早く、そして秘密主義で個人主義、さらにはチャレンジブルであったりする、

「そうねー・・・でも、あれか、普通にお茶を淹れてそれにこれを混ぜれば良くない?カシアを添えて?」

「・・・それでも美味しそうだね」

「ね、蜂蜜も良さそうだけど・・・あっ、ヨウカン美味しかったわよ」

「あっ、あれもあったな、まだある?」

「ない」

「エー・・・」

「アフラさんが来たからね、朝一で」

「・・・そういう事か・・・まぁ、いいよ、それなら」

「でしょー、まぁ、アフラさんが来なくてもミナに取られてたかもだけどさ・・・」

「ありゃ、それもあるな」

「そういう事」

ニヤリと微笑むソフィア、スッと手を止めると、

「じゃ、どうしようかしら、オリビアさんに話してみようかしら・・・」

「だね、好きにすればいいさ、あっ、その前に一度試してみるのをお勧めするけどね、で、俺は」

何をしに来たんだっけと首を傾げ、アーと気付いて水場へ向かう、単に手を洗いに来ただけであった、そこへ、

「来ましたー・・・よ?」

とケイスがヒョイと厨房に顔を覗かせた、

「ん?どした?」

ソフィアが顔を上げ、

「あっ、タロウさんが上に行けって・・・」

ケイスが小首を傾げる、ん?と手を洗いつつ振り返るタロウ、

「あっ、頼む、レスタさんもいるから、あと、ユーリとカトカさん」

「はい、聞きましたけど、そんなに重要なんですか?」

「そりゃもう、あっ、ソフィアも行ってみ?面白い感じだぞ」

手を拭いつつ振り向くタロウ、

「なにが?」

スッとタロウを見つめるソフィア、

「いいから、行ってみなさいよ、ただ、君が行ったら捕まって戻ってこれなくなるかもね」

ニヤリと微笑むタロウである、

「・・・なに、そんなに凄いの?」

これはと察してソフィアの目の色が変わる、一応夫婦なのである、タロウの言動からその重要性はなんとなく察せられた、

「そだね、凄いし、重要だし、面白い、だから、ケイスさん、少し協力してやってくれ」

「えっと・・・はい、わかりました・・・」

若干不安そうに顔を曇らせひっこむケイス、すぐさま、

「まだー、速くしろー」

ミナが代わって顔を出す、

「あっ、悪い」

そそくさと食堂へ戻るタロウ、ソフィアははてそう言われてもなとすり鉢を見つめ、リンゴのお茶も美味しそうよね、とりあえず試してみようかしら癪だけど・・・と戸棚に向かうのであった。



「で、丸めます」

「で、で?」

「あとは焼くだけ」

「そなの?」

「そなの」

ニコリと微笑むタロウの手元、そこには三種の丸パンが並んでいる、それぞれにあんことカスタードクリーム、リンゴのジャムが何とか包み込まれていた、タロウはなるほどこれは結構難しいなと口には出さずに悪戦苦闘してしまっている、初めての作業であった事もあるが、それぞれの中身が若干柔らかく、丸めようとしても形にならなかった為、一度鍋に移して煮込み直して水分を飛ばしている、その間にも生徒達は献身的に動いており、その後ろではソフィアとオリビアがゴソゴソやっていた、これはいいとオリビアの黄色い歓声が上がり、なんだなんだとそちらと合わせて騒ぎになりつつなんとか試作品の一つずつは出来ている、それを注視しつつ、一次発酵の済んだパン生地を小さく丸める生徒達、ミナとレインもそれを手伝い、ハナコは楽しそうに駆け回っていた、

「これは絶対・・・」

「うん、絶対美味しい・・・」

「うん、なんかもう・・・涎が・・・」

「サレバ汚い」

「しょうがないよー」

生徒達もなるほど、こうしたかったのかとタロウの手元を見つめ、一つ目のあんこを包みだした瞬間にその意図を察していた、そしてワクワクとその完成を待ち、三つ揃ったところでいよいよ我慢できなくなってしまったようで、

「ムフフー、美味しそー」

「じゃなー、これは良いかもだのう」

ミナとレインも爛々と瞳を輝かせる、

「まぁな、でだ・・・ここからも大事」

タロウは用意していた卵の黄身だけが入った小皿を手繰り寄せる、

「あっ、それどう使うんですか?」

サレバがギンとタロウを睨む、

「うん、これね、これがまた大事なんだよー」

タロウはニマーと微笑み、スプーンの腹に溶いた黄身を少量つけて丸めたパンの上部に塗りつけた、エッとそれを見つめる生徒達、

「・・・それだけ・・・ですか?」

「そっ、これだけ、まぁ、これはね、フフン、焼きあがったらビックリするぞー」

ニヤニヤとタロウは微笑む、そうなんですかとタロウを見上げる生徒達、タロウが思うに惜しむらくは料理用の刷毛が無かった事である、ニコリーネであれば使用していない絵筆もあったであろうと後から思いつくも、絵画に使用される道具は何にしても高価であった、それを考えると軽々しく貸してくれとは言えないなと思い、まぁ塗りつける程度であればスプーンで充分だろうとやってみている、ただただパンに艶を出すための装飾でしかないが、やはり、あの照りもまた菓子パンには重要な要素であろう、

「でだ、さて・・・どうするか・・・」

タロウは三つそれぞれに塗りつけると首を傾げた、タロウがどうしても食べたかったあんぱん、それに付随し作れるなと思い立ったクリームぱんにジャムぱんとなる、こうなるともう少し拘りたいし、なにより見た目が一緒だと今一つ楽しくない、やはりあんぱんには胡麻かなと思うも、今日はユスティーナも来ると聞いている、となれば胡麻は使えないとなると形を変えるのが良いであろうと思われるが、ここまで出来上がってはそれも難しいように思う、しかし、まぁやってみるかと、クリームパンに手を伸ばすと、

「えっとね、中身が分かるようにしたいから」

クリームパンはやはりあの握りこぶしのような形だよなと思い出す、何故あのような形状であるか、また、そうするにはどうすればいいのか等まるで分からなかったが、取り合えずと三本程の切り込みを入れてみた、生徒達はいいのかなと思いつつも取り合えず見守るしかなく、

「で、こっちは・・・」

ジャムパンと言えば楕円形か三角形だったなとタロウは思い出す、その由来も知る由も無かったが、取り合えず大きく形を歪めてみた、これにもエッと驚く生徒達、タロウは、

「ん・・・うん、中身も出てないし、これでいいね」

ニヤリと微笑み、

「そだなー・・・ジャムのは、この形になるように最初からやった方がいいかもだね、で、クリームのは・・・うん、後からでも良さそうかな・・・普通に丸めてやってみて」

どうやらこれで良さそうだと微笑む、

「えっと・・・」

「それって何か意味があるんですか?」

思わず問いかけるグルジアである、

「ん?ほら、中身が分かるようにってことと・・・」

「ことと?」

「なんか楽しいじゃない?」

ニヤリと微笑むタロウに、そう言われればと頷かざるを得ない生徒達、しかし焼き上がりの姿を知らない為どうなるのかがまるで分らない、ここはタロウの指示に従うべきだなと呑み込んだようである、

「まぁ、こんな感じ、どうかな?」

タロウがさてと感想を求めると、

「やります、美味しそう」

「うん、やる、絶対、美味い」

「ミナもー、ミナもやるー」

「おう皆でやるぞ」

「分かったー」

「よしその意気だ、で、注意点はパンは薄くていいぞ、中身がたっぷり入ってる感じが好ましい、といってもまちまちだと不格好だから、あんことかクリームはこのお玉の半分の大きさね、でパン生地は丸めて貰った大きさで統一、あとは・・・まぁ、慣れだな、取り敢えずやるか、俺、あんこね」

「ミナもー、ミナもー」

「あっミナは卵がかりだ」

「なにそれー」

「さっき見たろ?卵を塗るの」

「えー・・・」

「えーって、一番大事なんだぞ」

「そなの?」

「そうだぞー、仕上げってやつだ、お化粧みたいなもんだからな」

「そうなんですか?」

「そうなんだよー」

「やるー、ミナ、爪磨くの得意ー」

「そうなのか?」

「そうなのー、知らないのー」

「聞いてないなー」

「ムー、タロウのアホー」

「アホーって君な・・・」

「いいのー、ミナは上手なのー」

「はいはい、じゃ、そういう感じで、あっ、コミンさん、それ良い感じ、そんな感じで」

すでにクリームパンを一つ作り上げていたコミン、ウンと満足そうに微笑んでいた、

「あっ、速い、ちゃんと包んでる?」

「大丈夫だよー、サレバじゃないんだからー」

「なんだとー」

ギャーギャーと騒ぎつつ笑顔で取り掛かる一同であった。
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