婚約破棄!推しの第二王子を愛でるため、悪役令嬢は全力で「円満退場」

パリパリかぷちーの

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嵐のようなアリスティア様が去り、再び庭園に静寂が訪れた。


私は、荒くなった鼻息を整えながら、再び優雅にティーカップを手に取った。


(……ふぅ。危なかったわ。つい本音という名の散弾銃を乱射してしまったけれど、シエル様の笑顔を拝めたのだから結果オーライね)


「……リューン様。あそこまで兄様にハッキリと物を言う令嬢は、あなたが初めてです」


シエル様が、まだ少し楽しげな余韻を瞳に残したまま私を見つめる。


「恐れ入りますわ。私はただ、美しいものを美しく保つために、障害物を取り除いただけに過ぎません」


「宝石を引き立てるための『黒い布』、でしたっけ。……だとしたら、僕を宝石だと言ってくれるあなたは、何なのでしょうね?」


シエル様が少し身を乗り出し、悪戯っぽく微笑む。


「私……? 私は、その宝石を一生磨き続け、湿度と温度を管理し、二十四時間体制で守護する『警備員』兼『研磨職人』ですわ」


「……やはり、変わっていますね、あなたは。以前の、兄様に付き従っていた頃のあなたとは、まるで別人のようだ」


シエル様の銀色の瞳が、私の本質を見透かすように細められる。


(……ギクリ。これ以上掘り下げられると、隠し通路だのストーカー活動だのがバレてしまうわ!)


私は慌てて、話題を逸らすためにケーキの皿を差し出した。


「そ、それより殿下! このケーキ、シエル様の……いえ、この時期の殿下に相応しい、糖分控えめの特製なんです。ぜひ召し上がってください!」


「……ありがとう。……ああ、そうだ。実は、君に一つ提案があるんだ」


シエル様が、食べかけのフォークを置いて私を見た。


その真剣な表情に、私の心臓が本日何度目かの緊急事態宣言を発令する。


「提案……? 私に、でしょうか?」


「うん。……実は、僕が個人的に管理している王宮の『北棟温室』があるんだ。あそこは古い文献に出てくる植物を再現するために作られた場所で、普段は誰も入れないんだけど……」


(王宮の北棟温室!? あの、シエル様が自ら土をいじり、汗を拭いながら植物と対話しているという、聖域中の聖域!?)


「……もし君が、あの『肥料の感想文』に書いた情熱を今も持っているなら。……一度、見に来ないかな? 君の意見を聞いてみたいんだ」


世界が、止まった。


今、推しが。


自分の聖域(プライベート空間)に。


私を。


招待した。


(……え? これって、実質的なハネムーンの予約ってことでいいの? それとも、聖地巡礼の公式ツアー?)


「……どうしたの? そんなに顔を真っ赤にして。具合でも悪いのかい?」


「い、い、いえ……! 滅相もございません! ぜひ! ぜひとも! 這ってでも、根を張ってでも伺わせていただきますわ!」


「……根を張らなくていいよ。普通に来てくれれば。……じゃあ、来週の午後に、北棟の入り口で待っているから」


シエル様は、どこか満足げな笑みを浮かべて立ち上がった。


「今日は楽しかったよ、リューン様。……あ、それと。……ブルーベリー、によろしく」


去り際に、シエル様が至近距離でそう耳打ちした。


「……ひっ!?」


変な声が出た。


シエル様は、固まった私を置いて、風のように軽やかに去っていった。


一分。


二分。


私はそのまま、石像のように動けずにいた。


「……お嬢様? 生きてますか?」


アニスが恐る恐る近づいてくる。


「……アニス。聞いた? 今、最後に、なんて仰った?」


「ええ、バッチリ聞きましたよ。『ブルーベリーによろしく』って。……お嬢様、おめでとうございます。完全にバレてますね」


「……バレた……バレちゃったわ……! シエル様に、私が不審者だったってバレたのよぉぉぉ!!」


私は東屋のテーブルに突っ伏して絶叫した。


「でも、お嬢様。バレた上で『温室に来い』って言われたんですよ? 普通なら通報案件なのに。これって、相当気に入られてるんじゃないですか?」


アニスの言葉に、私はガバッと顔を上げた。


「……はっ! そうよ! シエル様は、私の狂気を受け入れた上で、さらに深い聖域へと私を誘ってくださったのよ……! これはもう、推しとの『共犯関係』の成立と言っても過言ではないわ!」


「……ポジティブですね、相変わらず」


「来週よ! アニス、来週までに最高に機能的で、かつシエル様の視界を汚さない、究極の『作業用ドレス』を用意して! テーマは『森の妖精と肥料の融合』よ!」


「……よくわかりませんが、準備しますよ」


私は、夕闇に染まる庭園で、勝利の雄叫び(心の中)を上げた。


アリスティア様に婚約破棄されて、本当に、本当に良かった。


私の「推し活」は、ついに公式のステージへと駆け上がったのである。
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