さようなら、婚約者様。これは悪役令嬢の逆襲です。

パリパリかぷちーの

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24話

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季節は、ひと巡りして再び春を迎えていた。

王都の広場では新設された民政庁の開庁式が行われ、貴族と庶民の代表が共に列席する、かつてない光景が広がっていた。

式典の壇上、王家の名を背負いながらも、その表情に驕りはない青年――  
第二王子レオン=ヴァロワが、晴れやかに挨拶を述べる。

「今日この日より、民の声は記録され、記録は未来を動かす力となる。  
この王国が“信じさせる政治”から“選ばせる政治”へと変わる礎に、ここを据えよう」

割れるような拍手。歓声。

その様子を遠巻きに見守る女性の姿があった。

黒に紅を差した控えめなドレス、まとめられた髪に揺れる小さなブローチ。  
――ヴィオラ=エーデルワイス。

「……あの方、本当に変わられましたわね。以前のレオン殿下なら、壇上で笑いながら居眠りしそうでしたのに」

「“責任を背負う人間の顔”になったわ。……それが、少し誇らしいの」

ヴィオラの視線は優しく、どこか遠くを見ていた。

「お嬢さまは、お出にならないのですか? 式典の主設計者として、名前すら挙がっていませんわ」

「私の名なんて要らない。“この場”ができたことがすべてよ。  
民が初めて“自分の言葉で未来を語る”場所が生まれた。それで、いいの」

マリーヌはその言葉に、何も返さず頷いた。



式典が終わる頃、小さな足音がヴィオラの前に立ち止まった。

「ねえ、お姉さん……あなた、ヴィオラさまだよね?」

声の主は、まだ十にも満たない少女。手には古い新聞の切り抜きを握っている。

「お母さんが言ってた。“この国を変えた人”が、どこかにいるんだって。  
でもその人は、誰かの後ろに立って、名前を出さなかったって」

ヴィオラは少し驚いたように目を見開いた。

「私ね、大きくなったら、その人みたいになりたいの。名前が残らなくても、人を守れる人に」

少女の言葉に、ヴィオラは微かに笑った。

「……あなたなら、なれるわ。“信じること”と“選ぶこと”を、両方知っているから」

「ほんと?」

「ええ。約束してあげる」

少女は嬉しそうに頷き、広場へと駆けていった。

その後ろ姿を見送りながら、ヴィオラはそっと目を伏せる。

風が春の匂いを運んでくる。草木は芽吹き、人々は新しい一日を始める。

誰もが気づかぬところで、ひとつの物語が、確かに終わった。

――そして、それぞれが“自分の物語”を生き始めていた。

ヴィオラ=エーデルワイスもまた、そのひとりとして。

静かに。けれど確かに。
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