「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
36 / 50

36話

東の荘園、朝の陽光が差し込む応接間。  
薔薇模様の封蝋が押された一通の手紙が、静かに卓上に置かれていた。

王宮の紋章。  
それは正式な“再招待状”だった。

「……舞踏会、ですの」

封を切ったレオノーラの瞳が、ほんの僅かに揺れる。

“王妃陛下主催・初夏の仮面舞踏会”  
そしてその宛名は、紛れもなく――

“エーデルハイト侯爵令嬢レオノーラ閣下”

かつて悪役と呼ばれ、断罪の舞台に立たされた令嬢に対する、  
王宮からの“名誉回復”の意思表示。  
それがこの招待状に他ならなかった。

けれど、レオノーラはすぐに立ち上がることができなかった。

再び“舞台”に立つということ。  
それは、再び視線を浴びること。  
称賛も、疑念も、期待も、揶揄も――  
すべてを背負って笑う、“役割”に戻るということ。

「……わたくしにとって、舞踏会とは、“役を演じる場所”でございましたわね」

一度、すべてを下ろしたはずの“令嬢”という仮面。  
それを再び纏うことに、意味はあるのだろうか。

思考の海に沈みかけたその時、  
ミーナがそっと香茶を運んできた。

「おひとつ、いかがですか? 今朝は、ベルガモットとセージを合わせましたの」

湯気と共に立ちのぼる香り。  
心を落ち着け、視界を澄ませる調合――  
それはまるで、“自分を見つめ直す”ための一杯だった。

レオノーラはゆっくりと、茶杯を手に取る。

一口、口に含んだ瞬間。  
すっと肩の力が抜ける。

(わたくしは、もう“演じる”ために戻るのではありません)

“悪役”としてではなく、  
“許された者”としてでもなく、  
“真実を語った一人の人間”として――

王宮に呼ばれるということは、  
自身の立場を“他者によって認められる”瞬間であると同時に、  
“再び自らを示す”という覚悟を試される場でもある。

レオノーラは、茶杯をそっと受け皿に戻した。

「出席いたしましょう。ミーナ、準備をお願いしますわ」

その声に、迷いはなかった。

香茶一杯の中に答えはあった。  
それは過去の記憶でも、未来の期待でもなく、  
“今ここにいる自分”が選んだ、確かな意志。

王宮からの招待状が意味するのは、名誉でも赦しでもない。  
それは“歩みを止めなかった者”への、ひとつの問いかけ。

そしてレオノーラは、その問いに静かに答えを返した。

「わたくしは、再び舞台に立ちます。  
 けれど今度は、誰かの筋書きではなく……わたくし自身の言葉で、ですわ」
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*) 表紙絵は猫絵師さんより(⁠。⁠・⁠ω⁠・⁠。⁠)⁠ノ⁠♡

婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち
恋愛
公爵令嬢パルメは、王立学院のパーティーで第一王子リュントから公開婚約破棄を突きつけられる。しかし、周囲の同情をよそにパルメは歓喜した。

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

【完結済み】私達はあなたを決して許しません

asami
恋愛
婚約破棄された令嬢たちがそれぞれに彼女らなりの復讐していくオムニバスストーリーです

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました

ゆうき
恋愛
ワガママ三昧な生活を送っていた悪役令嬢のミシェルは、自分の婚約者と、長年に渡っていじめていた聖女によって冤罪をでっちあげられ、処刑されてしまう。 その後、ミシェルは不思議な夢を見た。不思議な既視感を感じる夢の中で、とある女性の死を見せられたミシェルは、目を覚ますと自分が処刑される半年前の時間に戻っていた。 それと同時に、先程見た夢が自分の前世の記憶で、自分が異世界に転生したことを知る。 記憶が戻ったことで、前世のような優しい性格を取り戻したミシェルは、前世の世界に残してきてしまった、幼い家族の元に帰る術を探すため、ミシェルは婚約者からの婚約破棄と、父から宣告された追放も素直に受け入れ、貴族という肩書きを隠し、一人外の世界に飛び出した。 初めての外の世界で、仕事と住む場所を見つけて懸命に生きるミシェルはある日、仕事先の常連の美しい男性――とある伯爵家の令息であるアランに屋敷に招待され、自分の正体を見破られてしまったミシェルは、思わぬ提案を受ける。 それは、魔法の研究をしている自分の専属の使用人兼、研究の助手をしてほしいというものだった。 だが、その提案の真の目的は、社交界でも有名だった悪役令嬢の性格が豹変し、一人で外の世界で生きていることを不審に思い、自分の監視下におくためだった。 変に断って怪しまれ、未来で起こる処刑に繋がらないようにするために、そして優しいアランなら信用できると思ったミシェルは、その提案を受け入れた。 最初はミシェルのことを疑っていたアランだったが、徐々にミシェルの優しさや純粋さに惹かれていく。同時に、ミシェルもアランの魅力に惹かれていくことに……。 これは死に戻った元悪役令嬢が、元の世界に帰るために、伯爵子息と共に奮闘し、互いに惹かれて幸せになる物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿しています。全話予約投稿済です⭐︎