婚約破棄!推しの第二王子を愛でるため、悪役令嬢は全力で「円満退場」

パリパリかぷちーの

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王宮の一角、国王執務室のすぐ隣。


そこには、王国の歴史上類を見ない特殊な部屋――『王妃専用・聖域観測室』が存在していた。


「……アニス、見て。今、シエル様がペンを置いて、ふっと窓の外を眺めたわ。あの憂いを帯びた横顔……。光の差し込み具合、まつ毛の角度、首筋のライン……すべてにおいて満点よ。いいえ、五兆点だわ!」


私は、特注の超高性能望遠鏡から目を離さず、手元のノートに猛然とペンを走らせた。


「お嬢様、いいえ王妃様。いい加減に、ご自分の執務に戻ってください。隣で国王陛下が『リューン、まだかな……』って寂しそうにこちらを見ていらっしゃいますよ」


侍女から『王妃付・筆頭監視官』へと役職の変わったアニスが、呆れたように紅茶を置いた。


「寂しそうなシエル様!? それはそれで新しい需要(ニーズ)だわ! アニス、今すぐ記録用の魔導水晶を起動して!」


私が観測室で狂喜乱舞していると、隣の部屋との境にある扉が、音もなく開いた。


「……リューン。またそこで、僕の『観測』をしているの?」


現れたのは、王冠を戴き、漆黒の王衣を纏ったシエル――わが夫にして、永遠の推しである。


「シ、シエルくん! い、いけませんわ、陛下が自らこのような不浄な……いいえ、神聖な観測所に足を運ばれるなんて!」


「ふふ。……君がこっちに来てくれないから、僕が来たんだよ」


シエルくんは私の背後に回り込み、そっと私の腰に腕を回した。


「……ねえ、リューン。さっきの『憂いを帯びた横顔』、そんなに良かった?」


「良かったですわ! 良すぎて、この国に新しい祝日を制定したいくらいですわ!」


「……じゃあ、今度はもっと近くで、君だけに見せてあげる」


シエルくんが私の耳元で、蕩けるような甘い声で囁く。


(……ッッッ!! 公式の、公式による、私だけへのファンサービス……!)


「……ああ、シエルくん。……私、あなたを推し始めてから今日まで、一度だって後悔したことはありませんわ。……あなたが笑えば世界が輝き、あなたが歩けば大地が芽吹く。……あなたは、私の、そしてこの国の太陽なのですわ!」


「……大袈裟だなあ。……でも、君がそう言ってくれるから、僕は王様として頑張れるんだ」


シエルくんは私の額に、慈しむようなキスを落とした。


私たちの結婚から一年。


この国は、驚くほどの平和と繁栄を享受していた。


かつての第一王子、アリスティア様は、地方の古い塔で『自己愛ダンスの理論化』という謎の研究に没頭し、今では「近寄ってはいけない変な人」として、ある意味で有名人になっている。


そしてマリアンヌ様は、私と共に『シエル様・公式ファンクラブ』の運営に携わり、今や王宮のファッションリーダーとして、シエル様の瞳の色の布教に命を懸けていた。


「……リューン。……これからも、僕の隣で、僕のことを一番近くで愛して」


シエルくんが、私の手を自分の胸元に当てた。


そこから伝わってくる、確かな鼓動。


それは、かつて遠くから眺めていた「偶像」ではなく、私と共に生きる「愛する人」の証だった。


「……ええ。……シエルくん。……私は、あなたがシワくちゃのおじいちゃんになっても、杖をついて歩く姿さえも『尊い……!』と拝み続けることを誓いますわ」


「……おじいちゃんになっても、君は変わらなさそうだね」


「当たり前ですわ! 私の愛は、時間も、次元も、常識も超越しているのですから!」


私はシエルくんの腕の中で、満面の笑みを浮かべた。


婚約破棄から始まった、私のドタバタな推し活人生。


それは、最高のパートナーと共に、永遠に続くハッピーエンドへと辿り着いたのだ。


(……見ていてください、世界! 私の推しは、今日も最高に輝いていますわ!)


青い空の下、王宮には今日も、王妃の幸せな絶叫と、王の穏やかな笑い声が響き渡るのであった。
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