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「静粛に! これより、アスター公爵令嬢ピースに対する査問会を執り行う!」
王城の謁見の間。
高い天井、赤い絨毯、そして玉座に座る国王陛下。
その周囲には、宰相である父(アスター公爵)や高官たちがズラリと並び、重苦しい空気が漂っている。
玉座の脇には、全身を包帯でグルグル巻きにしたジェラルド王子が、悲劇のヒーロー気取りで立っていた。
「父上! 見てください、この傷を! 全て、あの悪女ピースと、野蛮な辺境伯による暴力の結果です!」
王子が大げさに呻いてみせる。
(……あの包帯、ただのファッションよね。サイラス様は手加減してたし、私のフォークも避けたし)
私は心の中でツッコミを入れつつ、サイラス、ミナと共に中央に進み出た。
「頭が高い! 控えよ!」
衛兵が槍を鳴らす。
私たちは形式通りの礼をした。
国王が重々しく口を開く。
「ピースよ。其の方、王族に対する不敬、および辺境伯をたぶらかしての国家転覆の嫌疑がかけられておる。申し開きはあるか?」
「はい。ございます」
私はスッと立ち上がった。
そして、持参した大きなカバンから、折りたたみ式のイーゼル(画架)と、A1サイズの巨大な紙芝居(フリップ)を取り出した。
「な、なんだそれは?」
国王が目を丸くする。
私は指示棒(伸縮式)を伸ばし、パチンとフリップを叩いた。
「口頭での説明は誤解を生みますので、資料をご用意しました。題して『ジェラルド殿下の不採算事業化に関するリスク分析と、婚約破棄による王家の経済効果について』です」
「……は?」
「では、1ページ目をご覧ください」
私はめくった。
そこには、右肩上がりの真っ赤な折れ線グラフが描かれていた。
**【図1:ジェラルド殿下の年間浪費額推移】**
「まず、こちらのグラフをご覧ください。殿下の個人的な支出は、年率20%で増加しています。主な内訳は『自作ポエムの製本代』『自分に似合う服の研究費(失敗分含む)』そして『ミナ嬢へのストーカー活動費』です」
「なっ、ストーカーだと!?」
王子が叫ぶが、私は無視して次をめくった。
**【図2:国民からの好感度推移(暴落中)】**
「対して、国民からの好感度はストップ安です。特に直近の『婚約破棄騒動』により、株価なら上場廃止レベルまで落ち込んでいます。このまま殿下が王位を継いだ場合、王家のブランド価値は毀損し、革命のリスクが高まります」
会場がざわめく。
高官たちが「確かに……」「数字で見るとヤバイな……」と囁き合う。
「そこで、ソリューション(解決策)の提案です」
私は3枚目をめくった。
**【図3:ピース追放によるコスト削減効果】**
「私、ピース・アスターとの婚約を破棄し、私が『慰謝料』という形で手切れ金を受け取ることにより、王家は私という『管理コストの高いお目付役』を失いますが、同時に殿下の浪費を止める『悪役』を排除したという一時的なガス抜きが可能です」
「うむ……」
国王が身を乗り出した。
「さらに、私は現在、辺境伯サイラス様の元で『経済顧問(自称)』として活動しております。これにより、辺境の経済が活性化し、結果として国税収入が増加します。つまり、私が王都を去ることは、国益に適うのです!」
「詭弁だ!」
王子が叫んだ。
「父上、騙されないでください! こいつは金の話で煙に巻こうとしているだけです! 問題は、こいつが僕の心を傷つけたことです!」
「心の傷、ですか」
私は冷ややかな目で王子を見た。
「では、殿下が作成された『心の叫び』を、ここで証拠として提出してもよろしいですか?」
私はカバンから、例の『未発表ポエム集』を取り出した。
王子の顔色が土色に変わる。
「や、やめ……!」
「作品No.1『僕の涙はダイヤモンド』。……朗読します。『ああ、なぜ空は青いのか。それは僕が悲しいからだ。僕の涙が海になり、空を映しているからだ……』」
「ギャァァァァァァッ!!」
王子が頭を抱えて絶叫した。
「やめろ! それを読むなぁぁぁ!」
「作品No.2『ミナ、君は小リス』。……『君の前歯が……』」
「ストップ! ストップだピース!」
玉座の国王が慌てて手を挙げた。
「これ以上は聞くに堪えん! 我が息子の恥をこれ以上晒すな!」
「失礼しました。ですが、殿下の『繊細すぎる感性』が、王政という実務に向いていないことはご理解いただけたかと」
私はフリップを閉じた。
「結論です。私と殿下の婚約破棄は『正当な損切り』であり、王家にとっても『不良債権処理』として処理すべき案件です。そして、私と辺境伯の関係は、新たな『経済同盟』として承認されるべきです」
私は一礼した。
完璧だ。
数字と羞恥心による二段構えの攻撃。
国王は深く溜息をつき、宰相(私の父)を見た。
「……アスター公爵。娘の教育はどうなっているんだ」
父はハンカチで額の汗を拭いながら答えた。
「はっ……数字に強く、たくましく育ってくれたと思っております(まさかここまで強欲になるとは……)」
国王は再び私、そして隣で腕組みをして黙っているサイラスを見た。
「辺境伯。其の方も、この……強烈な娘と組むことに異存はないのか?」
サイラスは一歩前に出た。
「陛下。訂正していただきたい」
「ん?」
「『組む』のではない。『添い遂げる』です」
会場が静まり返った。
サイラスは、王子の時と同じように、国王の前でも堂々と宣言した。
「彼女は私の婚約者です。彼女の計算高さも、強欲さも、全て私が管理し、責任を持ちます。……彼女の作るスープの味を知ってしまった以上、もう手放せませんので」
「サ、サイラス様……?」
私は小声で呼んだ。
(プレゼン資料にないアドリブはやめてください! 国王陛下の前でのろけ話とか、処刑レベルですよ!?)
しかし、国王は意外な反応を見せた。
「……ほう」
国王の口元が緩んだ。
「あの『氷の魔術師』が、そこまで言うか。……ジェラルド相手には一度も見せなかった熱意だな」
国王は玉座の肘掛けを叩いた。
「良かろう! ピースの申し開き、筋が通っておると認める!」
「父上ぇぇぇ!?」
王子が泣きついたが、国王は一喝した。
「黙れジェラルド! お前のポエムのせいで、余がどれだけ恥ずかしかったか! 少しはサイラスを見習って、まともな男になれ!」
「そ、そんなぁ……」
王子が崩れ落ちる。
国王は私に向かって鷹揚に頷いた。
「ピースよ。其の方の『経営手腕』、見事であった。辺境の地で、サイラスと共に国を支えよ。ただし……」
国王はニヤリと笑った。
「慰謝料としてふんだくった金の一部は、税金としてしっかり納めるようにな」
「……!」
さすが国王。タダでは転ばない。
私は苦笑しつつ、深々と頭を下げた。
「御意に。……領収書は発行していただけますよね?」
こうして、私の「王都プレゼン大会」は、大勝利で幕を閉じた。
はずだった。
だが、物語はまだ終わらない。
崩れ落ちた王子の背中から、どす黒いオーラが立ち上っていることに、誰も気づいていなかったのだ。
そして、証言台に立つはずだったミナが、何かに怯えるように震えていることにも。
王城の謁見の間。
高い天井、赤い絨毯、そして玉座に座る国王陛下。
その周囲には、宰相である父(アスター公爵)や高官たちがズラリと並び、重苦しい空気が漂っている。
玉座の脇には、全身を包帯でグルグル巻きにしたジェラルド王子が、悲劇のヒーロー気取りで立っていた。
「父上! 見てください、この傷を! 全て、あの悪女ピースと、野蛮な辺境伯による暴力の結果です!」
王子が大げさに呻いてみせる。
(……あの包帯、ただのファッションよね。サイラス様は手加減してたし、私のフォークも避けたし)
私は心の中でツッコミを入れつつ、サイラス、ミナと共に中央に進み出た。
「頭が高い! 控えよ!」
衛兵が槍を鳴らす。
私たちは形式通りの礼をした。
国王が重々しく口を開く。
「ピースよ。其の方、王族に対する不敬、および辺境伯をたぶらかしての国家転覆の嫌疑がかけられておる。申し開きはあるか?」
「はい。ございます」
私はスッと立ち上がった。
そして、持参した大きなカバンから、折りたたみ式のイーゼル(画架)と、A1サイズの巨大な紙芝居(フリップ)を取り出した。
「な、なんだそれは?」
国王が目を丸くする。
私は指示棒(伸縮式)を伸ばし、パチンとフリップを叩いた。
「口頭での説明は誤解を生みますので、資料をご用意しました。題して『ジェラルド殿下の不採算事業化に関するリスク分析と、婚約破棄による王家の経済効果について』です」
「……は?」
「では、1ページ目をご覧ください」
私はめくった。
そこには、右肩上がりの真っ赤な折れ線グラフが描かれていた。
**【図1:ジェラルド殿下の年間浪費額推移】**
「まず、こちらのグラフをご覧ください。殿下の個人的な支出は、年率20%で増加しています。主な内訳は『自作ポエムの製本代』『自分に似合う服の研究費(失敗分含む)』そして『ミナ嬢へのストーカー活動費』です」
「なっ、ストーカーだと!?」
王子が叫ぶが、私は無視して次をめくった。
**【図2:国民からの好感度推移(暴落中)】**
「対して、国民からの好感度はストップ安です。特に直近の『婚約破棄騒動』により、株価なら上場廃止レベルまで落ち込んでいます。このまま殿下が王位を継いだ場合、王家のブランド価値は毀損し、革命のリスクが高まります」
会場がざわめく。
高官たちが「確かに……」「数字で見るとヤバイな……」と囁き合う。
「そこで、ソリューション(解決策)の提案です」
私は3枚目をめくった。
**【図3:ピース追放によるコスト削減効果】**
「私、ピース・アスターとの婚約を破棄し、私が『慰謝料』という形で手切れ金を受け取ることにより、王家は私という『管理コストの高いお目付役』を失いますが、同時に殿下の浪費を止める『悪役』を排除したという一時的なガス抜きが可能です」
「うむ……」
国王が身を乗り出した。
「さらに、私は現在、辺境伯サイラス様の元で『経済顧問(自称)』として活動しております。これにより、辺境の経済が活性化し、結果として国税収入が増加します。つまり、私が王都を去ることは、国益に適うのです!」
「詭弁だ!」
王子が叫んだ。
「父上、騙されないでください! こいつは金の話で煙に巻こうとしているだけです! 問題は、こいつが僕の心を傷つけたことです!」
「心の傷、ですか」
私は冷ややかな目で王子を見た。
「では、殿下が作成された『心の叫び』を、ここで証拠として提出してもよろしいですか?」
私はカバンから、例の『未発表ポエム集』を取り出した。
王子の顔色が土色に変わる。
「や、やめ……!」
「作品No.1『僕の涙はダイヤモンド』。……朗読します。『ああ、なぜ空は青いのか。それは僕が悲しいからだ。僕の涙が海になり、空を映しているからだ……』」
「ギャァァァァァァッ!!」
王子が頭を抱えて絶叫した。
「やめろ! それを読むなぁぁぁ!」
「作品No.2『ミナ、君は小リス』。……『君の前歯が……』」
「ストップ! ストップだピース!」
玉座の国王が慌てて手を挙げた。
「これ以上は聞くに堪えん! 我が息子の恥をこれ以上晒すな!」
「失礼しました。ですが、殿下の『繊細すぎる感性』が、王政という実務に向いていないことはご理解いただけたかと」
私はフリップを閉じた。
「結論です。私と殿下の婚約破棄は『正当な損切り』であり、王家にとっても『不良債権処理』として処理すべき案件です。そして、私と辺境伯の関係は、新たな『経済同盟』として承認されるべきです」
私は一礼した。
完璧だ。
数字と羞恥心による二段構えの攻撃。
国王は深く溜息をつき、宰相(私の父)を見た。
「……アスター公爵。娘の教育はどうなっているんだ」
父はハンカチで額の汗を拭いながら答えた。
「はっ……数字に強く、たくましく育ってくれたと思っております(まさかここまで強欲になるとは……)」
国王は再び私、そして隣で腕組みをして黙っているサイラスを見た。
「辺境伯。其の方も、この……強烈な娘と組むことに異存はないのか?」
サイラスは一歩前に出た。
「陛下。訂正していただきたい」
「ん?」
「『組む』のではない。『添い遂げる』です」
会場が静まり返った。
サイラスは、王子の時と同じように、国王の前でも堂々と宣言した。
「彼女は私の婚約者です。彼女の計算高さも、強欲さも、全て私が管理し、責任を持ちます。……彼女の作るスープの味を知ってしまった以上、もう手放せませんので」
「サ、サイラス様……?」
私は小声で呼んだ。
(プレゼン資料にないアドリブはやめてください! 国王陛下の前でのろけ話とか、処刑レベルですよ!?)
しかし、国王は意外な反応を見せた。
「……ほう」
国王の口元が緩んだ。
「あの『氷の魔術師』が、そこまで言うか。……ジェラルド相手には一度も見せなかった熱意だな」
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王子が崩れ落ちる。
国王は私に向かって鷹揚に頷いた。
「ピースよ。其の方の『経営手腕』、見事であった。辺境の地で、サイラスと共に国を支えよ。ただし……」
国王はニヤリと笑った。
「慰謝料としてふんだくった金の一部は、税金としてしっかり納めるようにな」
「……!」
さすが国王。タダでは転ばない。
私は苦笑しつつ、深々と頭を下げた。
「御意に。……領収書は発行していただけますよね?」
こうして、私の「王都プレゼン大会」は、大勝利で幕を閉じた。
はずだった。
だが、物語はまだ終わらない。
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