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王立学園の卒業記念パーティー会場は、華やかな喧騒に包まれていた。
シャンデリアの煌めき、淑女たちの衣擦れの音、そして甘い香水の香り。
それら全てを一瞬にして凍りつかせる大声が、広間の中心で響き渡った。
「ユミリア・フォン・ローゼン! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄する!」
音楽が止まる。
ダンスを楽しんでいた学生たちが、驚愕の表情で声の主を振り返った。
そこに立っていたのは、この国の第一王子であるアレクセイ。
金髪碧眼、物語の主人公のような容姿を持つ彼は、今まさに悲劇のヒーロー気取りで私を指差していた。
そしてその腕には、本来ここにいるはずのない身分の女性――私の専属侍女だったニーナがしがみついている。
私は手にした扇をゆっくりと閉じ、口元だけで優雅な笑みを形作った。
内心で沸き起こる、小躍りしたいほどの歓喜を必死に押し殺して。
「……アレクセイ殿下。それは、正気でのお言葉でしょうか?」
「ふん、往生際が悪いぞユミリア! 私が正気でないとでも言いたいのか!」
「いいえ。ただ、殿下にしては珍しく明瞭なご発言でしたので。いつものように書類の読み間違いではないかと確認したまでです」
「なっ……! 貴様、また私を馬鹿にして!」
アレクセイが顔を真っ赤にして地団駄を踏む。
その横で、ピンク色の髪をふわふわと揺らすニーナが、わざとらしい震え声を上げた。
「ひっ……こ、怖いですぅアレクセイ様ぁ。ユミリア様、目が笑ってません……」
「大丈夫だ、僕の可愛いニーナ。私がついている限り、この悪女に指一本触れさせはしない!」
アレクセイはニーナを背に庇い、まるで聖騎士のように胸を張る。
周囲からは「まあ、なんてこと」「やはり噂は本当だったのね」「侍女を虐げていたなんて」というひそひそ話が聞こえ始めた。
私は小さく溜息をつく。
悪女、ね。
確かに私は、彼らにとっては都合の悪い存在だっただろう。
なにせ、サボろうとする侍女を仕事に戻し、湯水のように国庫を使おうとする王子から財布を取り上げてきたのだから。
「それで、殿下。婚約破棄の理由は、そちらのニーナへの『いじめ』ということでよろしいですね?」
事務的に確認をとる私に、アレクセイは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「その通りだ! 貴様はニーナの健気さを妬み、数々の嫌がらせを行った! 私の執務室に彼女が差し入れを持ってきた際、それを追い返しただろう!」
「それは執務中に重要書類の上に紅茶をこぼそうとしたからです」
「さらに! 彼女が私のために刺繍したハンカチを、貴様は『雑巾』と言い放った!」
「布目が粗すぎて吸水性だけは良さそうでしたので、適材適所を提案したまでです」
「極めつけはこれだ! 先日、階段から彼女を突き落とそうとしたそうだな! ニーナが泣きながら訴えてきたぞ!」
会場がざわめく。
殺人未遂ともなれば、ただのいじめでは済まされない。
私は冷ややかな視線をニーナに向けた。
彼女はアレクセイの背中から少しだけ顔を出し、ぺろりと舌を出している。
典型的な冤罪工作だ。
だが、今の私にとって真実などどうでもいいことだった。
重要なのは、このバカ王子が公衆の面前で「婚約破棄」を宣言してくれたという事実。
それこそが、私が長年待ち望んでいた『解放』への切符なのだから。
「なるほど。私の弁明は一切聞き入れない、という強い意志を感じます」
「当然だ! 貴様のような冷酷な女に、次期王妃の座は相応しくない! 私は『真実の愛』を見つけたのだ!」
「真実の愛、ですか。素晴らしい響きですわ」
私はぱちぱちと乾いた拍手を送った。
「つまり、殿下は私との政略結婚よりも、ニーナさんとの愛を選ばれると。王命による婚約を覆し、国益よりも個人の感情を優先されるということですね?」
「う……ぐっ。言い方が気に食わんが、愛は何よりも尊いのだ!」
「承知いたしました」
私はすっと背筋を伸ばし、彼らを見据えた。
そのあまりにあっさりとした返答に、アレクセイが拍子抜けしたような顔をする。
「……は? 承知、しただと?」
「はい。殿下の高潔なる『真実の愛』に敬意を表し、この婚約破棄、謹んでお受けいたします」
私はドレスの裾を摘み、完璧なカーテシーを披露した。
「え? いや、待て。泣いて縋らないのか? 『嘘だと言ってください』とか、『反省します』とか……」
「何をおっしゃいますか。殿下のご決断は絶対です。私が異を唱えるなど、恐れ多いこと」
「そ、そうか。まあ、貴様も自分の罪を認める気になったようだな。殊勝な心がけだ」
アレクセイは動揺しつつも、自分の思い通りになったことに満足げな笑みを浮かべた。
「これで晴れて自由の身だ! ニーナ、これからは堂々と君を愛せるぞ!」
「きゃあ! 嬉しいですぅ! やっぱり愛は勝つんですね!」
二人は抱き合って自分たちの世界に入っている。
周囲の貴族たちは、呆れ半分、感動半分といった微妙な空気で見守っていた。
だが、私の仕事はまだ終わっていない。
むしろ、ここからが本番だ。
私は懐から、あらかじめ用意しておいた分厚い羊皮紙の束を取り出した。
「では殿下。婚約破棄が成立したということで、こちらの書類にサインをお願いいたします」
「あん? なんだそれは。反省文か?」
「いいえ。精算書です」
「……せい、さん?」
「はい。まず一枚目。私がこの三年間、殿下の代わりに処理してきた公務の代行手数料です。宰相閣下の時給換算で計算させていただきました」
私は羊皮紙を一枚めくり、突きつける。
そこに書かれた金額を見て、近くにいた貴族が「ひっ」と息を飲んだ。
「な、なんだこの桁は!」
「当然です。殿下が『視察』と称して遊び歩いている間、誰が予算編成を行っていたとお思いで? 深夜手当と休日出勤手当も加算されております」
「ぐぬぬ……」
「次に二枚目。ニーナさんが『うっかり』割った王家の壺、汚した絨毯、紛失した宝飾品の損害賠償請求書です。これまでは私のポケットマネーから立て替えておりましたが、婚約者でなくなった以上、赤の他人の不始末を私が被る理由はございません」
「そ、そんな細かいことを……!」
「そして三枚目。これが最も重要です。我がローゼン公爵家が国へ貸し付けている事業資金の、即時一括返済要求書です」
その言葉に、会場内の空気が完全に凍りついた。
アレクセイだけが、事態の深刻さを理解できずに首を傾げている。
「貸付金? そんなもの、父上がなんとかするだろう」
「国王陛下は現在、病気療養中でいらっしゃいます。代理権は第一王子である殿下にありますので、殿下が責任を持ってご署名ください」
「う……うるさい! 金の話ばかりしおって! がめつい女だ!」
「がめついのではありません。数字に正確なだけです。さあ、ここにサインを。それが終われば、私は二度と殿下の視界に入らぬよう、速やかに姿を消しますので」
私は羽ペンを強引にアレクセイの手に握らせた。
彼はニーナの手前、引くに引けなくなったのだろう。
顔を引きつらせながら、震える手でサインをした。
「こ、これでいいんだろう! さっさと失せろ!」
「ありがとうございます。確かに」
私はサインを確認すると、書類を大切に懐にしまった。
これで、鎖は断ち切られた。
王家に縛り付けられ、無能な王子の尻拭いをさせられるだけの日々は終わったのだ。
胸いっぱいに広がる清涼感。
空気がこんなにも美味しいなんて知らなかった。
「では、皆様。お騒がせいたしました。これにて失礼いたします」
私は踵を返し、出口へと向かう。
その足取りは、羽根が生えたように軽かった。
「ユミリア様……本当に行ってしまわれるのですか?」
すれ違いざま、かつて私の補佐をしていた文官の青年が、蒼白な顔で話しかけてきた。
彼は知っているのだ。
この国の財政が、私のパズル並みの資金繰りでなんとか保たれていたことを。
「ええ。殿下のご命令ですから」
「でも、あなたが抜けたら、明日の決裁はどうすれば……!」
「愛の力でなんとかなるそうですよ?」
私はふふっと笑い、背後でイチャついている二人を親指で示した。
「頑張ってくださいね。応援だけはしていますから」
青年の絶望的な表情を見なかったことにして、私は扉を押し開けた。
夜風が頬を撫でる。
見上げれば、満天の星空。
「さて」
馬車に乗り込み、私は御者に告げた。
「屋敷へ急いで。荷造りはもう済ませてあるけれど、夜明けと共に出発したいの」
「へい。どちらへ向かわれますか、お嬢様」
「北よ。隣国、ガレリア帝国へ」
窓の外を流れる王都の景色を眺めながら、私は万年筆を取り出し、手帳に新たな予定を書き込んだ。
『残務処理:完了』
『移住計画:開始』
『新しい人生:プライスレス』
さようなら、私の祖国。
さようなら、愛すべき(皮肉)元婚約者様。
精々、真実の愛とやらで、借金取りと戦ってくださいませ。
私は遠い空の下で、高みの見物を決め込ませていただきますので。
シャンデリアの煌めき、淑女たちの衣擦れの音、そして甘い香水の香り。
それら全てを一瞬にして凍りつかせる大声が、広間の中心で響き渡った。
「ユミリア・フォン・ローゼン! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄する!」
音楽が止まる。
ダンスを楽しんでいた学生たちが、驚愕の表情で声の主を振り返った。
そこに立っていたのは、この国の第一王子であるアレクセイ。
金髪碧眼、物語の主人公のような容姿を持つ彼は、今まさに悲劇のヒーロー気取りで私を指差していた。
そしてその腕には、本来ここにいるはずのない身分の女性――私の専属侍女だったニーナがしがみついている。
私は手にした扇をゆっくりと閉じ、口元だけで優雅な笑みを形作った。
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「……アレクセイ殿下。それは、正気でのお言葉でしょうか?」
「ふん、往生際が悪いぞユミリア! 私が正気でないとでも言いたいのか!」
「いいえ。ただ、殿下にしては珍しく明瞭なご発言でしたので。いつものように書類の読み間違いではないかと確認したまでです」
「なっ……! 貴様、また私を馬鹿にして!」
アレクセイが顔を真っ赤にして地団駄を踏む。
その横で、ピンク色の髪をふわふわと揺らすニーナが、わざとらしい震え声を上げた。
「ひっ……こ、怖いですぅアレクセイ様ぁ。ユミリア様、目が笑ってません……」
「大丈夫だ、僕の可愛いニーナ。私がついている限り、この悪女に指一本触れさせはしない!」
アレクセイはニーナを背に庇い、まるで聖騎士のように胸を張る。
周囲からは「まあ、なんてこと」「やはり噂は本当だったのね」「侍女を虐げていたなんて」というひそひそ話が聞こえ始めた。
私は小さく溜息をつく。
悪女、ね。
確かに私は、彼らにとっては都合の悪い存在だっただろう。
なにせ、サボろうとする侍女を仕事に戻し、湯水のように国庫を使おうとする王子から財布を取り上げてきたのだから。
「それで、殿下。婚約破棄の理由は、そちらのニーナへの『いじめ』ということでよろしいですね?」
事務的に確認をとる私に、アレクセイは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
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「それは執務中に重要書類の上に紅茶をこぼそうとしたからです」
「さらに! 彼女が私のために刺繍したハンカチを、貴様は『雑巾』と言い放った!」
「布目が粗すぎて吸水性だけは良さそうでしたので、適材適所を提案したまでです」
「極めつけはこれだ! 先日、階段から彼女を突き落とそうとしたそうだな! ニーナが泣きながら訴えてきたぞ!」
会場がざわめく。
殺人未遂ともなれば、ただのいじめでは済まされない。
私は冷ややかな視線をニーナに向けた。
彼女はアレクセイの背中から少しだけ顔を出し、ぺろりと舌を出している。
典型的な冤罪工作だ。
だが、今の私にとって真実などどうでもいいことだった。
重要なのは、このバカ王子が公衆の面前で「婚約破棄」を宣言してくれたという事実。
それこそが、私が長年待ち望んでいた『解放』への切符なのだから。
「なるほど。私の弁明は一切聞き入れない、という強い意志を感じます」
「当然だ! 貴様のような冷酷な女に、次期王妃の座は相応しくない! 私は『真実の愛』を見つけたのだ!」
「真実の愛、ですか。素晴らしい響きですわ」
私はぱちぱちと乾いた拍手を送った。
「つまり、殿下は私との政略結婚よりも、ニーナさんとの愛を選ばれると。王命による婚約を覆し、国益よりも個人の感情を優先されるということですね?」
「う……ぐっ。言い方が気に食わんが、愛は何よりも尊いのだ!」
「承知いたしました」
私はすっと背筋を伸ばし、彼らを見据えた。
そのあまりにあっさりとした返答に、アレクセイが拍子抜けしたような顔をする。
「……は? 承知、しただと?」
「はい。殿下の高潔なる『真実の愛』に敬意を表し、この婚約破棄、謹んでお受けいたします」
私はドレスの裾を摘み、完璧なカーテシーを披露した。
「え? いや、待て。泣いて縋らないのか? 『嘘だと言ってください』とか、『反省します』とか……」
「何をおっしゃいますか。殿下のご決断は絶対です。私が異を唱えるなど、恐れ多いこと」
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アレクセイは動揺しつつも、自分の思い通りになったことに満足げな笑みを浮かべた。
「これで晴れて自由の身だ! ニーナ、これからは堂々と君を愛せるぞ!」
「きゃあ! 嬉しいですぅ! やっぱり愛は勝つんですね!」
二人は抱き合って自分たちの世界に入っている。
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だが、私の仕事はまだ終わっていない。
むしろ、ここからが本番だ。
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「では殿下。婚約破棄が成立したということで、こちらの書類にサインをお願いいたします」
「あん? なんだそれは。反省文か?」
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「……せい、さん?」
「はい。まず一枚目。私がこの三年間、殿下の代わりに処理してきた公務の代行手数料です。宰相閣下の時給換算で計算させていただきました」
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「ぐぬぬ……」
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その言葉に、会場内の空気が完全に凍りついた。
アレクセイだけが、事態の深刻さを理解できずに首を傾げている。
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「う……うるさい! 金の話ばかりしおって! がめつい女だ!」
「がめついのではありません。数字に正確なだけです。さあ、ここにサインを。それが終われば、私は二度と殿下の視界に入らぬよう、速やかに姿を消しますので」
私は羽ペンを強引にアレクセイの手に握らせた。
彼はニーナの手前、引くに引けなくなったのだろう。
顔を引きつらせながら、震える手でサインをした。
「こ、これでいいんだろう! さっさと失せろ!」
「ありがとうございます。確かに」
私はサインを確認すると、書類を大切に懐にしまった。
これで、鎖は断ち切られた。
王家に縛り付けられ、無能な王子の尻拭いをさせられるだけの日々は終わったのだ。
胸いっぱいに広がる清涼感。
空気がこんなにも美味しいなんて知らなかった。
「では、皆様。お騒がせいたしました。これにて失礼いたします」
私は踵を返し、出口へと向かう。
その足取りは、羽根が生えたように軽かった。
「ユミリア様……本当に行ってしまわれるのですか?」
すれ違いざま、かつて私の補佐をしていた文官の青年が、蒼白な顔で話しかけてきた。
彼は知っているのだ。
この国の財政が、私のパズル並みの資金繰りでなんとか保たれていたことを。
「ええ。殿下のご命令ですから」
「でも、あなたが抜けたら、明日の決裁はどうすれば……!」
「愛の力でなんとかなるそうですよ?」
私はふふっと笑い、背後でイチャついている二人を親指で示した。
「頑張ってくださいね。応援だけはしていますから」
青年の絶望的な表情を見なかったことにして、私は扉を押し開けた。
夜風が頬を撫でる。
見上げれば、満天の星空。
「さて」
馬車に乗り込み、私は御者に告げた。
「屋敷へ急いで。荷造りはもう済ませてあるけれど、夜明けと共に出発したいの」
「へい。どちらへ向かわれますか、お嬢様」
「北よ。隣国、ガレリア帝国へ」
窓の外を流れる王都の景色を眺めながら、私は万年筆を取り出し、手帳に新たな予定を書き込んだ。
『残務処理:完了』
『移住計画:開始』
『新しい人生:プライスレス』
さようなら、私の祖国。
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