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本編
79話 兄貴達 その21
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再びその少し前、寮の三階では、
「これ・・・凄いですね」
ゾーイが目の前に並んだシャーレを覗き込んで目を輝かせ、その隣りのサビナもよくもまぁここまでと呆気に取られている、
「でしょー、で、今後の研究方針なんだけど・・・」
ユーリがカトカにその先を視線で促す、コクリと頷き黒板を取り出すカトカ、
「まずは、やはりこの状態の性質ですね、何が出来て何が出来ないか、それを明確にするのが必要となります、現時点でも色々とやったのは説明した通りなのですが、より細かく詳細にって感じですね」
静かに続けるカトカ、うんうんと頷くゾーイである、
「で、その次としては何に使えるかって事になりますが、こちらは既存の技術、転送陣は勿論ですが、光柱、それから陶器板ですね、それと赤色の魔法石との連動ですか、これは現状でも充分な感はありますが、やってみないと分からない部分もありますし、実際ね、赤い魔法石の粉末にインクを混ぜてみたのですが、そちらはどうも相性が良くないらしくて」
「これですね、うん、分かります」
ゾーイがシャーレの一つを手にした、それは見ただけでも明快で、赤い粉末とインクが見事に分離していた、無色のそれのように馴染んでいないのである、
「そうなんですよ、これは想定外でした」
「ねー・・・こうなるとあれよね、赤い魔法石と無色の魔法石って全く別の物質とするのが良さそうよね」
「ですね、それも課題の一つになります、で、時間経過での変質も調べたい所ですし、魔力の許容量ですね、これは性質の調査で見ていきたいかなと、それと太陽光と大気からの魔力吸収、これも重要と考えますが・・・うん、なんかあっという間に山積みになりましたね、取り合えずはやはり・・・」
「性質の調査ですね」
ニヤリとゾーイが顔を上げ、その通りと微笑むユーリとカトカ、サビナもなるほど、昨晩少しは耳にしたがよくよく聞けばこれは大事だと口元を引き締める、今朝ゾーイが土産を持って出勤し、ソフィアを交えて井戸端会議を楽しんだ後、研究所に上がった四人は昨日のカトカの発見、それを主題に打合せとなっている、サビナも昨日はこちらに殆ど関与しておらず、あっという間にここまでやったのかと呆れ気味で、ゾーイにしても実家に戻ってすっかり弛緩して戻って来た所で、突然の事でもある為度肝を抜かれると同時に興奮してしまっている、目の前に並ぶシャーレ、そこに輝く魔法石とインクの塊は実用性にしろ使い勝手にしろ一足飛びに進化していると感じる、無論まだまだ研究の余地はあるしそれこそがこの研究所の仕事となるのであるが、こりゃまた面白いと目を輝かせるのも当然であった、
「で、なんですが・・・」
カトカがユーリへ視線を向ける、
「そうね、まずはカトカとゾーイにはその性質ね、これを担当して貰いたいんだけど、どうかしら、ゾーイは転送陣の改良を続ける?そっちも重要だからね、同時にってなると大変だし・・・混乱するだけなのよね、だから・・・どうしようかと悩んでてねー」
腕を組んでムーと首を傾げるユーリ、カトカがすぐに、
「午後からケイスさんとレスタさんが手伝いに来ますから、これの研究は二人の手を借りたいと思ってました」
と口を挟む、
「あっ、そうだったわね、じゃ、そうする?カトカがその方がいいのであれば任せるわよ」
「ですね、特に作業的な事は午後に回して、で・・・ただ魔力そのものを使う時には所長とゾーイさんに助けて欲しいですけど」
「それも言ってたわねー・・・でも、一般的に使う事を考えればあんたやレスタさんの魔力量で使える程度で丁度いいのよね、ケイスさんはあんたらよりも遥かに多いし、ゾーイはそれより上だし、私を基準にしたら誰も使えなくなるし」
「それはだってまだ先の話ですよ、許容量を測るには所長くらい使えないと限界を見定めるのが難しくなります」
「あっ、それもそっか」
「そうなんです、なので、今日はこれから調査項目を改めて相談したいって考えてました、あまりにもあれです、どこまで何ができるのかわからな過ぎて、なので、これも昨日書き出しただけですし、方向性だけは見えるんですが、あっちこっちと逸れちゃいそうで」
カトカは黒板を手に口を尖らす、
「・・・私としては・・・」
やっとゾーイが口を開いた、どうやらユーリもカトカも悩んでいるらしい、それもそうだろうなと二人の会話を聞いて思い知る、ユーリの研究そのものが数歩先に進むほどの発見なのだ、二人の興奮も落ち着きの無さも理解できるというもので、
「すいません、まったく話が変わるのですが・・・少し考えたことがありまして、いいですか?」
不安そうにユーリを見つめるゾーイ、ユーリは何かしらと片目を見開く、
「えっとですね、父に言われまして、それもそうだなって思ったんですけど・・・」
足元の革袋から黒板を取り出すゾーイ、やたら小さい文字で書き込まれており、こりゃまたとサビナは呆れてしまった、どうやらゾーイも休み中にも関わらず研究から離れられなかったらしい、しっかりと休み、仕事の事なぞまるで頭に無かった私とは違うなーと若干寂しく感じ、また少しばかり反省してしまう、
「光柱ですね、すんごい喜ばれたんですけど、あれをですね、上から吊るせないかなって思って・・・」
黒板を確認し恐る恐ると顔を上げるゾーイ、
「・・・どういう事?」
「はい、父がですね、部屋の真ん中に置くのは理解できるが、天井を照らしたい訳じゃないだろって言い出して、で、あのステンドグラスの覆いですか、ああいうのもあるよって話したんですけど、そんな手間をかけるなら下に向ければいいだろって」
「・・・そりゃ・・・」
「その通りですね」
「うん、まったくだ・・・」
ポカンとゾーイを見つめる他三人、
「で、それはほら、現状の小皿とか壺に魔力を入れた状態だとどうしても無理じゃないですか」
「そこよね」
「そこです」
ユーリとカトカが大きく頷き、サビナも確かにと傍らの光柱を見つめる、今日も外は寒い、すっかり木窓は締め切り二つの光柱の灯りと暖炉の炎、これでもってこの部屋は快適にかつ明るくなっている、
「で、最初はガラス容器で何とか出来ないかなって思って色々考えてみたんですよ、単純に魔法陣を表裏逆にして、光の発生を下部に向ける、ただ、この場合魔力によって若干拡散されるかなって考えたんですが、それは現状の小皿でも一緒なんですよね・・・で、他にやるとすると蜘蛛糸で小皿を連結する形?魔力を溜める部分と光る部分を別にしてって感じかなって、感じで・・・どうでしょう?」
「それいいわね、やってみた?」
「道具が無いですよ」
「それもそうか、すぐにやりなさい」
「いいんですか?」
「当然よ、あなたはあなたでやる事があるならそれをやる、第一、面白そうだわ」
「ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべるゾーイ、カトカとサビナもそれはいいかもと笑顔となる、
「じゃ、ゾーイは取り合えずそっちで」
「あっ、午後からは私も手伝います」
「・・・そっか、そういう感じで動けるか・・・」
「ですね、となると」
と動き出す四人であった、ユーリとカトカは再び黒板を手にして話し込み、ゾーイはすでに何をどうしたいのかが確定している、実家で過ごしていた時もさっさと帰ってやりたいなーとじっくりと考え込んでいたりした、そしてサビナはサビナで本格的に講師の準備が待っていた、昨日の勉強会で賓客達のメイドから情報提供も受けており、それをまとめたものと新しい学科の為に生活科の講師達と打合せを持ちたいと考えていたりする、そうしてそれぞれに動いているところに、
「お疲れさまー」
タロウがノソリと顔を出す、ゾーイがお久しぶりですと笑顔を見せた、
「あら戻った?」
ニコリと微笑み返すタロウ、
「はい、ゆっくり休んできました」
「それは良かった、あっ、ユーリは?」
「研究室ですね、カトカさんも一緒です」
「ありがと」
タロウがそのまま研究室の方へ顔を入れる、カトカが丸い背を向けており、その手元をユーリが立ち上がって覗き込んでいた、
「あー・・・忙しい?」
一応と問いかけるタロウ、ムッとユーリの顔がタロウに向き、カトカもゆっくりと振り返る、
「当然でしょ、あんた、これどう思う?」
低く冷たい声音である、どうやら研究に集中しているらしいとタロウは苦笑し、
「それも大事だけどさ、どうする?向こう?」
「向こう?」
「ほら、エレインさんのあれ、パンの講習会なんだけど、少しばかり作業をやっておきたいと思ってね」
「あっ・・・」
「そっちもありましたね・・・」
忘れていたとばかりに顔を見合わせる二人、
「そっ、そっちもあったんだよ、で、なんか料理人さん達が集まる事になってね、大人数になるから店の方でやるみたい」
「そっか・・・そりゃそうよね、メイドさんに教えるよりも料理人に教えるのが正しいわよね」
やれやれとユーリがタロウに向き直り、カトカはウーンと頭をかく、
「そういう事みたいだね、で、教えるのは教えるんだけどさ、その前にマンネルさん達に手伝って貰って色々やっておこうかと思ってね」
「あー、まぁ、そういう事か、カトカ、あんたそっちよね」
「ですね、はい、じゃ」
ユルユルと立ち上がるカトカ、
「ゾーイにも声かけて」
「ですねー」
若干寂しそうなのは手元の研究に集中していた為であろう、
「あっ、丁度いい、あんたさ、ゾーイの方の話し聞いてくれる?」
ユーリがズンズンとタロウに近寄り、
「ゾーイさんの方?」
タロウはその勢いに押されスッと場所を空けた、
「そっ、ゾーイ、さっきのあれ、タロウに説明して」
そのままズンズンと研究室から出てゾーイに歩み寄るユーリ、ゾーイもすぐに顔を上げる、そして中央のテーブルに座らせられるタロウ、時間無いのになーと思いつつ、しかしどうやら真面目な内容であるらしい、そのままゾーイの発案を耳にし、
「・・・その通りだねー」
ニヤーと微笑むタロウである、
「なによその顔は」
ムスッと睨むユーリ、
「いや、やっぱりそうなったかなーって・・・」
さらにニマニマと微笑むタロウ、
「想定内だったって事ですか?」
カトカもこれには不愉快そうである、
「ある程度ね、この光柱の問題点はまさにそこでね、現状はさ光の柱としてニョキッと生えてるだろ?」
傍らの光柱に手を伸ばすタロウ、
「そりゃだってそういうもんでしょ」
「うん、でも、これだとね、手元を明るくするとか部屋全体を明るくしようとした場合、どうしても眩しいんだよね」
「そりゃそうだけど」
「なんだけど、ゾーイさんの発案、それがまさに解決になるよ」
「待って、あんたどこまで考えてるの?」
「別にー」
タロウはニヤニヤと微笑み、
「そうだなー、じゃ、助言いいかな?」
ニコリとゾーイを窺う、ゆっくりと頷くゾーイ、どうやらタロウはすでに想定内であったらしい、どこまで何をどう考えているのだろうかこの人はと、いよいよ訝しく感じるゾーイである、
「まずね、光柱として中心に柱がある必要は無くて、光をね拡散するのがいいと思う」
「待って、それだとそれこそ眩しいわよ」
「そだね、でもそれは光源、光の元になるものが視線より下にある場合」
エッとタロウを見つめる三人、
「人がね、明るくして何をしたいかって言えば、手元作業でしょ?」
「そりゃ・・・そうだけど」
「そうなんだよ、どうしても人はね、本を読む時も編み物をするときも食事の時も目線は下になる?俯いて手元を見るだろ?違う?」
確かにそうかもと目を丸くしてしまう三人である、実に基本的な事であった、しかしそう指摘されなければ気付けなかった事でもある、
「となるとその視界の端とかに光源があると眩しいのであって、ゾーイさんの言う通り、上から照らす方法をとるとすると、手元には光が当たるけど、目には直接光が入らなくなる、すると作業しやすい、本も読みやすいし、作業も捗る、眩しくない、つまりは何を照らしたいかっていう目的の問題になるんだな、目とか顔を明るくしたいんじゃなくて、その目と顔の先の何かを明るくしたいのさ、で、そうなると、この光柱のようにね、真ん中に光があってそこから光が拡散する形じゃなくて、この真ん中の光をね出来るだけ広く大きく拡散して全体をね明るくしてあげるのがいいんだよ・・・この説明で分かるかな?」
タロウが若干不安そうに首を傾げるも、
「・・・そうなの?」
「そうかもですよ・・・」
「・・・分かる気がします・・・」
三人が唖然と顔を見合わせる、どうやらタロウの解説で理解できたらしい、
「だから、現状のね、光柱そのものを逆向きにするよりも、中心とかは無しで、柱の部分ね、で、出来るだけ大きく均等に光をばらまく?そんな感じがいいと思う、出来ればだけどね」
ニヤリと微笑むタロウ、確かにとゾーイは黒板に書き付ける、
「で・・・実際の運用というか使い方かな?それはほら、試作品が出来てからだと思うけど・・・まぁ、良い感じになると思うよ」
あっさりと実に簡潔に続けるタロウ、ゾーイはなるほどなるほどと大きく頷いているが、こいつはまったくと不愉快そうなユーリ、カトカもどうしてそんな簡単に飛躍できるのかと不思議そうにタロウを見つめてしまっていた。
「これ・・・凄いですね」
ゾーイが目の前に並んだシャーレを覗き込んで目を輝かせ、その隣りのサビナもよくもまぁここまでと呆気に取られている、
「でしょー、で、今後の研究方針なんだけど・・・」
ユーリがカトカにその先を視線で促す、コクリと頷き黒板を取り出すカトカ、
「まずは、やはりこの状態の性質ですね、何が出来て何が出来ないか、それを明確にするのが必要となります、現時点でも色々とやったのは説明した通りなのですが、より細かく詳細にって感じですね」
静かに続けるカトカ、うんうんと頷くゾーイである、
「で、その次としては何に使えるかって事になりますが、こちらは既存の技術、転送陣は勿論ですが、光柱、それから陶器板ですね、それと赤色の魔法石との連動ですか、これは現状でも充分な感はありますが、やってみないと分からない部分もありますし、実際ね、赤い魔法石の粉末にインクを混ぜてみたのですが、そちらはどうも相性が良くないらしくて」
「これですね、うん、分かります」
ゾーイがシャーレの一つを手にした、それは見ただけでも明快で、赤い粉末とインクが見事に分離していた、無色のそれのように馴染んでいないのである、
「そうなんですよ、これは想定外でした」
「ねー・・・こうなるとあれよね、赤い魔法石と無色の魔法石って全く別の物質とするのが良さそうよね」
「ですね、それも課題の一つになります、で、時間経過での変質も調べたい所ですし、魔力の許容量ですね、これは性質の調査で見ていきたいかなと、それと太陽光と大気からの魔力吸収、これも重要と考えますが・・・うん、なんかあっという間に山積みになりましたね、取り合えずはやはり・・・」
「性質の調査ですね」
ニヤリとゾーイが顔を上げ、その通りと微笑むユーリとカトカ、サビナもなるほど、昨晩少しは耳にしたがよくよく聞けばこれは大事だと口元を引き締める、今朝ゾーイが土産を持って出勤し、ソフィアを交えて井戸端会議を楽しんだ後、研究所に上がった四人は昨日のカトカの発見、それを主題に打合せとなっている、サビナも昨日はこちらに殆ど関与しておらず、あっという間にここまでやったのかと呆れ気味で、ゾーイにしても実家に戻ってすっかり弛緩して戻って来た所で、突然の事でもある為度肝を抜かれると同時に興奮してしまっている、目の前に並ぶシャーレ、そこに輝く魔法石とインクの塊は実用性にしろ使い勝手にしろ一足飛びに進化していると感じる、無論まだまだ研究の余地はあるしそれこそがこの研究所の仕事となるのであるが、こりゃまた面白いと目を輝かせるのも当然であった、
「で、なんですが・・・」
カトカがユーリへ視線を向ける、
「そうね、まずはカトカとゾーイにはその性質ね、これを担当して貰いたいんだけど、どうかしら、ゾーイは転送陣の改良を続ける?そっちも重要だからね、同時にってなると大変だし・・・混乱するだけなのよね、だから・・・どうしようかと悩んでてねー」
腕を組んでムーと首を傾げるユーリ、カトカがすぐに、
「午後からケイスさんとレスタさんが手伝いに来ますから、これの研究は二人の手を借りたいと思ってました」
と口を挟む、
「あっ、そうだったわね、じゃ、そうする?カトカがその方がいいのであれば任せるわよ」
「ですね、特に作業的な事は午後に回して、で・・・ただ魔力そのものを使う時には所長とゾーイさんに助けて欲しいですけど」
「それも言ってたわねー・・・でも、一般的に使う事を考えればあんたやレスタさんの魔力量で使える程度で丁度いいのよね、ケイスさんはあんたらよりも遥かに多いし、ゾーイはそれより上だし、私を基準にしたら誰も使えなくなるし」
「それはだってまだ先の話ですよ、許容量を測るには所長くらい使えないと限界を見定めるのが難しくなります」
「あっ、それもそっか」
「そうなんです、なので、今日はこれから調査項目を改めて相談したいって考えてました、あまりにもあれです、どこまで何ができるのかわからな過ぎて、なので、これも昨日書き出しただけですし、方向性だけは見えるんですが、あっちこっちと逸れちゃいそうで」
カトカは黒板を手に口を尖らす、
「・・・私としては・・・」
やっとゾーイが口を開いた、どうやらユーリもカトカも悩んでいるらしい、それもそうだろうなと二人の会話を聞いて思い知る、ユーリの研究そのものが数歩先に進むほどの発見なのだ、二人の興奮も落ち着きの無さも理解できるというもので、
「すいません、まったく話が変わるのですが・・・少し考えたことがありまして、いいですか?」
不安そうにユーリを見つめるゾーイ、ユーリは何かしらと片目を見開く、
「えっとですね、父に言われまして、それもそうだなって思ったんですけど・・・」
足元の革袋から黒板を取り出すゾーイ、やたら小さい文字で書き込まれており、こりゃまたとサビナは呆れてしまった、どうやらゾーイも休み中にも関わらず研究から離れられなかったらしい、しっかりと休み、仕事の事なぞまるで頭に無かった私とは違うなーと若干寂しく感じ、また少しばかり反省してしまう、
「光柱ですね、すんごい喜ばれたんですけど、あれをですね、上から吊るせないかなって思って・・・」
黒板を確認し恐る恐ると顔を上げるゾーイ、
「・・・どういう事?」
「はい、父がですね、部屋の真ん中に置くのは理解できるが、天井を照らしたい訳じゃないだろって言い出して、で、あのステンドグラスの覆いですか、ああいうのもあるよって話したんですけど、そんな手間をかけるなら下に向ければいいだろって」
「・・・そりゃ・・・」
「その通りですね」
「うん、まったくだ・・・」
ポカンとゾーイを見つめる他三人、
「で、それはほら、現状の小皿とか壺に魔力を入れた状態だとどうしても無理じゃないですか」
「そこよね」
「そこです」
ユーリとカトカが大きく頷き、サビナも確かにと傍らの光柱を見つめる、今日も外は寒い、すっかり木窓は締め切り二つの光柱の灯りと暖炉の炎、これでもってこの部屋は快適にかつ明るくなっている、
「で、最初はガラス容器で何とか出来ないかなって思って色々考えてみたんですよ、単純に魔法陣を表裏逆にして、光の発生を下部に向ける、ただ、この場合魔力によって若干拡散されるかなって考えたんですが、それは現状の小皿でも一緒なんですよね・・・で、他にやるとすると蜘蛛糸で小皿を連結する形?魔力を溜める部分と光る部分を別にしてって感じかなって、感じで・・・どうでしょう?」
「それいいわね、やってみた?」
「道具が無いですよ」
「それもそうか、すぐにやりなさい」
「いいんですか?」
「当然よ、あなたはあなたでやる事があるならそれをやる、第一、面白そうだわ」
「ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべるゾーイ、カトカとサビナもそれはいいかもと笑顔となる、
「じゃ、ゾーイは取り合えずそっちで」
「あっ、午後からは私も手伝います」
「・・・そっか、そういう感じで動けるか・・・」
「ですね、となると」
と動き出す四人であった、ユーリとカトカは再び黒板を手にして話し込み、ゾーイはすでに何をどうしたいのかが確定している、実家で過ごしていた時もさっさと帰ってやりたいなーとじっくりと考え込んでいたりした、そしてサビナはサビナで本格的に講師の準備が待っていた、昨日の勉強会で賓客達のメイドから情報提供も受けており、それをまとめたものと新しい学科の為に生活科の講師達と打合せを持ちたいと考えていたりする、そうしてそれぞれに動いているところに、
「お疲れさまー」
タロウがノソリと顔を出す、ゾーイがお久しぶりですと笑顔を見せた、
「あら戻った?」
ニコリと微笑み返すタロウ、
「はい、ゆっくり休んできました」
「それは良かった、あっ、ユーリは?」
「研究室ですね、カトカさんも一緒です」
「ありがと」
タロウがそのまま研究室の方へ顔を入れる、カトカが丸い背を向けており、その手元をユーリが立ち上がって覗き込んでいた、
「あー・・・忙しい?」
一応と問いかけるタロウ、ムッとユーリの顔がタロウに向き、カトカもゆっくりと振り返る、
「当然でしょ、あんた、これどう思う?」
低く冷たい声音である、どうやら研究に集中しているらしいとタロウは苦笑し、
「それも大事だけどさ、どうする?向こう?」
「向こう?」
「ほら、エレインさんのあれ、パンの講習会なんだけど、少しばかり作業をやっておきたいと思ってね」
「あっ・・・」
「そっちもありましたね・・・」
忘れていたとばかりに顔を見合わせる二人、
「そっ、そっちもあったんだよ、で、なんか料理人さん達が集まる事になってね、大人数になるから店の方でやるみたい」
「そっか・・・そりゃそうよね、メイドさんに教えるよりも料理人に教えるのが正しいわよね」
やれやれとユーリがタロウに向き直り、カトカはウーンと頭をかく、
「そういう事みたいだね、で、教えるのは教えるんだけどさ、その前にマンネルさん達に手伝って貰って色々やっておこうかと思ってね」
「あー、まぁ、そういう事か、カトカ、あんたそっちよね」
「ですね、はい、じゃ」
ユルユルと立ち上がるカトカ、
「ゾーイにも声かけて」
「ですねー」
若干寂しそうなのは手元の研究に集中していた為であろう、
「あっ、丁度いい、あんたさ、ゾーイの方の話し聞いてくれる?」
ユーリがズンズンとタロウに近寄り、
「ゾーイさんの方?」
タロウはその勢いに押されスッと場所を空けた、
「そっ、ゾーイ、さっきのあれ、タロウに説明して」
そのままズンズンと研究室から出てゾーイに歩み寄るユーリ、ゾーイもすぐに顔を上げる、そして中央のテーブルに座らせられるタロウ、時間無いのになーと思いつつ、しかしどうやら真面目な内容であるらしい、そのままゾーイの発案を耳にし、
「・・・その通りだねー」
ニヤーと微笑むタロウである、
「なによその顔は」
ムスッと睨むユーリ、
「いや、やっぱりそうなったかなーって・・・」
さらにニマニマと微笑むタロウ、
「想定内だったって事ですか?」
カトカもこれには不愉快そうである、
「ある程度ね、この光柱の問題点はまさにそこでね、現状はさ光の柱としてニョキッと生えてるだろ?」
傍らの光柱に手を伸ばすタロウ、
「そりゃだってそういうもんでしょ」
「うん、でも、これだとね、手元を明るくするとか部屋全体を明るくしようとした場合、どうしても眩しいんだよね」
「そりゃそうだけど」
「なんだけど、ゾーイさんの発案、それがまさに解決になるよ」
「待って、あんたどこまで考えてるの?」
「別にー」
タロウはニヤニヤと微笑み、
「そうだなー、じゃ、助言いいかな?」
ニコリとゾーイを窺う、ゆっくりと頷くゾーイ、どうやらタロウはすでに想定内であったらしい、どこまで何をどう考えているのだろうかこの人はと、いよいよ訝しく感じるゾーイである、
「まずね、光柱として中心に柱がある必要は無くて、光をね拡散するのがいいと思う」
「待って、それだとそれこそ眩しいわよ」
「そだね、でもそれは光源、光の元になるものが視線より下にある場合」
エッとタロウを見つめる三人、
「人がね、明るくして何をしたいかって言えば、手元作業でしょ?」
「そりゃ・・・そうだけど」
「そうなんだよ、どうしても人はね、本を読む時も編み物をするときも食事の時も目線は下になる?俯いて手元を見るだろ?違う?」
確かにそうかもと目を丸くしてしまう三人である、実に基本的な事であった、しかしそう指摘されなければ気付けなかった事でもある、
「となるとその視界の端とかに光源があると眩しいのであって、ゾーイさんの言う通り、上から照らす方法をとるとすると、手元には光が当たるけど、目には直接光が入らなくなる、すると作業しやすい、本も読みやすいし、作業も捗る、眩しくない、つまりは何を照らしたいかっていう目的の問題になるんだな、目とか顔を明るくしたいんじゃなくて、その目と顔の先の何かを明るくしたいのさ、で、そうなると、この光柱のようにね、真ん中に光があってそこから光が拡散する形じゃなくて、この真ん中の光をね出来るだけ広く大きく拡散して全体をね明るくしてあげるのがいいんだよ・・・この説明で分かるかな?」
タロウが若干不安そうに首を傾げるも、
「・・・そうなの?」
「そうかもですよ・・・」
「・・・分かる気がします・・・」
三人が唖然と顔を見合わせる、どうやらタロウの解説で理解できたらしい、
「だから、現状のね、光柱そのものを逆向きにするよりも、中心とかは無しで、柱の部分ね、で、出来るだけ大きく均等に光をばらまく?そんな感じがいいと思う、出来ればだけどね」
ニヤリと微笑むタロウ、確かにとゾーイは黒板に書き付ける、
「で・・・実際の運用というか使い方かな?それはほら、試作品が出来てからだと思うけど・・・まぁ、良い感じになると思うよ」
あっさりと実に簡潔に続けるタロウ、ゾーイはなるほどなるほどと大きく頷いているが、こいつはまったくと不愉快そうなユーリ、カトカもどうしてそんな簡単に飛躍できるのかと不思議そうにタロウを見つめてしまっていた。
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彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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