さようなら、婚約者様。これは悪役令嬢の逆襲です。

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
21 / 27

21話

しおりを挟む
王都の街に、かすかな芽吹きの気配が漂い始めていた。

政変という名の嵐が通り過ぎ、王太子は国外へ、聖女は神殿から姿を消し、信仰は今なお再定義の途中にある。  
だが、人々の暮らしは続く。祈りを失っても、世界は止まらなかった。

エーデルワイス邸の書斎。机の上には、新たな王政改革案の草案が並んでいる。

「……それにしても、ずいぶんと立場が変わられましたわね。ほんの数か月前は、“王家から追われた悪役令嬢”だったというのに」

マリーヌの声音に皮肉はない。ただ穏やかな驚きと、微かな誇らしさが滲んでいた。

「私はただ、“本来あるべき場所”を整えたにすぎないわ。  
聖女の座も、王太子の隣も、私の居場所ではなかった。それだけのこと」

ヴィオラはそう言いながら、さらりと署名を終える。

「そしてこれからは、“表に出す顔”を選ぶ時期。誰を前に立たせ、誰に何を語らせるか。  
……政治は舞台劇と同じ。正しさよりも、“理解される演出”が要るの」

「それで、その“演者”として第二王子殿下を?」

「ええ。レオン殿下なら、王家の血と現実主義のバランスを保てる。  
それに……私の考える改革を、笑って受け止めてくれる唯一の王族でもある」

そこへ、控えていた使用人がノックの後に告げた。

「第二王子殿下がお越しです」

「ちょうど良いわね。通してちょうだい」

ほどなくして現れたのは、例の如く軽やかな足取りのレオン=ヴァロワ。だが、その目はいつになく真っ直ぐだった。

「やあ、悪役令嬢さま。今日は、舞台の裏話ではなく……“次の幕”について話をしに来た」

「聞く準備はできているわ。あなたが“王になる気があるか”どうかも含めて」

レオンは少しだけ笑い、けれどその笑みは冗談ではなかった。

「なるつもりはない。ただ、“なってもいい”と思ってる。君がその横にいるなら、だけど」

「……随分と信頼してくれるのね」

「違うさ。君を信じているわけじゃない。“君の正しさが、世界を動かすほど強い”と認めているだけだ」

その言葉に、ヴィオラは目を細めて言った。

「なら私は、“私の正しさ”が、誰かの未来を奪わないようにだけは、気をつけましょう」

「そうしてくれるとありがたい。……僕はまだ、王になる覚悟まではできていないんでね」

「その迷いがある限り、あなたはまだ“大丈夫”。  
――即位の話は、正式に進めておくわ」

「え、ちょっと待て、話が早……」

「あなたが遅いの。私はもう、何も迷っていないわ」

その断言に、レオンは軽く両手を上げて降参のポーズをとった。

「はいはい。ではこの“影の女王”殿にお任せしますとも」

ヴィオラはふっと笑い、席を立つ。

「行きましょう。“幕が下りた”と思っている人々に、新しい劇場を見せてあげる時間よ」

彼女の背に続きながら、レオンは思った。

(この国は、きっと変わる。――彼女が、変えてしまうのだ)

そして彼女自身もまた、その歩みの中で初めて“自分の物語”を生き始めていた。

誰かの婚約者でも、聖女の敵でもない――  
ただ、ヴィオラ=エーデルワイスという名のひとりの人間として。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?とっくにしてますけど笑

蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。  さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

婚約破棄された男爵令嬢は隠れ聖女だった。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」  煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。  その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。  だったら良いでしょう。  私が綺麗に断罪して魅せますわ!  令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

婚約破棄ですか? 無理ですよ?2

星宮歌
恋愛
『リィナ・マーシャル! 今度こそ、婚約破棄だ!』 今日も懲りずに、第二王子殿下のその言葉が響き渡り、誰も、それに見向きすることはなかった……。 前作『婚約破棄ですか? 無理ですよ?』の続編です。 前作を読んでいなくとも楽しめるように書いています。 わりと人気なので、前作を長編にしたものを書くか、続編を書くかで悩みましたが、続編を書くことに。 息抜き投稿で、7話完結です。 さぁ、それでは、お楽しみください。

高慢な王族なんてごめんです! 自分の道は自分で切り開きますからお気遣いなく。

恋愛
よくある断罪に「婚約でしたら、一週間程前にそちらの有責で破棄されている筈ですが……」と返した公爵令嬢ヴィクトワール・シエル。 婚約者「だった」シレンス国の第一王子であるアルベール・コルニアックは困惑するが……。 ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

処理中です...