断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
20 / 40

20話

しおりを挟む
「マリア、少し落ち着いてくれ。君がそんなに思いつめる必要はないんだ」

夕方、学園の回廊で、王子エドワードはマリアに声をかけた。

マリアはすでに何人もの生徒から話を聞き、ティアラが悪者ではない証言をまとめて学園長に提出している。
しかし、あまりに精力的に動きすぎたのか、その顔は疲労の色が濃い。

「落ち着くなんてできません。私がもっと早く動いていれば、ティアラ様はあんな形で学園を去らずに済んだかもしれない。誰かに騙されているって気づいてあげられなかったから」

マリアの目には涙がにじんでいる。
王子は思わず心配そうに手を伸ばす。

「焦る気持ちは分かるが、君が自分を責めるのは違う。悪いのは嘘の噂を広めた連中だ」

だが、その言葉にマリアはさらに感情を昂ぶらせた。

「殿下だって、もっとティアラ様に目を向けていればこんなことにならなかったかもしれません。私だけじゃない。みんなが見て見ぬふりをしていたから、ティアラ様は孤立してしまったんです」

王子は反論できず、目を伏せる。
確かに、彼自身が無意識にマリアを優先してしまっていたのは事実だ。

「……それは俺も後悔している。ティアラが失踪して初めて、どれほど苦しんでいたかに気づくなんて、情けない話だ」

マリアは王子の沈んだ声に、言い過ぎたかもしれないと気づき、唇を結んだ。

「すみません。私も苛立ってしまって。殿下のことを責めるはなかったのに」

王子は首を振る。

「いや、いいんだ。俺も同じ後悔を抱えている。お互いに余裕がなくなっていただけだろう」

二人の間に、少しばかり重い沈黙が流れる。
やがてマリアが小さく息をつき、言葉を絞り出すように続けた。

「……でも、こんなことで動きを止めるわけにはいきません。私は少し休んだら、また噂の真実を調べます。殿下は、オスカー隊長の報告を受けて街に出られるんですよね?」

王子はマリアの強い意志を感じ取り、頷く。

「そうだ。衛兵隊の動きも活発になっている。やるべきことをやって、ティアラを必ず探し出そう」

マリアも小さく微笑む。
二人はほんの小さな衝突を経て、改めて互いの決意を確かめ合った。

「ティアラ様が戻ってきたら、今度こそ誤解なくお話ししましょう。私も、殿下のことを責めるのではなく、協力して支えていきたいんです」

王子はその言葉に、ほっとしたように優しい微笑みを浮かべる。

「ありがとう、マリア。君に助けられてばかりだ。早くティアラと再会して、すべてを解決しよう」

黄昏時の回廊に、二人の影が長く伸びていく。
その先に、ティアラが待つ場所があることを信じながら――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

「お前とは結婚できない」って言ったのはそっちでしょ?なのに今さら嫉妬しないで

ほーみ
恋愛
王都ベルセリオ、冬の終わり。 辺境領主の娘であるリリアーナ・クロフォードは、煌びやかな社交界の片隅で、ひとり静かにグラスを傾けていた。 この社交界に参加するのは久しぶり。3年前に婚約破棄された時、彼女は王都から姿を消したのだ。今日こうして戻ってきたのは、王女の誕生祝賀パーティに招かれたからに過ぎない。 「リリアーナ……本当に、君なのか」 ――来た。 その声を聞いた瞬間、胸の奥が冷たく凍るようだった。 振り向けば、金髪碧眼の男――エリオット・レインハルト。かつての婚約者であり、王家の血を引く名家レインハルト公爵家の嫡男。 「……お久しぶりですね、エリオット様」

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

処理中です...