婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。

パリパリかぷちーの

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「――もしもし? 聞こえるか、王弟妃ミイーシヤ!」

王弟宮の執務室。
私のデスクに置かれた「通信魔導具」が、がなり声を上げた。

「こちらは闇ギルド『黒い牙』だ! 単刀直入に言う! 貴様のところのアイドル、『没落貴族』の二人を預かった!」

通信の向こうから、野太い男の声。
そして、背景から「きゃあぁぁ! 離してよ野蛮人!」「僕の喉はデリケートなんだ! 加湿器を持ってこい!」という聞き慣れた騒音が聞こえてくる。

どうやら、アレクセイ殿下とリナ嬢が誘拐されたらしい。
地方公演からの帰り道、馬車ごと攫われたようだ。

「……そうですか。ご苦労様です」

私は紅茶を啜りながら、事務的に答えた。

「は? 『ご苦労様』?」

犯人が戸惑う声。

「いや、驚かないのか!? 元王子と元男爵令嬢だぞ! 国民的アイドルだぞ! こいつらの命が惜しくないのか!」

「惜しいですね。彼らは現在、当事務所の稼ぎ頭ですから」

「だろう!? なら話は早い! こいつらを返してほしければ、身代金として金貨十億枚を用意しろ! 期限は明日正午だ!」

金貨十億枚。
それは奇しくも、彼らが国に背負わせた借金の総額と同じだった。

「――プッ」

隣で聞いていたクラウス様が吹き出した。
私は受話器(魔石)を手で押さえ、クラウス様を見た。

「笑わないでください。商談中ですよ」

「すまん。あまりにも金額がピッタリだったものでな」

私は再び犯人に語りかけた。

「あー、もしもし? 犯人さん」

「なんだ! 金の用意をする気になったか!」

「いいえ。提案があります」

私は電卓を叩いた。

「金貨十億枚。……ちょうど良い金額です。商談成立としましょう」

「は? 商談?」

「はい。その十億で、彼らを『お買い上げ』いただき、ありがとうございます」

「…………は?」

犯人の思考が停止したのが、通信越しでもわかった。

「ちょ、ちょっと待て。俺たちが金を払ううんじゃねえ! お前が払うんだ!」

「おや、おかしいですね。あなたは『彼らに十億の価値がある』と査定したのでしょう? なら、その金額で引き取ってくださるという話ではないのですか?」

「違うわ! 身代金だ! 払わないとこいつらを殺すぞ!」

「どうぞご自由に」

私は即答した。

「殺害された場合、彼らには多額の生命保険がかけられていますので、事務所には保険金が入ります。借金もチャラになりますし、むしろプラス収支ですね。……あ、でも殺すなら『劇的な最期』にしてくださいね? 『悲劇のアイドル、伝説へ』というキャッチコピーで、追悼ベストアルバムを売りたいので」

「き、貴様……血も涙もねえのか!」

「インクと計算機ならあります」

私は冷淡に続けた。

「とにかく、私は一銭も払いません。彼らを飼うなり焼くなり、好きにしてください。では、通信費がかさむので切ります」

ガチャリ。
私は一方的に通信を切った。

「……よかったのか、ミイーシヤ」

クラウス様が楽しげに尋ねる。

「彼らを見捨てるのか?」

「まさか。あんな『手のかかる商品』、タダで引き取る物好きはいませんよ」

私はニヤリと笑った。

「見ていてください。三時間以内に、向こうから『金を払うから引き取ってくれ』と泣きついてきますから」

          ◇

【一方、闇ギルドのアジト】

「ど、どうなってんだあいつは……!」

犯人のボスは、通信機を握りしめて震えていた。
人質を取れば言いなりになると思っていたのに、まさかの「在庫処分」扱い。

「お頭! どうします? やっぱりこいつら、殺しちまいますか?」

手下がナイフを舐めながら、縛られた二人を見る。

「ふん! 殺せるものなら殺してみなさいよ!」

リナが縛られたまま叫んだ。

「あんたたち、私のスキンケア用品を取り上げたわね!? おかげで肌が乾燥してパリパリよ! これじゃ死んでも死にきれないわ! 化粧水をよこしなさい! 最高級の『天使の雫』をよ!」

「僕もだ! 腹が減った! こんな硬いパンが食えるか! 僕は王族だぞ! フィレ肉のソテーと、付け合せにはアスパラガスを用意しろ!」

アレクセイも騒ぎ立てる。

「う、うるせえ! 人質の分際で注文つけるな!」

「注文じゃない、権利だ!」

アレクセイが叫ぶ。

「あと、この部屋は埃っぽい! 僕のアレルギーが出るだろう! 掃除しろ! 空気清浄機を回せ!」

「私はお風呂に入りたいわ! バラの花びらを浮かべてね! 温度は40度ジャストよ!」

「おい、お頭……こいつら、めっちゃうるさいんスけど……」

手下たちが辟易している。

「我慢しろ! 十億の人質だぞ!」

しかし、一時間後。

「おい! トイレ! 紙が硬い! シルクのような肌触りのやつを買ってこい!」
「喉が渇いた! 常温の水だ! 氷水は喉に悪い!」
「私を見て! 今の角度、かわいくない!? 絵に描いて残して!」
「僕の歌を聴け! ♪暗闇の~孤独な~ソルジャー~(音痴)」

アジトはカオスと化していた。
殺そうとすると「ギャーギャー」と鼓膜が破れるほどの悲鳴を上げ、放置すると「ママー!」と泣き叫び、世話をしようとすると無茶苦茶な要求を突きつける。

まさに「歩く災害」。

「……お頭。俺、もう限界っス」

見張り役の手下が泣き出した。

「こいつらと一緒にいるくらいなら、刑務所の方がマシっス……」

「……俺もだ」

ボスも頭を抱えていた。
こいつら、想像以上に「ウザい」。
殺しても後味が悪いし、生かしておけば精神が削られる。
ミイーシヤがあっさり突き放した理由がわかった気がした。

「……返すぞ」

ボスは決断した。

「え?」

「こいつらを返して、平和を取り戻すんだ! 金なんていらねえ! 静寂をくれ!」

          ◇

【三時間後・王弟宮】

再び通信機が鳴った。

「はい、王弟宮プロダクションです」

「た、頼む! 引き取ってくれ!」

ボスの悲痛な叫び声。

「金はいらん! 馬車をつけて送り返す! だから電話を切らないでくれ!」

「おや、心変わりですか?」

私は計算通りとばかりに微笑んだ。

「ですが、こちらも一度『返品不可』と申し上げました。再入荷の手続きには、事務手数料がかかります」

「て、手数料だと……?」

「はい。商品(彼ら)の精神的ケア費用、および私の時間を浪費させた慰謝料として……金貨一億枚を請求します」

「ふ、ふざけるな! 誘拐犯が金を払うなんて聞いたことがねえ!」

「嫌なら結構です。そのまま彼らと『楽しい共同生活』をお続けください。リナ嬢は夜泣きがひどいですよ?」

「……!」

通信の向こうで、ボスが絶句している。
そして、後ろから「ねえおじさん! 肩揉んでよ! 凝っちゃって!」というリナの声。

「……わかった! 払う! 払うから引き取ってくれぇぇぇ!」

ボスの泣き声が響き渡った。

          ◇

数時間後。
王弟宮の前に、一台の馬車が止まった。
中から放り出されたのは、アレクセイとリナ、そして金貨一億枚が入った麻袋だった。

「捨てられたわ! あの野蛮人たち、私のかわいさに耐えきれずに逃げ出したのね!」

「そうだ! 僕たちのカリスマ性が勝ったんだ!」

二人は勘違いしたまま、ボロボロの姿で抱き合っている。
逃げるように走り去る馬車からは、「二度と関わるかバーカ!」という捨て台詞が聞こえた。

「おかえりなさい、お二人とも」

私は玄関で出迎えた。

「ミイーシヤ! 助けに来なかったわね! 薄情者!」
「そうだぞ! 僕たちがどれだけ怖い思いをしたか!」

「結果オーライでしょう? それに、あなたたちのおかげで臨時収入が入りました」

私は麻袋をポンと叩いた。

「この一億は、あなたたちの借金返済に充てておきます。……感謝してくださいね?」

「ぐぬぬ……!」

「さあ、お風呂に入って寝なさい。明日は早朝から『誘拐生還記念ライブ』のリハーサルですよ」

「ええーっ!? 休ませてよぉ!」

文句を言いながらも、二人は大人しく屋敷に入っていった。
結局、彼らにとって一番居心地が良いのは、私の管理下(という名の檻)なのかもしれない。

「……恐ろしいな、ミイーシヤ」

クラウス様が、呆れを通り越して感心していた。

「誘拐犯から金を巻き上げるとは。君こそが真の『悪党』ではないか?」

「失礼な。私はただの『敏腕マネージャー』です」

私は髪を払った。

「さあ、クラウス様。今日は儲かりましたから、夕食は豪華にしましょうか」

「ああ。君の奢りなら、何でも美味そうだ」

一件落着。
誘拐騒動は、私の完全勝利で幕を閉じた。

だが、この時私は気づいていなかった。
戻ってきたリナの鞄の中に、闇ギルドのアジトからくすねてきた『ある物』が入っていることに。

それは、国の禁忌とされる「禁断の香炉」。
追い詰められたリナが、ついに最後の一線(タブー)を越える時が近づいていた。

次回、最終章突入!
リナの暴走が、王都全体を巻き込む大事件に発展!
ミイーシヤとクラウスの「愛の力(物理と魔法と財力)」が試される!
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