断罪ですか?婚約破棄のショックで「超絶ポジティブ」に覚醒

パリパリかぷちーの

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ユリウス様(自称・王子、現・肥料担当見習い)が、金色の刺繍入り作業着を泥だらけにしながら「なぜ私がこんなことを……」とブツブツ言いながら穴を掘り始めて、数時間後。


屋敷の門の前に、場違いなほどフリフリとしたピンク色のドレスを纏った人影が現れました。


「ユ、ユリウス様ぁ……! やっと見つけましたわ……! こんな、こんな恐ろしい場所にいらっしゃったなんて!」


涙ながらに駆け寄ってきたのは、男爵令嬢のルルさんでした。
彼女は、泥まみれのユリウス様の姿を見るなり、悲劇のヒロインさながらにその場に崩れ落ちました。


「ひどい……! あの高貴なユリウス様が、こんな下賤な真似をさせられているなんて! これも全部、あの悪女メルシーの仕業なんですのね!?」


ルルさんは、わざとらしく震える指で私を指差しました。
その完璧な「被害者ムーブ」。久しぶりに拝見しましたが、腕が落ちていないようですわね!


「あら、ルルさん! ごきげんよう! わざわざ王都から、私のリゾートの『オープニング・アクト(前座芸)』を見に来てくださったのね! なんて勉強熱心な方かしら!」


私はスコップを片手に、満面の笑みで出迎えました。
ルルさんは、私の笑顔を見て「ヒッ」と短く悲鳴を上げ、後ずさりました。


「な、何を言っているのよ! 私はユリウス様を助けに来たの! あなたみたいな化け物に、これ以上騙されないようにって!」


「化け物? 失礼ね、これは『大地の妖精メイク(泥パック)』ですわ! それよりルルさん、今の演技、少し『タメ』が足りませんわね。もっとこう、悲劇を全身で表現しなくては!」


私はルルさんに歩み寄り、逃げようとする彼女の肩をガシッと掴みました。


「え……? な、何をするのよ、離して!」


「いいえ、離しませんわ! あなたのその才能、このまま埋もれさせるのは惜しいですもの。さあ、村の皆様も集まって! 王都から来た特別講師による、『魂の演技指導』が始まりますわよ!」


私が声をかけると、面白がった村人たち(全員花冠着用)が、農作業の手を止めてわらわらと集まってきました。
テラスからは、アラリック様も「……また始まったか」と、呆れつつも興味深そうにこちらを見ています。


「さあ、ルルさん! もう一度、先ほどのセリフを言ってみて! 『ユリウス様ぁ、助けてぇ!』でしたっけ? もっと腹から声を出して! 感情を乗せるのです!」


「な、なんで私がそんなこと……! ユリウス様、助けてください! この女、やっぱり頭がおかしいですわ!」


ルルさんが必死にユリウス様に助けを求めますが、泥だらけの王子様は、死んだ魚のような目でスコップを握りしめたままです。


「……ルル。諦めろ。この女の『ポジティブ劇場』に巻き込まれたら、もう逃げ場はないんだ……。私も、もう三時間も穴を掘らされている……」


「そんな……! ユリウス様まで洗脳されてしまったの!? メルシー、あなた一体どんな黒魔術を使ったのよ!」


ルルさんは、今にも気絶しそうな顔で私を睨みつけました。
その憎悪に満ちた表情……最高ですわ!


「素晴らしい! その表情ですわ、ルルさん! まるで親の仇を見るような、その迫真の演技! 悪役(ヴィラン)としての才能が開花しましたわね!」


「悪役はあなたでしょうが!!」


「あら、私はいつだって『愛と平和の伝道師』ですわよ? さあ、次は泣きの演技ですわ! 涙は女の武器と言いますが、あなたの場合は『最新鋭のウォーターガン』ですものね! 狙いを定めて、発射準備、よーい、スタート!」


私が合図をすると、ルルさんはあまりの理不尽さと恐怖で本当に涙目になり、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めました。


「うっ……ううっ……! なんで、なんでこんな目に……! 私はただ、ユリウス様にちやほやされたかっただけなのに……!」


「カーット!! 素晴らしいですわ、ルルさん! その『本音と建前が入り混じったカオスな涙』! 観客(私)の心を鷲掴みですわ! 村の皆様も、感動して涙を流していらっしゃいます!」


周囲の村人たちは、感動というよりは爆笑して涙を流していましたが、私の目には全員がスタンディングオベーションを送っているように見えました。


「……はぁ、はぁ……。もう嫌……。帰りたい……王都に帰りたい……」


ルルさんは、精根尽き果てたように地面にへたり込みました。
その姿は、まさに悲劇のヒロインそのものでした。


「お疲れ様ですわ、ルルさん! 今日のレッスンはこれまで! あなたのその『か弱い演技』、当リゾートの『お化け屋敷の幽霊役』として採用決定ですわ! これから毎日、お客様を恐怖と爆笑の渦に叩き込んでくださいましね!」


「……ゆ、幽霊役……?」


ルルさんは白目を剥いて気絶しました。
私はセバスさんを呼び、倒れたルルさんを介抱するように指示しました。


「セバスさん、彼女を『VIPルーム(地下牢)』にご案内して。明日の公演に向けて、しっかりと休養を取らせてあげてね!」


「……承知いたしました、メルシー様。ユリウス様に続き、新たな『従業員』の確保、おめでとうございます。これで役者が揃いましたな」


セバスさんは慣れた手つきでルルさんを担ぎ上げ、屋敷の中へと消えていきました。


「ふふっ。王子様は肥料担当、ヒロイン役はお化け屋敷の幽霊……。リゾートのエンターテイメントも充実してきましたわね! メルシー・リゾートのグランドオープンも、そう遠くはありませんわ!」


私は泥だらけの作業着で立ち尽くすユリウス様に「さあ、休憩時間は終わりですわよ! あと五メートル掘り進めましょう!」と声をかけ、再びスコップを握らせました。


悲劇のヒロインの乱入は、私の熱血指導によって、最高の「リゾート・アトラクション」へと昇華されたのでした。
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