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本編
80話 儚い日常 その20
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それから新しい寝台を囲んでワイワイと騒がしくなる、それぞれ交代で試しつつ、確かにこれは良いと絶賛の嵐で、ブラスとリノルトは照れくさそうに微笑む、さらにミーンがこっちにいるはずだと事務所からエレインを連れて来た、カチャーも同行しており何の騒ぎかと目を丸くするも言われるがまま寝台に寝ころべばなんだこれはと目を輝かせる、そして、
「とりあえず・・・人数分発注してしまうか・・・」
ティルが淹れた茶を口にしつつタロウがソフィアに確認する、
「そうねー・・・生徒達とレイン、ミナは・・・それでいいでしょ、それと私達とユーリ?」
指折り数えるソフィア、かなりの数である、片手では足りないようで、ゲッと呻いたブラスとリノルト、
「あっ、カトカさん達はどうする?」
ヒョイと首を伸ばすソフィア、寝台内部の構造体を覗き込んでいるユーリとカトカとゾーイ、カチャーも一緒になってこれは面白いと夢中になっている、
「なんですか?」
こちらの話しは全く聞いていなかったのであろうカトカがサッと立ち上がる、
「一緒に注文しちゃう?」
タロウが軽く問い直し、エッと首を傾げるカトカ、ゾーイも何だそりゃと腰を上げ、
「なに?もう注文するの?」
とユーリもヒョイと顔を上げる、カチャーがいいなー羨ましいなーとカトカとゾーイを見上げた、
「そのつもり、まぁ・・・ほら、取り合えずそのままで良ければね」
タロウがどんなもんだろうかと首を傾げた、
「あっ、それです、あの、改良点とか無いですか?あくまで試作品なんで、その・・・このまま発注と言われても・・・」
ブラスが慌てて口を挟む、
「うん、すいません、少々あれです、不安もあります」
続くリノルト、だろうなーとバーレントが頷き、コッキーもこれには同意である、
「そう?十分だと思うけどねー」
タロウはんーと寝台を見つめる、予想以上に立派な作りであった、耐久性も問題なさそうで、肝心のクッション性も申し分ない、少々無骨に見えるが、それは致し方ない、革の代わりに帆布や天幕に使用されている厚手の綿でも使えばいいのかなとも思うが、結局寝台である、王国民が当たり前に使っている藁束を敷き詰めたそれよりも各段に快適で心地良く、しっかりと寝て見なければ分からないが、今、この世界にあって捩じりバネを使用した寝台を使用しているのはミナただ一人となり、さらにはハナコも使っているが、ハナコを勘定に入れるのは違うであろう、となればミナに比べてもらって感想が欲しいかなと思うも、所詮ミナである、寝心地の良さや細かい違いの確認、改善点の提案等を頼むのは少し違うと思われた、いや出来ないであろう、となると・・・とタロウは視点を変えてみる、そして、
「アッ・・・」
と思い出す、
「なんですか?」
「やっぱりありますよね」
ブラスとリノルトがグワッと食い付いた、
「いや、うん、まぁ・・・これはほら、お客さんに選択肢を与えるって事なんだけど・・・」
「はい、なんでもいいです」
サッと黒板を取り出すブラス、
「うん、そだねー・・・俺としてはその固さで丁度いいと思うんだけど、もう少しバネが柔らかい方が好きな人もいるかもだし、逆にね、もっと固い方がいいっていう人もいるかもねー」
「あっ、そこですね、悩んでました」
リノルトがズイっと身を乗り出す、へーそうなんだーと感心する女性達、
「うん、気持ちわかる、だから・・・三種類くらい?柔らかめ、程々、固めってかんじで捩じりバネそのもので反発力かな?そういうのを調整してもいいかもねー」
「なるほど、あれですか?お客さんに選ばせる?」
「そうなると思うよ、まぁ、ほら、表面的な柔らかさはさ、綿の入った寝具とかシーツに任せるとして、身体を支える力?そこがね、この寝台の肝だからね、で、好みってやつがあるもんだしね、だから・・・どだろ、皆さんはどう?もう少しこう・・・柔らかく支えられた方がいいもの?」
と女性陣を見渡すタロウ、しかし、皆一様に首を傾げてしまう、
「ありゃ・・・今一つ?」
つられて首を傾げてしまうタロウ、
「・・・あれです、比較しようが無くて・・・それに実際にほら、しっかり使ってみないと・・・なんとも・・・」
エレインが苦笑しながら答える、
「それもそっか」
あっさりと納得するタロウ、確かにと頷く女性達、
「となるとやっぱりほら、さっきみたくてね、軽く寝ころぶ程度でもいいから試したいよね、あっ、店で売るとしたらよ」
「はい、それはもうその通りと思います」
エレインがニコリと微笑む、
「ん、そういう事だね」
どう?とリノルトに確認するタロウ、
「はい、ありがとうございます、検討します、っていうか作ってみます」
ブラスの黒板を覗きつつ笑顔となるリノルト、どうやらだいぶ悩んでいたらしい、ブラスも顔を上げてウンと納得したようで、
「他には・・・あっ、見た目を少し豪華に?」
「貴族用ですね」
ニヤリと微笑むエレイン、ソフィアもその通りよねーと寝台を見つめ、確かにと女性達も頷く、寝台の木製部分、恐らくブラスが担当したであろう箇所は見た目だけであれば既存の寝台と大差無かった、無論、構造上は大きく違うのであるが見た目からはその違い等分かりようもない、そしてエレインもであるがティルもミーンも勿論ブラスも理解しているが、貴族用の寝台はやはり見た目が大きく異なる、四隅を支える支柱や脇を支える板には彫刻が掘り込まれていたり、真っ白く塗装された代物や、逆に高級な黒光りする木材を使用していたりと、藁束を敷き詰めるその使用方法は同じであるが、見た目がとにかく違うのだ、
「そこなんですよー」
フムーと鼻息を荒くするブラス、
「親父とも話したんですが、そこはほら、やっぱりそれ専門の職人がおりまして・・・」
「ほら、前はあれだ、マットレス・・・じゃない、バネと革の部分だけ別にするとか言ってなかったか?いや、それは俺が言ったんだっけか?」
タロウがミナの寝台を作った時の事を思い出す、
「はい、それも考えたのですが、バネと革の重量、それに人の重さを支えるとなると・・・どうしようもなく全体重量が嵩んでしまいまして・・・既存の寝台だと支えられないかなーって・・・」
「ですね、あと底面の仕組みも大きく変えたので・・・」
「無理か・・・」
「そうなります」
同時に頷くブラスとリノルト、だよなーとタロウも頷く、そうなんだーと再びしゃがみ込んで寝台の中を覗くユーリ達、カチャーも確かに全然違う造りだなと理解する、年に数度寝藁を交換する為、家で使っている寝台の構造は頭に入っている、その単純な棚でしかないそれとは確かに大きく違っているように見える、
「じゃ、そこはほら、見た目の問題だからね、構造が弱くならなければ良いと思うよ、だから・・・うん、逆にあれだ柱の部分とかは短くして、貴族様用の装飾を施した材を後から嵌める感じとか?」
「そうなりますね・・・なので、これでいいとなればそっちの職人にも声を掛けようと思ってまして・・・」
「そっか、じゃ、そのようにしちゃえばいいよ、それこそ君らの領分だからね、俺が口出しするべきじゃないな」
タロウがニコリと微笑む、確かになと頷くエレイン達、
「で、俺としてはこのままでいいから人数分欲しいかな?ほら、ここの寮だけでもね、柔らかさの好み云々って言ったけど、寮だからね、個々人の好みを聞くのは少し違うし・・・これを使えっていうしかないからね、基本、学園の備品なんだし、どうかな?」
ソフィアに確認するタロウ、ソフィアもそうねーと軽く考え、
「私としてはこれで十分よ、だって、藁束の準備がなくなるんだし、始末も必要無いし、他に欲しいとなると・・・あっ、あれか、綿の入った布?」
「それはだって、流石にブラスさんでも無理でしょ?」
「はい、無理です」
ムンと胸を張るブラス、リノルトも大きく頷く、
「では、それはこちらで」
エレインがニヤリと微笑む、
「あっ、そっか、エレインさんの所で作れるか」
「はい、お任せ下さい」
「じゃ、ついでだし、それも併せて・・・全個人部屋と宿舎に四つ?それにテラさん達の分?毛布もシーツもあるから・・・そんなもんかしら?」
「カトカさん達のもですね」
「あっ、私達は・・・」
ムーと寂しそうに腰を上げるカトカ、
「難しい?」
「ですねー、職員宿舎ですからね、勝手に寝台を入れ替えるのは・・・」
そうなんだーと残念そうにカトカを見上げるゾーイ、何やら購入するのが大前提で話しが進んでいる、大事な費用の事がまるで取り沙汰されないあたり、これもタロウさんやソフィアさんの良くない点だよな、でも、これに寝れるのであれば下手な事は言わない方が良さそうと、賢く黙していたりした、
「そりゃそうだわね」
ユーリもやれやれと腰を上げた、
「じゃ、学園長・・・じゃないな、事務長に言ってさ、金は出すからその職員宿舎の全部を交換したいって言えば?」
タロウがあっさりと解決策を口にする、エッと身を仰け反らせるソフィアとユーリ以外のほぼ全員、なにもそこまでとありありと顔に浮かんでおり、ソフィアはまぁ別に良いけどと素知らぬ顔で、随分とまぁ太っ腹だなとユーリは呆れている、今朝はいきなり御機嫌斜めであったようだが、この男も安定しないなー等とも思う、
「ほら、講義でも話したでしょ、睡眠の質も大事」
タロウがニヤリと微笑み、アッと思い出すカトカとエレインにティルとミーン、ユーリもそう言えばと眉を顰める、
「なんです、それ?」
コッキーが素直に問い返す、
「難しくないよ、ほら、人もそうだし動物もだけど、極論言えば、生きている間の半分は寝てるもんだ、だろ?」
ニヤリと答えるタロウ、そうなのか?そうかもなと首を捻るコッキー、カチャーやブラス達もん?と悩んで確かにそうかもと理解したらしい、
「となるとね、やっぱりほら、その寝る時間も大事だけど、その時間をね、出来るだけ快適にした方がいいんだよ、それが健康で長生きに繋がる、場合によっては短い睡眠時間で十分な休養を取れる、ミナがそうでね、寝台を替えて毛布の使い方を替えたら寝相が良くなっただろ?寝相が悪いって事は快適じゃないってことでね、となると実はしっかりと眠れていなかったって事にもなるんだな・・・まぁ、寝相の悪さはそれだけが原因じゃないかもだけどさ、だから、この寝台をね、出来るだけ多くの人に使ってもらいたくてね、それに、職員宿舎となればあれでしょ、若い女性が多いんじゃない?」
タロウがカトカをうかがう、
「・・・あっ、はい、そうです、うちの宿舎はそうです」
慌てて答えるカトカ、
「でしょ、だったらね、やっぱりほら、子供も大事なんだけど、その子供を産めるこれからの女性達も大事にしなきゃださ」
急に何を言い出すんだかと目を細めて睨みつけるソフィアとユーリ、確かにそうだと目を輝かせるコッキーにカチャーにティルとミーン、そんな事今まで一言も言ってないようなと首を傾げるエレインとカトカとゾーイ、職人三人もエッと驚いている、
「違う・・・かな?」
一応とソフィアに確認するタロウである、
「そうだけど・・・なによ、あれ?急に色気づいたの?」
ムスリと返すソフィア、
「えっ、違うけどさ・・・駄目か?」
「駄目じゃないけどね・・・そうねー、あんまり甘やかすのはあれだけど、まぁ、その程度なら許容範囲?」
「ならいいよ、そういう事で、でだ」
こんなもんだけどとタロウは視線でブラスに確認する、ブラスはアッと黒板を見つめ、リノルトも覗き込む、しかし、
「あっ、もう一つあったな」
タロウはスッと腰を上げ寝台に歩み寄る、ブラスとリノルトもつられて立ち上がった、
「ここね、この頭の方、こっちにね、ちょっとした棚みたいなの付けれる?」
「棚ですか?」
「うん、今後の事なんだけど、もしかしたらさ、ここにね、その小皿の光柱とか置けたら便利じゃない?」
エッとタロウを見つめるブラスとリノルト、
「あっ、それいいです、欲しいです」
カトカがピョンと飛び跳ねた、
「ですね、そっか、それもいいな・・・あれですか、小物とか置く感じですか?」
ゾーイも目を輝かせる、
「そだねー、ほら、今の寝台ってさ、ただの台じゃない?それはそれでいいと思うんだけど、それこそね、寝る前にちょっと本を読むとか、あっ、あれだ、手鏡を置いておくとかさ、ほら、ちょっとした鏡台の代わりみたいに?どうだろ、良くない?」
「それいいですね」
エレインもパッと立ち上がる、
「まぁ、使い方は人それぞれなんだけどね、そういうのもあったなーって思い出してね、特にこの寮とか宿舎で使うような寝台となれば、使い勝手も欲しいよね、で、そこで、実際に使ってもらって、後の商品展開に反映する?まぁ、そんな感じで、他には・・・あっ、もう少し足を長くして、少し高めにしてね、で、この寝台の下に引き出しを付けるってのもあるな・・・そういうの無い?ほら、結局寝台ってさ、置くともうそこはそれ以外どうしようもないじゃない?有効活用を考えた場合上の空いた部分とかになるんだけど、それはね危ないから、寝てる時に落ちてきたらどうしようもないし・・・だったら下を工夫する他無いんだけど・・・となると・・・うん、想像できるかな?」
二段ベッドってのもあるけど見てないなー等と思いつつニヤリと微笑むタロウ、なるほどと黒板を鳴らすブラス、女性達が集まってだったらこんなのがいいだの、こうするべきだのと騒がしくなる、その新型の寝台でなくても寝台そのものは皆普通に使っている、となれば使い勝手を語らせればポンポンと意見が出てくるのは当然で、タロウはどうやら要望を聞く相手が違ったなと微笑む、ブラスは見事なまでに女性達に振り回される事になり、リノルトはこりゃ大変だと苦笑し、あっ、こんな感じなんだよなーここの人達と、バーレントは心底感心するのであった。
「とりあえず・・・人数分発注してしまうか・・・」
ティルが淹れた茶を口にしつつタロウがソフィアに確認する、
「そうねー・・・生徒達とレイン、ミナは・・・それでいいでしょ、それと私達とユーリ?」
指折り数えるソフィア、かなりの数である、片手では足りないようで、ゲッと呻いたブラスとリノルト、
「あっ、カトカさん達はどうする?」
ヒョイと首を伸ばすソフィア、寝台内部の構造体を覗き込んでいるユーリとカトカとゾーイ、カチャーも一緒になってこれは面白いと夢中になっている、
「なんですか?」
こちらの話しは全く聞いていなかったのであろうカトカがサッと立ち上がる、
「一緒に注文しちゃう?」
タロウが軽く問い直し、エッと首を傾げるカトカ、ゾーイも何だそりゃと腰を上げ、
「なに?もう注文するの?」
とユーリもヒョイと顔を上げる、カチャーがいいなー羨ましいなーとカトカとゾーイを見上げた、
「そのつもり、まぁ・・・ほら、取り合えずそのままで良ければね」
タロウがどんなもんだろうかと首を傾げた、
「あっ、それです、あの、改良点とか無いですか?あくまで試作品なんで、その・・・このまま発注と言われても・・・」
ブラスが慌てて口を挟む、
「うん、すいません、少々あれです、不安もあります」
続くリノルト、だろうなーとバーレントが頷き、コッキーもこれには同意である、
「そう?十分だと思うけどねー」
タロウはんーと寝台を見つめる、予想以上に立派な作りであった、耐久性も問題なさそうで、肝心のクッション性も申し分ない、少々無骨に見えるが、それは致し方ない、革の代わりに帆布や天幕に使用されている厚手の綿でも使えばいいのかなとも思うが、結局寝台である、王国民が当たり前に使っている藁束を敷き詰めたそれよりも各段に快適で心地良く、しっかりと寝て見なければ分からないが、今、この世界にあって捩じりバネを使用した寝台を使用しているのはミナただ一人となり、さらにはハナコも使っているが、ハナコを勘定に入れるのは違うであろう、となればミナに比べてもらって感想が欲しいかなと思うも、所詮ミナである、寝心地の良さや細かい違いの確認、改善点の提案等を頼むのは少し違うと思われた、いや出来ないであろう、となると・・・とタロウは視点を変えてみる、そして、
「アッ・・・」
と思い出す、
「なんですか?」
「やっぱりありますよね」
ブラスとリノルトがグワッと食い付いた、
「いや、うん、まぁ・・・これはほら、お客さんに選択肢を与えるって事なんだけど・・・」
「はい、なんでもいいです」
サッと黒板を取り出すブラス、
「うん、そだねー・・・俺としてはその固さで丁度いいと思うんだけど、もう少しバネが柔らかい方が好きな人もいるかもだし、逆にね、もっと固い方がいいっていう人もいるかもねー」
「あっ、そこですね、悩んでました」
リノルトがズイっと身を乗り出す、へーそうなんだーと感心する女性達、
「うん、気持ちわかる、だから・・・三種類くらい?柔らかめ、程々、固めってかんじで捩じりバネそのもので反発力かな?そういうのを調整してもいいかもねー」
「なるほど、あれですか?お客さんに選ばせる?」
「そうなると思うよ、まぁ、ほら、表面的な柔らかさはさ、綿の入った寝具とかシーツに任せるとして、身体を支える力?そこがね、この寝台の肝だからね、で、好みってやつがあるもんだしね、だから・・・どだろ、皆さんはどう?もう少しこう・・・柔らかく支えられた方がいいもの?」
と女性陣を見渡すタロウ、しかし、皆一様に首を傾げてしまう、
「ありゃ・・・今一つ?」
つられて首を傾げてしまうタロウ、
「・・・あれです、比較しようが無くて・・・それに実際にほら、しっかり使ってみないと・・・なんとも・・・」
エレインが苦笑しながら答える、
「それもそっか」
あっさりと納得するタロウ、確かにと頷く女性達、
「となるとやっぱりほら、さっきみたくてね、軽く寝ころぶ程度でもいいから試したいよね、あっ、店で売るとしたらよ」
「はい、それはもうその通りと思います」
エレインがニコリと微笑む、
「ん、そういう事だね」
どう?とリノルトに確認するタロウ、
「はい、ありがとうございます、検討します、っていうか作ってみます」
ブラスの黒板を覗きつつ笑顔となるリノルト、どうやらだいぶ悩んでいたらしい、ブラスも顔を上げてウンと納得したようで、
「他には・・・あっ、見た目を少し豪華に?」
「貴族用ですね」
ニヤリと微笑むエレイン、ソフィアもその通りよねーと寝台を見つめ、確かにと女性達も頷く、寝台の木製部分、恐らくブラスが担当したであろう箇所は見た目だけであれば既存の寝台と大差無かった、無論、構造上は大きく違うのであるが見た目からはその違い等分かりようもない、そしてエレインもであるがティルもミーンも勿論ブラスも理解しているが、貴族用の寝台はやはり見た目が大きく異なる、四隅を支える支柱や脇を支える板には彫刻が掘り込まれていたり、真っ白く塗装された代物や、逆に高級な黒光りする木材を使用していたりと、藁束を敷き詰めるその使用方法は同じであるが、見た目がとにかく違うのだ、
「そこなんですよー」
フムーと鼻息を荒くするブラス、
「親父とも話したんですが、そこはほら、やっぱりそれ専門の職人がおりまして・・・」
「ほら、前はあれだ、マットレス・・・じゃない、バネと革の部分だけ別にするとか言ってなかったか?いや、それは俺が言ったんだっけか?」
タロウがミナの寝台を作った時の事を思い出す、
「はい、それも考えたのですが、バネと革の重量、それに人の重さを支えるとなると・・・どうしようもなく全体重量が嵩んでしまいまして・・・既存の寝台だと支えられないかなーって・・・」
「ですね、あと底面の仕組みも大きく変えたので・・・」
「無理か・・・」
「そうなります」
同時に頷くブラスとリノルト、だよなーとタロウも頷く、そうなんだーと再びしゃがみ込んで寝台の中を覗くユーリ達、カチャーも確かに全然違う造りだなと理解する、年に数度寝藁を交換する為、家で使っている寝台の構造は頭に入っている、その単純な棚でしかないそれとは確かに大きく違っているように見える、
「じゃ、そこはほら、見た目の問題だからね、構造が弱くならなければ良いと思うよ、だから・・・うん、逆にあれだ柱の部分とかは短くして、貴族様用の装飾を施した材を後から嵌める感じとか?」
「そうなりますね・・・なので、これでいいとなればそっちの職人にも声を掛けようと思ってまして・・・」
「そっか、じゃ、そのようにしちゃえばいいよ、それこそ君らの領分だからね、俺が口出しするべきじゃないな」
タロウがニコリと微笑む、確かになと頷くエレイン達、
「で、俺としてはこのままでいいから人数分欲しいかな?ほら、ここの寮だけでもね、柔らかさの好み云々って言ったけど、寮だからね、個々人の好みを聞くのは少し違うし・・・これを使えっていうしかないからね、基本、学園の備品なんだし、どうかな?」
ソフィアに確認するタロウ、ソフィアもそうねーと軽く考え、
「私としてはこれで十分よ、だって、藁束の準備がなくなるんだし、始末も必要無いし、他に欲しいとなると・・・あっ、あれか、綿の入った布?」
「それはだって、流石にブラスさんでも無理でしょ?」
「はい、無理です」
ムンと胸を張るブラス、リノルトも大きく頷く、
「では、それはこちらで」
エレインがニヤリと微笑む、
「あっ、そっか、エレインさんの所で作れるか」
「はい、お任せ下さい」
「じゃ、ついでだし、それも併せて・・・全個人部屋と宿舎に四つ?それにテラさん達の分?毛布もシーツもあるから・・・そんなもんかしら?」
「カトカさん達のもですね」
「あっ、私達は・・・」
ムーと寂しそうに腰を上げるカトカ、
「難しい?」
「ですねー、職員宿舎ですからね、勝手に寝台を入れ替えるのは・・・」
そうなんだーと残念そうにカトカを見上げるゾーイ、何やら購入するのが大前提で話しが進んでいる、大事な費用の事がまるで取り沙汰されないあたり、これもタロウさんやソフィアさんの良くない点だよな、でも、これに寝れるのであれば下手な事は言わない方が良さそうと、賢く黙していたりした、
「そりゃそうだわね」
ユーリもやれやれと腰を上げた、
「じゃ、学園長・・・じゃないな、事務長に言ってさ、金は出すからその職員宿舎の全部を交換したいって言えば?」
タロウがあっさりと解決策を口にする、エッと身を仰け反らせるソフィアとユーリ以外のほぼ全員、なにもそこまでとありありと顔に浮かんでおり、ソフィアはまぁ別に良いけどと素知らぬ顔で、随分とまぁ太っ腹だなとユーリは呆れている、今朝はいきなり御機嫌斜めであったようだが、この男も安定しないなー等とも思う、
「ほら、講義でも話したでしょ、睡眠の質も大事」
タロウがニヤリと微笑み、アッと思い出すカトカとエレインにティルとミーン、ユーリもそう言えばと眉を顰める、
「なんです、それ?」
コッキーが素直に問い返す、
「難しくないよ、ほら、人もそうだし動物もだけど、極論言えば、生きている間の半分は寝てるもんだ、だろ?」
ニヤリと答えるタロウ、そうなのか?そうかもなと首を捻るコッキー、カチャーやブラス達もん?と悩んで確かにそうかもと理解したらしい、
「となるとね、やっぱりほら、その寝る時間も大事だけど、その時間をね、出来るだけ快適にした方がいいんだよ、それが健康で長生きに繋がる、場合によっては短い睡眠時間で十分な休養を取れる、ミナがそうでね、寝台を替えて毛布の使い方を替えたら寝相が良くなっただろ?寝相が悪いって事は快適じゃないってことでね、となると実はしっかりと眠れていなかったって事にもなるんだな・・・まぁ、寝相の悪さはそれだけが原因じゃないかもだけどさ、だから、この寝台をね、出来るだけ多くの人に使ってもらいたくてね、それに、職員宿舎となればあれでしょ、若い女性が多いんじゃない?」
タロウがカトカをうかがう、
「・・・あっ、はい、そうです、うちの宿舎はそうです」
慌てて答えるカトカ、
「でしょ、だったらね、やっぱりほら、子供も大事なんだけど、その子供を産めるこれからの女性達も大事にしなきゃださ」
急に何を言い出すんだかと目を細めて睨みつけるソフィアとユーリ、確かにそうだと目を輝かせるコッキーにカチャーにティルとミーン、そんな事今まで一言も言ってないようなと首を傾げるエレインとカトカとゾーイ、職人三人もエッと驚いている、
「違う・・・かな?」
一応とソフィアに確認するタロウである、
「そうだけど・・・なによ、あれ?急に色気づいたの?」
ムスリと返すソフィア、
「えっ、違うけどさ・・・駄目か?」
「駄目じゃないけどね・・・そうねー、あんまり甘やかすのはあれだけど、まぁ、その程度なら許容範囲?」
「ならいいよ、そういう事で、でだ」
こんなもんだけどとタロウは視線でブラスに確認する、ブラスはアッと黒板を見つめ、リノルトも覗き込む、しかし、
「あっ、もう一つあったな」
タロウはスッと腰を上げ寝台に歩み寄る、ブラスとリノルトもつられて立ち上がった、
「ここね、この頭の方、こっちにね、ちょっとした棚みたいなの付けれる?」
「棚ですか?」
「うん、今後の事なんだけど、もしかしたらさ、ここにね、その小皿の光柱とか置けたら便利じゃない?」
エッとタロウを見つめるブラスとリノルト、
「あっ、それいいです、欲しいです」
カトカがピョンと飛び跳ねた、
「ですね、そっか、それもいいな・・・あれですか、小物とか置く感じですか?」
ゾーイも目を輝かせる、
「そだねー、ほら、今の寝台ってさ、ただの台じゃない?それはそれでいいと思うんだけど、それこそね、寝る前にちょっと本を読むとか、あっ、あれだ、手鏡を置いておくとかさ、ほら、ちょっとした鏡台の代わりみたいに?どうだろ、良くない?」
「それいいですね」
エレインもパッと立ち上がる、
「まぁ、使い方は人それぞれなんだけどね、そういうのもあったなーって思い出してね、特にこの寮とか宿舎で使うような寝台となれば、使い勝手も欲しいよね、で、そこで、実際に使ってもらって、後の商品展開に反映する?まぁ、そんな感じで、他には・・・あっ、もう少し足を長くして、少し高めにしてね、で、この寝台の下に引き出しを付けるってのもあるな・・・そういうの無い?ほら、結局寝台ってさ、置くともうそこはそれ以外どうしようもないじゃない?有効活用を考えた場合上の空いた部分とかになるんだけど、それはね危ないから、寝てる時に落ちてきたらどうしようもないし・・・だったら下を工夫する他無いんだけど・・・となると・・・うん、想像できるかな?」
二段ベッドってのもあるけど見てないなー等と思いつつニヤリと微笑むタロウ、なるほどと黒板を鳴らすブラス、女性達が集まってだったらこんなのがいいだの、こうするべきだのと騒がしくなる、その新型の寝台でなくても寝台そのものは皆普通に使っている、となれば使い勝手を語らせればポンポンと意見が出てくるのは当然で、タロウはどうやら要望を聞く相手が違ったなと微笑む、ブラスは見事なまでに女性達に振り回される事になり、リノルトはこりゃ大変だと苦笑し、あっ、こんな感じなんだよなーここの人達と、バーレントは心底感心するのであった。
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女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
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ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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