さようなら、婚約者様。これは悪役令嬢の逆襲です。

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
22 / 27

22話

しおりを挟む
王宮の会議室に、重厚な扉の音が響いた。

「――では、本日より“王政再構築案”の初会合を開きます」

文官の声に応じて、円卓のまわりに集まった貴族たちが一斉に姿勢を正した。  
その中心に立つのは、王家の血を引く第二王子、レオン=ヴァロワ。

そして、その傍らの椅子に静かに座る紅の令嬢――ヴィオラ=エーデルワイス。

かつて“悪役令嬢”とささやかれ、王城から去ったその姿は、  
今や誰よりも落ち着きと威厳を宿し、言葉ひとつで場の空気を引き締めていた。

「まず、“王権の象徴性”について定義を見直しましょう。  
今後、王の在り方は“民意に基づく調停者”であり、“神の代弁者”ではありません。――これは、もはや絶対です」

彼女の言葉に、一部の保守派が眉をひそめる。

「聖女制度の廃止を前提に語るのは、時期尚早では? 信仰は民の安寧の基礎であり……」

「安寧とは、“知らされず信じさせられること”ではなく、“知ったうえで選ぶこと”です」

ヴィオラの声は静かだったが、芯の強さは誰よりも明確だった。

「それでもなお“祈る”者の自由は守るべきでしょう。けれど、政治の土台に“奇跡”を据えてはなりません。  
現実を動かすのは、神ではなく、人の意思です」

場に、誰も言い返せなかった。

「……これが、あの“聖女を倒した女”の言葉か」

誰かが小さく呟いた。だがその声に、レオンがすかさず笑いながら応じた。

「違う。“聖女に祈りを返した女”の言葉さ。  
信仰を否定したわけじゃない。ただ、“信仰を強制する仕組み”を解体しただけ」

その場に、わずかな安堵と納得が広がった。

ヴィオラは、そんな空気すら計算のうちに置いているようだった。



会合を終えたあと、王城の中庭で二人きりの時間が訪れる。

「ずいぶん、堂々としていたな。こっちは気圧されてたよ」

「あなたが隣に立ってくれるからよ。私ひとりだったら、きっとあそこまでは踏み込めなかった」

「……素直にそう言われると、少し照れるね」

レオンは苦笑しながら、芝生の上に腰を下ろした。

「でも、思ったよりも国は素直に変わる気がする。……君がその“最初の火種”だったとしても」

「私は、ただ“嘘のまま終わる未来”が我慢ならなかっただけ」

「なあ、ヴィオラ。君はこれから、どこまで行くつもりだ?」

「どこまでも。  
――私は、“正しさを選べる世界”を作るまで止まらないわ」

そう言った彼女の目には、遠い未来を見据えるまなざしが宿っていた。

誰かの妻としてではなく。  
誰かの敵としてでもなく。

ただ、“自分の意志で歩くひとりの女性”として――  
ヴィオラ=エーデルワイスの物語は、まだ終わらない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

『仕方がない』が口癖の婚約者

本見りん
恋愛
───『だって仕方がないだろう。僕は真実の愛を知ってしまったのだから』 突然両親を亡くしたユリアナを、そう言って8年間婚約者だったルードヴィヒは無慈悲に切り捨てた。

「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ

ゆっこ
恋愛
 その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。 「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」  声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。  いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。  けれど――。 (……ふふ。そう来ましたのね)  私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。  大広間の視線が一斉に私へと向けられる。  王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

〘完結〛婚約破棄?まあ!御冗談がお上手なんですね!

桜井ことり
恋愛
「何度言ったら分かるのだ!アテルイ・アークライト!貴様との婚約は、正式に、完全に、破棄されたのだ!」 「……今、婚約破棄と、確かにおっしゃいましたな?王太子殿下」 その声には、念を押すような強い響きがあった。 「そうだ!婚約破棄だ!何か文句でもあるのか、バルフォア侯爵!」 アルフォンスは、自分に反抗的な貴族の筆頭からの問いかけに、苛立ちを隠さずに答える。 しかし、侯爵が返した言葉は、アルフォンスの予想を遥かに超えるものだった。 「いいえ、文句などございません。むしろ、感謝したいくらいでございます。――では、アテルイ嬢と、この私が婚約しても良い、とのことですかな?」 「なっ……!?」 アルフォンスが言葉を失う。 それだけではなかった。バルフォア侯爵の言葉を皮切りに、堰を切ったように他の貴族たちが次々と声を上げたのだ。 「お待ちください、侯爵!アテルイ様ほどの淑女を、貴方のような年寄りに任せてはおけませんな!」 「その通り!アテルイ様の隣に立つべきは、我が騎士団の誉れ、このグレイフォード伯爵である!」 「財力で言えば、我がオズワルド子爵家が一番です!アテルイ様、どうか私に清き一票を!」 あっという間に、会場はアテルイへの公開プロポーズの場へと変貌していた。

処理中です...