私からの婚約破棄は、王子様を狂わせるようです。

パリパリかぷちーの

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午後の陽光が、白いテーブルクロスの上で細かな塵を躍らせている。


それはまるで、目に見えない妖精たちがダンスを踊っているかのよう。


私は、透き通った琥珀色の紅茶を一口含み、目の前に座る婚約者を見つめた。


アリステア・フォン・ノイシュタイン第一王子。


彫刻のように整った横顔は、今日も冷ややかな美しさを湛えている。


「……エリヤーヌ、私の顔に何かついているか」


低い、けれど鈴の音のように理知的な声が、静かな庭園に響く。


「いいえ。ただ、今日も殿下のお召し物が、その瞳の色によく映えていらっしゃると。そう思っていただけですわ」


私は完璧な微笑みを浮かべる。


背筋を伸ばし、指先の角度一つに至るまで、公爵令嬢としての矜持を込めて。


「そうか」


たった二文字。


彼は視線を落とし、手元の資料に目を戻してしまった。


ふわり、と風が吹き抜け、私の銀色の髪を揺らす。


その瞬間、私は不意に悟ってしまったのだ。


(ああ、なんて悲しいことかしら)


私は、あまりにも「完璧」すぎてしまう。


鏡を見るたびに惚れ惚れとするようなこの美貌。


立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。


私の放つ光が強すぎて、この控えめで静かな方は、きっと影に隠れて息を潜めていらっしゃるのだわ。


「殿下。このタルト、とても美味しいですわよ」


「……ああ、後でいただく」


「ベリーの酸味が、今の季節の陽射しにぴったりですのに。もったいないわ」


私は小さく溜息をつく。


この溜息さえ、音楽的な調べを奏でてしまうのが私の罪。


アリステア様は、私といる間、一度も心からの笑顔を見せてくださらない。


きっと、私の隣にいることが彼にとっての重圧であり、苦行なのだ。


なんてこと。


私はこんなに彼を慈しみ、幸せを願っているというのに。


私が彼を愛すれば愛するほど、私の「素敵さ」が彼を追い詰めてしまうなんて。


「殿下、わかっておりますのよ。貴方がどれほど耐えていらっしゃるか」


不意に口をついた言葉に、アリステア様の手が止まった。


「……耐えている? 私が、何をだ」


「私という存在そのものですわ」


私は立ち上がり、彼の傍へと歩み寄る。


芝生を踏む靴音が、優しく、けれど決定的なリズムを刻む。


「私の美しさは、時に人を刺す剣となります。貴方はその優しさゆえに、私という光に焼かれながら、黙って隣にいてくださった」


「エリヤーヌ、何を言い出す」


彼が顔を上げた。


その蒼い瞳に、困惑の光が揺れている。


ああ、その揺らぎさえも、私が彼を不安にさせている証拠だわ。


「もう、いいのです。貴方はもっと、心穏やかに過ごすべきですわ」


「待て、話が見えない」


私は彼の手元にある冷めきった紅茶を見つめた。


光の粒が、カップの縁でキラリと跳ねる。


それは、私たちの関係が終わりを迎える、祝福の合図のように見えた。


「アリステア様。私は貴方の幸せを、誰よりも願っております」


だからこそ。


この完璧で、最高に素敵な私が、貴方を自由にしてあげましょう。


「私と、婚約破棄しましょう?」


世界から音が消えた。


風が止まり、花々の香りが濃く立ち上る。


目の前のアリステア様は、まるで時間が止まったかのように固まっていた。


落とした銀のスプーンが、カシャンと高い音を立てる。


「……今、なんと言った?」


絞り出されたような声。


震える唇。


(ああ、見て。こんなに震えていらっしゃるわ)


私との縁が切れるという喜びに、彼はこれほどまでに震え、感極まっていらっしゃるのだ。


これほどまでに私を拒絶していた彼を、今日まで縛り付けていたなんて。


私は、どこまでも残酷で、そしてどこまでも慈悲深い女。


「聞こえませんでしたの? もっと素敵な、貴方に相応しい幸せを見つけに行ってください、と申し上げたのですわ」


私は最高の笑顔を見せた。


光の粒が、私のまつ毛を黄金色に染め上げる。


哀切なはずの別れの言葉が、透明な空気に溶けて、キラキラと輝きながら消えていった。
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