さようなら、婚約者様。これは悪役令嬢の逆襲です。

パリパリかぷちーの

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番外編

後日譚1

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――数年後。

ヴェルディア王国は穏やかな発展の道を歩んでいた。

王政は民政との共存を果たし、神殿は政治から距離を置いた“祈りの場”として再定義されている。  
激動の時代を知る人々のあいだでは、ある一人の名が時折囁かれる。

“あの悪役令嬢”。

“王太子に婚約破棄された女”。

“聖女を沈黙させた影の改革者”。

けれど、その名を正確に記憶している者は、もう少ない。



王都から離れた小さな村に、白い屋敷がある。

庭には季節の花が咲き、窓辺には古い本が並んだ書棚。

そこに、紅茶の香りとともに笑う女性がいた。

「……で、結局“野心家の弟殿下”は、どうなったのかしら?」

ヴィオラ=エーデルワイス。

今は肩書も、地位も、何もない。ただの“本好きな隠居女性”。

彼女の前にいるのは、かつて神殿で“祈りの衣”を纏っていた一人の女性――ミレイユ。  
今は朗読教師として各地を巡り、子どもたちに言葉の力を伝えている。

「第二王子殿下は、あいかわらず民の前では王らしく、裏ではあなたの影を探しているようですわ」

「まだそんなことしてるの? 彼、王になる器はあるのに……余計なことばかり気にするのよね」

「“器”を選んだのはあなたでしょう。文句を言ってはいけませんわ」

二人は紅茶を口に含み、同時に微笑んだ。

「……昔のこと、思い出す?」

「毎晩、夢に見るほどには。でも、目覚めたら――“私でよかった”と思えるの。  
たとえ戻れるとしても、私はあの時の“逆襲”をもう一度選ぶわ」

ミレイユはそっと視線を逸らし、遠くの空を見上げる。

「私も、もう“祈り”には戻れない。けれど、あの時のあなたの言葉だけは、今でも胸に残ってるの」

「どの言葉?」

「“祈らない。でも願うことはやめない”――あれほど、美しい皮肉は他にありませんわ」

ヴィオラは照れ隠しにカップを傾けた。

「それ、私の遺言にでもしておいてくれる?」

「お断りですわ。あなたには、もっと美しく残る言葉が似合いますもの」

春の光が差し込み、部屋の中をゆったりと照らす。

“悪役令嬢”と“偽りの聖女”。

かつて物語の対立軸だったふたりは、今ではただの友人として、こうして日々を語り合っている。

戦いの記憶は風に溶け、残ったのは“自分で選んだ人生”だけだった。

そしてそれが――  
誰よりも尊く、何よりも正しいと、ふたりは知っていた。
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