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38話
王宮リュミエールの大広間。
数百の燭台が灯され、光と音と香りが交わる、社交の頂点。
今宵は、王妃主催・初夏の仮面舞踏会。
金と銀を基調とした装飾、優雅に流れる弦楽、そして一斉に視線を向ける貴族たち。
その視線の先に現れたのは――
深緑のドレスに身を包み、香草を編み込んだ髪飾りを纏った令嬢、
レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトだった。
その姿は、かつて断罪の場に立たされた“悪役令嬢”とはまるで違っていた。
いや、違って見えたのは周囲のまなざしの方かもしれない。
誰もが息を呑むなか、彼女はただ静かに広間を歩いた。
無理に微笑むこともなく、過剰に着飾ることもなく。
“舞台”に戻ることを強いられたのではなく、
“自らの意思”でここに立つ者の気高さをその一歩ごとに纏っていた。
そして、最初の曲が奏でられる頃――
一人の青年が、その前に進み出る。
黒の燕尾服に、控えめな金の刺繍。
眼差しに飾り気はない。ただ、真っ直ぐに彼女だけを映していた。
カリオス=ベイル。
かつて学び舎を共にし、断罪の日にも筆を止めず、
誰よりも早く“彼女の言葉”を信じた者。
「踊っていただけますか、レオノーラ嬢」
差し出された手は震えていなかった。
信頼と、誓いと、ささやかな祈りだけが込められていた。
レオノーラは、その手を見つめて――ゆっくりと、そっと重ねた。
「ええ。――喜んで」
その一言だけで、広間に流れていた空気が、ふっと緩んだ。
誰もが気づいていた。
この舞踏は、ただの社交の儀礼ではない。
これは、“信じた者”と“信じられた者”が交わす、静かな再会の儀式だった。
音楽がゆるやかに流れ始める。
二人が舞い出るたび、足元から舞い上がるのは、まるで過去の埃ではなく、
“赦された記憶”のような柔らかな風。
カリオスは何も語らなかった。
けれどその瞳には、すべてがあった。
沈黙していた日々。
温室に届いた一通の手紙。
誰も声を上げなかったとき、彼だけが言ってくれたあの言葉。
――「君の言葉は、矛盾していなかった」
レオノーラは今、ようやくその“答え”を、踊りというかたちで返していた。
舞踏の中心で揺れるドレスの裾が、
祝福のように光を集める。
それは誰の脚本でもない。
“悪役令嬢”の終幕でも、“聖女の代替”でもない。
信じ、信じられた者だけが描ける、たった一度の踊り。
そしてその音楽は、広間を満たしていく。
優しく、ゆるやかに――
まるで、長い物語の終わりに降る、静かな拍手のように。
数百の燭台が灯され、光と音と香りが交わる、社交の頂点。
今宵は、王妃主催・初夏の仮面舞踏会。
金と銀を基調とした装飾、優雅に流れる弦楽、そして一斉に視線を向ける貴族たち。
その視線の先に現れたのは――
深緑のドレスに身を包み、香草を編み込んだ髪飾りを纏った令嬢、
レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトだった。
その姿は、かつて断罪の場に立たされた“悪役令嬢”とはまるで違っていた。
いや、違って見えたのは周囲のまなざしの方かもしれない。
誰もが息を呑むなか、彼女はただ静かに広間を歩いた。
無理に微笑むこともなく、過剰に着飾ることもなく。
“舞台”に戻ることを強いられたのではなく、
“自らの意思”でここに立つ者の気高さをその一歩ごとに纏っていた。
そして、最初の曲が奏でられる頃――
一人の青年が、その前に進み出る。
黒の燕尾服に、控えめな金の刺繍。
眼差しに飾り気はない。ただ、真っ直ぐに彼女だけを映していた。
カリオス=ベイル。
かつて学び舎を共にし、断罪の日にも筆を止めず、
誰よりも早く“彼女の言葉”を信じた者。
「踊っていただけますか、レオノーラ嬢」
差し出された手は震えていなかった。
信頼と、誓いと、ささやかな祈りだけが込められていた。
レオノーラは、その手を見つめて――ゆっくりと、そっと重ねた。
「ええ。――喜んで」
その一言だけで、広間に流れていた空気が、ふっと緩んだ。
誰もが気づいていた。
この舞踏は、ただの社交の儀礼ではない。
これは、“信じた者”と“信じられた者”が交わす、静かな再会の儀式だった。
音楽がゆるやかに流れ始める。
二人が舞い出るたび、足元から舞い上がるのは、まるで過去の埃ではなく、
“赦された記憶”のような柔らかな風。
カリオスは何も語らなかった。
けれどその瞳には、すべてがあった。
沈黙していた日々。
温室に届いた一通の手紙。
誰も声を上げなかったとき、彼だけが言ってくれたあの言葉。
――「君の言葉は、矛盾していなかった」
レオノーラは今、ようやくその“答え”を、踊りというかたちで返していた。
舞踏の中心で揺れるドレスの裾が、
祝福のように光を集める。
それは誰の脚本でもない。
“悪役令嬢”の終幕でも、“聖女の代替”でもない。
信じ、信じられた者だけが描ける、たった一度の踊り。
そしてその音楽は、広間を満たしていく。
優しく、ゆるやかに――
まるで、長い物語の終わりに降る、静かな拍手のように。
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