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「……え。シエルくんを、次期国王に?」
王宮の奥深く。国王陛下の執務室で、私は本日十度目の思考停止に陥った。
隣に座るシエルくんも、さすがに驚いたようで、手に持っていたティーカップをわずかに震わせている。
「そうだ。アリスティアは今回の騒動で、王としての器に欠けることが露呈した。……対してシエル、お前は隣国の皇女を退け、民衆の圧倒的な支持を得た。……この国を任せられるのは、もはやお前しかいない」
国王陛下は、極めて真面目な顔で、とんでもないことを仰った。
「……陛下。それはつまり、シエルくんが今以上の『公式行事』に出席し、毎日欠かさず『広報用の肖像画』が更新され、あまつさえ『全土に向けた演説』が定期的に行われる……ということでしょうか?」
「……まあ、実務的にはそうなるな」
私は、膝の上で拳を握りしめた。
(……ッッッ!! 供給過多! 圧倒的な供給過多だわ!)
(これまでは図書館や温室という『限定公開』だったシエル様が、今後は『常設展示』かつ『全編ライブ配信状態』になるというの!?)
「……反対、ですわ」
「……なに?」
国王陛下が意外そうに眉を寄せた。
「陛下。シエルくんの美しさは、あの静寂の中にこそ宿るのです。……それを連日の激務という名の『ノイズ』で汚すなど、ファンとして……いいえ、婚約者として断じて容認できませんわ!」
私は立ち上がり、国王陛下の机をドンと叩いた。
「シエルくんには、一日最低三時間の読書タイムと、二時間の温室での植物対話タイムが必要です! 政治というドブ板仕事で彼の美貌を損なうつもりなら、私がこの国を裏から支配して、シエルくんを『名誉王』として幽閉……もとい、保護しますわ!」
「リューン……。君は、僕のことを想ってくれているのは嬉しいけれど、発言が不穏すぎるよ」
シエルくんが苦笑しながら私の手を引いて座らせる。
「……父上。僕は、兄様のように派手な権力は望みません。……ですが、リューン様が僕のために戦ってくれる、この国を守りたいとは思います」
シエルくんは私の手を優しく握り、国王陛下を真っ直ぐに見据えた。
「……王位を継ぐ条件として、一つだけ願いを聞いていただけますか? ……僕の執務室の隣に、リューン様専用の『観察……いえ、執務室』を作らせてください。彼女が常に僕を見守っていることが、僕の最大の力になるんです」
(……ッッッ!?(本日十一度目の尊死))
「……ははは! 良いだろう! 夫婦で国を治めるのも一興だ。……リューン、お前の『推し活』が、この国の安寧に繋がるのだ。存分に励むが良い!」
「……謹んで、拝命いたしますわ。……アニス! 今すぐ『王妃専用・シエル様高精度観測カメラ』の開発予算を公爵家から計上して!」
「お嬢様、まだ陛下のお部屋ですよ! あとカメラとか作らせませんからね!」
こうして、シエルくんの王位継承と、私たちの結婚が正式に決定した。
しかし、面白くないのはアリスティア様だ。
彼は王宮の片隅で、自分のマントの金糸を一本ずつ引き抜きながら呪詛を吐いていた。
「……おのれシエル、おのれリューン……。私を差し置いて、そんなに『幸福の結晶』のような顔をしおって……。……こうなれば、結婚式当日に、私の『究極の自己愛ダンス』を乱入させて、式を台無しにしてやる……!」
アリスティア様の執念深い(そしてどうでもいい)悪巧みが、式当日に向けて着々と進んでいた。
一方で、私はマリアンヌ様と共に、結婚式の「シエル様・完全防備・かつ最高露出・衣装」の製作に、寝食を忘れて没頭していた。
「……見て、マリアンヌ様。このヴェールの透け感。シエル様の銀色の瞳が、微かに透けて見えるこの背徳感こそが、全参列者を救済する光になるわ……!」
「……完璧ですわ、リューン様。……私たち、最高の神事を執り行いましょうね!」
二人の狂気は、ついに最終回目前にして臨界点に達しようとしていた。
王宮の奥深く。国王陛下の執務室で、私は本日十度目の思考停止に陥った。
隣に座るシエルくんも、さすがに驚いたようで、手に持っていたティーカップをわずかに震わせている。
「そうだ。アリスティアは今回の騒動で、王としての器に欠けることが露呈した。……対してシエル、お前は隣国の皇女を退け、民衆の圧倒的な支持を得た。……この国を任せられるのは、もはやお前しかいない」
国王陛下は、極めて真面目な顔で、とんでもないことを仰った。
「……陛下。それはつまり、シエルくんが今以上の『公式行事』に出席し、毎日欠かさず『広報用の肖像画』が更新され、あまつさえ『全土に向けた演説』が定期的に行われる……ということでしょうか?」
「……まあ、実務的にはそうなるな」
私は、膝の上で拳を握りしめた。
(……ッッッ!! 供給過多! 圧倒的な供給過多だわ!)
(これまでは図書館や温室という『限定公開』だったシエル様が、今後は『常設展示』かつ『全編ライブ配信状態』になるというの!?)
「……反対、ですわ」
「……なに?」
国王陛下が意外そうに眉を寄せた。
「陛下。シエルくんの美しさは、あの静寂の中にこそ宿るのです。……それを連日の激務という名の『ノイズ』で汚すなど、ファンとして……いいえ、婚約者として断じて容認できませんわ!」
私は立ち上がり、国王陛下の机をドンと叩いた。
「シエルくんには、一日最低三時間の読書タイムと、二時間の温室での植物対話タイムが必要です! 政治というドブ板仕事で彼の美貌を損なうつもりなら、私がこの国を裏から支配して、シエルくんを『名誉王』として幽閉……もとい、保護しますわ!」
「リューン……。君は、僕のことを想ってくれているのは嬉しいけれど、発言が不穏すぎるよ」
シエルくんが苦笑しながら私の手を引いて座らせる。
「……父上。僕は、兄様のように派手な権力は望みません。……ですが、リューン様が僕のために戦ってくれる、この国を守りたいとは思います」
シエルくんは私の手を優しく握り、国王陛下を真っ直ぐに見据えた。
「……王位を継ぐ条件として、一つだけ願いを聞いていただけますか? ……僕の執務室の隣に、リューン様専用の『観察……いえ、執務室』を作らせてください。彼女が常に僕を見守っていることが、僕の最大の力になるんです」
(……ッッッ!?(本日十一度目の尊死))
「……ははは! 良いだろう! 夫婦で国を治めるのも一興だ。……リューン、お前の『推し活』が、この国の安寧に繋がるのだ。存分に励むが良い!」
「……謹んで、拝命いたしますわ。……アニス! 今すぐ『王妃専用・シエル様高精度観測カメラ』の開発予算を公爵家から計上して!」
「お嬢様、まだ陛下のお部屋ですよ! あとカメラとか作らせませんからね!」
こうして、シエルくんの王位継承と、私たちの結婚が正式に決定した。
しかし、面白くないのはアリスティア様だ。
彼は王宮の片隅で、自分のマントの金糸を一本ずつ引き抜きながら呪詛を吐いていた。
「……おのれシエル、おのれリューン……。私を差し置いて、そんなに『幸福の結晶』のような顔をしおって……。……こうなれば、結婚式当日に、私の『究極の自己愛ダンス』を乱入させて、式を台無しにしてやる……!」
アリスティア様の執念深い(そしてどうでもいい)悪巧みが、式当日に向けて着々と進んでいた。
一方で、私はマリアンヌ様と共に、結婚式の「シエル様・完全防備・かつ最高露出・衣装」の製作に、寝食を忘れて没頭していた。
「……見て、マリアンヌ様。このヴェールの透け感。シエル様の銀色の瞳が、微かに透けて見えるこの背徳感こそが、全参列者を救済する光になるわ……!」
「……完璧ですわ、リューン様。……私たち、最高の神事を執り行いましょうね!」
二人の狂気は、ついに最終回目前にして臨界点に達しようとしていた。
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