「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?

パリパリかぷちーの

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23話

王宮審問局、特別公開審問の場。  
玉座の間を模したこの大広間には、王族、貴族、神殿の上位神官、そして傍聴を許された民衆が列を成していた。

壇上の中心に立つのは、審問官ベルナール。

彼の姿勢は常と変わらぬ静寂をまとっていたが、今日ばかりはその沈黙すらも緊迫感を孕んでいた。  
レオノーラ、ミレーユ、ユリウス――全ての視線が、彼の手元に注がれている。

「――本日、我ら審問局が提出するのは、神殿によって保管・管理されていた“聖女契約書”の原本、及びその改訂履歴である」

ベルナールは、卓上に二通の文書を置いた。  
一つは、20年前に記された“第一の契約”。  
もう一つは、数年前に書き換えられた“現在の契約”。

「この契約文の根幹には、“神の声を受けた者”に与えられる権限と義務が明記されている。  
 だが――改訂された契約には、本来あるべき“契約時の立ち会い記録”が欠落していた」

ざわ、と空気が動く。

「契約法においては、第三者の立ち会いなくして結ばれた文書は、いかなるものであっても“法的正当性”を持たない。  
 それは神の名を冠していようと、同様である」

神官の一人が立ち上がる。

「しかし、それは“神託”によって成されたもの。  
 聖女ミレーユ様は、確かに神よりの御言葉を受けたのです!」

「神の言葉が真実であることを否定するつもりはない」

ベルナールは淡々と返す。

「だが、“神託”は信仰であり、“契約”は法だ。  
 法が満たされぬ文書をもって、国政に関与する資格が与えられていたのだとすれば――それは制度そのものの瑕疵である」

沈黙が走った。

王太子ユリウスがわずかに目を伏せ、民衆の列からも息を呑む気配が伝わる。

レオノーラはその場に立ち会いながらも、決して口を挟まなかった。  
彼女の役目は、すでに終えていた。  
いまこの場で問われているのは、“正しさ”を名乗ってきた制度そのものなのだ。

「神殿は、この契約において――立ち会い者の署名を偽造、または記録を削除した疑いがある。  
 それが“制度的意図”によるものか、“個人的操作”によるものかは、今後精査されるべきである」

ベルナールの目が、壇上に立つ大司教へと向けられた。

「だが問おう。この国に“神の代弁者”を名乗る資格が、今なお存在すると本気でお思いか?」

重く、深く、問うたその一言は、まるで刃だった。

神官たちは言葉を失い、王族は沈黙し、民衆すらもその場で固まった。

“奇跡”とは何か。  
“神託”とは何か。  
そして、“聖女”とは何者だったのか。

全ての定義が、いま揺らぎ始めている。

ベルナールは声を張らずとも、誰よりも鮮烈に、広間の空気を切り裂いていた。

それは、信仰という聖域に踏み込んだ、法の刃だった。
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