「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?

パリパリかぷちーの

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9話

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「お嬢様……聞いていただきたいことが、ございますの」

夜更けの温室にて、香草を瓶に詰めていたレオノーラの背に、ミーナの声が届いた。

その声音は、普段のどこかおっちょこちょいな彼女とは違っていた。  
言葉の端に、“確信”と“恐れ”が入り混じっている。

「何か、あったの?」

「……はい。実は、今日の午後に神殿へ使いを命じられまして。そしたら……」

ミーナは手にした布の端をぎゅっと握りしめながら、続ける。

「その帰り、神殿の裏手を通っていたとき、神官たちの話が聞こえてきたんです。  
“次の奇跡はどう演出する?”とか、“涙が流れるように調整して”とか……」

「……演出、ですって?」

レオノーラの声が、わずかに低くなる。

「ええ、確かにそう言ってました。わたし、思わず足を止めてしまって……でも、怖くて、ちゃんと聞けなくて……でも、間違いなく“奇跡を準備する”って言葉がありました」

ミーナの声は震えていた。  
けれど、その瞳には確かな決意があった。

「誰にも信じてもらえないかもしれませんけど……でも、お嬢様には伝えなきゃって……!」

レオノーラは黙ってミーナの言葉を聞き終え、そっと立ち上がった。  
香草の香りが温室内を満たす中で、彼女はゆっくりと頷いた。

「ありがとう、ミーナ。……その話、わたくしにとっては十分すぎる“鍵”ですわ」

「鍵……ですか?」

「ええ。真実の扉は、いつだって噂と矛盾から開かれるのですもの」

記録にあった“聖女の昏倒”と、侍女が見た“何事もなかった彼女”。  
神殿で語られた“準備された涙”という噂。  
そして、ミレーユの完璧すぎる“奇跡”。

それらの点が、今、少しずつ一本の線になろうとしていた。

「――すべてが演出だったとすれば、あの日の断罪も、“筋書き”の一部だった可能性がある」

レオノーラの瞳に宿る光が、暗がりの温室で静かに燃える。  
彼女は“悪役”という脚本を、与えられたままでは終わらせないと決めていた。

ミーナは、香草を抱きしめるように胸元で握りしめながら、静かに言った。

「お嬢様……わたし、どこまでもお供しますから」

「心強いわ。わたくし一人では届かぬ場所も、あなたとなら届きますもの」

小さな侍女の忠誠が、断罪の裏に隠された舞台装置へと繋がっていく。

それは噂でも、偶然でもない。  
“真実”が自ら姿を見せ始める、最初の応答だった。
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