私からの婚約破棄は、王子様を狂わせるようです。

パリパリかぷちーの

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ワルツの旋律が、ゆっくりと、最後の一節に向けて溶け始めていきました。


会場を埋め尽くす光の粒が、私たちのステップに合わせて、まるで銀の粉を撒いたように空中に滞留しています。


「……これで、おしまいですわね。アリステア様」


私は彼の肩に添えた指先に、ほんの少しだけ力を込めました。


私の指から伝わるこの微かな体温が、彼にとって最後の「重荷」となるように。


「……おしまいに、などさせない」


アリステア様の声が、胸の奥を震わせる低い地鳴りのように響きました。


ふと見上げると、彼の瞳の中に、見たこともないような昏い情熱が渦巻いていました。


それは、いつもの冷ややかな蒼ではありません。


もっと熱く、深く、すべてを焼き尽くしてしまいそうな、濃紺の炎。


「まあ。まだそんなことをおっしゃるなんて。貴方は本当に、私という光に目が眩んでしまっているのね」


私は慈愛に満ちた溜息をつきました。


光の粒が、私たちの視線の間で火花を散らすようにパチパチとはじけます。


「見てください、アリステア様。私の目は、もう貴方の先にある未来を見つめていますわ。貴方も、私の背中ではなく、ご自分の足元に咲く小さな幸せを見つけるべきです」


「足元に咲く幸せ……? そんなもの、君が踏みつぶしていった後の残骸に過ぎない!」


アリステア様の手が、私の腰を砕かんばかりに引き寄せました。


密着した胸板から、彼の荒い鼓動が、まるで悲鳴のように直接伝わってきます。


「……っ、殿下? 近すぎますわ。これではダンスのステップが……」


「ステップなど、どうでもいい。エリヤーヌ、君は……どうしてそんなに遠くへ行こうとする」


彼の瞳が、潤んでいるように見えました。


(ああ……。あまりの歓喜に、ついに涙まで流されるなんて)


私はその涙を、私という重圧から解放される瞬間の「浄化の雫」だと思い込みました。


「泣かないで、アリステア様。私の美しさは、これからも貴方の心の中で、永遠に色褪せない記憶として輝き続けますから。それだけで十分ではありませんか?」


「ふざけるな……! 記憶など欲しくない。私は、今ここにいる、傲慢で、美しくて、話の通じない君が欲しいんだ!」


アリステア様の吐息が、私の頬を熱く撫でました。


光の粒が、彼の激しい感情に当てられて、狂ったように乱舞しています。


最後の音が、静かに、けれど決定的に消え去りました。


周囲からは割れんばかりの拍手が沸き起こりましたが、私にはそれが、彼を祝福する鐘の音に聞こえました。


私は彼の手をそっと離し、一歩、後ろへ下がりました。


最高の、そして最後のお辞儀を捧げるために。


「さようなら、アリステア様。今日という日が、貴方の『本当の人生』の始まりですわ」


私は光の中に溶けるように、優雅に背を向けました。


けれどその瞬間、背後から強引に腕を掴まれ、私は再び彼の胸の中へと引き戻されました。


「……行かせない。たとえ君が、私の幸せを願うのだとしても。私は、君のせいで不幸になる道を選ぶ」


アリステア様の瞳の奥にある「熱」が、ついに私の皮膚を焼き始めました。


(……おかしなことですわ)


完璧なはずの私の計画が、彼のこの「狂おしいほどの情熱」の前に、少しだけ揺らいだような気がしたのです。


光の粒が、私たちの周囲で、まるで警告するように激しく煌めいていました。
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