婚約破棄!推しの第二王子を愛でるため、悪役令嬢は全力で「円満退場」

パリパリかぷちーの

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王宮の広大な中庭。


私とシエル――様改め、シエルくんは、温室のベンチで仲良く並んで座っていた。


「……ねえ、リューン。こうして君と肩を並べていると、今までの孤独が嘘みたいだよ」


「シエルくん……。ああ、その『孤独』というスパイスが、今のあなたの美しさをより一層引き立てているのですね。その影すらも愛おしいですわ」


私はシエルくんの肩に頭を預け、彼の体温を感じながら、静かに魔導カメラのシャッターを切った(心のシャッターではない、本物だ)。


だが、この平和な「聖域」を切り裂く、聞き飽きた怒鳴り声が響き渡った。


「――そこまでだ、この変態令嬢め!」


振り返れば、そこには顔を真っ赤に上気させ、脇に大量の紙束を抱えたアリスティア様が立っていた。


その後ろには、困り果てた表情のマリアンヌ様と、心配そうな父の姿もある。


「アリスティア様? また不法侵入ですか? 学習能力という言葉を辞書で引いたことはありますの?」


「黙れ! シエル、騙されるな! この女の正体を、今ここで暴いてやる!」


アリスティア様は、抱えていた紙束を空中にぶちまけた。


バラバラと庭に散らばったのは、私がこれまでに収集・作成してきた「シエル様・極秘観察記録」の数々だった。


「見ろ、シエル! これは、貴様が図書館で座った席の角度、飲んだ紅茶の温度、さらには貴様が落としたボタンの繊維分析結果まで記されたストーカー日記だ!」


会場……もとい、中庭に戦慄が走った。


「……リューン様。これは、一体……?」


シエルくんが、地面に落ちた一枚の紙を拾い上げた。


そこには、彼が三年前の晩餐会で一度だけ見せた「微かなくしゃみ」の瞬間を、多角的な視点から考察した図解が描かれていた。


私は、冷や汗一つ流さず、ゆっくりと立ち上がった。


「……お見事ですわ、アリスティア様。私の屋敷の厳重なセキュリティを突破して、その『聖典』を盗み出すとは。さすが、暇を持て余した第一王子ですわね」


「笑っていられるのも今のうちだ! これほどの執着、これほどの狂気! これを見ても、シエル、お前は彼女を愛せると言うのか!?」


アリスティア様は、勝ち誇ったように叫んだ。


しかし。


私は一歩前に出ると、地面に散らばった「聖典」の一枚を指差して、厳かに言い放った。


「……アリスティア様。あなたの詰めの甘さには、反吐が出ますわ」


「な、何だと!?」


「見てください。この『シエル様・まつ毛平均長調査報告書』。……これ、三ヶ月前のデータではありませんか! 現在のシエル様は、温室での手入れによって、平均して零点二ミリほど伸びていらっしゃるのよ!」


「……え? そこ?」


「さらに言えば、この肖像画! 影の付け方が甘いわ! シエル様の耳の裏にある、あの魅力的な小さなホクロが描かれていないなんて、これはもはや冒涜ですわよ!」


私はアリスティア様の胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄った。


「私の狂気を暴きたいのであれば、もっと精度の高い資料を持ってきなさい! こんな低クオリティな暴露、シエル様の輝きに対する侮辱以外の何物でもありませんわ!」


「き、貴様……正体を見せても、まだそんなことを……!」


アリスティア様が絶句し、マリアンヌ様が「さすがです……」と感銘の涙を流す中。


シエルくんが、静かに笑い出した。


「……はは、はははは!」


「シ、シエル? なぜ笑う! この女は、お前の全てを監視していたのだぞ!」


「……知っているよ、兄様」


シエルくんは私の隣に立ち、そっと私の腰を引き寄せた。


「……リューン様が僕を見ている時。……その瞳が、どれほど真剣で、どれほど深い愛情に満ちているか。僕は、ずっと感じていたんだ」


「シエルくん……」


「……兄様のように、自分の輝きを他人に押し付けるのではなく。……彼女は、僕のどんなに小さな欠片も見逃さず、それを『宝物』だと言ってくれた。……これほどまでに僕を理解し、愛してくれる人が、他にどこにいると言うんだ?」


シエルくんは、アリスティア様がぶちまけた資料を愛おしそうに眺め、一枚を手に取った。


「……この『シエル様の寝顔の想像図(三十パターン)』。……うん、今度、答え合わせをしようか」


(……ッッッ!?(本日最大級の心停止))


「……殿下。……それは、公式に、添い寝の予約……ということでよろしいのでしょうか?」


「……ふふ。婚約者なんだから、当然だろう?」


シエルくんの、破壊力抜群の微笑み。


アリスティア様は、あまりの「解釈違い(愛の形の違い)」に耐えきれず、その場に膝をついた。


「……負けだ。……私の完敗だ。……愛とは、これほどまでに恐ろしく、そして変態的なものだったのか……」


「失礼ね。変態ではなく、『ガチ勢』と呼びなさい」


私はアリスティア様を冷たく見下ろし、散らばった聖典を魔法で一瞬にして回収した。


「さあ、アリスティア様。不純物は、速やかにお引き取りを。……これから私は、シエルくんと『まつ毛の測定会』という名の神聖な儀式を執り行うのですから」


アリスティア様は、マリアンヌ様に抱えられるようにして、魂の抜けた顔で去っていった。


中庭に、再び二人だけの時間が訪れる。


「……リューン。……これからも、僕のことを、世界で一番近くで見守っていてくれるかい?」


「……ええ。……シエルくんが、光速で動いたとしても。……私は、その残像すらも愛し、記録し続けることを誓いますわ」


私たちは、温室の緑に包まれながら、静かに唇を重ねた。


もはや、不審者令嬢という仮面は必要ない。


私は、シエル・ド・ラ・メールという至高の推しを、永遠に独占する「正妻」としての道を歩み始めたのである。
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