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王都の大聖堂。
今日、この場所で歴史に残る……いや、胃袋に残る結婚式が執筆されようとしていた。
教会のステンドグラスを通り抜ける柔らかな光が、私の純白のウェディングドレスを照らす。
「……お嬢様。……感無量ですわ。……まさか、婚約破棄から数ヶ月で、こんなに素敵な騎士様と結ばれるなんて」
「アン。……私も感無量です。……見てください、あの祭壇の横。……特注の『黄金エビフライ・タワー』が、神々しい輝きを放っています」
「……あ、やっぱりそっちですか。……いい加減、本物の花も愛でてくださいな」
「花よりも、揚げたての衣の方が、私の瞳には鮮やかに映るのです」
私はヴェールを揺らし、ゆっくりとバージンロードを歩き出した。
その先に待つのは、正装を纏い、いつにも増して神々しいオーラを放つギルバート卿だ。
今日の彼は、冷気ではなく「多幸感」を周囲に撒き散らしており、参列者たちがその輝きに目を細めている。
「……ポンド。……ついに、この日が来たな」
「……はい、卿。……約束通り、披露宴のメニューは、私が監修した『全品揚げ物と高カロリースイーツ』のフルコースですね?」
「……ああ。……王宮の料理長が泣きながら『胃もたれが心配だ』と言っていたが。……私は、君が喜ぶなら、王室の健康管理すらもねじ伏せると決めた」
「……さすが、私の最強のパートナーです」
私たちは神の前で、永遠の愛……ではなく、「生涯、美味しいものを共に分かち合うこと」を誓い合った。
誓いのキスは、なんだかほんのりと、先ほど裏でつまみ食いしたドーナツの砂糖の味がした気がする。
そして、始まった披露宴。
広大な会場の真ん中には、茶色く輝く「揚げ物の山」がそびえ立ち、噴水からはチョコレートが溢れ出している。
参列した貴族たちは、最初は絶句していたが、一口食べればその魔力に取り憑かれたように、無我夢中で唐揚げを頬張り始めた。
「……陛下。……この結婚式、なんだか『脂の香り』が強すぎませんか?」
「……セドリック、気にするな。……見てみろ、あんなに幸せそうに海老を食べているポンド嬢と、それを甲斐甲斐しく団扇で仰いで冷ましているギルバート卿を。……これこそが、真の愛の形だ」
「……愛って、もっとこう……詩的なものだと思っていました……」
ジャガイモ領から一時帰宅を許された殿下が、遠い目をしている。
だが、そんな声は私の耳には届かない。
「……卿。……このポテトフライ、卿の魔力で一瞬だけ零下まで冷やしてから、再び高温で揚げたものですね? ……この驚異的なサクサク感、たまりません」
「……気づいたか。……君のために、昨夜、三千回は練習した。……ポンド、あーん、だ。……次は、中まで肉汁が詰まったメンチカツだぞ」
「……あーん。……むぐ。……最高です、卿」
ギルバート卿が、騎士団長としての矜持をすべて「給仕」に注ぎ込む。
周囲では、かつて私を「泥沼令嬢」と呼んでいた人々が、「揚げ物の聖女様!」「サクサクの守護騎士様!」と、新しい二つ名を叫びながら乾杯していた。
宴もたけなわ。
私は、ギルバート卿の手を強く握り、会場のバルコニーへと出た。
夜空には、私たちの門出を祝うように、大輪の花火が打ち上がっている。
「……ポンド。……これから、私たちの新しい生活が始まる。……泥沼でも、氷の城でも構わない。……君がいれば、そこが私の居場所だ」
「……卿。……私は、沼の底からでも、卿のために美味しいものを探し続けます。……二人で太っても、恨みっこなしですよ?」
「……ああ。……君となら、どんな重荷も、脂肪も、共に背負っていこう」
ギルバート卿が、私の額に優しくキスをした。
打ち上がる花火の光が、二人の影を長く、温かく繋いでいく。
泥沼令嬢、ポンド・フォン・マーガリン。
彼女の物語は、ここで一旦の幕を閉じる。
だが、彼女と氷結騎士の「終わらない食卓」は、明日も、その次も、揚げ物の香りと共に続いていくのだ。
「……卿。……一つ、言い忘れていました」
「……なんだ、ポンド」
「……明日のお昼は、余った唐揚げを甘辛く煮て、丼にしましょう」
「……了解した。……卵の半熟具合は、私が完璧に管理しよう」
幸せとは、愛する人と、明日何を食べるかを語り合えること。
泥沼の底で見つけた宝物は、何よりも美味しくて、温かい、永遠の絆だった。
今日、この場所で歴史に残る……いや、胃袋に残る結婚式が執筆されようとしていた。
教会のステンドグラスを通り抜ける柔らかな光が、私の純白のウェディングドレスを照らす。
「……お嬢様。……感無量ですわ。……まさか、婚約破棄から数ヶ月で、こんなに素敵な騎士様と結ばれるなんて」
「アン。……私も感無量です。……見てください、あの祭壇の横。……特注の『黄金エビフライ・タワー』が、神々しい輝きを放っています」
「……あ、やっぱりそっちですか。……いい加減、本物の花も愛でてくださいな」
「花よりも、揚げたての衣の方が、私の瞳には鮮やかに映るのです」
私はヴェールを揺らし、ゆっくりとバージンロードを歩き出した。
その先に待つのは、正装を纏い、いつにも増して神々しいオーラを放つギルバート卿だ。
今日の彼は、冷気ではなく「多幸感」を周囲に撒き散らしており、参列者たちがその輝きに目を細めている。
「……ポンド。……ついに、この日が来たな」
「……はい、卿。……約束通り、披露宴のメニューは、私が監修した『全品揚げ物と高カロリースイーツ』のフルコースですね?」
「……ああ。……王宮の料理長が泣きながら『胃もたれが心配だ』と言っていたが。……私は、君が喜ぶなら、王室の健康管理すらもねじ伏せると決めた」
「……さすが、私の最強のパートナーです」
私たちは神の前で、永遠の愛……ではなく、「生涯、美味しいものを共に分かち合うこと」を誓い合った。
誓いのキスは、なんだかほんのりと、先ほど裏でつまみ食いしたドーナツの砂糖の味がした気がする。
そして、始まった披露宴。
広大な会場の真ん中には、茶色く輝く「揚げ物の山」がそびえ立ち、噴水からはチョコレートが溢れ出している。
参列した貴族たちは、最初は絶句していたが、一口食べればその魔力に取り憑かれたように、無我夢中で唐揚げを頬張り始めた。
「……陛下。……この結婚式、なんだか『脂の香り』が強すぎませんか?」
「……セドリック、気にするな。……見てみろ、あんなに幸せそうに海老を食べているポンド嬢と、それを甲斐甲斐しく団扇で仰いで冷ましているギルバート卿を。……これこそが、真の愛の形だ」
「……愛って、もっとこう……詩的なものだと思っていました……」
ジャガイモ領から一時帰宅を許された殿下が、遠い目をしている。
だが、そんな声は私の耳には届かない。
「……卿。……このポテトフライ、卿の魔力で一瞬だけ零下まで冷やしてから、再び高温で揚げたものですね? ……この驚異的なサクサク感、たまりません」
「……気づいたか。……君のために、昨夜、三千回は練習した。……ポンド、あーん、だ。……次は、中まで肉汁が詰まったメンチカツだぞ」
「……あーん。……むぐ。……最高です、卿」
ギルバート卿が、騎士団長としての矜持をすべて「給仕」に注ぎ込む。
周囲では、かつて私を「泥沼令嬢」と呼んでいた人々が、「揚げ物の聖女様!」「サクサクの守護騎士様!」と、新しい二つ名を叫びながら乾杯していた。
宴もたけなわ。
私は、ギルバート卿の手を強く握り、会場のバルコニーへと出た。
夜空には、私たちの門出を祝うように、大輪の花火が打ち上がっている。
「……ポンド。……これから、私たちの新しい生活が始まる。……泥沼でも、氷の城でも構わない。……君がいれば、そこが私の居場所だ」
「……卿。……私は、沼の底からでも、卿のために美味しいものを探し続けます。……二人で太っても、恨みっこなしですよ?」
「……ああ。……君となら、どんな重荷も、脂肪も、共に背負っていこう」
ギルバート卿が、私の額に優しくキスをした。
打ち上がる花火の光が、二人の影を長く、温かく繋いでいく。
泥沼令嬢、ポンド・フォン・マーガリン。
彼女の物語は、ここで一旦の幕を閉じる。
だが、彼女と氷結騎士の「終わらない食卓」は、明日も、その次も、揚げ物の香りと共に続いていくのだ。
「……卿。……一つ、言い忘れていました」
「……なんだ、ポンド」
「……明日のお昼は、余った唐揚げを甘辛く煮て、丼にしましょう」
「……了解した。……卵の半熟具合は、私が完璧に管理しよう」
幸せとは、愛する人と、明日何を食べるかを語り合えること。
泥沼の底で見つけた宝物は、何よりも美味しくて、温かい、永遠の絆だった。
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