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21話
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王都の街に、かすかな芽吹きの気配が漂い始めていた。
政変という名の嵐が通り過ぎ、王太子は国外へ、聖女は神殿から姿を消し、信仰は今なお再定義の途中にある。
だが、人々の暮らしは続く。祈りを失っても、世界は止まらなかった。
エーデルワイス邸の書斎。机の上には、新たな王政改革案の草案が並んでいる。
「……それにしても、ずいぶんと立場が変わられましたわね。ほんの数か月前は、“王家から追われた悪役令嬢”だったというのに」
マリーヌの声音に皮肉はない。ただ穏やかな驚きと、微かな誇らしさが滲んでいた。
「私はただ、“本来あるべき場所”を整えたにすぎないわ。
聖女の座も、王太子の隣も、私の居場所ではなかった。それだけのこと」
ヴィオラはそう言いながら、さらりと署名を終える。
「そしてこれからは、“表に出す顔”を選ぶ時期。誰を前に立たせ、誰に何を語らせるか。
……政治は舞台劇と同じ。正しさよりも、“理解される演出”が要るの」
「それで、その“演者”として第二王子殿下を?」
「ええ。レオン殿下なら、王家の血と現実主義のバランスを保てる。
それに……私の考える改革を、笑って受け止めてくれる唯一の王族でもある」
そこへ、控えていた使用人がノックの後に告げた。
「第二王子殿下がお越しです」
「ちょうど良いわね。通してちょうだい」
ほどなくして現れたのは、例の如く軽やかな足取りのレオン=ヴァロワ。だが、その目はいつになく真っ直ぐだった。
「やあ、悪役令嬢さま。今日は、舞台の裏話ではなく……“次の幕”について話をしに来た」
「聞く準備はできているわ。あなたが“王になる気があるか”どうかも含めて」
レオンは少しだけ笑い、けれどその笑みは冗談ではなかった。
「なるつもりはない。ただ、“なってもいい”と思ってる。君がその横にいるなら、だけど」
「……随分と信頼してくれるのね」
「違うさ。君を信じているわけじゃない。“君の正しさが、世界を動かすほど強い”と認めているだけだ」
その言葉に、ヴィオラは目を細めて言った。
「なら私は、“私の正しさ”が、誰かの未来を奪わないようにだけは、気をつけましょう」
「そうしてくれるとありがたい。……僕はまだ、王になる覚悟まではできていないんでね」
「その迷いがある限り、あなたはまだ“大丈夫”。
――即位の話は、正式に進めておくわ」
「え、ちょっと待て、話が早……」
「あなたが遅いの。私はもう、何も迷っていないわ」
その断言に、レオンは軽く両手を上げて降参のポーズをとった。
「はいはい。ではこの“影の女王”殿にお任せしますとも」
ヴィオラはふっと笑い、席を立つ。
「行きましょう。“幕が下りた”と思っている人々に、新しい劇場を見せてあげる時間よ」
彼女の背に続きながら、レオンは思った。
(この国は、きっと変わる。――彼女が、変えてしまうのだ)
そして彼女自身もまた、その歩みの中で初めて“自分の物語”を生き始めていた。
誰かの婚約者でも、聖女の敵でもない――
ただ、ヴィオラ=エーデルワイスという名のひとりの人間として。
政変という名の嵐が通り過ぎ、王太子は国外へ、聖女は神殿から姿を消し、信仰は今なお再定義の途中にある。
だが、人々の暮らしは続く。祈りを失っても、世界は止まらなかった。
エーデルワイス邸の書斎。机の上には、新たな王政改革案の草案が並んでいる。
「……それにしても、ずいぶんと立場が変わられましたわね。ほんの数か月前は、“王家から追われた悪役令嬢”だったというのに」
マリーヌの声音に皮肉はない。ただ穏やかな驚きと、微かな誇らしさが滲んでいた。
「私はただ、“本来あるべき場所”を整えたにすぎないわ。
聖女の座も、王太子の隣も、私の居場所ではなかった。それだけのこと」
ヴィオラはそう言いながら、さらりと署名を終える。
「そしてこれからは、“表に出す顔”を選ぶ時期。誰を前に立たせ、誰に何を語らせるか。
……政治は舞台劇と同じ。正しさよりも、“理解される演出”が要るの」
「それで、その“演者”として第二王子殿下を?」
「ええ。レオン殿下なら、王家の血と現実主義のバランスを保てる。
それに……私の考える改革を、笑って受け止めてくれる唯一の王族でもある」
そこへ、控えていた使用人がノックの後に告げた。
「第二王子殿下がお越しです」
「ちょうど良いわね。通してちょうだい」
ほどなくして現れたのは、例の如く軽やかな足取りのレオン=ヴァロワ。だが、その目はいつになく真っ直ぐだった。
「やあ、悪役令嬢さま。今日は、舞台の裏話ではなく……“次の幕”について話をしに来た」
「聞く準備はできているわ。あなたが“王になる気があるか”どうかも含めて」
レオンは少しだけ笑い、けれどその笑みは冗談ではなかった。
「なるつもりはない。ただ、“なってもいい”と思ってる。君がその横にいるなら、だけど」
「……随分と信頼してくれるのね」
「違うさ。君を信じているわけじゃない。“君の正しさが、世界を動かすほど強い”と認めているだけだ」
その言葉に、ヴィオラは目を細めて言った。
「なら私は、“私の正しさ”が、誰かの未来を奪わないようにだけは、気をつけましょう」
「そうしてくれるとありがたい。……僕はまだ、王になる覚悟まではできていないんでね」
「その迷いがある限り、あなたはまだ“大丈夫”。
――即位の話は、正式に進めておくわ」
「え、ちょっと待て、話が早……」
「あなたが遅いの。私はもう、何も迷っていないわ」
その断言に、レオンは軽く両手を上げて降参のポーズをとった。
「はいはい。ではこの“影の女王”殿にお任せしますとも」
ヴィオラはふっと笑い、席を立つ。
「行きましょう。“幕が下りた”と思っている人々に、新しい劇場を見せてあげる時間よ」
彼女の背に続きながら、レオンは思った。
(この国は、きっと変わる。――彼女が、変えてしまうのだ)
そして彼女自身もまた、その歩みの中で初めて“自分の物語”を生き始めていた。
誰かの婚約者でも、聖女の敵でもない――
ただ、ヴィオラ=エーデルワイスという名のひとりの人間として。
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