塩対応の悪役令嬢ですが、婚約破棄?わかりましたわ。

パリパリかぷちーの

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王都の愚者たちが、空虚な議論に時間を浪費しているまさにその時。
辺境の地では、この国の未来を賭けた血と鉄の火花が激しく散っていた。

「怯むな!敵は少数だ!囲んで叩き潰せ!」

ガルニア帝国の指揮官は、初動の混乱から、早くも立ち直りを見せていた。
彼は、わたくしが放った鉄砲水が、砦を破壊するほどのものではないこと、そして、正面から突撃してくる王国騎士団の兵力が、絶望的なまでに少ないことを見抜き、的確な指示を飛ばし始める。

砦の中は、瞬く間に、地獄の戦場と化した。
数で圧倒的に勝るガルニアの兵士たちが、まるで蟻のように、アレクシス様と、その部下である数名の騎士たちに、四方八方から襲い掛かる。

「団長!敵の数が、多すぎます!」

「弱音を吐くな!我らの背後には、誰がいるのかを思い出せ!」

アレクシス様は、鬼神の如き強さだった。
彼の振るう剣は、まるで、月光を浴びて輝く、一筋の流星。
その軌跡上に捉えられた敵兵は、悲鳴を上げる間もなく、次々と血の海に沈んでいく。
しかし、倒しても、倒しても、敵兵は、まるで無限に湧いてくるかのように、次から次へと、その刃の前に立ちはだかった。



「……まずいですわね」

崖の上から、その、絶望的な戦況を目の当たりにしていたわたくしは、唇を噛みしめた。
わたくしの仕掛けた鉄砲水は、確かに、初動で敵を混乱させることには成功した。
しかし、それも、時間稼ぎにしかならなかった。
このままでは、アレクシス様たちが、衆寡敵せず、力尽きてしまうのは、もはや、時間の問題。

(王都からの援軍は、まだ来ない。お父様が動いてくださったとしても、間に合わない……!)

何か、何か、この状況を、一撃で、ひっくり返すための、次の一手はないものか。
わたくしは、焦る頭を必死に回転させ、過去に読んだ、この砦に関する、あらゆる文献の記憶を、手繰り寄せた。

古い、古い、古文書の一節。
確か、こう書かれていたはずだ。
『鷲ノ巣砦、その設計には、一つ、重大な欠陥あり。崖の上に火薬庫の換気口を設けるべからず』と。

「……!」

そうだわ!あれですわ!
わたくしは、崖の縁ギリギリまで進み出て、眼下の、砦の構造を、改めて確認する。
あった。
崖に面した石壁のちょうど中腹あたり。
雑草や蔦に覆われて、ほとんど見えなくなっているが、確かに、人が一人ようやく通れるほどの小さな小さな横穴が開いている。
あれが、火薬庫へと続く唯一の換気口!

「ゼバスチャン! トム!」

わたくしは、二人を呼んだ。

「お嬢様、これ以上は、なりません! あまりにも危険すぎます!」

わたくしの意図を察したゼバスチャンが、悲痛な声を上げる。
しかし、わたくしの決意は固かった。

「このままでは、閣下が、皆が、死んでしまいますわ。わたくしは、それだけは絶対に許容できません」

「……」

「わたくしが、この手で終わらせるのです」

その瞳に宿る、紅蓮の炎のような揺るぎない覚悟を見て、ゼバスチャンはもはや何も言うことができなかった。



「はあっ!」

アレクシス様は、敵将が振るう巨大な戦斧をその剣で辛うじて受け止めていた。
キィィィンと、耳障りな金属音が響き彼の腕が痺れる。
敵の指揮官は、その巨体に似合わぬ俊敏な動きと圧倒的なパワーを兼ね備えた恐るべき戦士だった。

「ほう、やるな、王国騎士団長!だが、それもここまでだ!」

戦斧が、再び唸りを上げてアレクシス様の頭上へと振り下ろされる。
万事、休すか。
彼が、死を覚悟したその瞬間だった。

ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!

砦の、内側から。
大地を、そして、大気を根こそぎ揺るがすような、凄まじい轟音が響き渡ったのだ。
砦の、ちょうど中心部にあった火薬庫が大爆発を起こしたのである。

爆風と衝撃波が砦の中を吹き荒れる。
ガルニア兵たちは、何が起こったのかも分からないまま吹き飛ばされ、あるいはその場に崩れ落ちた。
目の前の敵将も、その予期せぬ爆発に体勢を崩す。

アレクシス様は、その千載一遇の好機を逃さなかった。
彼の剣が、閃光のように煌めく。
敵将のその巨大な体は、言葉を発することもなくゆっくりと大地に崩れ落ちていった。



崖の上では、わたくしたちがその爆発の凄まじい余波に身を伏せていた。
わたくしたちが、松明の火を油を染み込ませた布に巻き付け、それをあの換気口へと投げ込んだのだ。

「……お見事で、ございます。お嬢様」

ゼバスチャンが、呆然と呟く。
指揮官を失い、謎の大爆発に完全に戦意を喪失したガルニアの兵士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い。その場で武器を捨てて降伏していた。

戦いは、終わった。
わたくしたちの、勝利だった。

血と硝煙の匂いが立ち込める砦の中で。
アレクシス様は、傷ついた体でゆっくりと立ち上がった。
そして、彼が何よりも先に見上げたのは。

わたくしがいるはずのあの崖の上だった。

「リリアンヌッ……!」

彼の、魂からの叫び声が夜の静寂を取り戻した戦場にいつまでもいつまでも響き渡っていた。
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