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19話
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王宮の私室――かつて聖女ミレーユが何度も訪れた、王太子ユリウスの書斎には、深夜の静寂が満ちていた。
窓辺に立つユリウスの瞳は、どこか遠くを見つめていた。
机の上には、先日開示された神託記録の写し。
そして、レオノーラが王宮に戻って以来、静かに広まり始めた「神託の矛盾」という囁き。
ページをめくるたび、彼の指は微かに震えていた。
「……ミレーユ。君の言葉は、いつもまっすぐだった」
幼いころ、神殿の祈りの間で出会った一人の少女。
怯えながらも笑おうとするその姿に、彼は救われた。
“神の声を聞く”というその力に、王子としてではなく、一人の少年として縋ったあの時間。
それを“奇跡”と呼ばずに、何と呼べただろう。
だが今――
「あれは……本当に、“神の奇跡”だったのか……?」
口にした瞬間、その声は重く部屋に落ちた。
真実に触れるたびに、疑念が芽を出す。
記録の改ざん、言葉の食い違い、演出めいた舞台。
もしあれらが“人為”だったのだとしたら。
彼が守ってきたのは、“信仰”ではなく“欺瞞”だったことになる。
「違う。ミレーユは……優しかった。あの涙は……」
彼は両手で顔を覆った。
“信じたい”という祈り。
だがその願いは、もはや“信仰”とは呼べない。
それは彼自身の心を守るための防壁でしかなかった。
「ユリウス様」
控えめなノックの音と共に現れたのは、侍従長だった。
「本日、審問局より報告がございました。神殿が提出した神託記録の整合性に複数の不一致が見られたとのこと。
審問官ベルナール殿は、再調査の必要を進言しております」
「……そうか」
ユリウスは短く応じる。
「それと、エーデルハイト令嬢より、非公式ながら『御前で証言する準備がある』との意向が届いております」
「レオノーラが……?」
記憶の中の彼女は、何も語らず、ただ一礼して立ち去った女だった。
だが、今の彼女は違う。
“沈黙の悪役令嬢”ではなく、“矛盾を見逃さぬ証人”として、戻ってきた。
ユリウスはそっと椅子に腰を下ろし、瞳を閉じた。
信じるとは、祈ることではない。
証明できぬ奇跡に縋るのではなく、目の前の現実に向き合う覚悟を持つこと――
それが、王となる者に求められる資質だと、今ようやく理解できた。
「レオノーラ……君の言葉を、聞こう。今度こそ」
夜明け前の王宮に、静かな決意が満ちていく。
それは、救われたかった少年が、王になる覚悟を決めた瞬間だった。
窓辺に立つユリウスの瞳は、どこか遠くを見つめていた。
机の上には、先日開示された神託記録の写し。
そして、レオノーラが王宮に戻って以来、静かに広まり始めた「神託の矛盾」という囁き。
ページをめくるたび、彼の指は微かに震えていた。
「……ミレーユ。君の言葉は、いつもまっすぐだった」
幼いころ、神殿の祈りの間で出会った一人の少女。
怯えながらも笑おうとするその姿に、彼は救われた。
“神の声を聞く”というその力に、王子としてではなく、一人の少年として縋ったあの時間。
それを“奇跡”と呼ばずに、何と呼べただろう。
だが今――
「あれは……本当に、“神の奇跡”だったのか……?」
口にした瞬間、その声は重く部屋に落ちた。
真実に触れるたびに、疑念が芽を出す。
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もしあれらが“人為”だったのだとしたら。
彼が守ってきたのは、“信仰”ではなく“欺瞞”だったことになる。
「違う。ミレーユは……優しかった。あの涙は……」
彼は両手で顔を覆った。
“信じたい”という祈り。
だがその願いは、もはや“信仰”とは呼べない。
それは彼自身の心を守るための防壁でしかなかった。
「ユリウス様」
控えめなノックの音と共に現れたのは、侍従長だった。
「本日、審問局より報告がございました。神殿が提出した神託記録の整合性に複数の不一致が見られたとのこと。
審問官ベルナール殿は、再調査の必要を進言しております」
「……そうか」
ユリウスは短く応じる。
「それと、エーデルハイト令嬢より、非公式ながら『御前で証言する準備がある』との意向が届いております」
「レオノーラが……?」
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だが、今の彼女は違う。
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信じるとは、祈ることではない。
証明できぬ奇跡に縋るのではなく、目の前の現実に向き合う覚悟を持つこと――
それが、王となる者に求められる資質だと、今ようやく理解できた。
「レオノーラ……君の言葉を、聞こう。今度こそ」
夜明け前の王宮に、静かな決意が満ちていく。
それは、救われたかった少年が、王になる覚悟を決めた瞬間だった。
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