塩対応の悪役令嬢ですが、婚約破棄?わかりましたわ。

パリパリかぷちーの

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アイラ嬢の「お祈りをして差し上げたい」という、いじらしい(とユリウス殿下には見えるであろう)提案により、翌日、領民たちが村の広場に集められた。
もちろん、王太子殿下直々のご命令だ。農作業を中断させられた村人たちの顔には、喜びよりも困惑の色が濃く浮かんでいる。

「茶番だな」

わたくしの隣で、腕を組みながらその光景を眺めていたアレクシス様が、ぼそりと呟いた。
その声には、隠しきれない侮蔑が滲んでいる。

「ええ、ええ。ですが、ああいうお芝居がお好きな方もいらっしゃいますから。わたくしたちは、静かに見物させていただきましょう」

わたくしは扇で口元を隠し、にっこりと答えた。
これから始まるであろう三文芝居に、ある種の期待さえ感じながら。



やがて、広場の中央に設けられた即席の壇上に、ユリウス殿下にエスコートされたアイラ嬢が姿を現した。
純白のドレスを身にまとった彼女は、集まった領民たちをぐるりと見回すと、悲劇のヒロインさながらに、涙を浮かべて語り始めた。

「みなさん、こんにちはぁ。わたくし、アイラ・ミモザと申しますぅ」

か細く、守ってあげたくなるような声。

「この土地が、リリアンヌ様のせいで……いえ、様々な困難に見舞われていると、ユリウス様からお聞きしましたぁ。わたくしのこの聖なる力で、少しでもみなさんのお力になれればと思いまして……」

その言葉に、集まった領民たちは、ぽかんとした顔で互いを見合わせた。
無理もない。
彼らにとっての困難は、天候不順や痩せた土地の問題だった。そして、『リリアンヌ様のせい』どころか、わたくしがこの地に来てからというもの、具体的な改善計画が示され、むしろ未来への希望が見え始めているのだから。

しかし、そんな領民たちの微妙な空気にも気づかず、ユリウス殿下は得意満面だった。

「さあ、アイラ! 君のその清らかな力を、皆に見せておやり!」

「はい、ユリウス様…!」

アイラ嬢はこくりと頷くと、おもむろに瞳を閉じ、両手を胸の前でゆっくりと組んだ。
どこかの安っぽい舞台で見たような、大げさな祈りのポーズ。

「おお、聖なる光よ……この地に生きる、か弱き者たちをお救いください……! わたくしのこの身に宿り、恵みを与えたまえ……!」

彼女がそう詠唱すると、その組まれた両手の中から、ぼんやりとした、頼りない光が放たれた。
ロウソクの灯りほどの、淡い、淡い光。

「おお! 見よ、この神々しい光を! アイラこそ、真の聖女だ!」

ユリウス殿下が、一人だけ感動に打ち震えている。
だが、その光景を見つめる領民たちの反応は、冷ややかだった。

「……なんだ、あれだけか?」
「うちの婆様が使う、生活魔法の『灯り』の方が、よっぽど明るいぞ……」
「聖女様って、あの程度なのかねぇ……」

そう。彼女が放った光は、魔力の心得がある者が見れば、赤子でも使えるような、ごく初歩的な光魔法に過ぎなかった。
それも、魔力のコントロールが未熟なせいで、今にも消えそうなほど揺らいでいる。

わたくしは、そのあまりの茶番劇に、もはや笑いをこらえることができなかった。
扇で必死に口元を隠すが、肩がぷるぷると震えてしまう。

「プッ……くくくっ……」

「……」

隣のアレクシス様は、呆れ果てて言葉も出ない、といった様子で、深いため息をついている。

自分への評価が芳しくないことに焦ったのだろう。アイラ嬢が、さらに魔力を込めようと顔を真っ赤にした。

「もっと、もっと強く……! ひかりよぉぉぉぉぉっ!」

しかし、その無理がたたった。
ぼんやりと灯っていた光は、「プスン」という、実にしまらない音と共に、一筋の煙を上げて、あっけなく消えてしまったのだ。

しーーーーん。

広場は、凍り付くほど気まずい沈黙に包まれた。

その沈黙を破ったのは、ユリウス殿下の怒鳴り声だった。

「リ、リリアンヌ! 貴様、今、笑ったな! アイラの神聖な儀式を嘲笑うとは、何事だ!」

完全に、八つ当たりである。
わたくしは、震える肩をなんとか抑え込み、扇の向こうからしれっと答えた。

「いいえ? 滅相もございませんわ、殿下」

すっと扇を閉じ、完璧な淑女の笑みを浮かべる。

「ただ、今、小さな羽虫がわたくしの目の前を飛んでいただけですの。どうぞ、お気になさらないでくださいませ」

「なっ……!」

その言葉が、ユリウス殿下とアイラ嬢のプライドを、いたく傷つけたようだった。

この一件で、領民たちの心は決まった。
得体の知れない聖女様ごっこに付き合うよりも、口は悪いが、自分たちの生活を本気で考えてくれる、リリアンヌ様についていこう、と。

アイラ嬢は、屈辱に顔を真っ赤に染めて、わっと泣き崩れた。
ユリウス殿下は「アイラ!大丈夫か!?」と慌てて彼女を抱きかかえると、わたくしを忌々しげに睨みつけ、そそくさとその場を退散していった。

その、実に無様な後ろ姿を見送りながら、わたくしは小さく呟いた。

「さて、茶番も終わりましたし、仕事に戻りませんとね」

すると、隣に立っていたアレクシス様が、初めて、ほんの少しだけ楽しそうな声で言った。

「……全くだ」

彼の横顔を見て、わたくしは少しだけ驚いた。
その青い瞳に、今まで見たことのない、柔らかな光が宿っているように見えたからだ。
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