悪役令嬢、妃教育を「神・福利厚生」だと勘違いする。

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
20 / 28

20

しおりを挟む
雲一つない快晴。
王都の歴史ある大聖堂は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
今日は、ギルバート公爵とユーム・エデルガルドの結婚式。
門前には、招待された貴族だけでなく、私の「ホワイト改革」を支持する多くの領民たちが詰めかけていた。

「皆様、本日は定刻通りにお集まりいただき、誠にありがとうございますわ!」

控え室の鏡の前で、私は純白のドレスに身を包み、満足げに微笑んだ。
十年の「妃教育」——もとい「最高級エステ&マナー研修」の成果が、今、結実している。
透き通るような肌、完璧に整えられた姿勢、そして何より、十分な睡眠に裏打ちされた幸福なオーラ。

「ユーム、準備はいいですか? ……ああ、やはり。私の計算以上に、今日の君は美しい」

扉を開けて入ってきたギルバート先生は、目を細めて私を凝視した。
先生もまた、銀糸の刺繍が入った漆黒の正装に身を包んでいる。
その姿は、あまりにも完成された「美」そのもので、私の心拍数はまたしても業務規定外の速度を記録した。

「先生こそ。……そんなに見つめられたら、私の視覚野がパンクしてしまいますわ。これも一種のメンタル・トレーニングかしら?」

「いいえ。これは単なる『独占欲』の発露ですよ。……さあ、行きましょう。世界中の誰よりも幸せな『契約』を結ぶために」

先生が差し出した手に、私は自分の手を重ねた。
大聖堂の扉が開くと、パイプオルガンの重厚な調べが響き渡る。
バージンロードを歩く私の姿に、参列者からは溜息のような歓声が上がった。

「見てくれ……あの輝きを。かつて『冷徹な悪役令嬢』と呼ばれていたとは思えない……」

「これこそがホワイトな環境の力よ! あんなに幸せそうに笑う花嫁、見たことがないわ!」

参列者たちの声が耳に届く。
私は一歩一歩、確かな足取りで祭壇へと向かった。
そこには、国王陛下も、私の両親も、涙を浮かべて見守っている。

祭壇の前で、私たちは向き合った。
宣誓の儀式。通常なら神への愛を誓う場面だが、私たちはあらかじめ用意していた「特注の契約書」を取り出した。

「私、ギルバート・フォン・ヴァレンタインは、ユーム・エデルガルドに対し、生涯にわたる『最高級の福利厚生』と『永久の溺愛』を保証します。君の涙一滴につき、領地の休日を一増やす覚悟で、君を守り抜こう」

「私、ユーム・エデルガルドは、ギルバート・フォン・ヴァレンタインに対し、持てる全ての有能さと笑顔を捧げます。先生の隣という『ホワイトな指定席』において、共に輝かしい未来を経営していくことを誓いますわ!」

神父様が呆然とする中、私たちは高らかに宣言した。
愛を事務的な用語で、けれど誰よりも情熱的に語る姿に、会場は一瞬の静寂の後、爆発的な拍手に包まれた。

「……では、誓いの印を」

ギルバート先生が私の腰を引き寄せた。
眼鏡を外し、熱を帯びた瞳で私を見つめる。
その距離がゼロになる瞬間、私はこれまでの「妃教育」のどの授業でも教わらなかった、最高の多幸感(ホワイト・エネルギー)に包まれた。

一方、その頃。
砂漠の果て、オアシス一つない岩場で、アキレス王子は絶望の叫びを上げていた。

「……ユーム……! 今、空から鐘の音が聞こえた気がする……! 君は今、幸せなのか!? 私は……私は今、サボテンを剥くのに失敗して指を怪我したんだぞ……!」

「……殿下、うるさいですわ……。砂が……砂が口に入って……あ、甘いもの……ホワイトチョコが食べたい……」

ララ様は砂の上に大の字になり、蜃気楼の中に巨大なウェディングケーキを見ていた。
彼らの「ブラックな日々」は、まだ序章を終えたばかり。

大聖堂の外では、私と先生を祝福するフラワーシャワーが舞い踊っていた。

「ユーム、これからはもう『先生』ではありませんよ」

「ええ……。そうですね、ギルバート様。……これからは、プライベートな時間もたっぷり『残業』していただきますわよ?」

「望むところです。……君との残業なら、一生終わらなくていい」

私たちは、降り注ぐ花びらの中で、新しい人生という名の「超大型プロジェクト」のスタートを切った。
ホワイトな風は、どこまでも高く、私たちの未来へと吹き抜けていくのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

私は《悪役令嬢》の役を降りさせて頂きます

・めぐめぐ・
恋愛
公爵令嬢であるアンティローゼは、婚約者エリオットの想い人であるルシア伯爵令嬢に嫌がらせをしていたことが原因で婚約破棄され、彼に突き飛ばされた拍子に頭をぶつけて死んでしまった。 気が付くと闇の世界にいた。 そこで彼女は、不思議な男の声によってこの世界の真実を知る。 この世界が恋愛小説であり《読者》という存在の影響下にあることを。 そしてアンティローゼが《悪役令嬢》であり、彼女が《悪役令嬢》である限り、断罪され死ぬ運命から逃れることができないことを―― 全てを知った彼女は決意した。 「……もう、あなたたちの思惑には乗らない。私は、《悪役令嬢》の役を降りさせて頂くわ」 ※全12話 約15,000字。完結してるのでエタりません♪ ※よくある悪役令嬢設定です。 ※頭空っぽにして読んでね! ※ご都合主義です。 ※息抜きと勢いで書いた作品なので、生暖かく見守って頂けると嬉しいです(笑)

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

婚約破棄します

アズやっこ
恋愛
私は第一王子の婚約者として10年この身を王家に捧げてきた。 厳しい王子妃教育もいつか殿下の隣に立つ為だと思えばこそ耐えられた。殿下の婚約者として恥じないようにといつも心掛けてきた。 だからこそ、私から婚約破棄を言わせていただきます。  ❈ 作者独自の世界観です。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。 番外編(編集済み)と、外伝(新作)アップしました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜

山田空
恋愛
王国有数の名家に生まれたエルナは、 幼い頃から“家の役目”を果たすためだけに生きてきた。 父に褒められたことは一度もなく、 婚約者には「君に愛情などない」と言われ、 社交界では「冷たい令嬢」と噂され続けた。 ——ある夜。 唯一の味方だった侍女が「あなたのせいで」と呟いて去っていく。 心が折れかけていたその時、 父の側近であり冷徹で有名な青年・レオンが 淡々と告げた。 「エルナ様、家を出ましょう。  あなたはもう、これ以上傷つく必要がない」 突然の“駆け落ち”に見える提案。 だがその実態は—— 『他家からの縁談に対抗するための“偽装夫婦契約”。 期間は一年、互いに干渉しないこと』 はずだった。 しかし共に暮らし始めてすぐ、 レオンの態度は“契約の冷たさ”とは程遠くなる。 「……触れていいですか」 「無理をしないで。泣きたいなら泣きなさい」 「あなたを愛さないなど、できるはずがない」 彼の優しさは偽りか、それとも——。 一年後、契約の終わりが迫る頃、 エルナの前に姿を見せたのは かつて彼女を切り捨てた婚約者だった。 「戻ってきてくれ。  本当に愛していたのは……君だ」 愛を知らずに生きてきた令嬢が人生で初めて“選ぶ”物語。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

処理中です...