12 / 28
12
しおりを挟む
「リーフィ様! お待ちしておりました!」
舞踏会から数日後の昼下がり。
私が王宮の裏庭を通り、資料室へ向かおうとしていた時のことだ。
植え込みの陰から、小動物のような素早さで一人の少女が飛び出してきた。
ピンクブロンドの髪を揺らす、男爵令嬢ミナ様である。
私は反射的に身構えた。
(……またですか。アレクセイ殿下の差し金? それとも『私をいじめないで』という被害者アピール?)
私は懐中時計を確認する。休憩終了まであと十分。
「ミナ様。生憎ですが、私はこれから重要な『昼寝』という業務があります。用件は十五秒以内でお願いします」
私が冷たく突き放すと、ミナ様は私の目の前まで駆け寄り、そして――。
バッ!
勢いよく頭を下げた。九十度の最敬礼だ。
「ご指導、ありがとうございました!」
「……はい?」
予想外の言葉に、私の思考が一瞬停止する。
ミナ様は顔を上げると、キラキラした瞳で私を見つめた。
「昨日の夜会のことです! アレクセイ様が暴走しそうになった時、リーフィ様が宰相閣下を使って即座に鎮圧されたあの手腕……感動いたしました!」
「感動……?」
「はい! 『害虫駆除完了』というあの一言、痺れました! 私もいつかあんな風に、笑顔で毒を吐ける立派な女性になりたいです!」
「……方向性を間違えている気がしますが」
私は眉をひそめた。
どうやら、彼女は殿下の味方として文句を言いに来たわけではないらしい。
ミナ様はモジモジしながら、鞄から一冊のボロボロになったノートを取り出した。
それは、私が婚約破棄の際に投げつけた『アレクセイ殿下取り扱いマニュアル』だった。
「こ、これ……毎日読んで勉強しています」
見ると、ノートには付箋がびっしりと貼られ、マーカーで線が引かれている。
「特に第3章の『殿下がポエムを詠み始めた時のスルー・スキル』と、第5章の『公務サボり対策:餌で釣る方法』は、本当に役立ちました。おかげで昨日は、羊一万匹の餌代を殿下の私財から出させることに成功しました!」
「ほう」
私は感心した。
あのドケチで浪費家の殿下に、自腹を切らせるとは。
「なかなかやりますね。あれは上級テクニックですよ」
「リーフィ様の教えのおかげです! ……あ、あの、実は私、ずっとリーフィ様を尊敬していたんです!」
「尊敬?」
「はい。以前、図書室で私に本を叩き込んでくださった時も……」
「『読み聞かせ(物理)』のことですね」
「あの時は痛かったですが、その夜、不思議と歴代国王の名前がスラスラ言えるようになったんです! あれは『記憶のツボ』を刺激してくださったんですよね?」
「……まあ、結果オーライならそういうことにしておきましょう」
「階段で突き飛ばされた時も、あれで受け身を覚えたおかげで、この前馬車から落ちそうになった時に無傷で済みました! 命の恩人です!」
ミナ様は両手を合わせて拝んでいる。
なるほど。
この子は、単なる「か弱いヒロイン」ではない。
私のスパルタ指導(いじめ)を、すべてポジティブに解釈し、糧にするだけの「図太さ(才能)」を持っている。
「……ミナ様。あなたは、アレクセイ殿下のことが好きなのですか?」
私が尋ねると、彼女は急に真顔になった。
「えっと……正直に申し上げますと、最初は『王子様だわ、素敵!』と思っていました。でも、最近は……」
彼女は遠い目をした。
「……大きなゴールデンレトリバーの世話をしている気分です。手はかかるし、無駄に吠えるし、すぐに脱走するし……」
「的確な分析です」
「でも、私ごときが婚約破棄なんてできませんし、実家のためにも頑張らなきゃいけないし……。毎日がサバイバルです」
ミナ様がガックリと肩を落とす。
その姿に、私はかつての自分(社畜時代の私)を重ねてしまった。
このままでは、彼女が第二の「死んだ目の王太子妃」になってしまう。
それは、私が目指す「業務効率化(平穏な王宮)」に反する。
殿下の首輪を握る人間は、優秀であればあるほど良い。
「……わかりました」
私は腕を組んだ。
「ミナ様。あなたを見込みのある『人材』と認定します」
「えっ!?」
「殿下の飼育係……いえ、教育係として、私が裏からサポートしましょう。困ったことがあれば、相談に乗ります」
「ほ、本当ですか!?」
ミナ様の顔がパァァァと明るくなる。
「はい。ただし条件があります。殿下の動向を逐一私に報告すること。そして、殿下が宰相閣下の邪魔をしそうになったら、全力で阻止すること」
「やります! 命に代えても!」
「命は安売りしないでください。コストパフォーマンスが悪いです」
私はポケットから、予備のペンを一本取り出して彼女に渡した。
「これは『魔導録音ペン』です。殿下が失言や暴言を吐いたら、こっそりスイッチを押してください。言質(証拠)になります」
「す、すごいアイテム……! ありがとうございます、師匠!」
「師匠はやめてください。『外部顧問』と呼びなさい」
「はい、リーフィ顧問!」
ミナ様は嬉しそうにペンを握りしめた。
その時、向こうから「ミーナー! どこだー! 僕の靴下が見つからないぞー!」という殿下の情けない声が聞こえてきた。
ミナ様はキリッとした表情になった。
「……あ、呼ばれました。行ってきます!」
「いってらっしゃい。無理はしないように」
「はい! まずはこのペンで、『靴下は自分で探せ』と言った時の殿下の逆ギレ音声を録音してきます!」
ミナ様はスカートを翻し、戦場(殿下の元)へと走っていった。
その後ろ姿は、以前のようなオドオドしたものではなく、戦士のように頼もしかった。
「……やれやれ」
私は小さく笑った。
「敵の懐に味方を作る。これもリスク管理の基本ですね」
これで、アレクセイ殿下の情報は筒抜けだ。
私は満足して、本来の目的である資料室(仮眠場所)へと向かった。
だが、私はまだ気づいていなかった。
私の知らないところで、ミナ様が「リーフィ様ファンクラブ」なるものを結成し、地下で勢力を拡大し始めていることに。
そしてそのファンクラブの会員番号1番が、他ならぬクライヴ閣下であることを。
舞踏会から数日後の昼下がり。
私が王宮の裏庭を通り、資料室へ向かおうとしていた時のことだ。
植え込みの陰から、小動物のような素早さで一人の少女が飛び出してきた。
ピンクブロンドの髪を揺らす、男爵令嬢ミナ様である。
私は反射的に身構えた。
(……またですか。アレクセイ殿下の差し金? それとも『私をいじめないで』という被害者アピール?)
私は懐中時計を確認する。休憩終了まであと十分。
「ミナ様。生憎ですが、私はこれから重要な『昼寝』という業務があります。用件は十五秒以内でお願いします」
私が冷たく突き放すと、ミナ様は私の目の前まで駆け寄り、そして――。
バッ!
勢いよく頭を下げた。九十度の最敬礼だ。
「ご指導、ありがとうございました!」
「……はい?」
予想外の言葉に、私の思考が一瞬停止する。
ミナ様は顔を上げると、キラキラした瞳で私を見つめた。
「昨日の夜会のことです! アレクセイ様が暴走しそうになった時、リーフィ様が宰相閣下を使って即座に鎮圧されたあの手腕……感動いたしました!」
「感動……?」
「はい! 『害虫駆除完了』というあの一言、痺れました! 私もいつかあんな風に、笑顔で毒を吐ける立派な女性になりたいです!」
「……方向性を間違えている気がしますが」
私は眉をひそめた。
どうやら、彼女は殿下の味方として文句を言いに来たわけではないらしい。
ミナ様はモジモジしながら、鞄から一冊のボロボロになったノートを取り出した。
それは、私が婚約破棄の際に投げつけた『アレクセイ殿下取り扱いマニュアル』だった。
「こ、これ……毎日読んで勉強しています」
見ると、ノートには付箋がびっしりと貼られ、マーカーで線が引かれている。
「特に第3章の『殿下がポエムを詠み始めた時のスルー・スキル』と、第5章の『公務サボり対策:餌で釣る方法』は、本当に役立ちました。おかげで昨日は、羊一万匹の餌代を殿下の私財から出させることに成功しました!」
「ほう」
私は感心した。
あのドケチで浪費家の殿下に、自腹を切らせるとは。
「なかなかやりますね。あれは上級テクニックですよ」
「リーフィ様の教えのおかげです! ……あ、あの、実は私、ずっとリーフィ様を尊敬していたんです!」
「尊敬?」
「はい。以前、図書室で私に本を叩き込んでくださった時も……」
「『読み聞かせ(物理)』のことですね」
「あの時は痛かったですが、その夜、不思議と歴代国王の名前がスラスラ言えるようになったんです! あれは『記憶のツボ』を刺激してくださったんですよね?」
「……まあ、結果オーライならそういうことにしておきましょう」
「階段で突き飛ばされた時も、あれで受け身を覚えたおかげで、この前馬車から落ちそうになった時に無傷で済みました! 命の恩人です!」
ミナ様は両手を合わせて拝んでいる。
なるほど。
この子は、単なる「か弱いヒロイン」ではない。
私のスパルタ指導(いじめ)を、すべてポジティブに解釈し、糧にするだけの「図太さ(才能)」を持っている。
「……ミナ様。あなたは、アレクセイ殿下のことが好きなのですか?」
私が尋ねると、彼女は急に真顔になった。
「えっと……正直に申し上げますと、最初は『王子様だわ、素敵!』と思っていました。でも、最近は……」
彼女は遠い目をした。
「……大きなゴールデンレトリバーの世話をしている気分です。手はかかるし、無駄に吠えるし、すぐに脱走するし……」
「的確な分析です」
「でも、私ごときが婚約破棄なんてできませんし、実家のためにも頑張らなきゃいけないし……。毎日がサバイバルです」
ミナ様がガックリと肩を落とす。
その姿に、私はかつての自分(社畜時代の私)を重ねてしまった。
このままでは、彼女が第二の「死んだ目の王太子妃」になってしまう。
それは、私が目指す「業務効率化(平穏な王宮)」に反する。
殿下の首輪を握る人間は、優秀であればあるほど良い。
「……わかりました」
私は腕を組んだ。
「ミナ様。あなたを見込みのある『人材』と認定します」
「えっ!?」
「殿下の飼育係……いえ、教育係として、私が裏からサポートしましょう。困ったことがあれば、相談に乗ります」
「ほ、本当ですか!?」
ミナ様の顔がパァァァと明るくなる。
「はい。ただし条件があります。殿下の動向を逐一私に報告すること。そして、殿下が宰相閣下の邪魔をしそうになったら、全力で阻止すること」
「やります! 命に代えても!」
「命は安売りしないでください。コストパフォーマンスが悪いです」
私はポケットから、予備のペンを一本取り出して彼女に渡した。
「これは『魔導録音ペン』です。殿下が失言や暴言を吐いたら、こっそりスイッチを押してください。言質(証拠)になります」
「す、すごいアイテム……! ありがとうございます、師匠!」
「師匠はやめてください。『外部顧問』と呼びなさい」
「はい、リーフィ顧問!」
ミナ様は嬉しそうにペンを握りしめた。
その時、向こうから「ミーナー! どこだー! 僕の靴下が見つからないぞー!」という殿下の情けない声が聞こえてきた。
ミナ様はキリッとした表情になった。
「……あ、呼ばれました。行ってきます!」
「いってらっしゃい。無理はしないように」
「はい! まずはこのペンで、『靴下は自分で探せ』と言った時の殿下の逆ギレ音声を録音してきます!」
ミナ様はスカートを翻し、戦場(殿下の元)へと走っていった。
その後ろ姿は、以前のようなオドオドしたものではなく、戦士のように頼もしかった。
「……やれやれ」
私は小さく笑った。
「敵の懐に味方を作る。これもリスク管理の基本ですね」
これで、アレクセイ殿下の情報は筒抜けだ。
私は満足して、本来の目的である資料室(仮眠場所)へと向かった。
だが、私はまだ気づいていなかった。
私の知らないところで、ミナ様が「リーフィ様ファンクラブ」なるものを結成し、地下で勢力を拡大し始めていることに。
そしてそのファンクラブの会員番号1番が、他ならぬクライヴ閣下であることを。
16
あなたにおすすめの小説
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
お子ちゃま王子様と婚約破棄をしたらその後出会いに恵まれました
さこの
恋愛
私の婚約者は一つ歳下の王子様。私は伯爵家の娘で資産家の娘です。
学園卒業後は私の家に婿入りすると決まっている。第三王子殿下と言うこともあり甘やかされて育って来て、子供の様に我儘。
婚約者というより歳の離れた弟(出来の悪い)みたい……
この国は実力主義社会なので、我儘王子様は婿入りが一番楽なはずなんだけど……
私は口うるさい?
好きな人ができた?
……婚約破棄承りました。
全二十四話の、五万字ちょっとの執筆済みになります。完結まで毎日更新します( .ˬ.)"
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる