婚約破棄?ああ、どうぞお構いなく。

パリパリかぷちーの

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雑誌を握りしめたまま、リリアは自室に戻っても震えが止まらなかった。

(どうして……どうして、あの方が……!)

婚約破棄された惨めな令嬢。それが、アミュレットのなるべき姿だったはずだ。それなのに、雑誌の中の彼女は、リリアが今一番欲しいもの――世間の注目と賞賛――を、いとも容易く手にしていた。

許せない。

「確かめに行かなくては……」

リリアは呟いた。あの女が、本当に記事のように輝いているのか。それとも、無理をして虚勢を張っているだけなのか。この目で見極めてやる、と。

彼女は侍女に命じて、目立たない地味なケープと、顔を深く隠せるフードを用意させた。そして、供も連れず、たった一人で王宮を抜け出した。

侍女から聞き出した裏路地。そこにたどり着いたリリアは、まず目の前の光景に言葉を失った。

(な、何なの、この行列は……!)

雑誌の効果は絶大だったらしい。薄汚いとさえ言える路地に、お洒落をした若者たちが楽しげに列をなしている。その誰もが、あの忌々しい雑誌を手にしていた。

リリアは屈辱に耐えながら列の最後尾に並び、長い時間をかけてようやく店内に入ることができた。

隅の、なるべく目立たない席に座り、フードを深く被ったまま店内を見渡す。

店は満席だった。客は皆、幸せそうな顔でケーキを頬張り、紅茶を飲んでいる。そして、その視線の先には、常に一人の女性がいた。

アミュレット・フォン・クライン。

彼女は、大勢の客に囲まれながらも、まるで自分以外の誰も存在しないかのように、黙々と、しかし優雅に仕事をこなしていた。その堂々とした姿は、雑誌の写真以上にリリアの心を苛んだ。

店の片隅には、見知った顔もあった。ゼノン・グレイフォードと、その同僚の騎士たち。彼らは、アミュレットを、まるで女王でも見るかのような、尊敬の眼差しで見つめている。

(騎士団の英雄まで、手玉に取っているの……!?)

リリアの中で、嫉妬の炎が黒く燃え上がった。

その時、すっ、と影が差した。顔を上げると、アミュレットがリリアのテーブルの前に立っていた。

「ご注文は、お決まりですか」

感情の読めない、平坦な声。

リリアは息をのんだ。

(わたくしに、気づいている……!)

フードで顔は隠しているはずなのに、アミュレットの紫の瞳は、全てを見透かすように、まっすぐにリリアを射抜いていた。

(気づいていて、この態度……! 他の客と同じように扱うなんて……! わたくしを、馬鹿にしているのね!)

何か言ってやりたかった。「あなたが幸せになるなんておかしい」と。だが、アミュレットの絶対的な静寂と、店の客たちの視線を前にして、リリアの喉からは、何の言葉も出てこなかった。

結局、彼女にできたのは、メニューに書かれた『洋梨のタルト』を、震える指で指し示すことだけだった。

やがて運ばれてきたタルトは、悔しいほどに完璧な見た目をしていた。

リリアは、毒でも飲むかのような気持ちで、一口、フォークを口に運ぶ。

そして、絶望した。

(……美味しい)

瑞々しい洋梨の甘み。香ばしいアーモンドクリーム。サクサクとしたタルト生地。その全てが、寸分の狂いもなく調和している。

(悔しい……! 悔しいのに、美味しいなんて……!)

こんなものを作れる才能。大勢の客を惹きつける美貌とカリスマ。そして、何事にも動じない、あの気高さ。

自分にはないもの全てを、この女は持っている。

リリアは、自分がひどく惨めで、ちっぽけな存在に思えた。

彼女は、代金をテーブルに叩きつけるように置くと、逃げるように店を飛び出した。

裏路地の薄暗がりの中、リリアは壁に手をつき、荒い息を繰り返す。

(あんな女が、幸せになるなんて……)

(エリアス様も、世間の注目も、全部わたくしのものだったはずなのに……!)

許さない。絶対に、許さない。

「見てなさい、アミュレット様」

リリアは、憎悪に歪んだ顔で呟いた。

「あなたのその幸せも、その店も、わたくしが、全部……全部、壊してあげるから……!」

その瞳に宿っていたのは、もはや単なる嫉妬ではない。全てを破壊することも厭わない、危険で昏い光だった。
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