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「……はぁ。やっぱり我が家のベッドは、湖畔の芝生よりもさらに三割増しで寝心地が良いですわね」
私は秘密のピクニックから帰宅し、即座にシルクの海へと身を投じていた。
クラウス様との甘い時間も素敵だったけれど、それとこれとは話が別である。
何より、外へ出たことで私の「外出エネルギー」は完全に枯渇していた。
「お嬢様、またそうやって……。せっかくクラウス様と良い雰囲気になられたのですから、もう少し余韻というものを大切になさってくださいまし」
メアリが呆れたように、脱ぎ捨てられた私の靴を片付ける。
「余韻なら、この布団の温もりの中にたっぷり詰まっていますわ。……ああ、このまま一週間くらい眠り続けたい。……誰にも邪魔されず、ポテトチップスの山に埋もれて……」
私が至福の微睡みに落ちようとした、その時だった。
バァン!!
「ミカ様ぁ!! 寝ている場合じゃありませんわよ! 大変、大変、超大変ですわ!!」
もはやお約束となりつつある、扉の爆破的な開放。
そこに立っていたのは、顔面を蒼白にさせたルルだった。
彼女は私の返事も待たず、ベッドの上にダイブして私の肩を掴んだ。
「ルル様……。あなた、少しはノックという概念を学んだらどうかしら。私の安眠妨害罪で、今度はお父様に訴えますわよ」
「そんな小事、どうでもよろしいですわ! 今すぐ起きてください! あのアホ王子、いえ、ウィルフレッド殿下が、とんでもない公文書を発議しようとしていらっしゃいますの!」
ルルの切迫した様子に、私は渋々体を起こした。
あのナルシスト王子が、夜会の敗北を認めて大人しくしているわけがないとは思っていたけれど。
「……何ですの? また自分の銅像を王都の広場に建てるとか?」
「そんな可愛いものなら、私だって笑って見ていますわ! 殿下は仰いましたの。……『ミカが俺を拒むのは、心が乱れているからだ。不潔な騎士に毒され、令嬢としての美徳を忘れている。ならば、国が強制的に彼女を再教育してやる必要がある』……と!」
「……再教育?」
嫌な予感がして、私の背筋に冷たいものが走った。
「ええ! その名も『王立貴族令嬢・徳育更生プログラム』ですわ! 表向きは『独身令嬢の品位向上』を目的としていますが、中身は完全に軍隊式の合宿ですのよ! 朝四時起床、冷水摩擦、五時間の写経に、午後は農場での奉仕作業……!」
「朝四時起床!? 冷水!? 奉仕作業!?」
私は絶叫した。
それは私にとって、死刑宣告よりも残酷な響きだった。
何が徳育だ。ただの嫌がらせではないか。
「しかも、殿下は『ミカ・フォン・ガーネットをその第一号被験者として、王城の離宮に監禁、いえ、収容する』と息巻いていらっしゃいますわ。……これ、明日の朝議で正式に承認されたら、もう逃げ場はありませんわよ!」
「……あの男、どこまで往生際が悪いんですの。……私の、私の大切な二度寝の権利を国家権力で奪おうなんて、断じて許せませんわ!」
私が憤慨してベッドを叩いていると、窓からひらりと黒い影が飛び込んできた。
もちろん、正門を通らない我らが騎士、クラウス様である。
「……話は聞いた。……ルル嬢、密告感謝する」
「クラウス様! どうにかしてくださいまし! 私、あんな修行みたいな生活にミカ様が耐えられるとは思いませんわ! 三日で干物から干し肉になってしまいますわよ!」
ルルが必死に訴える。
クラウス様は沈痛な面持ちで、私を見つめた。
「……殿下の執着心は、もはや正常な判断を失っているな。……『手に入らないなら、せめて自分好みに叩き直してやる』という歪んだ独占欲だ」
「……そんなことさせてたまるもんですか! クラウス様、私をどこか遠い国へ連れて逃げて! お菓子が美味しくて、一日中寝ていても怒られない国へ!」
「……逃げる必要はない、ミカ。……殿下が『教育』を口実に動くというのなら、こちらは『正当な防衛』で立ち向かうまでだ」
クラウス様の瞳に、静かな、けれど激しい怒りの炎が宿った。
「……いいか、ミカ。……明日の朝議に、私も出席する。……そして、殿下の提案を真っ向から叩き潰すための、最終的な切り札を出す」
「切り札……? 何ですの、それ」
「……お前との『結婚』の早期繰り上げだ。……既婚者となれば、王族といえど他家の夫人に強制的な教育を施す権利は失われる。……お前を公爵家の娘ではなく、アイゼン家の妻として私が完全に保護下に置く」
結婚の繰り上げ。
その言葉に、私の心臓がまたドクンと大きく跳ねた。
嬉しい。けれど、それは同時に、私の「自由な独身ニート生活」の終わりを意味するのでは……?
「……あの、クラウス様。……結婚しても、私は寝ていてよろしいのかしら?」
「……当然だ。……お前が昼まで寝ているのを、私が全力で守ってやる。……そのための結婚だ」
「……クラウス様!!」
私は思わず彼に抱きついた。
なんて素晴らしい騎士様かしら。私の堕落を全力で応援してくれるなんて。
「あら、あらあら。……なんだか当てられっぱなしですわね。……でも、明日の朝議は波乱になりますわよ。……殿下は、あらゆる手段を使って邪魔をしてくるはずですもの」
ルルの不安な言葉を遮るように、クラウス様は私を強く抱きしめ返した。
「……構わん。……私の愛と、ミカの睡眠欲を舐めないことだ」
王子の逆恨みによる、国家規模の嫌がらせ。
それに対する私たちの反撃は、あまりにも私的な、けれど究極の「愛の盾」だった。
私は秘密のピクニックから帰宅し、即座にシルクの海へと身を投じていた。
クラウス様との甘い時間も素敵だったけれど、それとこれとは話が別である。
何より、外へ出たことで私の「外出エネルギー」は完全に枯渇していた。
「お嬢様、またそうやって……。せっかくクラウス様と良い雰囲気になられたのですから、もう少し余韻というものを大切になさってくださいまし」
メアリが呆れたように、脱ぎ捨てられた私の靴を片付ける。
「余韻なら、この布団の温もりの中にたっぷり詰まっていますわ。……ああ、このまま一週間くらい眠り続けたい。……誰にも邪魔されず、ポテトチップスの山に埋もれて……」
私が至福の微睡みに落ちようとした、その時だった。
バァン!!
「ミカ様ぁ!! 寝ている場合じゃありませんわよ! 大変、大変、超大変ですわ!!」
もはやお約束となりつつある、扉の爆破的な開放。
そこに立っていたのは、顔面を蒼白にさせたルルだった。
彼女は私の返事も待たず、ベッドの上にダイブして私の肩を掴んだ。
「ルル様……。あなた、少しはノックという概念を学んだらどうかしら。私の安眠妨害罪で、今度はお父様に訴えますわよ」
「そんな小事、どうでもよろしいですわ! 今すぐ起きてください! あのアホ王子、いえ、ウィルフレッド殿下が、とんでもない公文書を発議しようとしていらっしゃいますの!」
ルルの切迫した様子に、私は渋々体を起こした。
あのナルシスト王子が、夜会の敗北を認めて大人しくしているわけがないとは思っていたけれど。
「……何ですの? また自分の銅像を王都の広場に建てるとか?」
「そんな可愛いものなら、私だって笑って見ていますわ! 殿下は仰いましたの。……『ミカが俺を拒むのは、心が乱れているからだ。不潔な騎士に毒され、令嬢としての美徳を忘れている。ならば、国が強制的に彼女を再教育してやる必要がある』……と!」
「……再教育?」
嫌な予感がして、私の背筋に冷たいものが走った。
「ええ! その名も『王立貴族令嬢・徳育更生プログラム』ですわ! 表向きは『独身令嬢の品位向上』を目的としていますが、中身は完全に軍隊式の合宿ですのよ! 朝四時起床、冷水摩擦、五時間の写経に、午後は農場での奉仕作業……!」
「朝四時起床!? 冷水!? 奉仕作業!?」
私は絶叫した。
それは私にとって、死刑宣告よりも残酷な響きだった。
何が徳育だ。ただの嫌がらせではないか。
「しかも、殿下は『ミカ・フォン・ガーネットをその第一号被験者として、王城の離宮に監禁、いえ、収容する』と息巻いていらっしゃいますわ。……これ、明日の朝議で正式に承認されたら、もう逃げ場はありませんわよ!」
「……あの男、どこまで往生際が悪いんですの。……私の、私の大切な二度寝の権利を国家権力で奪おうなんて、断じて許せませんわ!」
私が憤慨してベッドを叩いていると、窓からひらりと黒い影が飛び込んできた。
もちろん、正門を通らない我らが騎士、クラウス様である。
「……話は聞いた。……ルル嬢、密告感謝する」
「クラウス様! どうにかしてくださいまし! 私、あんな修行みたいな生活にミカ様が耐えられるとは思いませんわ! 三日で干物から干し肉になってしまいますわよ!」
ルルが必死に訴える。
クラウス様は沈痛な面持ちで、私を見つめた。
「……殿下の執着心は、もはや正常な判断を失っているな。……『手に入らないなら、せめて自分好みに叩き直してやる』という歪んだ独占欲だ」
「……そんなことさせてたまるもんですか! クラウス様、私をどこか遠い国へ連れて逃げて! お菓子が美味しくて、一日中寝ていても怒られない国へ!」
「……逃げる必要はない、ミカ。……殿下が『教育』を口実に動くというのなら、こちらは『正当な防衛』で立ち向かうまでだ」
クラウス様の瞳に、静かな、けれど激しい怒りの炎が宿った。
「……いいか、ミカ。……明日の朝議に、私も出席する。……そして、殿下の提案を真っ向から叩き潰すための、最終的な切り札を出す」
「切り札……? 何ですの、それ」
「……お前との『結婚』の早期繰り上げだ。……既婚者となれば、王族といえど他家の夫人に強制的な教育を施す権利は失われる。……お前を公爵家の娘ではなく、アイゼン家の妻として私が完全に保護下に置く」
結婚の繰り上げ。
その言葉に、私の心臓がまたドクンと大きく跳ねた。
嬉しい。けれど、それは同時に、私の「自由な独身ニート生活」の終わりを意味するのでは……?
「……あの、クラウス様。……結婚しても、私は寝ていてよろしいのかしら?」
「……当然だ。……お前が昼まで寝ているのを、私が全力で守ってやる。……そのための結婚だ」
「……クラウス様!!」
私は思わず彼に抱きついた。
なんて素晴らしい騎士様かしら。私の堕落を全力で応援してくれるなんて。
「あら、あらあら。……なんだか当てられっぱなしですわね。……でも、明日の朝議は波乱になりますわよ。……殿下は、あらゆる手段を使って邪魔をしてくるはずですもの」
ルルの不安な言葉を遮るように、クラウス様は私を強く抱きしめ返した。
「……構わん。……私の愛と、ミカの睡眠欲を舐めないことだ」
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