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夜会の喧騒が、遠く潮騒のように聞こえるバルコニーへ、私は連れ出されました。
冷たい夜風が、火照った頬をなでていきます。
見上げれば、満天の星々が、まるで砕け散った光の粒のように夜空に散らばっていました。
「……殿下、腕が痛うございますわ。そんなに強く掴まなくていいのです」
私は、自分を拘束するアリステア様の手に、そっと視線を落としました。
白手袋越しでもわかるほど、彼の手は小刻みに、そして激しく震えています。
(まあ……見て。これほどまでに、私との縁が切れるという事実に魂を揺さぶられていらっしゃるなんて)
それは、長年の重圧から解き放たれる瞬間の、武者震いのようなものに違いありません。
「エリヤーヌ。……嘘だと言ってくれ。今のは、私の気を引くための、ただの悪戯だと」
アリステア様の声は、夜の闇に溶けてしまいそうなほど掠れていました。
「悪戯だなんて。私はいつだって、貴方の幸せのために真剣ですわ。……殿下、貴方は今、あまりの解放感にパニックを起こしているだけなのです」
私は自由な方の手で、彼の頬に触れようとして――。
ああいけない、と再び自分を律しました。
今の私が彼に優しくすることは、麻薬のような依存を強いることになってしまいます。
「貴方のその震え、その涙。それは私という『完璧すぎる婚約者』を失うことへの、恐怖ではなく……自分を許せなかった過去への、決別なのよ」
「なぜ……。どうして、私の言葉を一つも信じてくれないんだ。私は君を、愛していると言っているのに!」
「ええ。その『愛』こそが、貴方を縛る呪鎖(じゅさ)だったのですわ」
私は透明な、どこか哀切な微笑を浮かべました。
光の粒が、私の瞳の端でキラキラと揺れ、足元の影を淡く照らし出します。
「貴方は、私という光に相応しい自分になろうと、必死に背伸びをしてこられた。その努力を私は『愛』として受け取っていました。でも、もういいのです」
私は、彼の腕を振りほどくように、静かに一歩、距離を置きました。
「私の輝きを、もう追わないでください。……アリステア様。貴方が、貴方自身のままでいられる場所へ、今こそ旅立つ時ですわ」
「……私は、ここが……君の隣が、私の唯一の居場所なのだ……!」
アリステア様が、再び私に歩み寄ろうとします。
その足取りは、まるで深い霧の中を彷徨う子供のように危ういものでした。
(ああ、なんて不憫な方。私があまりに完璧にエスコートしすぎてしまったために、一人で歩く方法を忘れてしまったのね)
私は、これが「カーテンコール」なのだと悟りました。
舞台が終わった後、観客(彼)が別れを惜しんで拍手を送り続けている。
けれど、役者(私)はもう、舞台袖へと消えなければならないのです。
「アリステア様。今夜のダンスは、世界で一番美しゅうございました。その記憶さえあれば、貴方はこれから、どんな困難も乗り越えていけるはずですわ」
私はバルコニーの手すりに手をかけ、夜の庭園を見下ろしました。
光の粒が、風に乗って舞い上がり、私の髪を銀色の後光のように縁取っています。
「さあ、戻りましょう。貴方の新しい人生を、皆が待っています」
「……待っていない。君のいない未来など、誰が待っているというんだ!」
アリステア様の叫びが、夜の静寂を切り裂きました。
その瞳の奥には、なおも消えない「熱」が宿っています。
私はそれを見ないふりをして、最高の、そして冷徹なまでの美しさで背を向けました。
(私はなんて、非情で、そして美しい女かしら)
自分の背負った宿命の重さに、私は密かに酔いしれました。
光の粒は、私の足跡を隠すように、白く輝きながら夜の闇へと溶けていきました。
冷たい夜風が、火照った頬をなでていきます。
見上げれば、満天の星々が、まるで砕け散った光の粒のように夜空に散らばっていました。
「……殿下、腕が痛うございますわ。そんなに強く掴まなくていいのです」
私は、自分を拘束するアリステア様の手に、そっと視線を落としました。
白手袋越しでもわかるほど、彼の手は小刻みに、そして激しく震えています。
(まあ……見て。これほどまでに、私との縁が切れるという事実に魂を揺さぶられていらっしゃるなんて)
それは、長年の重圧から解き放たれる瞬間の、武者震いのようなものに違いありません。
「エリヤーヌ。……嘘だと言ってくれ。今のは、私の気を引くための、ただの悪戯だと」
アリステア様の声は、夜の闇に溶けてしまいそうなほど掠れていました。
「悪戯だなんて。私はいつだって、貴方の幸せのために真剣ですわ。……殿下、貴方は今、あまりの解放感にパニックを起こしているだけなのです」
私は自由な方の手で、彼の頬に触れようとして――。
ああいけない、と再び自分を律しました。
今の私が彼に優しくすることは、麻薬のような依存を強いることになってしまいます。
「貴方のその震え、その涙。それは私という『完璧すぎる婚約者』を失うことへの、恐怖ではなく……自分を許せなかった過去への、決別なのよ」
「なぜ……。どうして、私の言葉を一つも信じてくれないんだ。私は君を、愛していると言っているのに!」
「ええ。その『愛』こそが、貴方を縛る呪鎖(じゅさ)だったのですわ」
私は透明な、どこか哀切な微笑を浮かべました。
光の粒が、私の瞳の端でキラキラと揺れ、足元の影を淡く照らし出します。
「貴方は、私という光に相応しい自分になろうと、必死に背伸びをしてこられた。その努力を私は『愛』として受け取っていました。でも、もういいのです」
私は、彼の腕を振りほどくように、静かに一歩、距離を置きました。
「私の輝きを、もう追わないでください。……アリステア様。貴方が、貴方自身のままでいられる場所へ、今こそ旅立つ時ですわ」
「……私は、ここが……君の隣が、私の唯一の居場所なのだ……!」
アリステア様が、再び私に歩み寄ろうとします。
その足取りは、まるで深い霧の中を彷徨う子供のように危ういものでした。
(ああ、なんて不憫な方。私があまりに完璧にエスコートしすぎてしまったために、一人で歩く方法を忘れてしまったのね)
私は、これが「カーテンコール」なのだと悟りました。
舞台が終わった後、観客(彼)が別れを惜しんで拍手を送り続けている。
けれど、役者(私)はもう、舞台袖へと消えなければならないのです。
「アリステア様。今夜のダンスは、世界で一番美しゅうございました。その記憶さえあれば、貴方はこれから、どんな困難も乗り越えていけるはずですわ」
私はバルコニーの手すりに手をかけ、夜の庭園を見下ろしました。
光の粒が、風に乗って舞い上がり、私の髪を銀色の後光のように縁取っています。
「さあ、戻りましょう。貴方の新しい人生を、皆が待っています」
「……待っていない。君のいない未来など、誰が待っているというんだ!」
アリステア様の叫びが、夜の静寂を切り裂きました。
その瞳の奥には、なおも消えない「熱」が宿っています。
私はそれを見ないふりをして、最高の、そして冷徹なまでの美しさで背を向けました。
(私はなんて、非情で、そして美しい女かしら)
自分の背負った宿命の重さに、私は密かに酔いしれました。
光の粒は、私の足跡を隠すように、白く輝きながら夜の闇へと溶けていきました。
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