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王都の大聖堂。
今日は、歴史に刻まれるべき「神聖なる公式契約(結婚式)」の日。
ステンドグラスから差し込む七色の光が、祭壇に立つシエルくんを照らし出している。
「……ああ、ダメ。直視できない。神々しすぎて、私の視細胞が全滅を覚悟しているわ」
私は純白のウェディングドレスを纏いながら、ヴェールの下で激しく鼻呼吸を繰り返した。
今日のシエルくんは、王位継承者としての威厳と、新郎としての色気が混ざり合った、いわば「限定SSR・究極進化形態」だ。
「お嬢様、落ち着いてください。今ここであなたが倒れたら、誓いのキスが『人工呼吸』にすり替わってしまいますよ」
介添人として後ろに控えるアニスが、冷たい声で釘を刺す。
「それも悪くないわね……。いいえ、ダメよ。この神聖な儀式を、私の不徳で汚すわけにはいかないわ!」
私たちが一歩ずつ、祭壇へと歩みを進めていた、その時だった。
「――待てえい! この結婚、私が認めんぞ!」
大聖堂の重厚な扉が、これ以上ないほど下品な音を立てて開け放たれた。
そこに立っていたのは、全身をこれでもかと金糸と宝石で飾り立て、なぜか背中に巨大なクジャクの羽を背負ったアリスティア様だった。
「アリスティア様……。あなた、その格好、何かの罰ゲームですの?」
私は歩みを止め、心底呆れ果てた視線を向けた。
「フハハハ! 笑うがいい! これぞ、真の王者にのみ許される『極光の求愛ダンス衣装』だ! シエル、リューン! 貴様らの地味な儀式など、私の圧倒的なパフォーマンスで塗り替えてやる!」
アリスティア様が、バイオリンの悲鳴のような伴奏と共に、奇怪なステップを踏み始めた。
激しく腰を振り、無駄に高いジャンプを繰り返し、金色の粉を撒き散らす。
それはもはやダンスというより、何かの発作に近い。
会場の参列者たちは、あまりの光景に絶句し、もはや哀れみの目すら向けていない。
「……シエルくん。不純物が入ったわね。今すぐ私の『不審者排除用・高濃度煙幕』で彼を包囲しましょうか?」
私が袖に隠した魔導具に手をかけようとした、その時。
シエルくんが、そっと私の手を押さえた。
「……いいよ、リューン。僕がやる」
シエルくんは、かつてないほど冷徹で、かつ美しい微笑をアリスティア様に向けた。
「兄様。……そのダンス、十点満点で零点ですね」
「な、何だと!? この芸術的な動きが分からんのか!」
「芸術とは、見る者を幸福にするものです。今のあなたは、単なる『視覚のノイズ』でしかない。……衛兵。兄様は少々お疲れのようだ。塔の自室で、一ヶ月ほど『美学の再教育』を受けさせてあげなさい」
シエルくんの静かな、しかし絶対的な命令。
次の瞬間、乱入してきたアリスティア様は、数人の騎士たちによって「金色のゴミ」のように無造作に運び出されていった。
「離せ! 私はまだ、サビの『旋回する俺』を踊っていないんだぞー!」
アリスティア様の空虚な叫びが、大聖堂の外へと消えていく。
再び訪れた、静寂。
「……お待たせ、リューン。邪魔者は消えたよ」
シエルくんが、再び優しく私の手を取り、祭壇へと導いてくれた。
「……シエルくん。今の『不純物排除』の際の見下ろすような視線……。最高に、最高に尊かったですわ。録画魔法を使わなかった自分を呪いたい……!」
「……ふふ。これからは、毎日好きなだけ見せてあげるよ」
誓いの言葉を交わし、ついにその時が来た。
シエルくんが私のヴェールをゆっくりと上げ、私の顔を両手で包み込んだ。
「……リューン。……君が僕を見守ってくれるなら、僕はどんなに重い王冠でも被ってみせる。……だから、一生僕のそばで、僕だけを『推して』いて」
「……約束、いたしますわ。……あなたの影に、あなたの土に、あなたの愛に……私は一生、全力を捧げます!」
シエルくんが顔を近づけ、私たちの唇が重なった。
その瞬間、私の頭の中で、数万発の「祝砲」が打ち上がった。
(……あ、ああ……。推しと……契約……完了……!)
私は多幸感のあまり、そのままシエルくんの腕の中に崩れ落ちたが、今度は気絶しなかった。
シエルくんの温かさを、その心音を、一秒たりとも逃さず記憶したかったからだ。
こうして、前代未聞の「推し活婚」は、最高の形で結実したのである。
今日は、歴史に刻まれるべき「神聖なる公式契約(結婚式)」の日。
ステンドグラスから差し込む七色の光が、祭壇に立つシエルくんを照らし出している。
「……ああ、ダメ。直視できない。神々しすぎて、私の視細胞が全滅を覚悟しているわ」
私は純白のウェディングドレスを纏いながら、ヴェールの下で激しく鼻呼吸を繰り返した。
今日のシエルくんは、王位継承者としての威厳と、新郎としての色気が混ざり合った、いわば「限定SSR・究極進化形態」だ。
「お嬢様、落ち着いてください。今ここであなたが倒れたら、誓いのキスが『人工呼吸』にすり替わってしまいますよ」
介添人として後ろに控えるアニスが、冷たい声で釘を刺す。
「それも悪くないわね……。いいえ、ダメよ。この神聖な儀式を、私の不徳で汚すわけにはいかないわ!」
私たちが一歩ずつ、祭壇へと歩みを進めていた、その時だった。
「――待てえい! この結婚、私が認めんぞ!」
大聖堂の重厚な扉が、これ以上ないほど下品な音を立てて開け放たれた。
そこに立っていたのは、全身をこれでもかと金糸と宝石で飾り立て、なぜか背中に巨大なクジャクの羽を背負ったアリスティア様だった。
「アリスティア様……。あなた、その格好、何かの罰ゲームですの?」
私は歩みを止め、心底呆れ果てた視線を向けた。
「フハハハ! 笑うがいい! これぞ、真の王者にのみ許される『極光の求愛ダンス衣装』だ! シエル、リューン! 貴様らの地味な儀式など、私の圧倒的なパフォーマンスで塗り替えてやる!」
アリスティア様が、バイオリンの悲鳴のような伴奏と共に、奇怪なステップを踏み始めた。
激しく腰を振り、無駄に高いジャンプを繰り返し、金色の粉を撒き散らす。
それはもはやダンスというより、何かの発作に近い。
会場の参列者たちは、あまりの光景に絶句し、もはや哀れみの目すら向けていない。
「……シエルくん。不純物が入ったわね。今すぐ私の『不審者排除用・高濃度煙幕』で彼を包囲しましょうか?」
私が袖に隠した魔導具に手をかけようとした、その時。
シエルくんが、そっと私の手を押さえた。
「……いいよ、リューン。僕がやる」
シエルくんは、かつてないほど冷徹で、かつ美しい微笑をアリスティア様に向けた。
「兄様。……そのダンス、十点満点で零点ですね」
「な、何だと!? この芸術的な動きが分からんのか!」
「芸術とは、見る者を幸福にするものです。今のあなたは、単なる『視覚のノイズ』でしかない。……衛兵。兄様は少々お疲れのようだ。塔の自室で、一ヶ月ほど『美学の再教育』を受けさせてあげなさい」
シエルくんの静かな、しかし絶対的な命令。
次の瞬間、乱入してきたアリスティア様は、数人の騎士たちによって「金色のゴミ」のように無造作に運び出されていった。
「離せ! 私はまだ、サビの『旋回する俺』を踊っていないんだぞー!」
アリスティア様の空虚な叫びが、大聖堂の外へと消えていく。
再び訪れた、静寂。
「……お待たせ、リューン。邪魔者は消えたよ」
シエルくんが、再び優しく私の手を取り、祭壇へと導いてくれた。
「……シエルくん。今の『不純物排除』の際の見下ろすような視線……。最高に、最高に尊かったですわ。録画魔法を使わなかった自分を呪いたい……!」
「……ふふ。これからは、毎日好きなだけ見せてあげるよ」
誓いの言葉を交わし、ついにその時が来た。
シエルくんが私のヴェールをゆっくりと上げ、私の顔を両手で包み込んだ。
「……リューン。……君が僕を見守ってくれるなら、僕はどんなに重い王冠でも被ってみせる。……だから、一生僕のそばで、僕だけを『推して』いて」
「……約束、いたしますわ。……あなたの影に、あなたの土に、あなたの愛に……私は一生、全力を捧げます!」
シエルくんが顔を近づけ、私たちの唇が重なった。
その瞬間、私の頭の中で、数万発の「祝砲」が打ち上がった。
(……あ、ああ……。推しと……契約……完了……!)
私は多幸感のあまり、そのままシエルくんの腕の中に崩れ落ちたが、今度は気絶しなかった。
シエルくんの温かさを、その心音を、一秒たりとも逃さず記憶したかったからだ。
こうして、前代未聞の「推し活婚」は、最高の形で結実したのである。
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