婚約破棄!おバカな王子と縁が切れました!

パリパリかぷちーの

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煌びやかなシャンデリアが輝く、王立学院の卒業記念パーティー会場。
その中央で、私の婚約者であるウィルフレッド王子が、一人の令嬢を抱き寄せながら高らかに宣言した。


「ミカ・フォン・ガーネット公爵令嬢! 貴様のような心の醜い女は、王妃の座にふさわしくない。今この瞬間をもって、貴様との婚約を破棄する!」


静まり返る会場。
周囲の貴族たちは息を呑み、憐れみの視線を私に投げかける。
隣に寄り添う男爵令嬢のルルは、勝ち誇ったような笑みを浮かべて私を見つめていた。


本来なら、ここで私は絶望に打ちひしがれ、無実を訴え、泣き叫ぶべき場面なのだろう。
けれど、私の心に去来したのは、悲しみでも怒りでもなかった。


(……えっ、今なんて言った? 婚約、破棄? それってつまり……)


私は、扇で隠していた口元が、どうしてもニヤけてしまうのを必死で抑えた。
そして、王子が言い終わるか終わらないかのタイミングで、一歩前へ踏み出す。


「承知いたしましたわ! 殿下!」


「……は?」


王子の端正な顔が、間抜けに固まった。
私は食い気味に、さらに言葉を重ねる。


「婚約破棄、謹んでお受けいたします! 慰謝料も、今後の関わりも、一切合切不要ですわ。今すぐこの場から立ち去らせていただきます。どうぞ、お幸せに!」


「……いや、待て。少しは反論とか、ないのか? ルルへの嫌がらせを告発しているんだぞ?」


王子が困惑したように眉を寄せる。
私は内面で爆速のガッツポーズを決めながら、淑女の微笑みを維持した。


「嫌がらせの件については、追って書面で事実無根であることを証明いたしますわ。ですが、殿下が私を信じられず、他の方を愛していらっしゃると言うのなら、私のような者が隣にいるのはお邪魔でしかありませんものね」


「そ、それはそうだが……お前、あんなに俺にベタ惚れだったじゃないか」


「ええ、昨日までは公爵令嬢としての務めを全うしておりました。ですが、自由の身となった今、私の心は一点の曇りもなく晴れ渡っております。さようなら、殿下。短い間でしたけれど、いい経験になりましたわ!」


私は優雅にカーテシーを披露すると、唖然とする王子とルルを置き去りにして、出口へと向かって歩き出した。


背後で「おい! ミカ! まだ話は終わっていないぞ!」という王子の叫びが聞こえるけれど、知ったことではない。
ドレスの裾を翻し、私は軽やかな足取りで会場を後にする。


校門の前には、我が公爵家の馬車が待機していた。
御者の老紳士が、驚いた様子で駆け寄ってくる。


「お嬢様、どうされたのですか? まだパーティーの最中では……」


「セバス! 出して! 今すぐ出して! お祝いよ、今日は最高のお祝いの日だわ!」


「はあ……? お祝い、でございますか?」


馬車に飛び乗り、扉を閉めた瞬間、私はコルセットで締め上げられた体を椅子に投げ出した。
そして、誰にも見られない車内で、全力の万歳三唱を行う。


「やったああああああ! 自由だ! ついに手に入れたわ、私のニート生活!」


思い返せば十年間、私は「完璧な婚約者」を演じるために地獄のような日々を送ってきた。
朝五時に起きてマナーの勉強、昼は王子のワガママに付き合い、夜は深夜までダンスや語学のレッスン。


好きな時に寝ることもできず、大好物のポテトチップスをボリボリ食べることも許されず、常に背筋を伸ばして「微笑む彫像」であることを強要されてきたのだ。


「あんなナルシスト王子の顔、もう二度と見なくていいなんて……夢みたい。明日からは、お昼まで寝る。起きたらパジャマのままお菓子を食べて、飽きたらまた寝るのよ!」


私は馬車の窓から見える夜空に向かって、勝利の宣言をした。
前世なんてものがあるのかどうかは知らないけれど、もしあったとしても、これほどまでに「労働」を憎んでいる人間は私くらいだろう。


「さて、お父様にはなんて報告しましょうか。まあ、あのバカ王子のことだから、どうせあっちから勝手に絶縁状が届くわよね。私は『捨てられた可哀想な令嬢』として、田舎の別荘に引きこもらせてもらうわ」


順風満帆。
私の計画は完璧だった。
これから始まる、輝かしき「干物生活」を想像して、私は喉を鳴らして笑った。


だが、馬車が屋敷に着く直前。
急停車した衝撃で、私は前の座席に鼻をぶつけた。


「痛っ……。ちょっと、セバス? どうしたの?」


「申し訳ございません、お嬢様。……近衛騎士団の方が、道を塞いでおりまして」


嫌な予感がして、私は窓から外を覗いた。
そこには、月明かりに照らされた一人の騎士が立っていた。


銀色の甲冑を纏い、鉄仮面のように無機質な表情を浮かべた男。
王子の側近であり、近衛騎士団副団長のクラウス・フォン・アイゼン。


彼は私と目が合うと、短く一礼した。


「ミカ様。殿下の使いで参りました。……先ほどの件、少し確認したいことがございます」


私は、思わず窓のカーテンを力いっぱい閉めた。
自由への道は、どうやら思ったよりも険しいらしい。
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