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20話
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「マリア、少し落ち着いてくれ。君がそんなに思いつめる必要はないんだ」
夕方、学園の回廊で、王子エドワードはマリアに声をかけた。
マリアはすでに何人もの生徒から話を聞き、ティアラが悪者ではない証言をまとめて学園長に提出している。
しかし、あまりに精力的に動きすぎたのか、その顔は疲労の色が濃い。
「落ち着くなんてできません。私がもっと早く動いていれば、ティアラ様はあんな形で学園を去らずに済んだかもしれない。誰かに騙されているって気づいてあげられなかったから」
マリアの目には涙がにじんでいる。
王子は思わず心配そうに手を伸ばす。
「焦る気持ちは分かるが、君が自分を責めるのは違う。悪いのは嘘の噂を広めた連中だ」
だが、その言葉にマリアはさらに感情を昂ぶらせた。
「殿下だって、もっとティアラ様に目を向けていればこんなことにならなかったかもしれません。私だけじゃない。みんなが見て見ぬふりをしていたから、ティアラ様は孤立してしまったんです」
王子は反論できず、目を伏せる。
確かに、彼自身が無意識にマリアを優先してしまっていたのは事実だ。
「……それは俺も後悔している。ティアラが失踪して初めて、どれほど苦しんでいたかに気づくなんて、情けない話だ」
マリアは王子の沈んだ声に、言い過ぎたかもしれないと気づき、唇を結んだ。
「すみません。私も苛立ってしまって。殿下のことを責めるはなかったのに」
王子は首を振る。
「いや、いいんだ。俺も同じ後悔を抱えている。お互いに余裕がなくなっていただけだろう」
二人の間に、少しばかり重い沈黙が流れる。
やがてマリアが小さく息をつき、言葉を絞り出すように続けた。
「……でも、こんなことで動きを止めるわけにはいきません。私は少し休んだら、また噂の真実を調べます。殿下は、オスカー隊長の報告を受けて街に出られるんですよね?」
王子はマリアの強い意志を感じ取り、頷く。
「そうだ。衛兵隊の動きも活発になっている。やるべきことをやって、ティアラを必ず探し出そう」
マリアも小さく微笑む。
二人はほんの小さな衝突を経て、改めて互いの決意を確かめ合った。
「ティアラ様が戻ってきたら、今度こそ誤解なくお話ししましょう。私も、殿下のことを責めるのではなく、協力して支えていきたいんです」
王子はその言葉に、ほっとしたように優しい微笑みを浮かべる。
「ありがとう、マリア。君に助けられてばかりだ。早くティアラと再会して、すべてを解決しよう」
黄昏時の回廊に、二人の影が長く伸びていく。
その先に、ティアラが待つ場所があることを信じながら――
夕方、学園の回廊で、王子エドワードはマリアに声をかけた。
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マリアは王子の沈んだ声に、言い過ぎたかもしれないと気づき、唇を結んだ。
「すみません。私も苛立ってしまって。殿下のことを責めるはなかったのに」
王子は首を振る。
「いや、いいんだ。俺も同じ後悔を抱えている。お互いに余裕がなくなっていただけだろう」
二人の間に、少しばかり重い沈黙が流れる。
やがてマリアが小さく息をつき、言葉を絞り出すように続けた。
「……でも、こんなことで動きを止めるわけにはいきません。私は少し休んだら、また噂の真実を調べます。殿下は、オスカー隊長の報告を受けて街に出られるんですよね?」
王子はマリアの強い意志を感じ取り、頷く。
「そうだ。衛兵隊の動きも活発になっている。やるべきことをやって、ティアラを必ず探し出そう」
マリアも小さく微笑む。
二人はほんの小さな衝突を経て、改めて互いの決意を確かめ合った。
「ティアラ様が戻ってきたら、今度こそ誤解なくお話ししましょう。私も、殿下のことを責めるのではなく、協力して支えていきたいんです」
王子はその言葉に、ほっとしたように優しい微笑みを浮かべる。
「ありがとう、マリア。君に助けられてばかりだ。早くティアラと再会して、すべてを解決しよう」
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その先に、ティアラが待つ場所があることを信じながら――
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