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「……さて」
甘いキスの余韻も冷めやらぬうちに。
私はパンッ! と両手を叩き、サッとサイラスから離れた。
「サイラス様。口約束はトラブルの元です。今のプロポーズ、法的効力を持たせるために、さっそく書面化しましょう」
「……は?」
サイラスが虚を突かれた顔をする。
私はドレスのポケット(四次元ポケット並みに色々入っている)から、携帯用の羊皮紙とペンを取り出し、バルコニーの手すりを机代わりにして書き始めた。
「えっと、『甲(サイラス)は乙(ピース)に対し、生涯の愛と食料の供給を保証する』……と。あ、特約事項として『浮気した場合は全財産没収の上、氷像にして広場に展示する』も追加しておきますね」
「……お前、今の今まで顔を赤くしていただろう。切り替えが早すぎないか?」
「時は金なり、感情は生鮮食品です。腐る前に処理しないと」
私はサラサラとペンを走らせる。
「あと、『乙は甲に対し、家計の健全化と美味しいスープの提供を約束する』。……これでウィンウィンですね。はい、サインをお願いします」
私はペンをサイラスに突き出した。
サイラスは呆れたように笑い、それから愛おしそうに私の髪を撫でた。
「……勝てないな、お前には」
彼はペンを受け取り、流れるような筆記体で署名した。
『Cyrus Grave』
そのサインは、どんな契約書よりも重く、そして確かなものに見えた。
「これで文句はないな?」
「はい! 契約成立です!」
私は羊皮紙にチュッとキスをして(サイラスにはしない)、大切に懐へしまった。
「異議ありぃぃぃぃ!!」
そこへ、ゾンビのように復活したジェラルド王子が割り込んできた。
「認めん! 僕は認めんぞ! こんな……こんな事務的な婚約があってたまるか!」
王子は涙目で私に食ってかかった。
「ピース! 君はそれでいいのか! もっとこう、愛の言葉を囁き合うとか、月を見上げて詩を詠むとか、あるだろう!」
「殿下」
私は冷たい目で見下ろした。
「貴方は『愛』を語って金を使い込みましたが、サイラス様は『金(生活)』を保証して愛を行動で示してくれました。どちらが優良物件かは、猿でも分かります」
「サ、サル……」
「それに」
私は掌を差し出した。
「殿下。今のプロポーズの決定的瞬間、覗いていましたよね?」
「う、うむ。悔しいが見てしまった」
「では、『立会人兼、覗き見料』として、金貨十枚を請求します」
「金取るのかよ!?」
「当然です。私の『人生のハイライト』という最高級コンテンツをタダ見したんですから。ミナ嬢もですよ」
後ろで縮こまっていたミナが「ひぇっ」と声を上げた。
「ミナ嬢は『友情割引』で半額にしてあげます。あとで請求書回しますね」
「は、はい……喜んで……」
ミナは完全に私に調教されていた。
王子はプルプルと震えていたが、サイラスが半歩前に出て睨みをきかせると、大人しく財布から金貨を出した。
「くっ……払えばいいんだろう、払えば! だがな、父上が黙っていないぞ! 王族の婚約者を奪ったんだ、ただで済むと思うなよ!」
王子が捨て台詞を吐いた、その時だった。
「……ジェラルド」
背後から、重々しい声が響いた。
「ち、父上……?」
振り返ると、そこには国王陛下が、近衛兵を引き連れて立っていた。
バルコニーの様子を、聞き耳を立てて聞いていたらしい。
「父上! 聞いてください! この二人が僕を虐めるんです! 不当な請求をして……」
「黙れ、愚か者」
国王の一喝が夜空に響く。
「余は全て聞いていた。……サイラスの覚悟も、ピースの聡明さ(と強欲さ)も、そしてお前の情けなさもな」
国王は深くため息をつき、私とサイラスに向き直った。
「サイラス、そしてピースよ。二人の婚約、余が正式に承認しよう」
「えっ!?」
王子が絶叫する。
「父上!? 正気ですか!? アスター家との絆はどうなるのです!」
「アスター公爵も同意済みだ。『あの娘を制御できるのは、もはや辺境伯しかいない』とな」
(お父様……娘を猛獣扱いしないでください)
国王は王子を冷たく見下ろした。
「ジェラルド。お前には失望した。王族としての品位も、男としての甲斐性もない。ミナにも愛想を尽かされ、ピースには完全論破され……これ以上、恥を晒すな」
「そ、そんな……」
「よって、ジェラルド。お前に対する処分を言い渡す」
国王の目が光った。
その場にいる全員が、ゴクリと唾を飲み込んだ。
廃嫡か。
追放か。
それとも……。
「ピースよ」
国王が急に私に話を振った。
「は、はい」
「其の方、先ほどのプレゼンで『不良債権処理』と申したな?」
「はい。申し上げました」
「ならば、この『不良債権(ジェラルド)』の処分方法も、其の方が提案してみせよ。納得のいく案であれば採用する」
「……はい?」
私は目を丸くした。
王子の処遇を、元婚約者の私に決めろと?
「なっ……父上!? こいつに任せたら、僕は殺されます!」
王子が悲鳴を上げる。
私はニヤリと笑った。
(面白い。最高のアトラクションね)
私はサイラスを見た。彼は「好きにしろ」と言わんばかりに肩をすくめている。
私はゆっくりと王子の周りを一周し、値踏みするように上から下まで眺めた。
「そうですね……。殺しはしませんよ。資源の無駄ですから」
「ひぃっ」
「ただ、王族として甘やかされた根性を叩き直す必要があります。そして、私が被った損害を労働で返済していただきたい」
私は指をパチンと鳴らした。
「決定しました」
私は国王に向かって、高らかに宣言した。
「ジェラルド殿下には、私の『部下』になっていただきます」
「……は?」
全員が固まった。
「私がこれからサイラス様の領地で始める『リゾート開発事業』。その現場作業員として、殿下を最安値の時給で雇用します。スコップ一本で泥にまみれて働いていただきましょう!」
沈黙。
そして。
「ぶっ……わはははは!」
国王が膝を叩いて爆笑した。
「良い! 実に良い! 『元王子』が『元婚約者』の下で肉体労働か! これ以上の罰はあるまい!」
「えっ、元王子……?」
ジェラルドが呆然と呟く。
国王は真顔に戻り、告げた。
「うむ。ジェラルド、お前を王籍から除名し、平民とする。今日からお前はただの『ジェラルド』だ。ピースの下で、死ぬ気で働いてこい!」
「そ、そんなぁぁぁぁぁ!!」
王都の夜空に、元王子の断末魔が響き渡る。
私はサイラスと顔を見合わせ、ニシシと笑った。
「サイラス様。新しい『無料の労働力』が手に入りましたよ」
「……お前、本当に悪魔だな」
「褒め言葉として受け取っておきます」
こうして、私たちの婚約(契約)は、とんでもない「オマケ」付きで成立したのである。
甘いキスの余韻も冷めやらぬうちに。
私はパンッ! と両手を叩き、サッとサイラスから離れた。
「サイラス様。口約束はトラブルの元です。今のプロポーズ、法的効力を持たせるために、さっそく書面化しましょう」
「……は?」
サイラスが虚を突かれた顔をする。
私はドレスのポケット(四次元ポケット並みに色々入っている)から、携帯用の羊皮紙とペンを取り出し、バルコニーの手すりを机代わりにして書き始めた。
「えっと、『甲(サイラス)は乙(ピース)に対し、生涯の愛と食料の供給を保証する』……と。あ、特約事項として『浮気した場合は全財産没収の上、氷像にして広場に展示する』も追加しておきますね」
「……お前、今の今まで顔を赤くしていただろう。切り替えが早すぎないか?」
「時は金なり、感情は生鮮食品です。腐る前に処理しないと」
私はサラサラとペンを走らせる。
「あと、『乙は甲に対し、家計の健全化と美味しいスープの提供を約束する』。……これでウィンウィンですね。はい、サインをお願いします」
私はペンをサイラスに突き出した。
サイラスは呆れたように笑い、それから愛おしそうに私の髪を撫でた。
「……勝てないな、お前には」
彼はペンを受け取り、流れるような筆記体で署名した。
『Cyrus Grave』
そのサインは、どんな契約書よりも重く、そして確かなものに見えた。
「これで文句はないな?」
「はい! 契約成立です!」
私は羊皮紙にチュッとキスをして(サイラスにはしない)、大切に懐へしまった。
「異議ありぃぃぃぃ!!」
そこへ、ゾンビのように復活したジェラルド王子が割り込んできた。
「認めん! 僕は認めんぞ! こんな……こんな事務的な婚約があってたまるか!」
王子は涙目で私に食ってかかった。
「ピース! 君はそれでいいのか! もっとこう、愛の言葉を囁き合うとか、月を見上げて詩を詠むとか、あるだろう!」
「殿下」
私は冷たい目で見下ろした。
「貴方は『愛』を語って金を使い込みましたが、サイラス様は『金(生活)』を保証して愛を行動で示してくれました。どちらが優良物件かは、猿でも分かります」
「サ、サル……」
「それに」
私は掌を差し出した。
「殿下。今のプロポーズの決定的瞬間、覗いていましたよね?」
「う、うむ。悔しいが見てしまった」
「では、『立会人兼、覗き見料』として、金貨十枚を請求します」
「金取るのかよ!?」
「当然です。私の『人生のハイライト』という最高級コンテンツをタダ見したんですから。ミナ嬢もですよ」
後ろで縮こまっていたミナが「ひぇっ」と声を上げた。
「ミナ嬢は『友情割引』で半額にしてあげます。あとで請求書回しますね」
「は、はい……喜んで……」
ミナは完全に私に調教されていた。
王子はプルプルと震えていたが、サイラスが半歩前に出て睨みをきかせると、大人しく財布から金貨を出した。
「くっ……払えばいいんだろう、払えば! だがな、父上が黙っていないぞ! 王族の婚約者を奪ったんだ、ただで済むと思うなよ!」
王子が捨て台詞を吐いた、その時だった。
「……ジェラルド」
背後から、重々しい声が響いた。
「ち、父上……?」
振り返ると、そこには国王陛下が、近衛兵を引き連れて立っていた。
バルコニーの様子を、聞き耳を立てて聞いていたらしい。
「父上! 聞いてください! この二人が僕を虐めるんです! 不当な請求をして……」
「黙れ、愚か者」
国王の一喝が夜空に響く。
「余は全て聞いていた。……サイラスの覚悟も、ピースの聡明さ(と強欲さ)も、そしてお前の情けなさもな」
国王は深くため息をつき、私とサイラスに向き直った。
「サイラス、そしてピースよ。二人の婚約、余が正式に承認しよう」
「えっ!?」
王子が絶叫する。
「父上!? 正気ですか!? アスター家との絆はどうなるのです!」
「アスター公爵も同意済みだ。『あの娘を制御できるのは、もはや辺境伯しかいない』とな」
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国王は王子を冷たく見下ろした。
「ジェラルド。お前には失望した。王族としての品位も、男としての甲斐性もない。ミナにも愛想を尽かされ、ピースには完全論破され……これ以上、恥を晒すな」
「そ、そんな……」
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国王の目が光った。
その場にいる全員が、ゴクリと唾を飲み込んだ。
廃嫡か。
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それとも……。
「ピースよ」
国王が急に私に話を振った。
「は、はい」
「其の方、先ほどのプレゼンで『不良債権処理』と申したな?」
「はい。申し上げました」
「ならば、この『不良債権(ジェラルド)』の処分方法も、其の方が提案してみせよ。納得のいく案であれば採用する」
「……はい?」
私は目を丸くした。
王子の処遇を、元婚約者の私に決めろと?
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「ひぃっ」
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「えっ、元王子……?」
ジェラルドが呆然と呟く。
国王は真顔に戻り、告げた。
「うむ。ジェラルド、お前を王籍から除名し、平民とする。今日からお前はただの『ジェラルド』だ。ピースの下で、死ぬ気で働いてこい!」
「そ、そんなぁぁぁぁぁ!!」
王都の夜空に、元王子の断末魔が響き渡る。
私はサイラスと顔を見合わせ、ニシシと笑った。
「サイラス様。新しい『無料の労働力』が手に入りましたよ」
「……お前、本当に悪魔だな」
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