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番外編
後日譚1
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――数年後。
ヴェルディア王国は穏やかな発展の道を歩んでいた。
王政は民政との共存を果たし、神殿は政治から距離を置いた“祈りの場”として再定義されている。
激動の時代を知る人々のあいだでは、ある一人の名が時折囁かれる。
“あの悪役令嬢”。
“王太子に婚約破棄された女”。
“聖女を沈黙させた影の改革者”。
けれど、その名を正確に記憶している者は、もう少ない。
*
王都から離れた小さな村に、白い屋敷がある。
庭には季節の花が咲き、窓辺には古い本が並んだ書棚。
そこに、紅茶の香りとともに笑う女性がいた。
「……で、結局“野心家の弟殿下”は、どうなったのかしら?」
ヴィオラ=エーデルワイス。
今は肩書も、地位も、何もない。ただの“本好きな隠居女性”。
彼女の前にいるのは、かつて神殿で“祈りの衣”を纏っていた一人の女性――ミレイユ。
今は朗読教師として各地を巡り、子どもたちに言葉の力を伝えている。
「第二王子殿下は、あいかわらず民の前では王らしく、裏ではあなたの影を探しているようですわ」
「まだそんなことしてるの? 彼、王になる器はあるのに……余計なことばかり気にするのよね」
「“器”を選んだのはあなたでしょう。文句を言ってはいけませんわ」
二人は紅茶を口に含み、同時に微笑んだ。
「……昔のこと、思い出す?」
「毎晩、夢に見るほどには。でも、目覚めたら――“私でよかった”と思えるの。
たとえ戻れるとしても、私はあの時の“逆襲”をもう一度選ぶわ」
ミレイユはそっと視線を逸らし、遠くの空を見上げる。
「私も、もう“祈り”には戻れない。けれど、あの時のあなたの言葉だけは、今でも胸に残ってるの」
「どの言葉?」
「“祈らない。でも願うことはやめない”――あれほど、美しい皮肉は他にありませんわ」
ヴィオラは照れ隠しにカップを傾けた。
「それ、私の遺言にでもしておいてくれる?」
「お断りですわ。あなたには、もっと美しく残る言葉が似合いますもの」
春の光が差し込み、部屋の中をゆったりと照らす。
“悪役令嬢”と“偽りの聖女”。
かつて物語の対立軸だったふたりは、今ではただの友人として、こうして日々を語り合っている。
戦いの記憶は風に溶け、残ったのは“自分で選んだ人生”だけだった。
そしてそれが――
誰よりも尊く、何よりも正しいと、ふたりは知っていた。
ヴェルディア王国は穏やかな発展の道を歩んでいた。
王政は民政との共存を果たし、神殿は政治から距離を置いた“祈りの場”として再定義されている。
激動の時代を知る人々のあいだでは、ある一人の名が時折囁かれる。
“あの悪役令嬢”。
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“聖女を沈黙させた影の改革者”。
けれど、その名を正確に記憶している者は、もう少ない。
*
王都から離れた小さな村に、白い屋敷がある。
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そこに、紅茶の香りとともに笑う女性がいた。
「……で、結局“野心家の弟殿下”は、どうなったのかしら?」
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「“器”を選んだのはあなたでしょう。文句を言ってはいけませんわ」
二人は紅茶を口に含み、同時に微笑んだ。
「……昔のこと、思い出す?」
「毎晩、夢に見るほどには。でも、目覚めたら――“私でよかった”と思えるの。
たとえ戻れるとしても、私はあの時の“逆襲”をもう一度選ぶわ」
ミレイユはそっと視線を逸らし、遠くの空を見上げる。
「私も、もう“祈り”には戻れない。けれど、あの時のあなたの言葉だけは、今でも胸に残ってるの」
「どの言葉?」
「“祈らない。でも願うことはやめない”――あれほど、美しい皮肉は他にありませんわ」
ヴィオラは照れ隠しにカップを傾けた。
「それ、私の遺言にでもしておいてくれる?」
「お断りですわ。あなたには、もっと美しく残る言葉が似合いますもの」
春の光が差し込み、部屋の中をゆったりと照らす。
“悪役令嬢”と“偽りの聖女”。
かつて物語の対立軸だったふたりは、今ではただの友人として、こうして日々を語り合っている。
戦いの記憶は風に溶け、残ったのは“自分で選んだ人生”だけだった。
そしてそれが――
誰よりも尊く、何よりも正しいと、ふたりは知っていた。
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