悪役令嬢、妃教育を「神・福利厚生」だと勘違いする。

パリパリかぷちーの

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翌朝、私とギルバート先生は、領内でも随一の絶景を誇る「クリスタル湖」を訪れていた。
見渡す限りのエメラルドグリーンの水面が、陽光を反射して宝石のようにキラキラと輝いている。
湖畔の特等席には、あらかじめ使用人たちが用意してくれた、真っ白なテーブルクロスのかかったピクニックセットが広がっていた。

「まあ、先生! ここが本日の『オフィス』ですの? 開放感に溢れていて、集中力が五割増しになりそうですわ!」

「ええ、そうです。本日の業務は『自然の美しさを享受し、精神の浄化を行うこと』。要するに、何も考えずに私と楽しむことです」

ギルバート先生は、執務用の眼鏡を外し、ゆったりとしたラフなシャツの袖を捲り上げている。
その無防備な姿に、私はまたしても心臓が「ドクン」と跳ねるのを感じた。
……おかしい。これは、高地トレーニング的な酸素不足の症状かしら。

「さあ、座って。まずは栄養学の観点から選定した、季節のフルーツサンドをどうぞ」

「はい! いただきますわ!」

差し出されたサンドイッチを頬張ると、甘酸っぱいイチゴと濃厚な生クリームが口の中で溶け合った。
最高に美味しい。
やはり、しっかりとした休息(業務)の後に食べる食事は、格別の味がする。

「……ユーム。君は、王宮に戻りたいと思うことはありますか?」

静かな湖畔に、先生の問いかけが響いた。
私はもぐもぐと咀嚼を終え、真剣な表情で先生を見つめ返した。

「そうですね……。王宮の『妃教育』という名の福利厚生は素晴らしかったですけれど、今は先生の領地の『プラチナホワイト』な環境を知ってしまいましたから。……正直、もう戻れる気がしませんわ」

「そうか。……なら、一つ提案がある」

ギルバート先生が、私の隣に座り直した。
肩が触れ合うほどの距離。
湖を渡る風が、先生のサンダルウッドの香りを私の鼻先に運んでくる。

「君を、私の領地の『終身名誉・最高責任者』として雇いたい。……もちろん、私の隣で、一生だ」

「終身、名誉……! それはつまり、定年退職がないということでしょうか!?」

「ええ。福利厚生は私が保証する。住居はこの城、食事は私の愛。報酬は、君が望むすべての幸福だ」

先生の手が、私の手をそっと包み込んだ。
その熱に、私の思考回路がショートしそうになる。
……一生。先生の隣で、このホワイトな生活を続ける。
それは、私にとって最高に贅沢な「再就職」ではないだろうか。

「先生……! 私のような退職者(婚約破棄令嬢)に、これほどまでの好条件を提示してくださるなんて……。ありがとうございます! 私、謹んでその契約をお受けいたしますわ!」

「契約……。まあ、君らしい返事だ。……だが、これは仕事ではなく、私の『愛』だということも、いつかは理解してもらいますよ」

先生は苦笑いしながら、私の手の甲に誓いのキスを落とした。
その感触が、あまりにも熱くて甘くて……私は「感性保養」という名の、新たなステージに突入したことを確信した。

一方、その頃の王宮。

「……ねえ、アキレス。この『ほうれん草の和え物』、泥の味がするわ……」

「我慢しろ、ララ……。ユームがやっていた『食材の厳選と泥落とし』を、今の料理番がサボり始めたんだ。……給料を上げろとデモが起きているから、逆らえない……」

かつて白く輝いていた王宮の食堂は、今やどんよりとした暗雲が漂っていた。
ユームという名の「最強のホワイト管理者」を失った組織は、内部から腐り始めていたのである。

「ギルバートに……ユームに、謝罪文を送ったか?」

「送りましたわ。でも、返ってきたのは『現在、業務多忙につき(お昼寝中)、ブラック企業の勧誘はお断りします』という冷たい手紙だけよ……!」

アキレス王子は、ガタガタと震える手で、質の落ちたパンを噛み締めた。
自由を手に入れたはずの二人は、今、自分たちが作り出した「ブラックな現実」の監獄に閉じ込められていた。
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