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新婚旅行から戻った私を待っていたのは、山のような祝福の花束と、一通の「挑戦状」めいた親書でした。
差出人は、隣国の若き王、ゼノン・フォン・クロムウェル。
一代で国力を倍増させた天才と謳われる一方、その苛烈な統治スタイルから「不眠不休の暴君」とも囁かれる御仁です。
「……ギルバート様。このゼノン陛下という方、親書に『至急、面会を希望する。一秒の遅滞も許さぬ』と書いてありますわ。なんて時間管理に厳しい方なのかしら!」
「いいえ、ユーム。それは単なる『配慮の欠如』というものです。……ですが、面白い。私の妻にこれほど不躾な連絡を寄こす不届き者がどんな顔をしているのか、拝んでやりましょう」
ギルバート様は眼鏡の奥で冷ややかな炎を燃やし、面会を承諾しました。
翌日、公爵邸の応接室。
現れたゼノン王は、軍服を完璧に着崩し、全身から「仕事中毒者」特有の、研ぎ澄まされた……というよりは、カリカリしたオーラを放っていました。
「単刀直入に言おう、ユーム・エデルガルド公爵夫人。我が国に来い」
挨拶もそこそこに放たれた言葉に、私はお茶を吹き出しそうになりました。
「……はい? お隣の国へ視察に、ということですの?」
「違う。ヘッドハンティングだ。貴殿が各地で成し遂げた『ホワイト改革』の話は聞いている。短時間で利益を最大化するその手腕、我が国の『二十四時間・全産業フル稼働計画』の総責任者として迎え入れたい」
ゼノン王は、机の上に黄金の延べ棒が詰まった箱をドン、と置きました。
「報酬は望むままだ。地位も、名誉も、この黄金も。その代わり、休日は年に三日。それ以外は、私と共にこの国の未来を『経営』してもらう」
「……ね、年に三日……?」
私は絶句しました。
それは、妃教育で学んだ「お肌のターンオーバー」すら無視した、恐るべき暴論です。
「ゼノン陛下、驚きましたわ。……あなたは、黄金があれば人間は壊れないとお考えなのですか? 年に三日しか休めないなんて、それはもはや『人間』ではなく『魔導具』の扱いではありませんか!」
「成果を出すには犠牲が必要だ。私は、自分自身も寝ずに働いている」
「それが一番の問題ですわ! リーダーが寝ていないから、下の者たちが『寝るのが申し訳ない』というブラックな同調圧力に屈してしまうのです! 陛下、あなたのお顔を見てください。……その隈、コンシーラーでも隠しきれていませんわよ!」
私が扇子でビシッと彼を指差すと、ゼノン王は虚を突かれたように目を見開きました。
「……隈、だと? これは、王としての責任の証……」
「いいえ、『自己管理不足』の証ですわ。ギルバート様、お願いします!」
「承知しました。……ゼノン陛下。我が妻をスカウトしようという不敬は、この際不問にしましょう。……ですが、我が領地の『ホワイト・コンサルティング料』は、その黄金の箱十個分でも足りませんよ」
ギルバート様は立ち上がり、ゼノン王を威圧するように見下ろしました。
「ユーム、彼に『本当の効率』を教えてあげなさい。……私の妻を欲しがるのなら、まずは彼女の足元にも及ばないその劣悪な経営感覚を矯正するのが先決だ」
「はい、ギルバート様! ゼノン陛下、覚悟してください。本日から三日間、この邸に『強制勾留(お泊まり保育)』ですわ! まずは十時間の睡眠と、オーガニック野菜によるデトックスから始めていただきます!」
「なっ……!? 私は王だぞ! 三日間も国を空けられるわけが……!」
「国が三日で潰れるなら、それは陛下がいなくても回る仕組みを作らなかった陛下の責任ですわ! さあ、メイドたち! 陛下を『極上シルクの独房(客室)』へ!」
私の合図で、プロテインで鍛え上げた我が領地のメイドたちが、ゼノン王を軽々と担ぎ上げました。
「は、離せ! 私はまだ、次の予算案を……! あ、アロマの香りが……意識が……遠のく……」
ゼノン王は、瞬く間に「安眠」という名の奈落へと落ちていきました。
「ふふ、ギルバート様。あの方、きっと起きたら自分の無能さに気づいて泣いてしまいますわね」
「ええ。……ですが、ユーム。彼がもし、目覚めてさらに君を気に入ったら……その時は、私が隣国ごと『買収(M&A)』して、彼をただの平社員に降格させますから、安心してください」
ギルバート様は私の手をとり、独占欲たっぷりに指先にキスをしました。
ホワイトな愛は、時にブラックな情熱を孕むものなのです。
その頃、砂漠のオアシス付近。
アキレス王子は、通りすがりの商人に「私は王子だ! 雇ってくれ!」と縋り付いていました。
「王子? ハハハ、冗談を。そんなガリガリで、おまけに『特技:ハンコ押し』なんて奴、うちの荷運びにも使えねえよ!」
「な、何だと……!? 私は……私は……! ララ、どうにかしてくれ……!」
「……殿下……。私……さっき、サボテンと間違えて……自分の腕を噛んでしまいましたわ……。お腹が空いて……幻覚が……」
二人の市場価値は、ついに「ゼロ」を下回り、マイナスへと突入していました。
真のホワイトを手にする道は、あまりにも遠く険しいのでした。
差出人は、隣国の若き王、ゼノン・フォン・クロムウェル。
一代で国力を倍増させた天才と謳われる一方、その苛烈な統治スタイルから「不眠不休の暴君」とも囁かれる御仁です。
「……ギルバート様。このゼノン陛下という方、親書に『至急、面会を希望する。一秒の遅滞も許さぬ』と書いてありますわ。なんて時間管理に厳しい方なのかしら!」
「いいえ、ユーム。それは単なる『配慮の欠如』というものです。……ですが、面白い。私の妻にこれほど不躾な連絡を寄こす不届き者がどんな顔をしているのか、拝んでやりましょう」
ギルバート様は眼鏡の奥で冷ややかな炎を燃やし、面会を承諾しました。
翌日、公爵邸の応接室。
現れたゼノン王は、軍服を完璧に着崩し、全身から「仕事中毒者」特有の、研ぎ澄まされた……というよりは、カリカリしたオーラを放っていました。
「単刀直入に言おう、ユーム・エデルガルド公爵夫人。我が国に来い」
挨拶もそこそこに放たれた言葉に、私はお茶を吹き出しそうになりました。
「……はい? お隣の国へ視察に、ということですの?」
「違う。ヘッドハンティングだ。貴殿が各地で成し遂げた『ホワイト改革』の話は聞いている。短時間で利益を最大化するその手腕、我が国の『二十四時間・全産業フル稼働計画』の総責任者として迎え入れたい」
ゼノン王は、机の上に黄金の延べ棒が詰まった箱をドン、と置きました。
「報酬は望むままだ。地位も、名誉も、この黄金も。その代わり、休日は年に三日。それ以外は、私と共にこの国の未来を『経営』してもらう」
「……ね、年に三日……?」
私は絶句しました。
それは、妃教育で学んだ「お肌のターンオーバー」すら無視した、恐るべき暴論です。
「ゼノン陛下、驚きましたわ。……あなたは、黄金があれば人間は壊れないとお考えなのですか? 年に三日しか休めないなんて、それはもはや『人間』ではなく『魔導具』の扱いではありませんか!」
「成果を出すには犠牲が必要だ。私は、自分自身も寝ずに働いている」
「それが一番の問題ですわ! リーダーが寝ていないから、下の者たちが『寝るのが申し訳ない』というブラックな同調圧力に屈してしまうのです! 陛下、あなたのお顔を見てください。……その隈、コンシーラーでも隠しきれていませんわよ!」
私が扇子でビシッと彼を指差すと、ゼノン王は虚を突かれたように目を見開きました。
「……隈、だと? これは、王としての責任の証……」
「いいえ、『自己管理不足』の証ですわ。ギルバート様、お願いします!」
「承知しました。……ゼノン陛下。我が妻をスカウトしようという不敬は、この際不問にしましょう。……ですが、我が領地の『ホワイト・コンサルティング料』は、その黄金の箱十個分でも足りませんよ」
ギルバート様は立ち上がり、ゼノン王を威圧するように見下ろしました。
「ユーム、彼に『本当の効率』を教えてあげなさい。……私の妻を欲しがるのなら、まずは彼女の足元にも及ばないその劣悪な経営感覚を矯正するのが先決だ」
「はい、ギルバート様! ゼノン陛下、覚悟してください。本日から三日間、この邸に『強制勾留(お泊まり保育)』ですわ! まずは十時間の睡眠と、オーガニック野菜によるデトックスから始めていただきます!」
「なっ……!? 私は王だぞ! 三日間も国を空けられるわけが……!」
「国が三日で潰れるなら、それは陛下がいなくても回る仕組みを作らなかった陛下の責任ですわ! さあ、メイドたち! 陛下を『極上シルクの独房(客室)』へ!」
私の合図で、プロテインで鍛え上げた我が領地のメイドたちが、ゼノン王を軽々と担ぎ上げました。
「は、離せ! 私はまだ、次の予算案を……! あ、アロマの香りが……意識が……遠のく……」
ゼノン王は、瞬く間に「安眠」という名の奈落へと落ちていきました。
「ふふ、ギルバート様。あの方、きっと起きたら自分の無能さに気づいて泣いてしまいますわね」
「ええ。……ですが、ユーム。彼がもし、目覚めてさらに君を気に入ったら……その時は、私が隣国ごと『買収(M&A)』して、彼をただの平社員に降格させますから、安心してください」
ギルバート様は私の手をとり、独占欲たっぷりに指先にキスをしました。
ホワイトな愛は、時にブラックな情熱を孕むものなのです。
その頃、砂漠のオアシス付近。
アキレス王子は、通りすがりの商人に「私は王子だ! 雇ってくれ!」と縋り付いていました。
「王子? ハハハ、冗談を。そんなガリガリで、おまけに『特技:ハンコ押し』なんて奴、うちの荷運びにも使えねえよ!」
「な、何だと……!? 私は……私は……! ララ、どうにかしてくれ……!」
「……殿下……。私……さっき、サボテンと間違えて……自分の腕を噛んでしまいましたわ……。お腹が空いて……幻覚が……」
二人の市場価値は、ついに「ゼロ」を下回り、マイナスへと突入していました。
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